Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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災難と出会い

 

 

「一体何だってんだ…っ⁉︎」

 

ゴオオオ…!と耳元から凄まじい音量の風切り音が聞こえる。愚痴は吐けども直ぐさま風に攫われ消え、今の状況を明確により一層表すだけ。

そう…只今絶賛自由落下中という事実。そして、新たな世界はいきなり波乱で始まる、というお約束過ぎる展開という現状だ。

 

「痛…っ…クソ…っ!」

 

しかも、この突然の落下前、何処からとも無く左腕に受けた痛み。

それはまるで直に炎で皮膚を炙られている様な激痛で、当分は治る様子無くジクジクと鋭い痛みを訴えており、今も油断したら強引に意識を持っていかれそうだ。

そんな痛みの最中でも、自由落下のスピードはどんどん加速し、ふと視界左上に眼をやれば映る当たり前だが自分のHP(緑)は初期時のまんまで頼りなく貧相なモノ。

このまま衝突などすれば、間違い無く跡形も無く全損する事など目に見えているレベルだ。

 

(クッソ…いきなりゲーム開始から死落ちしてたまるか!何か…何か無いのか?)

 

ゲーム開始から数秒後に死亡など、笑えそうで笑えない冗談だ。

それに、今自由落下しているのも左腕に力が入らないのも、元はと言えばゲーム側の不備だ。文句言った所であしらわれる事は目に見えて解る。

 

(眼…はダメだな。アイテム…は使えないしな…)

 

とにかく今は死を免れる方法を教えねば。だが、浮かぶのは能力やアイテム頼りの案ばかりで、チートを使っているとはいえ仮にも今の俺は初心者。出来る事は限られている。

 

(っぐ⁉︎くそ…視界が…)

 

その間にも原因不明の激痛は収まらず、ビリビリと電力の様に全身を侵食し始め、力が手足から順に入らなくなり意識が遠のいていく。

嫌でも死を実感してしまう事の表れである様に…

 

(あぁ…俺、死ぬ…のか…)

 

まるで良い笑いモノだな…そう薄れゆく意識の中、全身の感覚が消え始め、とうとう意識を手放す……

 

「君⁉︎大丈夫⁉︎」

 

(…誰…だ…?)

 

と思った寸前。誰かに体を抱えられ落下が止まり、キーの高い女性の声が聞こえた気がしたが…直後俺は意識を手放した。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

【サスケ】ログインの数分前…

 

「はぁ…はぁ…!」

 

数時間前、現実で部活の無い水曜日である今日を狙い久々ログインした私は今、全力で空を駆けていた。普段なら心地良く感じる風や景色も、今は気にしている暇は無く、聞こえるのは自分の荒い息遣い。そして…

 

「待て!」

 

「逃がすな!【シルフ】の女だ!」

 

後ろから聞こえてくる野太い男達の声。チラリと後ろを振り返れば、体感20m程先に【サラマンダー】の武装した男が3名…内騎士染みた槍持ちが二人、メイジ型の杖を構えたのが一人、殺気を出して追いかけて来る様が。

それは昔、剣道の修行で眼にし亡くなった祖父の厳しさを称えた顔に酷似していて、逃走本能から無意識に飛行スピードを上げていた。

 

「はぁ…はぁ…!よし…!」

 

そしてその勢いで森の中へ突入し、木の影に《隠蔽魔法》で姿を透明にし身を潜めた。

【シルフ】の特徴でもある優れた聴覚から、発する声や立てる音を聴きわける事で、断定的ではあるもののある程度位置取りを確かめる事が出来る。

更に尚且つ、今此方は身を隠しているので、見破る事は脳筋寄りが多い【サラマンダー】では今の私は見破れない筈。

 

「クソッ!何処に行った⁉︎」

 

「チッ、逃がしたか…おい、戻るぞ」

 

案の定彼等には見破れ無かった様で、愚痴を漏らしながら飛び去って行った。

 

(ほっ…助かった…)

 

その事に内心安堵しつつ《隠蔽魔法》を解き、居場所を特定されない様再び【羽】を生やして飛びたった。

ゲームを始めた半年前まではぎこちない飛行だったが、今は体を撫でる風を感じる余裕もある程。人間、慣れれば意外と何でも熟せる様になるのだ。

…あ、いや、それよりも、

 

