Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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噂のアイツ

 

ヒラヒラと、木の葉が…枯葉が散りゆく。

太く地に根を張り、大樹となった枝から葉が散っていく様は、大人になり子が親離れする様にも、役目を終え儚く消えていく老人の様にも見える。

 

「…秋か」

 

唐突だが、今は2024年9月13日金曜日。

そろそろ暑苦しい夏が終わり、木枯らしを始めとした秋のシーズンである今日この頃。

俺は自宅の庭で寛ぐ為に数日前《建築》のスキルで造ったベンチに腰掛け、赤や橙に染まり散っていく木の葉達を静かに見上げる…という、攻略組みらしからぬのんびりとした時間を過ごしていた。

 

「クキュー…」

 

「秋だな…」

 

もちろん足元で寝そべるアッシュも一緒に。そしてコイツてもコイツで秋を感じたらしく、2m弱と成長した見た目に不釣り合いな高い声を漏らした。

どうやら狼も人間と同じく季節の節目はしっかりと感じるようだ。そこら辺の再現度も、流石はカーディナルシステムと言えよう。

俺の《写輪眼》も、アッシュのアルゴリズムから外れまくったリアルな行動も、全てはカーディナルシステムにより与えられた物なのだから。正にカーディナル様様だ。ま、そんな妄想は今は良いだろう。

 

「久々にのんびりしてるんだしな…」

 

「クー…」

 

普段からデっカい蜥蜴やら蜘蛛やら蟷螂やらと戦っていて、しかも攻略側の面子には‘‘閃光’’の異名を冠する戦闘の鬼が––最近は大分丸くなったみたいだが––統括しているのだ。そうして毎日毎日、来る日も来る日も激戦を繰り返していれば疲れが溜まるのは最早必定。俺も一昨日までは睡眠無しのノンストップ攻略を1ヶ月やり切ったのだし、少しは白昼堂々の昼寝も許されて良いのではないだろうか?寧ろ休ませろ。

まあ日頃の愚痴はこの辺にして、

 

(さて、新聞でも読むか…)

 

久しく読んでいなかったコラル限定毎週末に発行の新聞を膝辺りに展開させる。とあるプレイヤーが始めたらしいこのサービスは、アインクラッドにおける最新情報が提示された正確には掲示板であり、人気の無い地に住む俺にとっては欠かせない情報源であり日課でもある。

で、肝心の内容はといえば、現在の攻略状況・オススメ狩場・人気プレイヤーランキングベスト20・最新ニュースの4つ。内、俺が見るのは攻略状況のみであとは基本流し見している…が。

 

「…何?」

 

今日は何時もと違い少々興味を惹かれた記事があった。血盟騎士団ことKobに関するキャッチコピーで始まるソレは、中々に衝撃的に書かれており、まるで熱湯をかけられてから冷水で一気に冷やされた様な…そんな感覚。

まぁそれだけだと訳が解らないので簡略化すると、『黒の剣士、ついにユニークスキル取得!』という部分がデカデカと記されたモノ。

 

「はぁ…随分と穏やかじゃないな。13日の金曜日はやっぱり不幸デーだな」

 

と、他人事の様に言うが、俺とて心無い者ではない。黒の剣士=アイツを心配する気持ちは有る。ユニークスキル取得時はいきなり有名になったり、決闘を申し込まれまくったりと大変だった事をよく覚えているから。が、今回はスケールが違う。

今まで必死にユニークスキルを隠してきたアイツ––俺含め一部にはバレていたが––がソレを露見したのは何と2日前決行された‘‘第74層ボス攻略’’で、なのだ。言わずもがな一瞬の隙が死に繋がる戦場では、スキルの駆け引きが非常に重要となる。

結果、倒す事は出来たものの、引き換えにアイツは名が露見し毎日毎日追っ掛け擬きに追われる日々らしい。…と、今までの所は昨日、アイツを介したレイナからの突拍子も無く届いたメッセージで知っている。そして、今も慣れない野次馬に付き纏われ、今もホームに籠りっきりに違いないと。

と、なればやる事は一つ。

 

「…行ってやるか。おい、行くぞアッシュ」

 

「クル〜」

 

寝そべるアッシュを起こし、アイテムストレージに格納する。寝起きの時はこうして縮小化機能を使うのがある意味決まりの様になっている。

 

「さて、行くとしよう…」

 

自宅の戸締まりを確認し、ある程度アイテムの整理をした後、俺は《神威》により渦状の歪みを右眼から発生させ、その場より姿を消した。

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「…なるほど。中々に愉快な状況だな」

 

第50層の街《アルゲード》。

街全体が商店街の様に幾つもの通路で構成されたこの街は、あちらこちらに店が立ち並び、NPC店含め常にガヤガヤと騒がしい事で有名な別名《商人天国》。

確かに、ここならば目立たずに住まう事が出来るだろうな。最も、今はその専売特許とも言える隠蔽力が役立ってはいない様だが。

 

