Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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隠された真実

 

 

 

…その話の発端は、彼女が言い放ったこの言葉から始まった。

 

「…何か、私に言うことあるんじゃない?」

 

一夜明けた2024年10月21日火曜日AM10:15。

昨日Kobの団長ことヒースクリフ(以下:ヒース)が持ちかけたタイマン勝負2連戦の決闘劇は、奴の勝ちと俺とレイナの引き分けという結果で幕を閉じた。

勝負に惜しくも敗れた我が友人キリトは、奴と男同士の約束していた通り血盟騎士団に加入し、今はアスナに面倒を見て貰っている–––というメッセージが届いた–––との事らしい。

で、同時に俺の右隣に座る愛しの彼女…レイナは、早朝にヒースから命令式休暇…要するに『休め』と団長の職権乱用にも等しい特権的命令を受け、緊急の招集以外は休んで良いという通達を受け、先程俺の家に同居を決めた。

初めは優しい様な命令系の様な奴の指示に⁇を浮かべ素直に喜べずにいたが、‘‘どうせならハネムーンの代わりとでも考えろ’’という俺の言葉に苦笑ながらも頷き、久々に攻略を忘れのんびりまったりしていたのだが、

 

「ねぇ、レイ君」

 

「何だ?」

 

ポツリと呟いた冒頭の一言で止む無く語る事となったのだ。

因みに今の服装はゆったりしたTシャツ(俺)とキャミソール(レイナ)を着ており、しかも今日は特に何の用事も入っていないので、極力このままでいるつもりでいたが…こりゃ外出に発展するかもしれないな…

 

「…やれやれ、レイナには敵わないな」

 

「で、何があったの?」

 

が、そんな俺の思想など露知らずにグイッとほんの数cmレベルまで顔を寄せた彼女の顔はやたらキラキラした輝きを帯びていて、元々整った顔立ちも加えれば超弩級の破壊力を誇る可愛さを備えている。

本人に自覚は無さげなので今は言わないが、どうも彼女には‘‘警戒’’という言葉を知らないらしい。後でからかってやろう。

 

「そうだな…それにはまず、今から丁度去年から話さないとな」

 

「去年?何かあったっけ…?」

 

「あぁ。ゴホン…えー確か…アレはまだ、第45層を攻略してる時だな」

 

では話を戻して…今から遡る事約一年–––その日も俺は攻略組みの端くれとして、ソロで迷宮区攻略に精を出していた。次々に湧いてくるMob共を狩り、集めたマップデータをギルドに提供する…という、何ら変わらない命のやり取りを淡々と。

話は変わるが、基本的に攻略という名の命をかけた行動は生命を延命する為に複数人で行われ、安全性を第一に慎重に少しつづ突破していくというのがセオリー。

だが、俺やキリトの様に突出した力を持ち、ソロ攻略を行う者は言わずもがな例外の分類に当たる。そして例外とは、本当に予期の予期を塗り替えた事象であり、このデスゲームにおいて‘‘あり得ない’’のハードルは相当に高い。

実際、この世界が絶え間無く生み出し続けるMobやクエストは現実世界にはまだ存在せず、この電子世界だから可能な技術であり、いずれ時を追えばネット技術もまだまだ進歩していくのだろうが、SAOはそれが待てない人へ近未来を体感させるゲームでもあるのだから。

実際は‘‘HPと命が直結している’’という危険な代物な訳だが、それは同時に現実世界がそれだけ危機感なく過ごせる世界だという意味があるからこそ『これは危険だと判断がつく』。

つまりは何が言いたいのかというと、

 

「この世界は‘‘茅場 晶彦の世界’’って訳だ。奴はこの世界を創り出し、今も何処かから俺達を観てる…そこまでは解るな?」

 

「うん。多分第100層にラスボスとして出るんじゃないかって見解みたいだしね」

 

「みたいだな」

 

彼女の意見は概ねその通りだ。BOSSというのは最深部、再奥、最下層、最上部など、上か下の一番奥の位置に待ち構えている存在であり、ゲームによって誤差はあるが大体は強力なステータスと膨大なHPを持っている。

第一層で巨大なアバターを使い、長々とチュートリアルを行った茅場の言い分通りならば、俺達のグランドクエスト(最終目標)は第100層を攻略し脱出する事。それは疑いようの無い事実であり、最早常識として定着している。…だが、

 

