Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

35 / 38
アルヴヘイム・オンライン
番外編① 兄妹


 

 

 

孤独とは、人との関わりを避け、自らを独りの世界へ閉じ込めている様をそう呼ぶ。

かつて、‘‘彼等4人’’はその部類の人間達だった。境遇も育ちも見かけも歳も異なる彼等4人だが、唯一それだけは共通していた。

‘‘疎外され、独り孤立する寂しさを知る’’という点に関しては。だからこそ…か。彼等4人は、少々常人とはズレた感覚やセンスを持ち合わせていた。もちろんそれは立派な個性で誇るべき長所でもあるが、逆に言えばそれだけ短所が浮き彫りになるという意味もあるのだ。

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「憂鬱だな、零…」

 

「奇遇だな。俺もだ和人」

 

2024年12月7日土曜日。現実の体から‘‘意識のみ’’を隔離し、初回ロット購入者述べ一万人を電子世界へ誘った新ジャンルVRMMO。その最新作として大々的に報道された《ソードアート・オンライン》。プレイヤー自身の五感を使い、自らの意思でアバターを動かすという魅力に、多くのプレイヤーが魅力され、世界初のゲームとなる…筈であった。

筈だった、というのはゲーム開始から5時間程経過した時、当ゲームの開発ディレクターである天才、茅場 晶彦が宣言した言葉にある。

 

『諸君らは、このゲームからログアウトする事は叶わない。この世界でHPが0になった瞬間、君らの脳をナーヴギアが破壊し…死に至らしめる』

 

ログアウト出来ず、しかもたった一度の死が現実のモノとなる。ゲームに於いての‘‘当たり前’’が、茅場の宣言により一瞬でそうで無くなった。世界初のゲームが、紛れも無いデスゲームと化した瞬間であった。会社員や学生などの総勢1万人が問答無用で捕らえられた死の世界。2年後に踏破され、結果として生身の人間が4000人近くが死亡したネットワークゲーム始まって以来の大事件となってしまった。

が、後々にSAO事件と称される今事件。それが先月11月に突然の終わりを告げてから、今日で丁度一月の時を迎えた。

第100層の頂きを極める前に途中踏破され、崩れ去った幻想の浮遊城アインクラッド。ゲームの死が現実のモノとなる世界から2年の時を経て解放された生存者達は、言わずもがな長期のダイブで体が動かない・動かせない者が殆どであり、現在ほぼ全ての帰還者が社会復帰の為リハビリを受けていた。それはここ、千代田区お茶の水にある病院で看護を受けている少年二人も同じ事なのだが、

 

「「はぁ…」」

 

今、この二人の脳裏に浮かぶ思いは事件とは程遠く、前記で最初に重々しく口を開いた黒短髪の少年…キリトこと桐ヶ谷 和人。と、心底鬱な様子で和人に続き口を開いた和人同様短髪ではあるが、もみあげの部分が長めな比較的薄い黒の長髪の少年…レイこと奏魔 零。

この二人、向こうではかつて‘‘黒の剣士’’、‘‘ビーター’’。‘‘影閃の剣士’’、‘‘写輪眼のレイ’’などと、二つ名までお互いに頂戴していた剣士であり、SAO生還者(サバイバー)と世間に呼称されるに当てはまる二人。

互いに幼少期からの旧友である二人は、見かけや趣味、好きな色などに似た部分が多く、同い年で重度のゲーマーという事もあってか、様々なゲームで極限を競い合う良きライバル関係を築いていた。そして、両名共に二つ名に恥な過ぎる程、あの世界では名が売れた正当なる実力者同士でもあった。

…が、やはり彼等も人間、何者にも弱点というモノが存在する。もちろん二人にもあり、実はお互い浮世離れした雰囲気の実感から他者との関わりを避けて来た二人にとって…いや、その立場ならば解るやも知れぬ問題。それは…

 

「スグが育ち過ぎててな…」

 

「俺は美弥が騒がしくて敵わん」

 

妹。この二人には、一つ歳下に妹が居るという共通点があるのだ。共に14と15歳の中学3年生で、しかも類は違えど二人共見栄えは良い美人。

その内零の妹である奏魔 美弥は、彼等と同じSAO事件の被害者であり、その影響から今は二人–––正確には零は後数日で退院するが高校には入学していない–––同様看護の為、通っていた中学を中退している。その為現状で正式な学生と言えるのは和人の妹、スグこと桐ヶ谷 直葉だけである。

