Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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出会い

 

 

「……」

 

 

ドウモ。奏魔 零ニアリマス。読者諸君よ、今、俺は最高に不機嫌だ。それは何故かって?

 

 

(…人が多いな…)

 

 

それは今まさに俺がいるのが、横浜市全体に張り巡らされた地下にある広域地下街…‘‘ダイヤモンド地下街’’の通路ど真ん中にいるからだ。そしてそれは無論、人が死ぬ程多い訳で…

 

 

『見て、‘‘紅眼’’よ。』

 

『気味が悪いな…』

 

『無視無視。』

 

 

…と、こんな具合に、俺の前後ろを行く人間共の声が耳鳴りの様に先程から響きっぱなしなのだ。因みに、勘違いしない為言っておくが、このクソ大人共は‘‘一言も喋ってはいない’’。全て奴らの心の声。それを何故俺が聞き取れるのか。クソ共の言う‘‘紅眼’’とは何か?それはまぁ…いずれ説明しよう。にしても…

 

 

(随分露骨だな…そんなストレス・罵倒は聞きたくねーっつーの。)

 

 

正直、俺は人間は嫌いだ。『嘘つきは悪者の始まり』とか言うが、それならこの世は嘘塗れじゃないか。

中でも見た目は良い子ぶり、やがて本性を晒す人間が俺は一番腐った奴と思う。そういう人種程、過ちに気づいて奈落に落ちる時は余りにも惨めで醜いから。

もちろん、全ての人間がそんな悪人紛いの人種で無いとは解っている。だが…

 

 

(結局皆…自分の保身が一番なんだよな。)

 

 

かく言う俺だってそうだ。まだ16年の生を生きていない俺が、他人にとやかく言う立場も権利も無い。そんなのは百も承知している。

けど…それでも尚、‘‘’人間を嫌う矛盾を抱えた俺’がいる。自分自身に降りかかった不幸も含めて…だ。

 

 

(…急ぐか)

 

 

だが、俺は先へ進む。進まねばならない。そうしなければ、ゴミの様に社会の波に揉み消されるだけだから。俺が存在した証さえ…跡形も無く消えてしまうから。

そうなるなら、早かれ遅かれ行動すべきだ。そして今、俺がやるべき事は…

 

 

「…学校、遅れちまう」

 

 

その誰にも聞こえない声量で落ちた囁きの意味を、誰も気にする者などおらず、直ぐに人々の喧騒の中へと消えて行った。掻き消える様に消えた俺自身の姿と共に…

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

…ここ、横浜市はとても大きな街だ。日本における最先端に通ずる箇所が幾つもある所為もあるだろうが、ここから程近い渋谷と秋葉原。この大都会と名高い二つの街名を、日本に住んでいて知らない者はいないだろう。恐らく100人中100人が『知ってる』と答える確率で。

まぁ兎に角何が言いたいかというと、そんな大都会に通ずる街であるここに建つ学校だ。それはそれは高層ビル並にバカでかい建物…と思っていた。うん、確かに想像した。

 

 

「それがこのザマかよ…」

 

 

だがしかし、その実態は恐らく人々の…少なくとも見れば『は〜っと』溜息を吐きたくなるレベルに呆れるであろう程に、超絶期待外れな建物だったのだ。

簡単に言えば、『一軒家』だ。何処にでもありそうな、煉瓦敷きの屋根が特徴的な一般的なソレ(表札と入り口が柵という事を除けば)。

因みに、今俺がいるのは車がバンバン走る表通りで、名前は…忘れたが兎に角何たら町の中心地。更に言えば、ここは辺りにこの家以外に家屋は見当たらず、四方を道路に囲まれた孤島的な立ち位置にある。

だから当然道行く人間も全くおらず、しかも家紛いのこたの建物にも入れず、今現在俺は完全ぼっち状態にあった。

 

 

(おい…登校初日にいきなりぼっちとか笑えない冗談だぞ…まぁ俺にしちゃラッキーだが…)

 

 

俺から言わせれば、登校初日に仮にも後々生徒となるであろう人間を放ったらかすのは、運営として色々な問題依然に一発でアウトだ。

もしくは、運営に何か起きたなら。それはそれで話が変わってくるが、それにしたって何か連絡の一本でも俺がジーンズ右側のポケットに右手諸共突っ込んでいる端末に来て良い筈なのだ(学校の情報諸々はメールに添付されていたので、彼方は既にこっちの住所を知っている筈だから)。

因みに今は午前9時15分で指定時間は9時ジャスト。まだ正体は掴めないが、学校側から指定されたこの場所に対し微か抱いていた期待をぽっくり折られ、それでも変に律儀に待ち始めてから、丁度45分を迎えようとしていた。

 

 

(…帰ろうかな)

 

 

面倒だし。と内心付け足す程、俺の我慢の虫がそろそろ限界を迎えかけていた…その時だった。

 

