Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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決意と欠意

 

 

 

…結論から言おう。

あの後、俺はキリトとアスナの二人を家に招き入れ、色々と聞かれた…というか絞られた。それはもうこの眼の事を特に徹底的にみっちりと。

が、それだけならまだ別に良い。問題は…

 

「…何で、お前と戦う事になった?」

 

レイナこと、血盟騎士団W副団長の片割れと‘‘Kobへの勧誘を条件に明日決闘をしてほしい’’と二人を返した直後にメッセージが来たからだ。

しかも俺と同じ条件をキリトにも提示している、という補佐力全開の根回しっぷりを発揮しながら。で、今はこうして俺の目の前にいる。

 

「し、仕方でしょ?団長に言われちゃったんだし…」

 

「…確かにアイツがやりそうな事だな。」

 

が、同時に決して彼女の本意ではない事は、幼馴染みの勘抜きに解る。

Kobの団長は、基本的に他勢力への協力は惜しまない。思想は違えど‘‘この浮遊城を攻略し現実世界に戻る’’という点は同じだからだと。

その意見には概ね賛成だ。俺やキリトの様なソロでも、脱出の意志は持っている事に変わりは無い。

…まぁ最近は脱出脱出と血眼になる奴自体が少なくなったのは否めないが。

だからこそ団長は…ヒースクリフの奴は、俺やキリト様な攻略のキーとなり得るプレイヤーを手元に置いておきたいのだろう。戦力としてだけでなく、いざという時の為の保管という意味で。人間、強い力は側に置きたいもの…ある意味最も弱肉強食を重要視した生き物なのだからな。

 

「…まぁ俺としてはお前と手合わせしたいと常々思っていたし、丁度良いかもな」

 

「…はぁ。それを聞いて安心したよ」

 

「が、やるからには本気で行く。天照は色々アウトで使えんから、神威だけでな」

 

「う…ま、負けないからね!」

 

が、そうした勧誘云々を差し置いても、こうして堂々と闘える事はそもそもが中々無い機会でもある。

現在俺のLvは94、レイナは91。現存するプレイヤーベスト5に入る強さを兼ね備えた俺とレイナは、戦闘スタイルは違えど、お互い死線を潜り抜けて来たハイレベルプレイヤーに変わりは無い。

更に言えば、俺とレイナが決闘するのは今回が初でもあり、手の内を知っているからこその激戦となり得る事の想像は容易に出来る。

 

「じゃ、良い決闘にしようね」

 

「あぁ。また明日な」

 

「うん!」

 

だがひとまず明日への期待はさておき、今日はもう遅いと《神威》で飛びレイナを転移門まで送り届け、再び飛んで自宅へ戻った。

そこまでは別段何も無かったのだが…

 

(…ん?)

 

自宅が…妙に広く感じられたのだ。今日訪れたキリトやアスナ、レイナの三人は当然今はいないし、今まで人がいない事に疑問を抱く事など無かった。

俺自身、淋しがり屋でもなければ一人が好きな訳でも無い…その筈なのに。

 

(…!いや、もしかしたら…そうなのか?)

 

だが思い当たる節はある。キリトとアスナといる時は何でもなく、アイツと…レイナが離れた直後のこの感情を…いやでもまさか…そのまさかなのか?本気で俺は…

 

「…恋、してるのか…?」

 

…悪い冗談だ。俺と奴は元々赤の他人、全く知らない人間同士だった。前世での事態が無ければ、顔も知らずにいた筈だ。

そんな一期一会そのままの感覚で出会った奴に…俺が恋い焦がれただと?

 

「…あり得てたまるか。…だが…」

 

こんなにも愛おしく思ってしまう?俺が恋愛ドラマの主人公の様に純情な気持ちを抱いているというのか?レイナに…ナゼだ…?

