偽・錬鉄の魔法使い   作:syuu

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2少年の魔法

いつも通りの通学路を一人、俺は左手中指に包帯を巻き右手に鞄を持ち行き交う穂群原学園生や通勤する人々には目も暮れずに気落ちし、ただただ只管(ひたすら)歩き続ける。

 

 

結局、あの後何度も鉈を振り下ろすも押さえつけている鳩に一度も当たることなく十回目に屠殺を諦め。礼装(カード)達の魔力供給に自分の血に自前の魔力を込めて、供給が間に合わない高位カード達には洋館の霊脈を吸い上げ休息を取らせる形で代用する始末。

 

十年前に『根源』という情報だか力だかよくわからない場所を通り抜けて来たせいで(切嗣(父さん)は『触れた』だけだと思っているが)俺は普通の魔術師(ニンゲン)が生涯何代も掛けて到達する(すべ)を当然のように使えた。手を合わせて物質に触れる(一工程(シングルアクション))だけで勝手に魔術回路が起動し普段使っている魔術とは違い、自分の中にある世界に刻み込れるはずの魔術基盤に似ているものとアクセスし対象の構成をまるで息をするかのように把握し自分が思い描いた形にその形を変えた。スプーンをフォークに、折り紙を鶴の形に、壁や床に穴を開けるといった形状変化だけでなく。液体である水を固体である氷や気体である水蒸気に変える状態変化まで規模にも依るがどれも一瞬から数秒で実現してしまった。

切っ掛けは切嗣(父さん)に引き取られてそう日の経っていない時。お茶を淹れる湯が欲しいとヤカンに水を入れていると水が一気に熱湯になり、発現当初は切嗣(父さん)を唖然とさせてしまった。そのあとすぐに切嗣(とうさん)は俺を安心させるように優しく笑い掛けると手を掴み俺を土蔵に連れて何が起きたのか俺に説明を求めて俺は、魔術を教わる前であったために感覚的に目の前で起こったことを話した。

 

厳格に堅い顔をした切嗣(父さん)は厳密にはそれは魔法ではなくそれから派生した、もしくは原点となる錬金術と似て非なるものであるのだと説明してくれた。

元々四分の一は人ではなかった(バケモノ)であった俺は母方の隔世遺伝(先祖返り)で魔眼の一睨みで色々なことが出来たが自分でも身に覚えのない異能が発現した時には驚きを隠せずにむしろ切嗣(父さん)に捲くし立てる勢いで興奮していた。

自分の力はどんな物なのか、一体何ができるのか、正に新しいおもちゃを得た子供のように切嗣(父さん)に質問をした。切嗣(魔術師)にしてみればなんという皮肉だったのだろうか。魔法使いを名乗った自分の養子がよりにもよって本当の魔法使いだったとは。

 

困った顔をしながら切嗣は俺にも分かるようにその力について説明をしてくれた。

魔法使いと魔術師は神秘に関わる裏の世界においてその存在は大きく異なるもので一見どちらも同じ不可能な奇跡の技であるように見えるが『結果』という一面において大きな違いがある。

 

例えば魔術で物質を操り敵を拘束、殺害、撹乱、したとしてもそれらの結果は魔術を用いなくとも別の手段で代用が可能であるモノを指す。

対して魔法は現代のどの文明の技術、資金や時間を注ぎ込もうとも絶対に実現不可能な「結果」をもたらすものを指している。

現在確認されている魔法は五つ。切嗣(父さん)が知っているのはそのうちの第三法と呼ばれる魔術協会の中でも禁忌中の禁忌とされる究極の錬金術―――『魂の物質化(ヘヴンズ・フィール)』。

 

物質界において体という枷に引きずられ劣化する魂を、それ単体で存続できるように固定化し精神体のまま魂単体で自然界に干渉を可能とする高次元体を作り出し、次の段階に向かう生命体として確立する。端的に言えば、真の不老不死。

 

 

幸か不幸か俺が持つそれはその第三魔法であった。といっても、実際に使えるのはその末端である錬金術の簡易行使のみで本当に生命を作り出すには膨大な魔力が必要だと補足された。

 

この冬木の地に降臨した聖杯の奇跡(大災害)によって手に入れた力は、嘗て第三魔法の担い手(アインツベルン)に婿養子として迎え入れられた切嗣だからこそ知りえたのだ。

 

 

 

 

 

