Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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何時だって私は

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ私達は行きますね」

 

「はい。また是非来て下さいね」

 

「もちろん!」

 

教会に立ち寄ってから3時間弱。丁度時刻がお昼時を指した頃、私とレイ君はサーシャさん達の居る教会から離れた。

まだまだ時間に余裕はあったけど、目的を達成して早く家に戻りたいという現実主義な彼の意見に苦笑いながらも賛同し、早々と行動を起こしたからだ。

教会に滞在したのはとても僅かな時間ではあったけど、私は彼女らとは相当に仲良くなれたと思う。

現に、レイ君は『人付き合いは苦手』と言ってたにも関わらず子供達から物凄く懐かれてたし、アッシュも狼という可愛さと格好良さから男女共に負けず劣らずの支持を集めていて、それはそれは微笑ましい光景だった(ちょっと羨ましいなぁと思ったのは余談)。

そんな訳で教会を離れた私達は今、とある建物の前に足を運び、その内部にいる。

黒…いや漆黒の底知れぬ暗い煌めきを宿した建物を、私達SAOプレイヤーはこう呼ぶ。

 

「…来たね」

 

「あぁ」

 

第一層の中心地に聳え、漆黒の鋼鉄で出来た神聖な宮…【黒鉄宮】と。

別名:生命の碑とも呼ばれるこの場所は、この世界に入り込んだ1万のプレイヤーの名前全てがAから順縦並びに刻まれており、私のReinaやレイ君のReiなど、現存するプレイヤー名全てが記憶された言わば巨大な黒い石板である。そして唯一、この世界に於いては‘‘死の確認が出来る’’墓地に近しい場所でもあり、そうそう何度も足を運ぶ場所でもない。なら何が目的か?それは…

 

「…あった」

 

名前が刻まれた巨石…の、真裏にある壁。一見、そこは単なる黒一色の石像造りの壁でしかないが、ただ一つ違う点が…

 

「行くぞ?」

 

「うん!」

 

‘‘真に通じ合いし光と影が揃いし時、神羅万象への歩みとなる’’。

これがKob団長ヒースクリフ…元い茅場 晶彦がレイ君に向け1年前言った言葉だといい、今目の前の壁に彫って刻まれている文面でもある。

彼は茅場からこの話を聞かされてからの1年間、その意味の意味の全貌を明らかにする為に動いて来たという。私達プレイヤーと違って現実へ自由に戻れる茅場と何度か密会し、集めた情報を様々な形の方法に構築し、幾度無く食い違いがあったと。

そして昨晩、ようやく彼は謎を突き止め、一つの結論へ至ったという。その方法とは、

 

『まず、黒鉄宮の石像に着いたら俺の右手とお前の左手で手を繋ぎ、余りの手を使って筋力パラメータ全開に壁を押す。そうすれば壁が割れ、先へ進める筈だ』

 

「くぅ…っ…!」

 

「んぅぅ…っ!」

 

彼の言葉通りに私は左手、レイ君は右手で手を繋ぎ、残ったお互いの利き手にありったけの力を込め、力みながらグッと掌を力強く押し付ける。

一見無意味に見えるこの行為だが、真に通じ合いし者=結婚のデータを持つ二人が揃ってやらなければ意味がなく、更には片方、又は両方のプレイヤーがユニークスキル持ちでなくても良けない。

が、一番の条件。それは…

 

『お互いを理解し合う事。それが最後の条件だ』

 

その意志にシステムが呼応したのか、レイ君の手からは青黒い光、私の手からは赤白い光が螺旋状に壁を広がっていき、それが混ざり合って赤と青の螺旋模様となった瞬間、ガゴゴゴ…!という重低音を轟かせて渦模様の中心から巻き戻しする形で消えていき、模様が全て消えた時には新たな空間へ繋がる入り口となっていた。

体力が減らないとはいえ、精神的な体力の浪費から速いペースで胸を上下させていた私達だったけど、やがてそれは落ち着き、空間へ足を踏み出す。

 

「これが…システムプログラム?」

 

「あぁ…間違いない」

 

中は白を基調とし、あちこちに黒い線が張り巡らせた天井が近い大体3mの正方形の空間だった。奥にパソコンのキーボードが埋め込まれた黒い正方形のオブジェがドンと構えてあり、右側には眩い光を表すであろう薄黄色の球形の物体。左側には正反対の暗い影を表すであろう黒に限りなく近い青色をした三日月形の物体が佇んでいる。

これらはこの世界をコントロールするカーディナル…その中でも‘‘肉体と力’’をシステムの力により制御する場だという。私は彼から聞いたまでの知識なので見るのはもちろん初めて。その筈なのだが…

 

「なんか、懐かしい感じがする…」

 

不思議と違和感は無く、まるで訪れる事を予期していたかの様に、家に帰る時の様な懐かしささえ感じるのだ。初めて来たのだから、そんな筈は無いのに…。と、

 

「よーし、早速作業するとするか」

 

そんな懐古に近しい念を抱いている間に、レイ君はキーボードに腰掛けてポキポキと指を鳴らし首を軽く回しての準備運動を行っていて、

 

「うん!あっ、でも作業出来るのって一人だけでしょ?」

 

「心配するな。任せておけ」

 