 

「…寝るか」

 

そんな疑問のループが嫌になって、俺は眼を閉じた。普段なら直ぐ落ちる闇への道も、何故か今日は遅く感じたのは余談だ…

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

決闘。それは人と人がぶつかり合い、お互いを高め合う神聖なる試合という意味から、単なる力の誇示し合いという意味まで様々な使い方がある。

だが、私は…レイナはそのどれでもない心構えで今…第75層の街《コリニア》の中心地にある闘技場控え室にいた。現在の最前線でもあるこの闘技場には、今回行われる二つの試合を観戦する為、多くのプレイヤーが集まっていると聞く。現に今、地下に位置するこの部屋に外からの歓声が肌を刺す様に良く伝わってくる。

でも、私の気持ちは…彼以外には向いてはない。

 

(…レイ君へ気持ち…この一戦で確かにしてみせる)

 

私は彼が…レイ君が好き。異性として、私は心から彼を好いている。

が、それを伝える事をずっと…心の何処かで認めず遠ざけて来た。

他人は所詮、私の血が欲しいだけ。信用するに値しない奴らなんだと。そう思い込んで、ずっとこの手で気づかない振りをして来た。

前世からの知り合いなのも、彼に付いて行きたいという本心が実は一目惚れから来ていたのも、全てを…否定し続けて来た。

…だけど、

 

「私…自分に嘘浸けられる程、強くないみたい…」

 

彼を想えば想う程…会えば会う程…この感情を抑えられなくなりそうになる。

否定し続けた感情を闘志に変えても、死と隣り合わせに相棒達を振るい力を付けても、更に想いが深まるばかりで変わりはしなかった。彼が好きなんだと…自覚するだけだったんだ。

普段はぶっきらぼうに見えて実は優しかったりとか、

 

「…だから、私…貴方と戦うよ。そうしたら、答が解る気がするから…」

 

想いの丈全てを剣に込め、彼に伝えてみせる。私の気持ちを。意志を。

チラッと時計を見ると、先程決着したキリト君とヒースクリフさんの戦いから一時間…私と彼が戦うまであと僅かとなっていた。

 

「よしっ…!」

 

もうここまで来れば退路は無い。全力で当たって砕けるだけだ。そう覚悟を改めて決め、メインメニューから友人渾身の一振りである相棒『エトワール・クランテ』を実体化させ、控え室を出る…と、

 

「あれ、アスナ?」

 

「レイナ…」

 

同じKobのW副団長として、切磋琢磨してきた友人…アスナの姿があった。

心配気な表情から察するに、長い付き合いがあるレイ君との決闘に何処か思いがあるのだろう。でも、だからこそ私は…

 

「…アスナ。私は…行くよ」

 

「……そっか」

 

立ち止まれない。私は…私が信じた光を‘‘道’’に進んで行く。彼と一緒に、見たい景色や人、想いが数え切れない位にこの胸にあるから。今こそ、引き出しを開ける時なんだ。

私の決意を、アスナは解ってくれた様で、止めるそぶりも無く彼女の横を通り過ぎる。目指すは…前方に差し込む光だけ。

 

「…レイナ!」

 

「…っ…!」

 

そこへの歩みは、一瞬だけ彼女に止められた。が、

 

「––––––––!」

 

「…!」

 

この時アスナから貰った言葉を、私は…きっと生涯忘れないだろう。大切な…初めて出来た心からの親友の言葉を。

 

「うん!行って来る!」

 

アスナからの言葉を受け、私は今…天から差す光の道を走った––。

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

同刻…俺、レイは闘技場の控え室にいた。東と西で二つある円形の造りの内、俺は東。レイナは西でそれぞれの時を只待っていた…筈だったが、

 

(…父さん、母さん…)

 

…ずっと、俺は何処かで後悔していた。あの時…両親を見殺しにしたあの日の事を。幾らあの時子供で力も弱かったとはいえ、みすみす両親を殺した様なものだと…そう後悔し続けて来た。

だから幼かった美弥だけはどんな手を使おうとも守り抜くと誓った。もうあんな思いは…絶望は味わいたくないから。その筈だったのに、

 

(アイツに会ってからだ…)

 

アイツに…レイナに出会ってから、どうも俺は調子が狂い始めた。

普段は造作も無く行えるポーカーフェイスやクールな態度は悉く崩しかけ、安定しない口調もアイツの前では自然と正され、危うく‘‘表’’に出かけていた。

 

(何でだ?何でアイツとだけ…)

 

