偽・錬鉄の魔法使い   作:syuu

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生きてまっせ!!(空元気)

亀更新お許しくださいorz


17剣銃の森轟

警告と威嚇を込めて異口同音に相手の静止を叫んだ両者は、構えた剣を動かさずに相対する敵を警戒し、視野を広く持つ。そして彼らは互いに表情には出すことなく、相手が向きえる刃の先に動揺していた。

 

魔力消費を抑えるために赤い外套の武装を外し、黒いカーボン製の装甲のみ纏うアーチャーは、前マスター(仮)(慎二)から聞いていた限りの情報と、前夜に実際に戦った時の印象では、自らが封印指定者であることから大事を避けるための打算があっただろうが、セイバーのマスター(遠坂 凛)と同様に少なくとも一般人の被害を良しとしない今時でも珍しい良心的な魔術師であると。 嘗ての自分がそうであったからこそアーチャーは、そう思い込んでいた。

しかし、薄茶色の穂群原学園学園生指定の制服には似合わない製錬された美しい両刃の細剣(レイピア)を手にした彼が標的として狙ったのはアーチャーではなく、こともあろうか同じ学園の級友である三枝(さえぐさ)由紀香(ゆきか)の方であった。

 

”ありえない” そんな言葉がアーチャーの心中で反響し、彼の思考を奪う。

 

 

 

同時に久郎もまた、アーチャーが魔力供給に経路(パス)を繋いでいるであろう一般人(さえぐさ)を人質に、こちらの動きを封じる腹であると思っていた。聖杯戦争の最中、一般人に犠牲が出ることは珍しくないが、現状全陣営ではキャスターによる魔力の搾取以上の被害は確認されていない。その中でバーサーカーのマスター(イリヤスフィール)と共にアーチャーを引き連れて来たであろう一般人ごと吹き飛ばすといった強引な手段は、他陣営を始め曳いては監督役の目を引いてしまう。

だからと行って定石通り、久郎がライダーにアーチャーの殲滅ではなく救助を任せた場合、アーチャーが三枝に武器を突き付けて人質にすれば、火力重視の宝具を切り札とするライダーでは迂闊には手を出せなくなってしまう。

 

だが、久郎単体でなら例えアーチャーが人質に武器を向けようと、盾代わりにしようと三枝を救出することが出来る見通しがあった。イリヤにバーサーカーのサポートの指示を仰ぐ時間も惜しみ、久郎はライダーを現界させることなく、赤い外套を解いていた弓兵に立ち向かったのだ。

 

―――目を醒ます

 

淡い緋色に輝く瞳に込められた不死身の肉体を再現する能力を全開に駆け抜け、久郎は武器に転換した『(sword)』の魔法礼装の切っ先を棒立ちの三枝へ目掛けて突き刺そうとしたのだが、人質ではなく久郎に対して向けられたアーチャーの白剣によって失敗した。

人質の首筋に沿えるだろうと予想していた刃は、久郎の予想を裏切って彼の横顔を写す鏡のように添えられたのだ。

 

 

 

 

寒空の中では幾らか薄着であろうかと思われる刃物を持った少年と男を高級車(ベンツ)のサーチライトと道脇に沿って点在する街灯が、彼らの姿を照らす。

両者が物騒に対面した後、遅れて、その高級車から紫色の防寒用コートを着たイリヤがバーサーカーを傍らに現界させて道路に出る。車体の上にはライダーが既に現界しており、彼女の武装である釘剣に付いた鎖が細長い蛇のように車体を嘗め、コンクリートの上に這い垂れていた。

 

「バーサーカーのマスター、自分のサーヴァントの手綱はしっかりと握っていなさい。今我々が動くことは我が久郎(マスター)の足を引っ張ることになり兼ねません」

 

バーサーカーのクラス属性を危惧してのことだろうか、ライダーがイリヤにサーヴァントの待機の指示と警告をする。

 

「その心配はないから安心して。でも……」

 

歴代のホムンクルスの中で最高のマスターとして、魔術回路を走らせたイリヤは、戦々恐々と岩剣を握るバーサーカーに傍らから離れないよう命じながら、沈黙の応酬を続ける車線上の二人を見据えると。

 

「あの(人質)を助けるために、お兄ちゃんが怪我をするのは許さないつもりだから。そこら辺のことは譲歩して頂戴ね?」

 