因みに幼少期からの顔見知りであるこの四人は、同じ中学校に通学していた為か家が隣接しているという近さからかは定かではないが、兎にも角にも四人は仲が良い。

それだけならば、一体二人は何を悩んでいるのか?簡単に言うと…見た目と性格だ。

 

「気持ちは解るぜ和人。あれは…まぁびっくりしても仕方がない」

 

「だろ⁈まさかあんなに成ってるなんてさ…はぁ」

 

「男には無いものだしな」

 

和人の妹直葉は、和人をお兄ちゃん。零と美弥を呼び捨てで呼ぶショートボブの髪型が特徴の少女であり、中学剣道でベスト8に入る程の実力者の所謂スポーツマン。良く言えば真面目。悪く言えば頑固な気質で剣道真っしぐらな彼女は、最近‘‘ある部分’’がログイン時からアウトした今日までで急速な成長を遂げており、その変化に困惑した和人と思いれは違うものの、本人も気にしているという。その部分が何処か、それは前記の零の発言から察しの良い読者諸君ならば楽勝で推測可能ではないだろうか。

 

「だがな和人。俺のとこも大変だぜ?」

 

「そうか?結構良いヤツじゃないか」

 

「まさか。俺は毎度毎度尻に敷かれてるっつーの」

 

「ははは…」

 

対する零の妹、美弥は兄に良く似た黒髪を腰近くまで伸ばし、大体ポニーテールかツインテールで髪を纏めた正当な洋風系美人。が、性格はそれに反し零の悩みでもある騒がしさの一言で、何処でも中心的雰囲気を放つムードメーカー。零の事はお兄ちゃん、桐ヶ谷兄妹は呼び捨ての古来から居る見た目はクール中身はご察しの少女。

そんな彼女、直葉とは違い、スポーツはこれといった習慣は無い。が、その分の反動か否かはともかく、容姿・頭脳・能力の三拍子が全て高水準な万能タイプであり、事実兄の中学時代の成績をほぼ全て勝ち越していたりする(運動は兄に劣るが)。また常人には無い特殊能力を備えており、常人より治癒能力に優れている。これは兄の零程では無いが、昔から怪我からの回復が早く、零同様1週間以内には隣の病室から晴れて退院が決まっている。

 

「何とかならねぇかね?しかもアイツは無自覚なんだよな、あの女王気質は」

 

「大変だな…零。察するぜ」

 

「おう。解ってくれるのはお前だけだぜ、和人」

 

兄妹。それはある意味、最も近しい異性。幾ら極限状態から生還して来たとはいえ、女性に対する意識はやはり彼等も年相応なのだ。彼等の苦労はある意味羨ましいのだが、それは黙っておこう。

今日もまた、特別管制塔305番室は平和である。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

同刻…病室で兄達が妹苦労談義をしているなど露知らず、美弥と零と晴れて交際を始めたレイナこと有宮 玲奈(ありみや れな)のSAO生還者である二人は、見舞いに来た直葉と共に病院内に設置されているショップに来ていた。

 

「でね!お兄ちゃんってばまだカフェオレ飲んでるんだよ?子供だよね〜!」

 

「美弥…それ5回目」

 

「へ?そう?」

 

「あはは…」

 

相変わらず美弥はマイペースに兄を子供扱いし、それを嗜める直葉と、ソレを苦笑いする玲奈という構図が出来上がっていた。流石に声のボリュームは考えている様だが、タダでさえ容姿綺麗で美人な三人であるからか、結構視線が(主に男子の)集中している事に当人達は気がついていない。

が、美弥と玲奈の二人は既にほぼ元通りに復帰した零とは違い、手首に点滴を刺しそれをケーブルで繋いでおり、病院で生活する患者に良く見る支柱を傍らに置いて杖の代わりに使い看護服を着ている為か、病人と判断され視線だけに留まっている。

 

「でも凄いよね零って。他は未だ皆リハビリ中なのに、もうそろそろ退院出来るなんてさ」

 