先程の俺の工房に繋がる扉に結界を張っているカード型の礼装は、海外に留学しているときに作り出したもので第三魔法のシステムを一部組み込んでいる。

端的にいうとそれぞれ一枚一枚に命があり、概念という移し身に意思(魂)を宿らせ。契約者、もしくは使用者の魔力供給と詠唱をトリガーに現界する精霊クラスの生命体。

普段は、カード化封印という形を取る事でカードそのものを媒体として実体化させてこの世に繋ぎ止めている。

当然、生きている以上それぞれの性格や個性、欲求があり勝手に封印を解いて奇怪現象を起こし神秘の漏洩をさせないよう敢えて魔力を糧とする不完全な不老不死として完成させた。

 

今日はその魔力供給の日であったのだが……如何せん屠殺用の使い魔に情を掛けるとは、切嗣(父さん)の言いつけを守りきれていない。

 

魔術(魔法)、ひいては神秘に携わる者としては一定以上の情は邪魔でしかないと教わってきたのに自らが家族と認めてしまったものに危害を加えることが出来ない自分が歯痒い。

 

最初で最後の魔術の修練に反抗した分野だと言ってもいいだろう。だが切嗣(父さん)は俺を叱ることなく悲しそうに笑いながら「でもそれは、僕が嘗て出来なかったことだ」と優しく頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、間桐」

 

「あ? 何だ衛宮か。今僕に話し掛けないでくれよ」

 

教室に到着し、桜の兄である間桐慎二に挨拶早々随分な返事を貰ってしまった。何か気に食わないことでもあったのだろうか完全否定体制に触らぬ神に祟り無しと眼鏡を少しズラし一瞬だけ目を赤くし周囲の生徒の記憶を読み取って納得すると自分の席に座る。

 

「やれやれ、今日の間桐は一段と気が立っている様子だ。災難だったな衛宮」

 

後ろからやや古風な言葉遣いを投げ掛ける俺と同じ眼鏡のこいつは柳洞一成。この穂群原学園の現生徒会長であり霊地として最高級の地に立地している柳洞寺の息子で、俺が十年から八年前までの二年間毎月通い詰めていたせいか半ば幼馴染のような関係だ。

 

「どーせ、禄でも無い無茶やって盛大に振られでもしたんだろ」

 

間桐慎二が目に分かるほどに狼狽する。こいつ個人のことは余り好きには成れないがこういった性格の正直さが少々羨ましいのも事実だ。後、文武両道で異性にモテるところも。

 

「……相変わらず耳が早いな、俺にはそういった類の話はさっぱりだ。で相手は誰だ?」

 

「さあ? 廊下で小耳に挟んだ程度だからな」

 

「え~み~や~?」

 

面白いほどに反応してくる間桐を観察するのは実に愉快だが、そろそろ話題をずらすべきだと思い一成のほうを向き先日渡された生徒会企画案を取り出す。

 

「それより一成、この間頼んだ部費の割り当てについてなんだけどさ」

 

「うむ、この学園は体育会系の部活に力を入れている。そのせいで文化系の部費の割り当てが心もとないのは調理部の部長としては死活問題だな。といってもそれは一昨年までの話、去年からお前と藤村先生が文字通り職員室から体育会系の部員の胃袋を掴んだお陰で文化系にもそれなりの部費が行き渡るようになった筈だが?」

 

「いや、そうじゃなくて。部費二倍近く増量されていない? それに校内の敷地に庭園を作って良いってちょっとやり過ぎなんじゃ。後、藤ねえは顧問になって味見しているだけだから」

 

「何をいっておる衛宮!! この穂群原の(味を知った)生徒ひいては教師が皆衛宮達の手料理を楽しみにしているのだぞ?

前回の穂群原学園祭では模擬店の売り上げで体育会系一位の二倍どころか三倍に届く勢いで売り捌きおったおまえが何を言っている!?」

 

一成が言っているのは、調理部設立当初部費の割り当てが余りに偏っていたことを直訴したところ校長に「実力を見せろ、そうすれば割り当ても考えてやっても良いぞ」(意訳)言われ取り敢えずやれるだけやってみて、これが予想以上に上手くいったのだ。客足が悪ければ最悪、最終手段を使おうと思ったのだが幸運にも藤ねえの伝手で集まった人達が客寄せとなり完売となったのだ。

 

「確かに、衛宮達の売っていた果実大福は良く出来ていたな」

 

「あの一見中身が何が入っているのか分からない挑戦意識をくすぐる遊び心もさることながら予め入っている種類を展示し食せないものが有れば除ける気遣い。皆感服してたぞ? 分かるか衛宮、これはお前を期待しているからこその提案だ」

