Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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愛の形

 

この世界は個人的に、青系統の色が多いと思う。転移時の光やクリスタルの色、Mobなどから発生するポリゴンなど、プレイヤーが眼に収める大体に青がある。

そして俺達は何百とも知れない転移の青い光に包まれ、数秒後には地に足を付けていた。

 

「ふう…久々だな」

 

「ホントだね〜」

 

第一層に広がる巨大市街地《始まりの街》。その名前の通り、ここからソードアート・オンラインは始まった。プレイヤー達にとっては最初に訪れる街であり、円錐形であるアインクラッドの階層では一番の面積を誇っていたりする。

最も、今はその広大さに反し人影は無く、視界にプレイヤーの反応は全く見当たらない。すると、

 

「…随分静かだね…」

 

隣のレイナが思い出した様に呟いた。声を合図にチラリと横目で見た顔は何処か虚ろで、先程見た顔とは違った目つきだった。

悲しいけど懐かしい…そんな想いで街を見る彼女は、全く関係無いが不覚にも…

 

「…綺麗だ」

 

「えっ?何か言った?」

 

「あ、いや…と、とにかく行くぞ!」

 

「わわっ⁉︎」

 

…やっぱり俺もまだまだガキだな。不覚にも口に出した言葉を隠す為に手を引くなど小学生がやるんだろうな。そう来て早々に反省しつつ、俺は利き手である左手で彼女を引き久々の街をのんびりと歩く。…が、

 

「…ねぇ、レイ君…」

 

「あぁ…変だな」

 

こうして歩いていても、違和感が街道から…強いて言うなら街全体から、人気の無さが異常な程感じられてならないのだ。もちろんそれはNPCではなく、プレイヤー反応という意味合いで、だ。

その異変に歩いて街に入ってから5分経った辺りから疑問に感じ、レイナと共に《索敵》を発動して360度100m圏内の視界を探索してみたが…

 

「…やっぱり、誰もいないね」

 

「あぁ」

 

やはり視界に収まるプレイヤー反応は無く、見つけても建物内にチラホラと数人が居るのみで、当然俺達が今いる大通りは物の見事にがらんどう。

 

「ねぇ、今《始まりの街》にプレイヤーって何人位いるの?」

 

「確か…俺達が大体1000人弱で、中層の奴らが3000人ってとこだから…2000人位じゃないか?」

 

そう。俺達攻略組みと呼ばれるプレイヤーは生存者6000人弱からすればほんの一握りで、残りは危険が及ばない様厳重な安全マージンを取り、‘‘ゲームを楽しむ’’事を大まかな目的する中層プレイヤー。

外部からの助けを待ち、最も安全なここに留まるプレイヤー達に分類されている。

この三つの括りは互い出会う事がほぼ無く、情報の密度も天と地の差がある事はかなり前から明白となっている。

 

「…に、しては…人気無さすぎじゃない?何か可笑しいよここ…」

 

「あぁ…」

 

が、流れてくる噂はやはり現状には劣る。前々からプレイヤーが集まっている聞いていたが、来てみればこの通り人気は全く無いのだから。すると、

 

「……ん?」

 

不気味な街へ向けていた不安げな表情から一転、ある一点を訝しげに見つめた…かと思った瞬間、

 

「どうした?「っ!」お、おい!」

 

何処ぞの《閃光》顔負けな速度でタタタッと足音を掻き鳴らなから飛び出したのだ。

数秒遅れ、一体何が?と眼を彼女の目先を見やった瞬間、直ぐに解った。

 

(なるほど、なっ!)

 

前方50m弱やや右寄りの裏路地。そこにプレイヤーの反応があったのだ。

これは余談なので言わせて貰うが、《索敵》のスキルを発動した際、プレイヤーにはある外見と視界に変化が現れる。

一つ目は【目の色】。これは‘‘発動しましたよ’’という証に眼が薄緑色に染まり、発動中はずっと適応される。

二つ目は【視界の色】。発動した瞬間、俺達プレイヤーの視界は途端にプレイヤーやモンスターを表す白と壁や建物などの無機物を表す黒の色合い…所謂サーモグラフィー擬きの様な状態になる。そしてそれは、視界に写る物体の大きさを透視見る事が出来るという意味でもある。

つまり何が言いたいのかというと、今さっきレイナから数秒遅れに俺が見た景色は右側寄りに行き止まりとなっている通路に対し、手間の方に大きな白が2つ、行き止まりの方に小さめの白が2つの反応があった。それはつまり…

 

「貴方達!何してるの⁉︎」

 

大人が子供を追い詰めているという酷な状況という訳だ。

正確には奥には子供が二人…赤い短髪12歳位の男子が、同い年位の黒髪の女子を庇う形で立っており、対して大人は二人共に男で、手には買いたて感満載なブロンズソードを持ちヘラヘラとした態度をしてキモい笑みを浮かべている。しかも、その大人がギルドの証のエンブレム付きの鎧で、それがまさかの…

 

「貴方達…軍?」

 

軍。正式名称はアインクラッド解放軍。名前の通りこの浮遊城からの解放を目的に動く組織で、ギルドの中ではぶっちぎりにメンバーが多い巨大組織だ。

そしてこの組織もまた、攻略に参加するギルドであった。…数日前、第74層に久々に向かわせた攻略にて多大なる被害を負うまでは。

それ以来は姿を見せてはいなかったが…まさか裏でこんな恐喝紛いの行為を行っていたとは。

 

