竜は今日も幸せな夢をみる   作:ものもらい

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8.ご主人様はちょっぴり嫉妬深い

 

 

 

今日は珍しく桜妃(さき)も連れての狩猟である。

 

オトモ四匹を連れて狩る得物は「虫」。桜妃のおねだりに負けたアーシェが、渋々ブナハ装備なるものを作るために受注したクエストであった。

 

「うふふ、見て見てアーシェ。綺麗な蝶々」

「…ああ、うん…」

「まあ、二匹もいるわ。恋人同士なのかしら」

「…うん……桜妃」

「なあに?」

「……ブナハブラを…素手で掴むな」

「え?」

 

振り返る桜妃。可憐な彼女の手にあるのは、ふわわーと飛んできてねこ丼を刺そうとしたブナハブラである。

そこを桜妃が「あらあら危ない」と言ってガシッと掴み、「わあい、捕まえた!」とぶんぶん振り回し、握力が強すぎるあまり、ビクン…ビクン…と痙攣するブナハブラを忘れて蝶々を追いかけ始めるというふわっふわっぷりである。

 

対してアーシェは虫あみで黙々と虫を捕獲しており、桜妃の気ままな行動よりも痙攣中のブナハブラに引いているようだった。

 

「止めを刺しましょうニャ、ご主人様」

「とどめ? ああ…」

 

小梅に毒瓶を差し出された桜妃は、背負っていた弓矢から矢を一本引き抜いて矢先を毒に浸す。一度目を閉じた彼女は、すぐさまブナハブラの体を貫いた。

 

すぐに絶命したブナハブラをジッと見つめた桜妃は、そのまま―――

 

「待て待て待て、ポーチにそのまま入れるな。丸ごとは入らないからっ」

「えー?」

 

慌てて駆け寄ったアーシェはそのままブナハブラを引っこ抜くと地面に置いた。

少し嫌そうな顔をしつつ、いつもどおりの落ち着いた声で「虫の解体は失敗しやすいから気をつけろ」と言ってナイフを抜いた。

 

「……お前…ブナハブラ初めての割には真っ直ぐ心臓を貫いたな」

 

そういうところは相変わらずだ、と息を吐く。

手早く解体しながらも説明を入れるアーシェにアイルーたちも見学をしていると、感心したように見ていた桜妃がふと、懐かしそうな声で言った。

 

「そういえば、アーシェは虫が嫌いだったね」

「……平気だ。虫が扱えないなんていったらハンターやっていけないだろ」

「ううん、調合に使えるようなのじゃなくて。ランゴスタ駄目だったじゃない」

「………そんなことない」

「うそよ。だって私がたくさん射ち落として解体して渡してたもの。そしたら晩ご飯を振舞ってくれたわ」

「…………」

「とても情熱的な料理だった」

「……そっか」

 

虫を解体しているのに、二人の間に幻視の花が咲いているような気がするねこ丼であった。

 

 

 

 

その後もブナハブラを毒煙で殺したり毒の滴る武器で殺したりしつつ、他の虫やキノコなども採っていく。

そうしてお昼頃になると一旦作業をやめ、見渡しのいい場所でお弁当を食べることにした。

街によっては禁止されているが、この街のギルドでは「弁当ぐらい好きに食えばいいじゃん」とのことで、もしお役人に見られても怒られない。ただし場合によっては「爆発しろ」と言われる。

本日もキャンプ地の涼しいところにお重を置き、急いで取りに戻った小梅からお重を受け取った桜妃は、包みを開いてお重の中身を見せていく。そして小梅が差し出した木皿におかずを乗せていくと、笑顔でアーシェに差し出した。

 

「どうぞ」

「ありがと」

 

「いただきます」と言いながら食べ始めるアーシェをニコニコしながら見つめた桜妃は、オトモたちの分も盛ってそれぞれに渡していった。

全員に行き渡れば元気な「いただきます」が辺りに響き、オトモたちは空腹から急いで頬張る。少し味付けを濃くした肉料理がたまらなく美味しかった。

 

男連中が思わず無言でがっつくのに対し、桜妃と小梅はのんびりと「いい天気ねー」「そうですねえ」と話しながら食べている。

とても長閑な昼食であった。

 

 

「―――ん?」

 

桜妃に口の端に付いた米粒を取ってもらっていると、ヒュッと黒い影がアーシェたちの真上を過ぎる。

 

その大きさと威圧感に怯えたねこ丼たちと違い、桜妃は「あらあら」と楽しそうな声を出した。

 

「まあ、()()()()()()()()リオレイアね」

「……き、気のせいじゃ…ないか?」

「へえ。鱗まで贈られたのに忘れてしまったの?」

「……いや…あの……」

「ほら、こっち見てる。…………どうするの?」

「追い払ってきますッ!」

 

珍しく大声を張り上げたアーシェは、向こうでなんだかモジモジしているリオレイアへと駆け出す。

そして無謀にもリオレイアの羽に触れると、リオレイアは顔を近づけ嬉しそうに鳴いた。桜妃の弓の弦も鳴った。

 

「ああ…そういえばまだ残ってたわね…毒の―――」

「ほ、ほぉーら!そっち、そっち行くんだ!なっ!?」

「グオォン……」

 

必死に向こうへ押しやるアーシェだが、リオレイアはどういうわけか動こうとしない。むしろアーシェに顔を擦り付け嬉しそうに鳴く。アーシェも泣きそうだった。

 

ついにはリオレイアがアーシェの鼻先に口を当て、頬を舐めた―――瞬間だった。

 

「ゲバアァァァッ!?」

 

―――いつの間にか駆け出していた桜妃が、そのまま高く上空に飛び上がるとリオレイアの横っ面目掛けて蹴りを入れたのである。

 

その火竜顔負けの蹴りに、甘えていたリオレイアは吹っ飛んで倒れこみ、アーシェは巻き込まれて草薮の中へと消えた。

 

ねこ丼たちは見なかったフリをして食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

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