 

「部費はともかく、土地利用まで許可してくれる学園の期待に俺が潰されそうなんだけど」

 

「経験豊富でありながらなにを謙遜している。今日も今日とて間桐妹と共に登校せずに来たものお前の家の家庭菜園の世話があったからなのだろ?」

 

流石に、一年以上同じ学校に通っていてあんだけでかい洋館に一人住んでいれば自然と興味の対象にはなるか。

 

「事前調査は済ませていると?」

 

「そういうことだ。そもそも衛宮は自己の評価をもう少し考えてだな―――――――

 

 

 

とまあ、今日もいつも通り平和な日常が始まり日が暮れるまで俺は一般人『衛宮』として学生生活を満喫している。

偶に、魔術協会から偽名で掲げているフリーの雇われ魔術師としての依頼が舞い込んでくることがあるが今週は

珍しく特に何も無い。この調子なら週末の休日を満喫できる。

 

授業が終わり、家庭科室での部活動も予定通りの時間帯で仕込みが終わったその頃戦いの兆しは見え始めていたんだ。

 

「今日も上手くいったな」

 

「後は、焼くか揚げるかどうか悩みどころだよね」

 

「あっでも、ピーマンに詰め込めば……って部長!? 左手から血が出てますよ!!」

 

「あっ、本当だ」

 

部活動で挽肉の仕込みが終わり皆がそれぞれの献立を考えているとき突然、後輩達から左手の甲から血が出ていることを知らされ手を捲くり傷口を捜す。

 

「あれ? おかしいな傷が無いぞ」

 

今朝の魔力供給時に傷付けた中指から流れてきたのかと包帯を外すも、血は皮膚から滲み出る様に筋を作り床に滴っていた。取り敢えず痛みも無いのでガーゼを貼り付け様子を見ることとし。今日の活動はお開きとなった。

 

 

「やれやれ、今日はよく血を見る日だな」

 

半ば事情を知らない人が聞いたら危ない人認定を受ける台詞を吐きながらいつも通りの通学路を歩く。夕日が沈み辺りはもう暗く街灯に明かりが付き始めていた。

 

「な!?」

 

曲がり角を通り坂の上へと登ろうとし視線を上に見上げるとそこには小さな女の子が立っているのが見え、俺は一瞬その容姿に目を奪われる。

女の子はそんな俺の様子を気にすることなく歩き続け擦れ違い際に、こう囁いた。

 

「早く呼ばないと死んじゃうよ。お兄ちゃん」

 

小さな鈴のような清純とした小鳥の囀りを人の声帯で表した如き声。   違う。  

 

北欧の貴族令嬢が着るような上品な紫のコートと帽子。   違う。

 

雪のような白さを持った長い髪。   違う。

 

そして宝石のような赤い瞳    違う。  

 

何もかもが似ていても

 

それが違うと分かっていても

 

気の迷いだと判っていても

 

 

「茉莉?」

 

 

俺は本当の妹の名を呟いていた。

 

 

 

 

 

「あ、おかえり桜」

 

「ただいま戻りました。先輩……どうしたんですか、その左手」

 

先に家に帰り、部活で仕込んだ挽肉で茄子の素揚げのタレを作っていると桜が帰ってきて早速治療処置の増えた俺の左手を見て目を張る。桜の爪の垢を煎じれば藤ねえも、もう少しお淑やかで物静かな人にならないかな。……うん、無理だ想像出来ない。

 

「大したことじゃないさ、桜も手伝ってくれ」

 

「はい……元気が無いですけど本当に大丈夫ですか?」

 

「平気だって桜は心配性だな」

 

本当は嘘だけど見栄を張りたがる自分が頼りなく思えてしまう。だが実妹と似た女の子を見掛けただけで昔を思い出し軽いホームシックに罹っているなどかっこ悪すぎる。

 

 

「ですけ「たっだいま~、今日の夕飯は何~?」

 

桜が何か言いかけたがタイミング悪く藤ねえが帰宅(とつにゅう)してきたお陰でうやむやとなり夕食が始まった。

 

 

 

 

 

 

食べ終わり、食器を洗い終わってリビングに戻ると桜の姿が消えていた。

 

「あれ? 桜は?」

 

「なーんか今日は、少し早めに帰らなきゃいけないんだって」

 