あ…と私が声を漏らすと同時に、彼は凄い勢いでキーボードを掻き鳴らし始めた。今回彼がやってくれるのは『SAOデータの隔離保存』。何故そんな事をやる必要があるのかはまたの機会に話すけど、簡単に言えば他所への移行出来る様データを構築し直すという事。

その必要性は今直ぐには出ないけど、やがては必要になると確信した故の私の同意あってのモノでもあり、現実で新たに巻き起こっている問題を解決する際の切り札となってくれると信じ、今は仕込みをしている(要するに引き継ぎの作業と同じbyレイ)

カタカタカタカタ…と‘‘データを一から書き換える’’という反則も良い所な利点反面、その過程立ち塞がるロック解除などの処理の結果途切れる事無く無機質な空間にタップ音が煩く鳴り響く。そしてその作業の最中、『任せておけ』といった言葉を信じた私は作業の阻害になるまいと、一歩下がった位置の床腰掛け無言で彼の後ろ姿を見ていた。

そうなると、嫌でも彼の背中は目に写る訳で…

 

(…レイ君の背中…か…。男の子なんだなぁ…)

 

筋骨隆々…とは決して言い難い灰色のコートを纏った細身の後ろ姿だが、女性であり恋人である私にとっては‘‘頼れる男の背中’’そのものの彼の背中。私が興味を抱き、やがて大好きになった初恋のヒトの背中。

女性は異性である男性に恋心を抱き、幸せを望む。それは叶わない事の方が多いけれど、極論はそうだ。

私はその中で見つけた幸せはずっとずっと死ぬまで紡いで生きたいと思っている。それが人を愛し愛されるという事の理想であり、最終地点と思っているから。

‘‘人を愛する’’意味、それは前世では解らなかったけど…転生し、精神が一皮向け大人となった今ならば良く解る。

 

(好き…愛してる。もう言葉じゃ足りない位、何時だって私は、ずっと貴方を見ていたい)

 

目の前の男の子、レイ=零という存在が、私は心から大好きなんだと。自惚れや自尊に見えても、これじゃあ仕方ないなと我ながら思ってしまう程、それ程までに彼が‘‘愛おしい’’。もう一人じゃない実感と、失いたくない愛情の二つが混ざり合って溶け合って…私は漸く心から愛する人を見つけられた。気持ちを伝えられたんだ。

 

(ありがとうって言葉じゃ足りない位、本当に沢山助けられて、沢山の想いを教えて貰った)

 

…かつて、私は独りきりだった。父と母がいて、祖父や祖母、従兄弟がいて、何一つ不自由無い生活を送って来た私は…孤独だった。

産まれた時から英才教育を叩きこまれ、所謂お嬢様となってビシバシ扱かれ、他人への礼儀から文献など幅広くあらゆる知識を学んだ。そこには決まって血縁者がいて、私の価値は‘‘知識と作法’’にしか向けられず、碌に褒めて貰えた記憶すら無い。

それは転生し、再び有宮の性を名乗る様になった現世へ来てからも、家族関係は変わらなかった。親の圧力に…母親の威圧に抗えなかった。現実へ帰れば、私はまず長期五感の隔離からのリハビリと共に、また両親との溝へ立ち向かっていく事になるだろう。

一週間…いや一月は碌な生活も出来ないかもしれない体で、私は現実を生きていかなければならない。もちろん楽しみはある。現実でキリト君やアスナ、シリカちゃんやリズとまた再会出来る。それに、元より覚悟は決めている。

 

(貴方となら、何でも出来そうな気がするから…!)

 

幾千の道があれど、私と彼が歩む道はどれも修羅の道に変わりは無い。なら…私は彼とどんな道だろうと突き進んでみせる。それが私の意志。それが私の決めた道なんだ。

すると、何時の間にキーボードを叩く音が止み、そちらに目をやると、レイ君は来る時は持っていなかった虹色の菱形のアイテムを手によっこらせと立ち上がった所だった。

 

「よーし、終わったぞ」

 

「あ、お疲れ様!それで…出来たの?」

 

「あぁ。後は現実に戻ってからだ」

 

そう言う彼の顔は変わらず無表情だったが、数時間前軍の連中から子供達を取り返した時の冷酷な雰囲気ではなく、不器用な彼なりに和やかな雰囲気で接してくれているのが解る。そんな彼の努力が端々に取れる行動が嬉しくて、ついニヤけてしまう。

 

「…何笑ってんだ」

 

「ふふっ、なんでもないっ!」

 

「?」

 

愛しい彼が隣にいる。この幸せは永遠には続かない…それは生き物であり、話せるだけの知能を持つ人間だからこそ、命持つ私達がまた新たに生まれ変われる様に、神様が時限のリミットを定めているんだ。

なら…私は何時だって貴方の味方でいたい。世界中全てが貴方を敵と見下げても、私はずっと…ずっと彼を信じ続けたい。

前は、そんな言葉は言った所で意味なんか無くて、単に恥ずかしい台詞だと正直思ってた。でも…そうじゃないんだ。

人は本当に護りたい人が出来たら、心から本気の愛を叫ぶモノなんだ。これが…大好きって感覚なんだ。温かくて、優しくて、胸がトクトクと高鳴ってるこの気持ちが。

 

「ねぇ…レイ君」

 

「ん?なんだ」

 

「…大好きっ!」

 

だから…これからは私も貴方を護る。女だからじゃなくて、綺麗事でもなくて、只純粋に…

 

 


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