意地の悪そうに笑い、ライダーもまた無表情ながらも手に持った釘剣を構え直して鎖の乾いた金属音を鳴らしてその言葉に同意した。

念話より後から指示された久郎(マスター)の意向を第一に考えているライダーだが、仕えるサーヴァントとして主人が必要以上に傷付くのは彼女とて見たくはないのだ。

 

 

 

互いに深読みし続ける中で、アーチャーは視界の先に捉えた久郎の剣に違和感を持つ。

前回の戦いで雪を媒体とした氷の人形(ゴーレム)を自在に操る手腕を確認出来たが、久郎自身が持つ礼装を直接見たのは初めてであった。

アーチャーは、古今東西の刀剣の類を見ただけで解析し、己の宝具そのものである固有結界内に投影として複製し貯蔵する能力を持っている。その特性上、彼は解析の魔術には絶対の自信を持っており、刀剣として製作されたものであるなら、斬る以外の用途として作られた物品であろうと、複製は可能であるのだ。

 

そこで湧き上がる違和感とは、アーチャーが保護した三枝に突き付けられた剣の形を象った礼装の解析にノイズが生じていることに他ならない。

 

―――対象の大凡の形状を把握……視覚観測、成功。

―――創造の理念の鑑定……原型構造の把握、失敗。

―――基本となる骨子の想定……解析不能のため、失敗。

―――構成された材質の複製……系統外構成のため再現不可、失敗。

―――製作に及ぶ技術の模倣……同質系統による技法を確認、成功。

―――成長に至る経験の共感……時間経過に生じる技能蓄積皆無のため、失敗。

 

結果―――性能、構成物質、経験の複製失敗。既存既知の物質による代替を用いた形状複製品のみ投影可能。

 

 

 

結論、衛宮の名を持つ少年が握る剣は、形こそ刃の用途を成す品だが、その本質は決して人の手が及ぶことのない神霊や精霊のような超越種と同等の次元が異なる存在に近いことが分かる。

かの星によって鍛え上げられた聖剣(エクスカリバー)とは異なる、その(つるぎ)は魔を宿した剣ではなく、悪魔が剣の形にその正体を偽っていると云われてもアーチャーは納得するだろう。それほどまでに美しく、夫婦剣、干将・莫耶を始めとした数多の刀剣を映した鋼色の目には理解できない神秘が込められていた。

 

 

身動きの取れないアーチャーが久郎の持つ細長剣の複製を試みている間、久郎もまた不可解な行動をとるアーチャーの思惑を看破するために淡く輝く双眸の内、弓兵にほど近い左目の(のうりょく)を変えた。

 

―――目を盗む

 

思考を覗く読心の魔眼を輝かせる。

前夜、慎二との戦闘時に試みた時にアーチャーの心を見ることが出来なかった久郎だが、対魔力を持つ四騎士の内、アーチャーを除く三騎の記憶を見るまでは至らなかったものの思考を読むことに成功していた事実の齟齬に違和感を持っていた。

全七騎のサーヴァントの内、対魔力スキルを保有する四騎の中で一番低いステータスである筈のアーチャーにのみ魔眼の干渉に失敗したことに、その原因について考えた結果、アーチャーの持つ特殊能力か加護に相当するスキルか、ライダーの眼帯のような身に着けるタイプの宝具、武装による効果であると予想する。

消費魔力の節約か、以前武装していた赤い外套を身に着けていないアーチャーの姿に、久郎はその変化に賭けたのだ。

そして久郎は、アーチャーの思考を心の内を盗むことに成功し、自分の魔法礼装が解析され複製され掛けていることに驚愕する。

 

自らが知覚した物体に解析を施して、その存在を模倣した複製品を固有結界内に貯蔵する能力。それは、久郎自身が習得した魔術の中で一番体に馴染んだ、自分の手足の如く知る異端の技。

 

 

その力をよく知るが故に久郎の行動は速い。横顔を移す白い刀身から逃れるように体を捻って左足を軸に右足を後方に運ぶと三枝に添えていた細長剣をアーチャーに向けて下段の構えから振り上げる。

 

急に攻撃的な行動を執る久郎に、アーチャーは『(sword)』の解析を取り止め、流れるような動きで莫耶を用いて迎撃する。しかし、互いに地平の刃に触れた瞬間、白刀が鎬を削り合う金属音が響くことも剣圧による衝撃を受けることなく豆腐かケーキのように細長剣の刃が吸い込んだ。