(最近はやたら襲われるわね…やっぱり【世界樹】攻略?でも…)

 

先程襲って来たサラマンダー連中といい、最近彼等は種族間の派閥争いが特に激しい様に思える。

元々そうやって争い前提に作られているALOでも、やはり‘‘常識の範囲’’というモノは存在し、やって良い事悪い事は大まかとはいえ、一応有るには有るのだ。

が、それでも最近のサラマンダーの行動は狩りに積極的な面が強く、必然的に仲が悪い私達シルフが中心に狩られる対象になる。

もちろんそんなモノは狩られる側にとって嫌以外の何物でもなく、良い気は全くしない。私が‘‘女’’であるからで狙われるという点に関してもだ。

私は私でいたいだけなのに…

 

「何時からこんな…」

 

はぁ…と解消されない形無き問題に対し、今日何度目とも知れない溜息を吐いた…その時、

 

「…ん?」

 

視界数十m先。その斜め上空から、煙上げ落ちて来る物体が眼に写った。微かにチリチリと音を上げるソレは、赤い閃光を瞬かせながら落下速度をどんどん加速させていて、

 

「っ⁉︎」

 

姿形がハッキリ目視出来る距離まで近づいた時、私は驚愕と共に飛行速度を限界まで上げていた。何故なら…火種を上げ、今にも地面と激突しそうなソレの正体が…プレイヤーであったから。

 

「くぅっ!」

 

やがて激突寸前で追いつき体を抱えた時には、既に気絶してピクリと動かない少年プレイヤーの姿が腕に収まっていた。

 

「君大丈夫⁉︎しっかりして!」

 

「……」

 

一応声をかけるが、完全に気絶しているのか、ピクリとも動かない。

腕に収まるプレイヤーは160弱の私よりは大きく、性別は…多分男。というのも、目元を覆う程長い髪と整った色白の顔立ちから、女性にも見えてしまうからだ。後、何処か知り合いに似ている様な気もする。

装備は初期装備特有の簡素なものなので、種族は暗色寄りの服装である事から、恐らく【スプリガン】か【インプ】で、今正に始めたばかりの初心者という事が伺える。だが、

 

「何これ?模様が…」

 

それとは別に、左腕…正確には手首付近に赤く輝く不可思議な紋章があり、先程見た光源はコレの光と解る。

が、その模様はサラマンダーの使う《火炎魔法》のモノとは全く違い、星柄の様な…正確には六芒星の形をした奇妙なモノ。試しに触ってみると、

 

「……」

 

別段熱くも無ければ状態異常も無く、単に模様が鈍く光るだけ。

ありとあらゆる痛覚が遮断されているALOにおいて、痛みを与える魔法は無い訳では無い。が、種類は少ない。

一応補助の役割として魔法を勉強した際、他種族の魔法も対策として目を通した覚えはあるが…こんな模様を植え付ける魔法などは無かった。

 

「…とにかく、運ばなきゃ」

 

だがひとまず、彼を看護しなければ。サラマンダーとシルフの領境に位置するこの場所にいれば、先程の様に攻撃を受けるかもしれない。

何で人助けなんか…と自分の行動に疑問を抱きながらも彼を抱え、私…リーファは、安全圏であるシルフ領にあるホームを目指し再び飛び立つのだった。

まさかの出会いとなる事も知らず…

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「…ん…?」

 

次に眼を開けた時、ボヤけた視界に初めに写ったのは天井だった。

かつてのSAOで住んでいたホームを思い出させる木製で、続いて今、自分は毛布を掛けられ寝かされている事に気付き、

 

「あっ、眼覚めた?」

 

右側から聞こえたソプラノボイスに眼をやれば、金髪を花柄の飾りでポニーテールにした翡翠色の瞳を持つ女が、安堵の表情で俺を見ていた…のだが、

 

「っ⁉︎な、な、な…」

 

「な?」

 

起き上がり眼を合わせた瞬間、気の抜けた表情から一転して急に狼狽し始めたのだ。

そんな彼女に何をしている?と聞こうとした時、

 

「……あ」

 