「…けどなレイナ。世の中には裏技って言葉がある。それは俺とお前が違う人種である様に、隠された道筋があるもだ」

 

「…なんか腑に落ちないけど、確かに…」

 

「そしてこの世界の常識は、‘‘茅場は100層で待ち構えている’’」という可能性だ。…だが、もしそれに‘‘裏’’があったとしたら?」

 

「? 裏って…っ⁉︎ ま、まさか…⁉︎」

 

…やはり、彼女は察しが良い。

 

「…そのまさかだ」

 

現実とは、それを認識出来るだけの‘‘情報’’があって初めて成り立つ。

可能性とは、それを認識してはいないが‘‘想像’’と‘‘予想’’で仮設を組み立てて予測する事。

だが…もしその情報に抜け道があり、新たな真実に繋がっていたとしたら?あり得ないという概念があり得てしまう、そんな抜け道が存在するとしたら?

 

「いいか?今から話す事を、誰にも他言するな。美弥やキリトやアスナにもだ」

 

「う、うん。絶対言わないよ」

 

情報と常識は常に対等な天秤にかけられている。常識が情報を上回る事は進歩した証であり、持て囃される要因にもなる。だが、ある情報が当然の常識を余りにも超えすぎた時、人はパニックに陥るもの。

だからこそ、今こうして脅す様な真似でも前もって伝えておけば少しはショックも緩和する。まるで親が子に言い聞かせるように、彼女はコクコクと健気に首を縦に振る。

 

「よし、じゃあ話すぞ…」

 

「うん…」

 

人は皆、ある一定の常識を持ち生きている。そのハードルが高いか低いかは人にもよるが、ほぼ全ての人間がある程度の判断が出来る頭脳は持ち合わせている。

俺は自らを世間知らずで余り常識は無いと思っているが、そんな俺ですら眼を見開いて驚いた事柄がある。

恐らく今後のVRMMO界を揺るがすであろう事柄が…

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

これは第45層攻略を終えた直後…今まで誰にも語らなかったある物語である。

第45層踏破後、到着した街で早々に数人で行われた次層攻略会議。

総監督として指揮をするKobW副団長の片割れのアスナを始め、代表各々の意見を纏めた作戦を参加者から各ギルドのリーダーや副リーダーに伝達する目的で開かれたこの集まり。

そんな小会議に、俺は総勢10人ぽっちの中のソロ代表として参加しており、キリト越しに知り合ったギルド《風林火山》を初め、攻略の意を持つプレイヤーに片っ端から情報を伝え終え、現在は疲労と単純な面倒臭さを癒す為に転移門に向かってのそのそと歩いていた。

 

『行くぞアッシュ。飯はどうする?』

 

『ク〜、キュ、クク?』

 

『ん、今日はステーキだな』

 

『ク〜♪』

 

アッシュと相変わらずなやり取りを交わし、さっさと飯を食って明日の攻略に備え早く寝る為に。

そう…まだこの時までは何時もと変わりは無かった。

 

『…!誰だ?』

 

常時微弱ではあるが発動し続けている《索敵》に、プレイヤーの反応があったのだ。位置は…俺の後ろ。

 

『…フッ』

 

『…!お前は…』

 

一見何も無い街道だが、やがてソイツはスー…とまるで初めから居たかの様に下半身から出現し、体感2秒も経てばソイツは不敵な笑みを浮かべ、振り返った俺の前に立っていた。

身体が成長しないこの世界では164cmの俺より10以上は上の高身長。ある程度引き締まった肉体は血の如く紅い団服に包まれ、服の端には白の十字を模したシンポルが確認出来る。現実では珍しい外人の様なセミロング銀髪を、軽く後ろで結った特徴的な髪型。以上の条件を持つプレイヤーを、俺は一人だけ知っている。

 

『久しぶりだね、レイ君』

 

『あぁ、出来れば二度と会いたく無かったがな。…ヒース』

 

血盟騎士団ことKobの団長にして、最初にユニークスキルを得たプレイヤー…ヒースクリフ張本人。

奴とは第10層で知り合った関係だが、人を喰った様な態度から余り好意は感じて無い人物であり、それ以来連絡も何も無い‘‘他人’’の関係にある(だから俺は皮肉の意味を込めヒースと呼んでいる)。

だが、俺やキリトを勧誘しようとした先の事態で久しく再会する事になり、後々続く因果に発展していくのだが…それはさて置くとして、

 