 

刀身を沈ませるように迫りくる剣をアーチャーは、迎撃を諦め身を斜め後ろに反ることで躱す。自身の得物が敵わない予想を超えた想定外の危機に対してもアーチャーは怯むことなく空いている右手に干将を呼び寄せ、半端な刀身になった莫耶を捨て去り、今度は両手で干将の柄を握る。

 

久郎が、初撃を躱されたことによって空を切った細長剣を引いて、本来の用途である刺突に適した突きの構えで以て向かって来ることを確認したアーチャーは、胴目掛け迫り来る細長剣に向かって思い切り干将を叩き付けた。

 

黒い干将の刀身は、相方と同じように神秘の絶対的な強弱によって無慈悲に切り裂かれる。しかし、アーチャーは刀身半ばを過ぎた頃合いを見計らって体ごと回すように足を運ぶと干将を捻り、刃ではなく側面の紋様である樋に対して力を向けることで刀身を突き押すことで久郎の手から細長剣(sword)を絡め取ることに成功し、そのまま細長剣が刺さった干将を投げ捨て、久郎の鳩尾に瀕死一歩手前までの本気の脚力で蹴り上げる。

 

敢えて自分の剣を切り込ませて捻じ込むように絡め取られた久郎は、予想外の方向から加わった腕力に手首を痛めアーチャーの蹴りを避けられずにその身に喰らう。アーチャーの脚が久郎の鳩尾に食い込み、その衝撃はフルスピードで突っ込む軽トラックと変わらない。大柄とは言えないまでも、その年頃の平均的な体格を持っている久郎が御弾きのように後方へ吹き飛び、緩い放物線を描きながら最後にアスファルトの上に重たいものを落としたかのような鈍い音が響く。

 

「「マスター(お兄ちゃん)!?」」

 

サーチライトを付けたままのベンツの傍らに見守っていた二人が、声を上げる事無く落下し(うずくま)り倒れた久郎の姿を見て、生死の安否こそ心配していないが叫ばずにはいられなかった。

 

「この……バーサーカー! あのアーチャーを」

 

激昂したイリヤが、魔術回路を走らせバーサーカーに弓兵を物理的に押し潰す命令を下そうと声を荒げたが、幽鬼のようにフラリと立ち上がった久郎が、右手で制する。治癒魔術と目を醒ます能力の重ね掛けで腹部の傷害を一瞬で完治させたのだ。

 

「イリヤ、あのアーチャーを相手取るにはバーサーカーでは相性が悪過ぎだ。奴は、敵の武具を読み解き、複製することが出来る」

 

飛ばされた時に口の中を切っていたのか、口端から流れ出た血を拭いながらライダーにも直接手を出さずに後方支援を念話で指示した久郎は、無数に剣戟を生み出すアーチャーと命のストックを持っているとはいえ十分に戦略を立てられないバーサーカーの優劣を告げる。久郎は無傷での人質の解放を諦め、治癒可能程度の傷を負わせる覚悟で、三枝由紀香の救出を確実なものとするために、敢えて一人でアーチャーに立ち向かう。

イリヤは、どういった絡繰りで久郎がアーチャーの能力を看破したのか、どこまでその情報が正確なのか知ることは出来ない。だが、久郎が語るその言葉を信じることは出来る。主人の言葉に従順に従い大人しく車上に待機するライダーを見習いながらイリヤは狂戦士のサーヴァントと共に義弟の一騎打ちを見送った。

 

 

 

 

無限に剣を生み出し、矢として形状を変化させ弓に番え放つ弓兵(アーチャー)

最初の内は、一見奇怪に見える武装の特性に疑問を抱かなかった。同じように生前の武装を瞬時に実体化させることのできるサーヴァントは、ライダーの釘剣やバーサーカーの岩のような斧剣、果ては宝具そのものである赤い槍すら自由に霊体、実体化させることの出来るランサーといった前例があったためだ。

 

違和感を覚えたのは、アーチャーがライダーとの戦闘時に演じた剣戟であった。無論、割り当てられたサーヴァントのクラス以外の武功、武勲を複数持つ英雄はヘラクレスやアーサー王を筆頭に別段珍しくはない。しかし、アーチャーが振るう剣は二刀流としては、非常に珍しい同じ質量と間合いを持つ双剣であったのだ。通常二刀流による剣の大きさというのは、左右非対称であることが多い。利き手による握力や腕力の違いから、短い片方を防御に徹し、間合いを取る長剣で敵を屠る流派や、投擲や刺突に特化させた軽い剣に毒を塗って戦うといったものが正統派なのだが。久郎の目はアーチャーの手にする夫婦剣は、それらを度外視した伝承によってのみ伝えられる持ち主のいない干将・莫耶であることを見抜いた。