初めて《写輪眼》を発動しっぱなしになっていた事に気付き、即座に引っ込め通常の黒眼に戻すと、それに伴い彼女の表情ホッと安堵したモノになった。まぁ考えてみれば、いきなりあの模様はびっくりしても仕方ない。

それに良く良く見てみれば、金髪の髪といい緑色寄りの服装といい、種族選択時に見たモデルのシルフに歳が近そうな少女だ。もしかしたら….いや、もしかしなくても彼女が運んでくれたのだろう。

 

「…すまない、助かった」

 

「え?」

 

「お前が運んでくれたんだろ?ありがとな」

 

そう感謝の気持ちを実感した時、自然に口から感謝の言葉が出ていた。

幾らあの世界と違って現実の死となら無いとはいえ、危うく笑われ者になる所だったのだから。このALOは種族争いが激しいらしいが…救助に対して感謝する位は人間として当然だ。

 

「あ、う、うん。どういたしまして」

 

その意味を理解したのか、金髪の女は照れ臭そうに返した。さて…

 

「…続けて悪いが、お前は敵か?」

 

まずはそれの確認だ。派閥争いが激しいと聞くALOは、九つの種族があり絶えず一番を目指し争っていると聞いた。

当然、他種族には同盟でもない限り仲良くしたりはしない筈だ。イマイチ相関図は掴めてはいないし、嘘で隠す事も出来るのだから、あくまで参考までにだが。

 

「う〜ん…インプはあんまり私達と関係はあんまり無いし…まぁまぁの関係、かな?」

 

すると、彼女は右人差し指を立て思案顔になりながら、何処か歯切れ悪く告げた。疑問符を浮かべ俺を見つめる表情から、彼女もまた俺が不確定要素を持ち、それが己にとって安全かどうか決めあぐねているのだろう。

 

「まぁまぁの関係…か」

 

「うん。だってインプはシルフ領とは真逆の位置にあるし、会う機会も少ないしね」

 

「そうか…「ってそれより!」うわっ⁉︎」

 

「君は何者?空からいきなり降ってくるし、左腕には変な模様があるし…何よりその眼!」

 

…前言撤回。彼女は信用しても良さそうだ。そうでなければいきなりどアップに顔を近づけたりはしないし、もしそうなら鈍感以外の何者でもあるまい。

まぁそこは置いといて…

 

「模様?」

 

彼女発したこの単語が引っかかり、半ば反射的に左腕を見ると、前にSAO時代にふと気になり、手鏡で見た事のあった己の《写輪眼》発動時に眼球に現れる六芒星模様と瓜二つの模様がくっきりと刻まれていた。

そういえば、模様がある位置は気絶前に痛みを訴えてきた箇所だな…と他人事の様に思う。

 

「一応、応急処置はしといたけど…何なのそれ?」

 

まぁそれを彼女が知る由は無い。馴れ馴れしい態度から好印象ではある彼女だが、

 

「……不確定要素からだ」

 

念の為こう言った。見ず知らずの彼女にベラベラ話すのは得策ではないし、文字通り不確定要素が多いという意味も込め、俺としては最大限言葉を選んだつもりだった。が、

 

「…はい?」

 

言葉の意図は理解されず、更なる疑問を生み、結果として話してしまった。

左腕の模様や俺の眼、名前や素性も。そして引き換え条件に彼女の素性も教えて貰った。

 

「サスケ君…ね」

 

「あぁ。それと、改めてありがとうリーファ。危うくログイン早々笑い者になる所だった」

 

「あはは…まぁ、それに免じて色々聞けたし、もう十分」

 

「そうか」

 

それに伴い話を聞いていると、彼女はやはり危惧する様な人物ではない。遅ばせながら、そう改めて思った。

この世界においてはまだ右も左も解らない俺だが、どうやら運は完全に俺を見放していないようだ。でなければ金髪の女改め、和かに話すリーファが俺の前に現れる事もあるまい。

 

「で、これからどうするの?」

 

「この世界に慣れておきたいな。出来れば実践で」

 

「そっか。じゃあ飛行練習はどう?」

 

「飛行練習?」

 

この世界も悪くはない。あんな不運にあっておきながらだが、そう思い初めていた。

その薄々の思いが、数分後大爆発する事になるなど…彼女の単語に小首を傾げる今の俺に知る由は無い。

 

 


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