Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
…頭がぼんやりする。
そう何処と無く、そう思った。
具体的に言うなら、視界が所々に歪んでいてハッキリしない感じ。無論、それは私が体調を崩している所為である。
まぁそれはまだ良い。それよりも…
(何で私が零君と⁉︎)
今は口には出てないが、本来ならば思い切り?を浮かべて抗議の一つでもぶつけてやりたい場面。だって、男子に看病して貰って、からの洞穴で異性二人きりなんて…何処ぞの恋愛ものみたいなシチュエーションじゃない!
…なんて私の心の叫びはどこ吹く風、当の零君は危険が無いかずっと洞穴の外に警戒の眼差しを向けている。その姿は、何者にも厳しさを与える紅い瞳は、同世代––確信は無いが––のものとは思えない程乾いていた。強いて言えば、警察官などの公務員に近い強い意思が汲み取れる眼。
(本当、只の高校生…なのよね?どうも読めないわね…)
だが何を思考しているのか。それがどうも目の前の青年からは読めなかった。今までの私の男子の印象というと、ざっくり分けて二つある。
一つ目はとにもかくにも元気で、クラスの中心的存在のタイプ。これは間違い無く彼は該当はしていないだろう。話す時は小声だし、何より男子らしい気迫がこれっぽっちも感じられないからだ。
二つ目は大人しくて余り目立たないタイプ。彼はパッと見はこれだと思った。今までの僅かな間に少し会話交わした限りでも目立つのが好きなタイプでは無いだろう。寧ろ嫌いな節も感じられたし。
「(つまり…人見知り?)「おい。」ひゃっ⁉︎」
「もう少し寝てろ。倒れられたら困る。」
「あ、う、うん…」
因みにだが、現在私と零君がいるこの洞穴は、私達が島を探索している最中にチラッと見かけた自然のもので––私はあまりよく憶えてはいなかったが––大の男三人がすっぽり入れる中々に快適な空間だったりする。
そこに私が奥←零君が手前と言った具合に入り、今し方私に看病(というより彼の液状の薬を飲まされたのみだが)を施し終わると、前記にもある様にずっと彼の観察をしている…という現在に至る。
だが、頭が徐々にクールダウンしていくのを感じると同時に、ある疑問が浮かぶ。
(それにしても…何で監視なんかしてるのかしら?警戒を怠らないのは悪い事じゃないけど…)
動物はリスや小鳥などの小生物は生息していた。だが、少なくとも私達に危険が及ぶ様な生き物はいなかった筈だ。
それを彼にも伝えたが、『熱を隠す奴にとやかく言われる筋合いは無い』という何ともストレートな正論?により、今も彼は外へ睨みを効かせている、という訳だ。
(まぁ確かにその通りだし、ここは素直に観察に徹せば良いんだわ。)
それのどこが素直だ。そう目の前の青年は言いそうな気がするが、この際病人権限で何とかする事にした。実際まだ激しく動くのは無理な訳だし。…にしても、
(さっき水を汲んで来たけど、何に使うのかしら?)
そう。何を隠そう、私の視界右側にいる零君…の反対側には水筒が2本あり(私の元にも1本ある)、中にはかなり透明度の高い純水が入っている。それだけならば、単純に水分補給の為という意味だろう。が、問題は水筒だ。
やたらとメカチックなソレは、白を基調としたパッと見円形の細長い筒。その中には言ったように水が入っている訳だが、この水筒、何と彼のポケットから出てきたのだ。
…あ、誤解の無いの様に言えば、彼の履いているカーゴパーツのポケット。そこから3つ見かけは白一色の掌サイズのチップ。それを徐に取り出したかとおもうと、カチッという音と共に3つのチップがあっという間に水筒の形を成したのだ。
それは2026年9月20日現在、機器が進歩した日本でつい先日とあるメーカーが公表した‘‘自立型水筒’’だった。ニュースの報道でチラッと目にした程度なので記憶は薄いが、確か『持ち運びに革命を!』とかいうキャッチフレーズと共に販売され、売り上げは上がり坂を辿っていた筈。
まぁそれはさておき…
(見かけによらず、サバイバルとかする人なのかしら?)
だったら見当違いも良いところだ。
水筒に関しては初めて実物を見たから驚いた。が、それを扱う彼の動作が随分と手馴れていたから。予想だが、普段から持ち運びをしているのかもしれない。
(まぁ、それは個人の自由だしね。)
その個人の素性がイマイチ掴めないのだが(私も人の事は言えないけど)、少なくとも話していて解ったのは、悪どい思考の持ち主ではないという事。歳や素性はイマイチ読みにくいが、意外と近しい年齢だろう。忘れそうになるが、私も彼も‘‘高校生’’として学校へ入学しにきて出会ったのだから。
「(まっ、とにかく…)零君。」
「ん?」
「これから宜しくね?」
そう若干良い子を意識して言ってみたが、遅かれ早かれいずれ素で話す事になるだろう。だから、今は予行練習だ。
そんな私の思考を読んだかは判らないが、
「…そうだな。」
少しの間を置き、返って来たのは短く切られた四文字の返答だった。
その声は相変わらずそっけなかったが、少なからず仲を深められていると解り、年甲斐もなくクスっと笑ってしまい、そんな私に彼はムッとした視線を送ってきた。
「…なんだよ?」
「ふふっ、別に?」
「…変な奴」
それは君だよ。…と、言うと更にムッとするのは目に見えていたので言わないでおいた。何時しか視界は元のクリアなものへ回復し、心なしか体が軽いと気がついたのはもう少し後の事…