Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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キャラ紹介に筆加えました


飛翔、新たな世界へ

 

 

 

「《アルヴヘイム・オンライン》?」

 

「そ。それがSAOの後に発売されたソフトの名前なんだって」

 

2024年12月20日月曜日。冬の寒さが一層厳しくなり、場所によってはマイナスまで気温が下がる寒々しい今日この頃。

3日前に揃って退院した奏魔兄妹と有宮玲奈は、生還者の中では一番乗りで復帰し、今までの分を癒す様に学生という概念を忘れ、のんびりと時間に縛られない時間を過ごしていた。そして今、退院組みの一人こと奏魔 零は自宅正面に位置する豪邸、有宮家へ足を運んでおり、今は彼女の自室にて他愛のない話を交わしていた…という所で前記の発言に戻る。

 

「SAOの真似事か?懲りない奴らだな…」

 

フンと相変わらず鋭い紅眼で忌々しいとばかりにそう口にした零。が、このキツめの言葉は彼なりに他の生還者やそうでない人々が不幸になって欲しくは無い、という気づかいが現れているのだ。

やはりあっちと変わらないなと、玲奈は苦笑いと共に確かに実感した。彼も自分なりに変わろうとしていると。

 

「まぁそうなんだけど、何とびっくり!空が飛べるんだって!」

 

「なにっ」

 

その事を嬉しく思いつつ、‘‘空が飛べる’’という点に案の定食いついた零に、再びクスリと笑いながら玲奈は大まかな説明をした。

SAOの要素を多く含んでいる所や、SAOには無かった《魔法》という概念が存在する事。プレイヤーは9つの種族を選べ、今も言った様に自在に空を飛べるという事。そしてそれぞれの種族で誰が一番かの覇権争いを主軸とした中々にハードなソフトである事。プラス発売に伴い、アミュスフィアというナーヴギアの後継機が発売された事などを。と、いっても彼女もまだプレイヤーではない為、古参組みである直葉からの受け売りではあるのだが。

ともかく、零は玲奈の話をふむふむと聞き、

 

「…まさか、こんなに早く役に立つなんてな」

 

「ふふっ、ホントだね」

 

一言、微笑を浮かべながら呟いた。『役に立つ』とは、今は亡きあの浮遊城にて、脱出する1月程前に零が仕込んだある作業…所謂【引き継ぎ】と呼ばれるこの作業のお膳立てをしていた。今まで積み上げて来たデータをナーヴギアへ隔離・蓄積保存する事で、いつかまたの時に役立つ様にしておいたのだ。

そして…予期は現実のモノとなった。それは今二人の手元にある急ぎ購入した《アルヴヘイム・オンライン》のソフトが証明してくれたのだ。

 

「…また、俺と共に来てくれるか?」

 

「えぇ。もちろんよ」

 

「…ありがとう」

 

再び仮想世界へ行ける。それは本来、健常なゲーマーにとっては当然の喜びなのかもしれない。

だが、この二人は違う。ゲームはゲームでも、一つきりのホンモノの命をかけて仮想世界を…デスゲームを駆け巡った。あの世界で見聞きした全てが…この二人の今を更に強固なモノへ昇華たらしめたのだ。それをお互いに知り尽くしているから故の高揚感かもしれない。

そんな回想に似た感情を、零はナーヴギアを鞄から取り出しながらドッドッと徐々に高鳴り始めた鼓動と共に感じていた。もう一度仮想世界へ飛び立つ…あの心地良い浮遊感を。

 

「じゃあ…いくぞ」

 

「えぇ。向こうで会いましょう」

 

「あぁ…」

 

二人は何方かでもなくダブルベッドに寄り添って寝転び、2年も動き命を脅かした最恐の相棒こと、ナーヴギア。

バイクのヘルメットに近しいそれの電源スイッチを入れ、設定しておいたエアコンの風を肌で感じる。そして…

 

「「リンク・スタート!」」

 

デスゲームへ飛び立ったあの時と変わらぬ台詞を、夢の世界へ続く魔法の呪文を、二人は同時に叫んだ。

まさかあの様な目に会うとは知る由もなく…

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「…ここが《アルヴヘイム・オンライン》か」

 

次に眼を開けた時、俺は黒と黄色の電子パネルらしきものが張り巡った空間にいた。因みに姿はまだ現実の姿のままで、黒Tシャツに同色スウェットという黒尽くめの部屋着。すると、

 

《アルヴヘイム・オンラインへようこそ!ではまず、九つの種族から好きなキャラをお選び下さい。変更は出来ますが、ご慎重に!》

 

無機質かつテンション高めなナビゲーションの声が響き、ほぼ同時に九つの種族…赤・水色・黄緑・猫耳・黒・土色・鍛冶屋(仮)・音符・紫の色彩感溢れる9つのモデルが出てきた。

 

「ふむふむ…なるほど。しかし、どれも良いな…」

 

一度バラーッと種族ごとに特徴を流し見て、改めて悩んだ。玲奈の話通りなら、ログイン早々戦場へ駆り出される可能性がある。いや、あるだろう。

他領地と争い、殺しがOKなのが売りなのだから。が、俺達はそこいらの初心者ではない。データを引き継ぐ、という言うならば最高なチートを犯しているのだから。

 

「…よし、これだな」

 

で、結局俺が決めたのは紫を基調にしたヒョロ男をモデルにした闇妖精【インプ】。

パワー寄りな火妖精【サラマンダー】やスピードと聴覚に長けた【シルフ】の様に突出した特徴は無く、基本軽装というのが特徴らしいが、一番惹かれたのは‘‘暗視’’が出来るという蝙蝠の様な能力からだ。

それに、元々【魔法】が十分に扱えるとは思っていない。必然的にSAO時代と変わらず軽装なのは決まっているも同然なので、俺としては補助敵役割で寧ろ上等だ。

で、後の姿はランダム生成らしいので、引き継ぎデータが機能している事を祈りつつOK!を押す。

 

《では、次に貴方の名前をご入力下さい》

 

「名前か…」

 

正直、これは種族よりも悩んだ。今までのレイの名を知る者がいるかはさて置くとして、前と同じ名前で良いのだろうか?と妙な疑心感を抱いていたから。

その点は美弥や玲奈とも話していた。美弥は俺同様考えると言っていたが、玲奈はそのまま《レイナ》を名乗るつもりだとも言っていた。

そんなグルグルと渦巻く何とも言えない‘‘どうしようか…?’’という感情に縛られ、たっぷり考える事数分。

 

「…もう名乗っちまうか」

 

ある意味思いきった決断に踏み切り、からかわれそうだな(主にリズや美弥辺りに)と懸念しながらOKを押す。

 

《ありがとうございます!では、行ってらっしゃいませ!》

 

そうナビゲーターの激励を最後に、ふぅ…と一安心した所だった。

 

「…は?」

 

突然辺りのパネルがザッザッとノイズを発生させて崩れ去り、ジジジッ!という何かが燃える様な音と共に何かが俺の左腕に衝撃を与え、

 

「ぐっ⁉︎ っ⁉︎」

 

それを傷むまもなく床一面に亀裂が入り、次の瞬間、俺は宙へと投げ出されていた。愚痴を吐く間も無く。

 

「な…⁉︎」

 

こうして、俺の…【サスケ】と名を変えた新たな空の旅は、突然の自由落下により始まったのだった。

 

 


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