 

低ランク相当の対魔力スキルしか持たないアーチャーに対して読心(目を盗む)能力が通じないことも含め、使い手の存在しない筈の宝具を所有し、さらにその宝具を十全に()として使いこなす弓兵(アーチャー)に足して時間が経つほどその疑問は大きく膨れ上がった。

 

その疑問が、ようやく解決した。外界に対して着用者の身を守る聖骸布を基にした赤い外套の武装を外したアーチャーが剣の複製を試みた能力を衛宮久郎は知っている。

魔法にも匹敵するその能力は、宝具すら対象として取り込むほどであり、等価交換の原則を完全に無視しているため人間が扱う魔術ではなく抑止の一端を担う超能力級の代物だが発動に魔術回路を必要としているため、広義的にはやはり魔術として扱われる。

その力の名は―――

 

 

 

 

自分の能力の一端を看破した久郎が立ち上がり、その覚悟を決めたような顔を見たアーチャーは、衛宮久郎という個体に警戒以上の評価を下した。

殺傷が目的でなかったとはいえ、全治数か月は確実の傷を瞬時に治癒するその腕前と二十m以上離れているのにも拘らず感じる魔力の多さもさることながら、一般人に対し躊躇なく武器を向ける情緒にアーチャーは感心すら覚えていた。もし言葉を交わす暇があったら、現状で足手纏いにしかならない人質の始末を行おうとする手際の良さは、世界に操られる守護者顔負けであると皮肉の一つでも言っただろう。

しかし、虚空から現れ黒光りした短機関銃を左手に持ち、懐から二枚の礼装らしきカードを取り出した久郎の様子を見たアーチャーも弓兵としての戦いを強いられたのも事実であった。

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

(Shot)(Wood)二段転換を付与し(Dance of double trap)敵兵を拘束(The goal secured)

 

アーチャーが黒い大きな和弓を、久郎が短機関銃を虚空より呼び出したその力は―――

 

固有結界(リアリティマーブル)

 

悪魔や真祖の吸血鬼、精霊を始めとする、魔力を糧に生きる超越種が固有の能力として異界の常識を操る他に、人間が長い年月を経て個々の心象世界を形作る魔術として編み出した異界創造法。

 

世界を再現する点において錬金術師の最終目標に程近いその力は、禁忌と畏れられており魔術協会においても封印指定が確実の魔術として多くの使い手が(・・・・)記録されている。

 

その力の『使い手』でもある久郎もまた、その能力の利便性を理解しているからこそ、敵に回れば脅威になることは分かっていた。

 

だからこそ、だからこそ彼らは、互いのことを知り尽くしているからこそ、必要最低限の詠唱だけ済ませ短期戦に持ち込むことにしている。

 

 

投影(trace)」 「錬成(craft)

 

二枚のカードが光の粒となり、久郎の体の周りに集まり次第に浸透し、アーチャーの弓に番えられた剣の矢を中心に虚空から刀身を覗かせる無数の刀剣が現れ……

 

「「開始(on)!!」」

 

怒号のような詠唱を皮切りに銃口から噴いた弾幕と、放たれ射出された刀剣の剣幕が眩い金属の火花を咲かせた。

 

 

銃弾が刀身にぶつかり跳弾し、銃撃に耐えかねた刀身が砕け刃の欠片が飛び散る。

一瞬のみ拮抗していた鉄の嵐は、宝具である刀剣と魔力の込められただけの銃弾による競り合いにもならない激突によってコンマ01秒を待たずにアーチャーの剣が押し寄せてきた。

 

久郎の後ろで待機しているライダーやイリヤスフィール達の所にも、久郎が撃ち漏らした剣が久郎の横を通り過ぎ、彼女たちにその神秘の籠った刃が迫るも、イリヤの騎士であるバーサーカーが巨大な斧剣の一振りで薙ぎ払われた。何本かがバーサーカーの剣技を逃れ肉体を貫かんと射し当たるも、一定以下のダメージを無効化する宝具の加護によって弾かれ、四方に四散し、そのどれもが久郎に当たることはない。