レイナ。この名を聞くだけで…体の細胞という細胞が反応する。

何をバカなと思うかもしれないが、彼女は転生してから最も近くにいた人間であり、俺が美弥以外で初めて最も親しくなった他人でもある。だから…かもしれない。

他人と触れ合う事を嫌い続けて来た今までがあるからこそ、こんなにも人の温もりが心地良く感じるのかもしれない。

 

「…よし」

 

なら…俺自身の手で確かめてやる。

俺が抱くこの感情、その答を。

…本当は素直に受け入れたい心があり、願いたいという‘‘意志の欠片’’がある。

だが、俺はそんなに器用な人間ではない。何より、ここは力次第でどうとでもなる実力主義な面を持つ世界だ。ならば、レイナと剣を交える事しか、馬鹿な俺には出来ないしそれ以外の術を思いつかない。

 

「…行くか」

 

そう、自分へ向けた言葉を呟きながら鉄製のドアを引き控え室を出ると、

左側から地上の光が差し込んで明るく通路を照らしていて、ガヤガヤと観戦が聞こえて来る。…いよいよだ。

 

(父さん…母さん…美弥…行って来る)

 

今は亡き父と母…そして妹への旅立ちの念を込め、俺は光差す地上への道を走った–––。

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

所変わり、ここは会場の客席。

この闘技場ことコロシアムは、名の通り大々的に決闘を見て楽しむ為に造られた施設であり、強者が互いの力を高め合う神聖な場でもある。

私達攻略にとって、戦いとは生きる為必要な‘‘手段’’であり、現実世界で命に関わる事柄を経験する事と厳密には違うが変わりは無い…らしい(お兄ちゃん曰くだけど)。

凄い偏見だけど、私には理には叶ってると思う。だってこの考えは、現実世界において人間一人一人が心臓一つで一度きりの人生を過ごしている事と変わりは無いという事なのだから。

まぁ要するに何が言いたいのかというと、今から私達観戦客の視線が注目する所は文字通り‘‘命のぶつかり合い’’という戦いになるという事。

 

「お兄ちゃん…大丈夫かな?」

 

「気にすんなってミリアちゃん!野郎もレイナさんも心配いらねーよ!」

 

「ですけど…って、クラインさんギルドは?」

 

「今日は休みだ。ま、偶には良いだろ」

 

そんな思考に耽る私の左隣に座るこの男性の名はクライン。

本名はこの世界で聞くのは当然NGだから知らないけど、このSAOでは小規模ギルド《風林火山》を率いるリーダーである赤い毛髪にバンダナが特徴的なちょび髭の青年。歳は確実に上なので、私とアスナは敬語&さん付けで呼んでいる。

人見知り気味なお兄ちゃんやらクラインを挟んで更に左側に座るキリトと違いフレンドリーで社交的な人柄故か、お互い結構気が合うのは余談だ。

 

「けど、本当に良かったのかな…幾ら団長からの指示とはいえ、レイ君と戦うなんて」

 

「そこは何とも言えないな…アイツが何かの陰謀を企む様には見えないし、第一そうならそうでワザワザ人前で戦う理由が解らない」

 

話を戻すが、キリトの言うアイツ…Kob団長ヒースクリフは聖騎士と言われるだけあり、卑怯な手段を嫌う。

あくまで正々堂々のセオリーを貫く精神が、尚且つ人を惹きつける圧倒的カリスマ性に繋がっているのだろうし、だからこそアスナやレイナが付いていきたいと思ったのだろう。

が、反面謎という謎がが多い人物でもある為、キリトの様に疑問を抱かれやすいともいえるのだけれど。

 

「ま、そりゃ全部この戦いで解るこった。なぁキリの字?」

 

「そう…だと思いたいな…」

 

が、楽観的にキリトの肩をバシバシ叩くクラインさんに対しキリトは少し考え込んだ面持ちだった。決闘は二人のプレイヤーの真剣勝負であり、先程ヒースクリフさんの勝ちで終わった決闘含め、私達に出来る事は何も無い。

ただ見て応援する以外には。

 

(…大丈夫。二人はズルや八百長したりしない)

 

今…コツコツと、針が戦いの時を示そうとしていた。思いと想い、二つの意を知らせる様に…

 


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