「まぁ頑丈なのがお兄ちゃんの取り柄だし、私もそこは認めてあげてるし!」

 

「はは…でも美弥。余り味が強い食べ物はダメだよ?」

 

「え〜!チョコひたパン食べたいのに〜!」

 

まぁそれはさて置き、一行は食品選びに苦戦していた。直葉はリハビリも何も無いので、昆布や鮭などの各種おにぎり5個に留まった。

だが絶賛リハビリ中の美弥と玲奈は違い、濃い食べ物や栄養が偏った食べ物はジュースなどの液体でない限り、硬い固形物などは基本まだ口には出来ない。

玲奈は迷わずおにぎりに決めたのだが、美弥はパンを中心に甘いお菓子系が好物の彼女にとって、ある意味この食品選びは地獄である。

 

「はぁ…まぁ早く出られなくなるよりはマシかぁ…ちぇっ」

 

「まぁまぁそう言わずに。我慢すれば良いんだから」

 

「ホンット玲奈はサラッと簡単に言うよね…はぁ」

 

結果、美弥も愚痴りながらも無難におにぎり数個に決め、ショップから出て零と和人が居る病院…の、隣に位置する304号室へ戻って来た。

 

「はぁ〜…何かつまんないなぁ〜…はぐ」

 

「まぁまぁ…はぐ」

 

「何かこう、刺激的な事とかないかなぁ?…はぐ」

 

「う〜ん…私達ってゲーマーだからね。やる事は限られちゃってるよね…はぐ」

 

そして早速おにぎりをパクついているが、言葉の節には覇気が無く、何とも言えない虚無感が漂っている。

玲奈の言う通り、ゲーマーは‘‘ゲーム’’という概念に縛られた存在である為、日常でやる事は自ずとやる事は限られてくる。

しかも今はリハビリ中という状況も然り、一層やれる事の範囲が狭い。もちろんゲームなどは携帯機でない限り不可だ。すると、

 

「あっ、そういえば二人共知ってる?新しいVRMMOの事!」

 

そう沈みから一転、弾けた様に話す美弥。元々喜怒哀楽が激しい性格ではあるが、ゲームというジャンルに対しては特にその性格に拍車が掛かっている。

 

「まぁ…一応はね。直葉がやってるゲームなんでしょ?」

 

「あ、はい。《アルヴヘイム・オンライン》って言うんですよ」

 

「へぇ〜!」

 

アルヴヘイム・オンライン。それがソードアート・オンラインに続き、半年程前に発売したVRMMORPGゲームの名前だ。

先のSAO事件もあり、事実上自爆に近しい形で倒産した運営社【アーガス】。

それによりナーヴギアの仕組みを遺した零の父親の厚労は事実帳消しにされ、世間からはデスゲームを創り出した立役者として批判の波が絶えず、VRMMO自体も早々に終わりを告げるかと思われた…が、そこにアーガスに並び勢いのある会社【レクト】が後世に残す為にと運営を引き継ぎ、やがて誕生した新感覚RPGが前記の《アルヴヘイム・オンライン》。通称ALOと呼ばれるVRMMORPGであり、またそれ専用の安全性を重視したナーヴギアの後継機《アミュスフィア》も同時に売り出され、和人らSAO生還者達が帰還した半年前時点から今までで、既に多くのプレイヤーを魅了している。

 

「いいなぁ…あぁー早く遊びたい!」

 

「あはは…大丈夫だよ美弥。ゲームは逃げたりしないよ」

 

「む〜…」

 

が、今は二人共に絶賛リハビリ中な為、当然プレイは不可。恐らく生還者の中で一番に退院するであろう零がプレイする事は最早決まったも同様なのだが、それを言うと美弥の我儘を煽る事になるので、玲奈は口を噤んだ。理由は…

 

『あいつ(美弥)に言ったら面倒だからな』

 

と、零から念を押されたからに他ならない。基本彼から口を開く事は少ないものの、彼なりに妹を気遣っているのだ。今口を噤んでいるのも、その美しい兄妹愛に免じてのこと。

 

(…また、妙な事にならなきゃ良いんだけど…)

 

また賑やかな会話を始めた美弥と直葉を他所に、密かに玲奈はそう願った。が、この願いは後々に悪い形で破られる事を、この時の彼女達は知らない…

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。