 

当の久郎は、短機関銃の引き金を引いた瞬間から、道路の外に広がる冬木の原生林の中へと駆け出していたのだ。林立する木々の間を蛇行しながらアーチャーを照準に銃弾の嵐は止むことを知らないかのように横殴りに噴き続ける。時折、銃声の音や銃弾の衝撃の度合いが変わることから、機を見て火器の種を変更しているのだろう。

 

木々が鬱蒼と林立する闇の中へと突き進む久郎を目で追掛け、自身の保有する無限の剣製を放ちながらアーチャーは、自分の傍らに立っている三枝を覆うように白銀に反射する剣の壁を作り上げ、跳弾する流れ弾から彼女の身の安全を確認すると、星明りすら届かない暗闇の奥へと進む流れ星のように瞬き目印のように火を噴く銃口を目指し、黒い和弓に新たな矢となる剣を握り久郎の後を追う。

 

例え星明りすら届かない夜の宵闇に閉ざされた森林であろうと、夜の狩人である梟の目を遥かに凌ぐ目を持つ英霊と混血の末裔には関係無かった。彼らは、足場の悪い、土の香りのする柔らかい腐葉土の地上から半世紀を軽く超える樹齢を持った立派な成木の枝から枝へと飛び移る樹上戦へと乗り換えた。昨年度の台風にも折れずに太く伸びた枝から別の木の枝へ飛び移り、射出と射撃を継続しながら、相手の動きを先読みして足場となるであろう枝を撃ち抜き、刀剣を先へと放ち枝を切り落として経路を塞ぎ、時には幹を踏み台に方向転換をし、跳躍しながら射ち続けた。

 

武装した普通の人間で構成された軍団なら単体で翻弄し、一分を待たずに無効化できるであろう化け物か英雄染みた動きを見せる二人の戦況は火力では宝具の矢を放つアーチャーが勝り、速度では魔力を込めただけの銃弾を撃つ久郎が勝っていた。弓兵(アーチャー)射撃手(ガンナー)は互いに射ち合い、身を躱しながら相手を追い詰め、追い込もうと手を緩めずに木々の間を複雑に右往左往しながら進み回り(・・)行く。

 

 

 

国道を外れて原生林の奥へと消えたアーチャーと久郎を見届けたライダーとイリヤは、木々の間に瞬く金属の火花や銃口の閃光を見ながら、少し小さく聞こえる銃声と風切り音が通り過ぎる様を見届ける。

 

「行っちゃったわね二人とも……。まったく、巻き込まれた一般人相手に体を張るなんて」

 

「イリヤスフィール」

 

実に魔術師らしくない。そう続けようとしたイリヤに、ライダーが車上から降りて名を呼ぶ。

 

「どうしたのライダー?」

 

「マスターからの指示です。『アーチャーの魔力供給を断つために協力して欲しい』と」

 

ライダーから聞かされるその簡単すぎる内容に疑問を持ったイリヤだが、断る理由もないのでバーサーカーを引き連れ、剣の壁に守られている阻まれている一般人に近付き命令を下して、その剛腕を振り上げ―――

 

 

 

「っ!!」

 

アーチャーと共に木々の間を飛び回り、こまめに銃器を変えながら威嚇射撃を繰り返していた久郎は遂に自分の後ろを付いてくるアーチャーの剣の矢によって足場となる枝を切り落とされ中空を掻くも、すぐに体勢を取り直してアーチャーに向けて発砲を続ける。

 

しかし背中から地面に打ち付けて倒れ伏し、一旦動きが止まる隙をアーチャーが逃がす筈もなく、久郎の肢体の関節も剣の刃を向けて縫い抑えるように地面に突き刺した。両脇、両肘、両膝と六本の刀剣が蝶の標本を支える留め具のように交差し、久郎が起き上がらないように動きを封じる。

 

「下手に動くことはお勧めしない、バラ肉には成りたくないだろう」

 

優位な立場を獲得しながらもアーチャーは、固有結界より新たに刀剣を顕現させ自分の周りに待機させながらいつでも久郎を針鼠に出来るようにしており、手にした和弓には捻じれた剣が矢として番えられ弦を張って久郎の赤く輝く右目をを射抜くように構えられている。

 

「……意外と優しいんだな、お前」

 