『何の用だ。お前が単身で出て来るからには相応の理由があるんだろうな?』

 

『…フッ、察しが速くて助かるよ』

 

『フン…(武装をしていない…?何が目的だ…)』

 

知り合った中では同時に最も俺に近しいものを感じる人物でもある。

‘‘人としての形を取るだけの、もっと別のナニカを’’奴からは感じる。天才と持て囃されている奴は、言うなら何処か浮世離れした雰囲気を纏っているのだ。眩い光と沈んだ闇…その狭間に立つ存在。ある種の境地に達した者だけが持つ覇気。

現に面と向かい会うだけで、もう既に肌が『危険ダ』と感じている。見かけは武装をしていない一プレイヤーの筈なのに、だ。

 

『で、何が目的だ?そう長くは待たんぞ』

 

『あぁ解っているよ。…ではまず、場所を変えよう』

 

するとヒースは徐に右手を挙げ、指を鳴らした。バンッという銃声に似た響きを持った音は、遮る物も無く広がり…消えた。

それの意味が掴めず、当然の如く疑問符を浮かべる俺だが、それはほんの一瞬の事。

 

『 …なっ…⁉︎』

 

何故なら、音が反響して体感5秒後に‘‘辺り一面が黒に染め上げられた’’からだ。

漆黒と呼ぶに相応しい空間は上下左右の間隔が無く、地に立っているのか浮いてるのかの区別もつかない。正に夢の中…とでも言えば良いだろうか?

そして先日、夢で見た辺り一面白の空間の世界と同じく時の流れを感じない辺り、

 

『…お前が創った空間…とでも言えば納得だな』

 

『理解が速いね君は。そう…ここは私が創り出した空間であり、外とは完全隔離されている』

 

『…フッ、何かの尋問か?俺はお前にとっちゃ面白いだろうが、これじゃフェアじゃないな。なぁ…ヒース。…いや、』

 

…薄々勘づいてはいた。この世界を観ているであろ存在…この世界の創造主たる茅場 晶彦が‘‘どの様な形で俺逹を監視している’’かのトリックに。

答えは極めて単純だ。俺やキリトの様な不確定要素は近くで見張り、育成しておくに限る。そして奴は、いずれ俺達が自らに刃向かう事を見越していた。そうするだけの理由は無いが、‘‘理念’’なら可能になる行動をする人物。それは…

 

『…茅場 晶彦。それがお前の正体であり、真の名だ』

 

奴…茅場を置いて他にはいない。この世界をコントロール出来る存在など、奴を置いて他は無い。

そうハッキリ言い切った俺に、

 

『…何故気づいたか、参考までに教えて貰えるかな?』

 

奴は不敵な笑みを崩さないまま言った。その表情に焦りの念は無く、どちらかと言えば‘‘良く気がついたな’’という悪戯をした種を子に嬉しそうに明かす父の様な態度。

 

『…認めるのか?』

 

『あぁ。完璧な隠蔽はこの世には無いものだからね…いずれは解ると思っていた。…君のその眼ならば、見透かすと、感じていた』

 

…やはり、コイツは他の人種とは違う。それをこの時、俺は一層ソレを強く肌で感じた。

GMたる奴と対面しているから、というプレッシャーではなく…単純に‘‘器’’の底知れ無さを計れたかもしれない。

 

『で、理由を教えてくれるかな?』

 

『あぁ…どうせなら疑問全てを言ってやるよ』

 

2023年10月21日午後9時。俺は…ゲームマスターと対話する機会を得たのだ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「––––––!そ、そんな…」

 

「…真実だ。奴は自分で認めた」

 

以上までの話を聞かせていると、彼女の顔が見る見る内に変化していくのが嫌という程解る。無理も無い。団長として皆の支えであった人物が、この死の世界そのものを創り出した元凶であったのだから。

 

「…今は信じられなくて良い。事実は逃げないからな」

 

「…うん。続けて」

 

短く切った言葉の意味を改めて理解したのか、彼女から感じられる気迫が薄れていっているのは良く解った。だが、それでもまだ彼女の光は消えていない。真相を知りたいと願っている。なら、俺がすべき事、それは…

 

「…解った」

 

彼女が絶望のどん底に落ちようと、真実を伝える事。この眼で見、この耳で聞いた全てを。

 

 


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