Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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入学試験

 

 

 

「…はぁ」

 

 

俺の…奏魔 零の、もう何度目とも知れない溜息がまた一つ、遥か果てまで続く雲海の彼方へ消えた。

今、俺の眼前には見渡す限り、何処までも…何処までも延々と広がっている青々しい大空の世界がある。

それは今までは当たり前だが、下から見上げる以外に確認する術など無かった。当然だ。空というのは下から見上げる事で『空』と呼ぶのだから。

…それがどうだ。今現在、俺…否俺達の居る場所を信じられる者など、相当に限られているに違いない。そう断言してやれる自信がある。

それは、無言で突っ立っている俺同様隣に立つ玲奈の混乱振りから良く解る。

 

 

「…どうしよう…」

 

「……」

 

 

彼女の誰へ向けてのものでも無い疑問は、波の様に空を凪ぐ雲海へと僅かな反響を残し、呆気なく消えていった。

そんな状況処理が追いついていない玲奈に対し、

俺は妙に平然としていた。理由は自分でも解らない。

ただ…何故学校へ通う筈の自分達がこんな‘‘雲の上に浮かぶ島’’にいるのか。そんな超絶あり得ない今の状況の筈なのにも関わらず…だ。

 

 

(…可笑しいんだが…妙に納得出来るんだよな…)

 

 

そもそもだ。今こんな事態になったのは…やはり数刻前の出来事以外あり得ない。

そう考えれば、本来ならこんなあり得ない光景を見るハメになった俺達が、地上から遥か上空の…こんな雲の上にいるのも辻褄が合うのだ–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それは…大体一時間前に遡る。

今日から通う事に高校…アクタースクールを目指し、あの期待ハズレな一軒家紛いの学校に到着し、そんな俺に突っ込んで来た玲奈と一悶着あった…そこまでは良かった。問題はその後。

 

 

「…ん?」

 

 

彼女から手を差し出され、名を明かすと共に成り行きで握手を交わしていたその時。頭上から突然カササッという何かが風に靡く音が聞こえた。

ふと上を見ると、二通の黒い封筒が舞い降りてくる所だった。それは結構吹いている風を無視する様にヒラリヒラリと降りてきて、俺達の手に収まった。

 

 

「…封筒?」

 

「…あ!きっと学校からの通知じゃないかな?」

 

 

そう明るく発言する彼女は、既にバリッと封を解いていた。その表情には疑いの欠片も無い。

無用心だな…と内心思ったが、この数時間で俺も結構期待を裏切られて来ているので、中身が気になるのは仕方ない。そう、致し方ないのだ。因みに差し出し人名は見当たらないのもそうだ。

 

 

「……」

 

 

だが一応万が一の事態には警戒しつつ、彼女に遅れる事数秒、俺も封を解いた。

バリッという紙が破けた音と共に開かれた封筒は、見る限り全てが真っ黒な手紙が一通、これもまた真っ黒な手紙が丁寧に折られて入っていた。

その内容は、以下の通りだ。

 

 

 

 

『入学者さんへ』

 

 

Ya!この手紙を読んでいる入学者諸君へ。

僕の名はシュルト・クライム。君らの学校アクタースクールの学園長をしている者さ。

いきなりだけど、君達には今から‘‘入学試験’’を受けて貰うよ。あ、拒否権は無いからね?

内容はこれから直ぐに解るから、ちょっち待ってネ☆

 

 

学園長シュルトより

 

 

 

 

 

と、随分丸字で綴られた軽妙な口調の文字が、フワフワしたデザインの…具体的には女性向けの枠に収められて欄列していた。

文字や口調を見る限り、どうやら随分と軽い性格…もしくは遊び好きなのだろう。それで学園長とか大丈夫なのか?