久郎は、アーチャーが視覚も喉も潰さずに肢体の拘束のみで済ませていることから、魔眼保有者であり尋常ならざる治癒力を持つ様を確認してもなお人間扱いされていることを察し、アーチャーの不意打ちにも近い人情深さに驚く。

 

―――目を凝らす

 

しかし久郎は、そんなアーチャーの手心に付け入って、緋色に目を更に輝かせ辺りを千里眼で見渡し目的の場所を作り上げ(・・・・)たことを確認すると、口元を吊り上げて笑う。

 

構え(set)狙え(aim)切り裂け(cancellation)!!」

 

「何を言っている?……貴様!?」

 

魔力も大して込められていない単純な詠唱に面を食らい、案の定何の変化も起こらないことに魔術の不発を疑ったアーチャーの顔が一気に強張る。辛うじて繋いでいた魔力供給の経路が断ち切られた。これは即ち契約対象者の肉体的な死を意味し、魔力を糧にするサーヴァントにとって文字通りの死活問題である。

久郎のサーヴァントであるライダーか、はたまたイリヤスフィールのバーサーカーの仕業かと狼狽するアーチャーを置いて、久郎は続けて地面に触れている手に魔力を走らせ、無数の銃弾がのめり込んだ大地に向かって命令する。

 

育ち育め(grows up)!」

 

銃弾によって穴だらけになった原生林の地面から、木々の幹から、勢いよく吹き出す噴水のように飛び出し棘の生えた太い蔓がアーチャーと久郎を囲む。

 

空まで覆い尽くされたことを確認し逃げ道を塞がれたと分かると、悪態を付きながらアーチャーは、棘蔓の壁に向かって既に顕現させていた刀剣を一点に向けて放ち、断ち切られて薄くなった壁を狙って黒い和弓に番えられた渾身の一撃を放とうとするも後ろから迫って来た無数の蔓が蛇のように絡まり、アーチャーの動きを封じた。矢を番えた姿のまま、棘蔓の繭に包まれついに顔にまで迫った最後にアーチャーは、小気味よく乾いた拍手が一つ聞こえたような気がした。

 

 

 

 

「アーチャーの呪縛成功っと」

 

蔓が久郎を抑え込んでいたアーチャーの剣を掴み地面から抜き取ったのだろう、蔓の塊の傍で体を久郎の周囲をしなやかに蠢く蔓の先には、刀剣が絡まれていた。

 

植物を自在に操り、召喚急成長を可能とする樹木の精霊を元に作り上げた魔法礼装の(wood)のカードを使った作戦は予想以上に上手く行った。(shot)のカードと併用することで弾丸を(wood)の召喚と成長基点の媒介とし、原生林の一帯を一気に拘束術式を組み込んだ蔓で覆い尽くして簡易的な異界を形成してアーチャーの捕縛に挑んだのだ。

 

別段、アーチャーと同じく剣を媒介にすることも可能であったが、彼らの使用する得物の違いは、状況と身体的実力の差やアーチャーの特別な魔術特性による得手不得手もあるが、久郎の場合は、アーチャーを三枝から引き離して自分の傍に引き寄せるために、サーヴァントの霊核にダメージを与えるほどの脅威を持つ遊撃ができる武器の中から質量が小さく比較的簡単に連続で錬成出来る短機関銃を選んだのだ。

 

 

 

アーチャーの呪縛に巻き集っている棘蔓以外の異界を形成している蔓に解除の命じ霧散させると、棘蔓で絡めとったアーチャーの生み出した剣の一本を手に取り真剣に見つめ、その完成度に惚れ惚れするも、自分たちが戦った後の原生林の見るも無残な姿に久郎は溜め息を漏らす。

 

銃弾によって幹を抉られた木々や、矢として放たれた刀剣によって切り落とされた枝の数々。これほどの伐採が行われた土地は最早原生林と称して良いのか分からないほどまで荒れていた。元々、アインツベルンの城へと通じる国道のため、民家は元より交通量も殆どない為、人除けの結界を張っていなかったのが気にはなったが、銃声についての隠蔽は教会に任せるとして、戦場痕から手数を見破られるのを避けるために久郎は切り落とされた木の枝や銃痕を隠蔽するために手を合わせ、錬金術を行使する。

アーチャーの剣と銃弾は分解され塵となり、銃痕は木の繊維と皮を引き延ばして、切り落とされた枝は断面の細胞を再構築することで繋ぎ止めて、大凡元通りとなった一帯を見て久郎は満足げに頷く。