「…ま、いいか。レイナ、やれるか?」

 

「うん。…貴方達、その子達を離して」

 

その有様に咄嗟のアイコンタクトをし、しっかりと俺の意志を読んだ彼女が一応声をかける。が、

 

「あぁ⁉︎てめぇら…俺が質問してんだっつーの!」

 

「まぁ待てよ。おいあんたら…見ない顔だが、軍に逆らう事がどんな事か知っt「知るかバーカ」んごぁっ⁉︎」

 

「「⁉︎」」

 

結果はご覧の通り。だから軽く顔面に蹴りを叩き込んでやり、男は情けない声を出しながら吹っ飛んでいき…気絶した。やはり情けない。レベルは5…いや3辺りといった所か。

 

「き、貴様n「消えろ」な…ん…」

 

で、もう一人は対象者に一定時間‘‘幻’’を見せる写輪眼の初期スキルの一つ、《幻眼(ホロウ・アイ)》だ。

眼を合わせた相手を‘‘意識レベルの空間に閉じ込める’’この技は、簡単に言えば『夢を見させる技』で、レベル差があればある程に成功しやすい。

しかも、このループは【発動者が解除する】か【自力で解く】しか方法は無い。

ま、この調子じゃ永遠に解けなそうだがな。まぁそれはさて置き、

 

「大丈夫か?」

 

「何処も怪我は無い?」

 

ひとまずは軽く屈んで目線を合わせ、安否を心配した形式的な質問を二人の子供に問う。

 

「う、うん…」

 

その問いにまず男子の方が先に答え、女子の方は声こそ出さなかったもののコクリと頷いた。

どうやら見た目通り傷らしい傷は無く、まだ微かに震えているあたり、正に今気絶させた男二人に恐喝紛いの行為をされる直前だったことが解る。

その証拠に、まだ俺達を見る眼から完全に警戒心は消えてはいない。

 

「…ま、それも当然か…」

 

いきなり見ず知らずの人間…しかも歳が近そうな若い男女が、大人の男二人を蹴散らしたのだから、警戒されても正直仕方がない。

 

「レイ君、それ言わなきゃ解らないよ?」

 

「む、そうか?じゃあ改めて…」

 

ごほんっと咳払いをしつつ、俺は二人の子供に問うた。必死に内心を悟らせまいと警戒は強いままだったが、その対価は意外なモノで……

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「保護…ですか?」

 

そう今聞いた単語を、私は疑問の声を混じえて繰り返した。

第一層《始まりの街》南西部。中世ヨーロッパ風の景色が広がるこの区域に、白を基調とした一軒の教会が聳え立っている。見かけは教会という神聖な空気を醸し出しているが、実際は20数人の少年少女が各自長椅子に座り、アレよコレよと激しい朝食の取り合いやり合いを繰り広げている。その騒がしさといったら…まるで何処ぞ学童保育所の様な雰囲気だ。

 

「えぇ。私はこのゲームが始まってから精神を病んでしまった子供達と、こうして一緒に暮らしているんです」

 

そして、そんな子供達の位置から一歩引いた位置に私は座り、サーシャと名乗った子供らの保護者をしているという20代辺りであろう女性から紅茶を飲みつつ話しを聞いていた。

見るからに穏やかそうな雰囲気の彼女は、良い母親代わりなんだなぁ…などと同性ながら思ってしまう程優しげな人で、子供に好かれるのも納得だ。

そしてそんな彼女に、自分らが攻略組みと告げた時の驚きっぷりはまだまだ記憶に新しい。

 

「そうなんですか…でも、大変ですよね?こんな大勢の子供の面倒を見るのは….」

 

「…はい。ですが、私は子供が好きなんです。向こうでは教職関係も学んでいたので、この世界で迷っている子供達が、どうにも放っておけなくて」

 

「優しいんですね…羨ましいです」

 

そう。幾ら子供を善意で20数人を保護したとはいえ、イザ守るとなれば相当な負荷がのしかかる。税金の縛りが無いこの世界でも、成し得る事は到底無理がある様に思えるが…

 

「そんな…とんでもないです。そう言って貰えるだけで…」

 

彼女は、それを子供達への愛で可能にしているのだろう。こんなお母さんがいたら…と、現実をついつい悲観してしまう私は甘いのだろうか?

親という存在は子供に立派な道を歩んで欲しい。そう強く願う親の想いを、この手で無にしている私は…愛されて良いのだろうか?

止め処なく廻る思考の渦は、合っているのか違うのか…明確な答えなど教えてはくれず、ただ渦巻くだけ。

 

(…レイ君)

 

その答えを、視界の先で子供達とアッシュ共々戯れる彼に問いたかった。

けど、今はグッ抑えた。現実の話はこの世界においてタブーだし、忘れたい自分も内心いたから。そして何より、

 

(…愛って、難しいな…)

 

彼を愛しているから。疑う余地なく彼を信じ切っているから、だから後々ちゃんと話す。それが何時になるかは…私自身解らないけど。

この愛の形が、両親にも伝われば良いのにな…そうしたら全部上手くいきそうなのに…

思い浮かぶ頑固な両親の顔は笑っていない。昔から…私は何も変われてはいないのかもしれない。偉そうに彼に言っておきながら、私は…

 

 


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