そう会った事も無い人物へ早々に心配したくなったが、問題は別の所。

 

 

「…入学試験?」

 

「試験かぁ…きっと大変なんだろうなぁ…」

 

「いやいや、まず可笑しいだろ。」

 

「へ?」

 

 

思いっきり?を浮かべてる玲奈だが、冷静に考えてみれば色々と可笑しい。

まず、入学試験などは一切聞いてない。それならそれで事前通知が来て良い筈だし、今の全く学校らしくない一軒家の前が集合場所なのも含め、奇怪な点が多すぎる。

それに、この手紙の送り主、学園長…シュルト・クライムという名も聞いた事が無い。

世間に疎いのは自覚している俺だが、少なくとも漫画やアニメにその様なキャラなどはいなかった筈(ぶっちゃけ殆ど関係無いが)。

 

 

「そもそもだ。試験がどうとかを、こんな手紙で伝えるか?」

 

「あ…い、言われてみれば…」

 

 

…よし、今日からこいつは‘‘Ms天然’’と勝手に呼んでやろう。と、そう悪ふざけを俺が悶々と膨らましているのはさて置き…

 

 

「どうソレをやれって話なんだが…」

 

「うん。やっぱり、手順とかがある…のかな?」

 

「解らない。だが…」

 

 

だが、少なくとも一つ解っている事がある。

これから俺達の身に降りかかるであろう事は、けして軽く済む様な事態じゃないと。そう俺の感覚が…否、魂が感じている。

『アニメや漫画の見過ぎだ』。そう今の俺を笑う奴もいるだろう。いや、絶対にいる。それは、俺自身が一番そう思いたいし、そう信じたいさ。

だが、現実はそう上手くはいかない事だらけっていうのがお決まりの世界だ。そして、こんな俺が好きな言葉も、そんな夢見がちな…果てしなく広がる‘‘空想’’と‘‘現実’’の区別をつけるものだ。

 

 

「『現在(いま)より始めよ。それが其方の糧となる』…か。」

 

「ん?何の言葉?」

 

「いや、何でもない。それより…ほら。」

 

 

そんな譫言を発する俺の様子を玲奈は不思議そうに見つめていたが、それには敢えて触れずに、人差し指をピンと立てて空を指差す。

ソレに案の定食いついた彼女の視線は、俺同様に上空へと向けられ…

 

 

「…え⁉︎」

 

 

返って来たのは短い悲鳴に似た驚きの声。

‘‘ソレ’’は、二次元に依存症ではない俺でも一度は見たことのあるモノ。大体10mはある薄緑を色巨大な円に、内に線で描かれた剣やらの不思議な模様。

ソレは所謂、‘‘魔法陣’’と呼ばれるモノ。それが今まさに俺達から数百m上空の位置に当然の如く展開されていたのだ。

 

 

「ま、魔法陣⁉︎」

 

「あぁ…」

 

「な、何で⁉︎あんなのアニメとかだけのものじゃ…」

 

 

それ以上は続かなかった。朝だというのに不気味に見える魔法陣が光り輝き始めたからだ。と、同時に。

 

 

「なっ…!」

 

「きゃっ…⁉︎」

 

 

俺達の体を魔法陣同様に薄緑色の光が包み込んだとおもうと、ヴゥンという機械音に似た音と共に辺りの景色がグニャリと歪んだ。

その事態に、俺はある事に気がついた。

 

 

(…っテレポートか!)

 

 

そうこの光が物や人を‘‘転移’’させるモノだと気がついた時には、俺と玲奈が消え去った後だった…

 

 

 

 

 

 

そして、話は冒頭に戻る。

 

 

「やっぱり可笑しいよ…何でいきなりあんな…」

 

「さぁ?」

 

 

彼女の気持ちは解らなくも無いが、正直な所は謎だらけだ。考えられるなら…あの黒手紙の送り主だろう(転移の際落としてしまったが)。

 

 

「はぁ…無責任だね君。」

 

「否定はしない。」

 

「……」

 

 

そして何故か美少女の彼女からジッと見られたが。この時俺は長年に渡り鍛えられた‘‘女耐性’’に始めて感謝した…気がする。どうでも良いが。

すると、ジッと見ていた彼女がスタスタと歩き始め、

 

 

「…じゃっ、行きましょ。」

 

「行くって…どこに?」

 

「さぁ?」

 

「……」

 

 

ニコッと効果音がしそうな笑顔を向けられ(悪戯の気が混じっているが)、再び無言になる俺。どうやら彼女、やられたらやり返す性質らしい。妹の美弥といい、女とは解らない生き物だ。

 

 

「冗談よ冗談。ね?」

 

「どうだか…」

 

 

まぁとにかく進まない事には情報も掴めない。そう珍しく前向きに捉え、先行く玲奈を追い、島の内部へと歩き始めたのだった。

 


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