 

アーチャーを林に誘いを掛けた後、久郎は木々をランダムに移動しているように見せかけ大きな円を描くように動き回っていたため、実際に被害を被った土地は5haもない。

 

棘蔓に覆われたアーチャーの様は支える蔓がなくなったことで球体になり、西部劇の背景に出てくる転がり草か刺々しい毬藻のようであった。久郎はそれを大玉転がしのように押して、木の根っこや石を乗り越えながら程なくして車道に出る。

 

途中で、痛みを訴えるくぐもった唸り声が棘毬藻の中から聞こえてきたが久郎は特に気にせずに、ライダーとイリヤとバーサーカーが待つ国道まで押し続けた。

 

「……お兄ちゃん、何それ」

 

「お疲れ様ですマスター。それは一体何ですか?」

 

巨大な蔓の塊を押し続けて戻ってきた久郎に二人は当然の疑問を上げる。

 

「ああ、これな。中にアーチャーが入っているんだ」

 

微かに蠢く棘毬藻を指差し、久郎は埃を払うように表面をなぞると蔓が消化の終えた蠅取草のように退(しりぞ)くと浅黒い肌をしたアーチャーの顔が飛び出してきた。蔓の中が息苦しかったのか、咳き込みながら新鮮な空気を取り込み、状況を確認するため、首を回しライダー、イリヤスフィール、バーサーカーと順々に見渡し、そして怒りに燃える瞳を険しく光らせ声を荒げる。

 

「なんということを……貴様は、無関係の一般人を―――!!」

 

―――目を合わせる

 

久郎はライダー達に説明するためと、帰り道に騒がれるのも面倒なのでアーチャーの体感時間を停止させるためにアーチャーの頭部を出したのだが、眼を開けた途端に殺気を混ぜた怒号が発せられたので早々に停止の魔眼で黙らせ、再び棘毬藻の中に仕舞い込む。

 

「まったく、どの口が言うんだ? 三枝(こいつ)を巻き込んだのはお前(アーチャー)だろ?」

 

顔色一つ変えずに、激昂したアーチャーに疑問を持つ久郎の足元には、無残に砕かれた剣の傍らに倒れ、細長剣(sword)に胸を貫かれた三枝由紀香の姿があった。

 

「さてと、悪いんだがイリヤ。少し寄り道をするぞ」

 

原生林の時と同じように、錬金術を使って戦闘痕を隠蔽するために銃弾や刀剣を分解させ、抉られ切り裂かれたアスファルトを元通りに錬成し直すと、久郎は倒れている三枝の傍まで近寄り、彼女に刺さっている剣を抜き取りカード化させて戻すと、ライダーに三枝をベンツの後ろの収納スペースに入れるように頼み、アーチャーを包んだ棘毬藻の下から台車を錬成し、ベンツで引っ張ることができるように無理やり留め具を付け加える。

 

多少不恰好になったが、全員を連れて行けるようになった久郎は運転席に戻り、車のキーを回してエンジンを掛ける。

 

「目撃者の保護に戦場の後始末なんて、それこそ教会の仕事じゃない」

 

バーサーカーを霊体化させて先に乗っていたイリヤが、頬を膨らませながら回り道することに文句を漏らす。

 

「教会だって中立とは限らない。特に前回の聖杯戦争に続いて監督役を務める言峰家は遠坂と親しい間柄だ。セイバー陣営に有利な情勢に調整を加えてくることを考えると、自分で後始末する方が安全だ」

 

久郎個人が教会側に好意的な対応をされたことがないことによる偏見もあるが、確かな筋の情報であることを言い含めてイリヤに説明し納得させる。

 

「ふうん、そんなものかしら。で、どこに向かっているの?」

 

「俺の家だ」

 

異様な台車を引く高級車は、何事もなかったかのように、来た道を戻り、一見寂れたように見える衛宮の洋館を目指し夜の道を進んで行った。




某動画サイトで見つけた まどマギ の戦闘シーンが凄過ぎてアニメと映画一気に見ました。→結果

戦闘は魔法少女のものではない、魔砲少女のものだ!! ということが分かりましたww


fateクロスの短編とかやってみました。湧き上がるネタの掃き溜めになりそうですが、よかったら読んでってください。



これからも完結向けて頑張って行きます!! 読み直しているであろう方々のアクセスを見る度に励みになります(嬉)

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