 

「きゃああ!よ、避けてぇぇぇぇ!!」

 

「は?ふがっ⁉︎」

 

 

謎の絶叫に一早く反応した耳から順に後ろを振り返ろうとした瞬間、凄まじい勢いですっ飛んで来た何かが俺の顔面に綺麗にクリーンヒット。

結果、体が反応に追いつかず、そのままドジャッという鈍い音を立て背中から地面に不時着した。無論、俺が下敷きになる形で。

 

 

「いてて…」

 

「あうぅ…ってハッ⁉︎だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

「これが大丈夫なモンかよ…大体何で初日から他人にタックルされなきゃいけねーんだ…」

 

 

そこから文句の一つでも言ってやろうと思ったが、目の前の謎の絶叫の元凶が女子…しかも俺より歳上らしい為、その考えは取り消した。

幾ら初対面とはいえ、言って良い事の区別は俺とてつく。何より悪気は無い様子なのだし、女子にあまりつべこべと怒鳴るのも意味が薄い気がした。

 

 

「あの…本当にすみませんでした。」

 

「良いよ別に。悪気は無いんだろ?」

 

「は、はい。ですが…」

 

「なら良いよ。それより、理由を聞かせろ。」

 

 

出来るかぎり威圧しない様、これでも配慮したつもりだったが、どうやら長年人に対して嫌悪し続けて来た所為か、少なからず嫌悪気味に聞こえてしまったらしい。

だが、思っていたよりも今の失態を深刻に考えているらしい彼女は、その蒼い双眼に俺を写し、話し始めた。

 

何でも、彼女もアクタースクールの入学者であり、指定されていた9時に遅刻しかけていたのだそうだ。で、歩いて来た俺とは対照的に信号を無視しまくって走っていた結果、一台の軽トラックと衝突しかけたという。まぁそれは間一髪で避けたのだが、その避ける際の回避が思い切り上へ跳躍をしての回避であり、そして偶々その先に立っていた俺に突っ込んみ、現在に至る…との事。

 

 

「…はぁ。」

 

「あ、あの本当にすみません!弁償でも何でもしますから「別に、良い。」…え?」

 

 

上記の事に必死な形相で頭を下げる彼女。それは普段の俺なら全力で引くか非難する所…なのだが、俺も、どうやら少し頭が可笑しくなったらしく、

 

 

「弁償とか、そんなのは要らない。それより、あんた無事か?」

 

「え?は、はい無事…ですけど…」

 

「なら、それで良い。」

 

 

正直、自分が何を言っているのか理解するのに5秒は要した。だが、少なくとも俺は彼女を許している。言葉の通り、別にもう気にしなくて良いと。そう心から思っている。なら、下手に嘘を吐くよりかは正直に言うのを‘‘俺自身’’が思った…そう思えば良い。

それは彼女も––困惑しながらだが––理解した様で、難しい思案顔になっている。まぁ当然だろう。彼女自身、自身の失態は事情を知らなかったとはいえ、許される事ではない、と。

だから彼女の俺を見る視線が『困惑』から『疑問』に変わったのも、納得が出来る。

 

 

「あの…」

 

「ん?」

 

「名前…教えて貰って良いですか?」

 

 

そうおずおずと…言うなら様子を伺う様発せられた言葉。多分、彼女の中では『俺』という人格に謎がある所為だろう。だが、人に質問されたら答えない訳にもいくまい。

 

 

「…奏魔 零。」

 

「奏魔 零君…だね。私は有宮 玲奈。」

 

 

そう俺が相変わらず小さく発した言葉を彼女…玲奈は子供が本の文章を読み上げる時のな、そんなふんわりした微笑を浮かべながら言った。

そして今しがたこんな出来事があったが、間近で見ると玲奈は結構な美人だ。日本人…というよりかはロシア系の血が入っている様に思える端正な顔立ち。更に肌は雪の如く白く、身長178ある俺とそう大差無い。黒…というより灰色に違い長髪は肩甲骨辺りまでのストレートで、出てる所と引っ込んでる所がかなり理想的であるなどなど…俗に言うかなりのモデル体型だ。しかもそんな理想体型に上が白一色のコート、下が灰色のズボンのコーディネートがびっくりする位似合っている。上下とも黒系統の服で締めた俺とはエライ違いだ。

そんな風に彼女を観察していた折、

 

 

「宜しくね。零君」

 

 

女性にしても高めなその声音と共に、これまた真っ白な右手が俺の前にラフに繰り出された。それの意味する理由は…色々鈍いと自負する俺でも解る。

 

 

「…宜しく、有宮」

 

 

そうボソボソ…では無く少し張った声で返しつつ、彼女の手を握った。この寒々しい外気に晒されていなかったのか、その手はやけに暖かく感じた。長い間感じなかった、‘‘人の温度’’も…

 


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