藤ねえがソファに寝転がってリモコンを弄りながら口に挟んでいた煎餅を離しそういう。何もいわずに出て行くとは誤魔化してでもそれらしいことを言うべきあったか。それよりも……。

 

「一人で行かせたのか?」

 

「大丈夫だって、うちの若いのに迎えに越させたんだから」

 

「教師が生徒を良識あるとはいえヤーさんに預けるなよ」

 

「仕方ないでしょ~、桜ちゃんに伝言頼まれちゃったんだから」

 

「伝言?」

 

「今日は疲れているみたいだから風呂入ったら早めに寝てくれってさー。お姉さんも同意見だから言うけどあんたちょっと顔色悪いわよ」

 

そこまで悪かったとは、後で鏡で確認しておこう。

 

「そっか、じゃあ今日は早めに寝ておくよ」

 

「うん、素直でよろしい。おやすみ、■郎」

 

「ああ、おやすみ」

 

 

 

 

朝、目が覚めるといつも通りの日常が待っていた。

桜と一緒に朝飯を作り、藤ねえがやってきて皆で一緒にご飯を食べて学校に行くそんな日常が待っていると思っていた。

 

「おい、桜。その手の痣はどうしたんだ?」

 

それは、藤ねえが先に学校に行って皿洗いが終わった頃のこと、桜の手の甲に何かで掻き消したような痣の痕があったのだ。

 

「あ、そのこれは」

 

今更に反対の手で痣を隠ししどろもどろになる桜、それは痣が見つかったことよりも何を説明すればよいのか分からずに説明を渋っている様子に見えた。

 

「また、間桐に何かされたのか?」

 

「違います!! 兄さんは関係ないんです。これは……私が自分でやっちゃったことで」

 

「桜………そこまで言うのなら俺も深くは聞かない」

 

特に変わった様子も無く本当に桜本人がやらかした事なのか、慎二を庇ってはいるがこれは『兄が疑われるのは侵害だ』と表現するほうが納得がいく庇い方だった。

実際隠し事なら俺のほうが多いし。

 

「すみません、先輩。後、週末はいつも通りの予定がありますので今日は来れません」

 

「分かってる。じゃあ一緒に学校に行こうか」

 

「はい!!」

 

少なくとも暴力を振るわれている様子は無いようだし桜が自分から話してくるまで様子を見よう。

 

 

 

 

 

学校に着くと何やら異様な空間と成り果てていた。生徒の様子もさることながらこの学校の敷地内が酷く湿気った下水のような不快感を感じた。魔力が密集しすぎて変質した合成獣(キメラ)を処分した時に似たような匂いを嗅いだ覚えがある。

しかも、この不快感は基点がいくつも存在してしかもうg……。

 

「先輩、先輩?」

 

「ああ、何だ?」

 

「あれ」

 

桜の指差す方向は職員室、そこに二十人ほどの人だかり出来ていた。

 

「行ってみるか」

 

「はい」

 

俺たちが向かう頃には更に十人程の生徒が集まり人の壁も向こう側は完全に見えなくなっていた。

といっても、俺が目を凝らせばこんな人壁、無いも同然。

 

「主将!?」

 

「イヤー参った参った。あ、おはよう間桐に衛宮」

 

「美綴」

 

人だかりの奥から弓道部の主将を務める同級生の美綴綾子が髪を整えながら人の波に開放された爽快感を味わっていた。

桜がこの人だかりについて奥から出ていた彼女に聞いてきた。

 

「この人だかりは一体どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたも無いわよ、遠坂の奴が外国人の転校生を連れてきたんだよ!?」

 

なんだ、ただの転校生か。俺の興味は一気に失せた。ずっと日本で生活してきた連中にしてみれば物珍しく感じるだろう。二年間ずっと留学していた俺にしてみれば外国人(ついでに人外)なんて珍しくも無い。

 

「それが美人のなんのって、衛宮?」

 

「先輩?」

 

「人だかりの原因分かったから先に教室行ってくる。じゃあ桜明日の夕飯から頼むな」

 

 

 

 

 

このとき、目を凝らしていれば俺は一度■されることは無かった。そして彼女と出会うことも叶わなかっただろう。

 

 

 

 




冬木の聖杯ってアインツベルンが失伝した第三魔法を取り戻すために作り出されたらしいからその根源を通った魂が習得する魔法は第三魔法で合っているよね?(震え声)

明らかにおかしい所があればご指摘ください(礼)


この衛宮の名前を当てられる人はいるのか、サーヴァントは誰なのかを当てられるのかドキドキしながら待っています。

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