「お前、楽しんでるだろ?」

 

「クク…さぁ、どうだろうな?」

 

そんな他人行儀に考える俺を訝しげに見下ろす正面の男…正確にはアフリカ系アメリカ人にして生粋の江戸っ子であるスキンヘッド黒人。

彼の名はエギル。リアルネームはアンドリュー・ギルバート・ミルズで、リアルでも知り合いである数少ない人物であり、このSAOで数少ない戦闘もこなせる商人でもある。

因みに今話題のアイツ…キリトに上の一部屋を貸し、この店に匿ってやっているのも彼だ。

そもそもを言えば彼とはつい5ヶ月程前キリトを介し知り合ったばかりだが、儲けを優先した様な態度––キリト曰く阿漕な商売––が気に入り、何かと理由を付けては足を運んでいるという訳だ。

で、今はエギルと共に噂のキリトを話題にカウンターで寛いでいるのだが、

 

「《二刀流》で50連撃?よくもまぁそんな尾ヒレがつくもんだ。流石に驚いたぞ…クク」

 

二刀流。それが黒の剣士キリトが習得したユニークスキルだ。名の通り、このスキルを習得した者は‘‘武器を左右に装備してスキルを発動出来る’’。

俺もやっているが、基本的にスキルはどちらか左右一つの武器に限ってしか発動は出来ない。が、このスキルを持つキリトは剣二本を同時に操る事が出来、言わずもがなの驚異的な連撃を可能にした。

引き換えに攻撃が命中し難いという欠点があるが、それ抜きでも次元を超えた攻撃力と手数を有しているのは間違いなく、流石はユニークスキル(変異能力)と呼ばれるだけある。

Kobの団長や俺、キリト…まるで発現者の実力を明確に表している様に思えてならない。全く、カーディナルってのは随分と不公平なカミサマだ。

 

「あんま言ってやるなよ?あいつもあいつで気にしてんだからよ」

 

「解っている。で?外の野次馬は良いのか?」

 

「それなんだがな…どうもバレちまってるらしいな」

 

「…みたいだな」

 

まぁカーディナルに対する愚痴は言い出すと止まらないから置いておき、外の野次馬は本当に困った。

実を言えば《神威》で逃走する事は出来る。この能力を使えば、転移門に飛びそこから俺のホームへ逃げ込める3分も掛からないからだ。

が、それをやるには人数制限があり、キリト本人の了承もいる。

 

「だが四の五の言ってはられん。ひとまずアイツは俺が匿うとするよ」

 

「そうか。と、何か売り物とかあるか?」

 

「いや、特に無い」

 

それだけ言い残し、エギルに背を向け店奥に設置された木製の階段を登る。

基本、奴が所有する二階の一部屋はキリトの第二の塒だ。頻繁に来ているし、偶に俺も攻略の帰りがてら借りたりする。だから、だろうか?アンティークな仕様のドアの前に立った時、

 

「…ん?」

 

《索敵》の効果が、俺にある可能性を予見させた。

普段ならばあり得る事が今は無い‘’不自然さ’’が、そう遠回しに告げている気がした。

プレイヤーの反応が‘‘二人’’であったという事実が。一つは言わずもがなキリト。もう一つは…

 

「入るぞ」

 

「「っ⁉︎」」

 

「…やはりお前か…アスナ」

 

栗色の髪に白を基調とした団服を着た美少女…‘‘閃光’’のアスナであった。

エギルから聞かされこそしなかったものの、キリトが絡んだ事柄に彼女は惹かれ合うSM極の様に姿を見せると踏んでいた。だから敢えて先程の会話で詮索はしなかった。新鮮味を与えるつもりでな。

上手くいった様で、二人共心から!と?を盛大に表現した顔つきをしている。

 

「レイ君⁉︎な、何でここに?」

 

「何でもクソもあるか。その黒君に駆けつけてやれとレイナから通達があったからだ」

 

「レイナが…」

 

その本人は今ここにはいない。が、ああ見えて奴も副団長の片割れ。忙しい事は容易に察しがつく。

 

「まぁそれはそうとして…随分弱々しいな。普段の豪胆さはどうした?」

 

「お前…解るだろ?同じユニークスキル使いなら…」

 

「いいや、お前とは違い俺は隠したりはせん。顔が売れるのは気に食わないが、ただそれだけだ」

 

現に、俺はユニークスキル使いに…この眼を持った事に後悔はしていない。

支配も復讐ね念も、全くといって良いほどに興味が無い。俺の心にあるのはただ…暗くドロドロとした底知れぬ闇と、吐き捨てたくなるほど素直な光。善と悪の感情…ただそれだけがある。

 

「…相変わらず、ストレートた物言いだな」

 

「そう心がけているからな。さて…お前らに提案があるんだが、知っての通り外は野次馬でいっぱいだ。だから俺のホームに匿ってやる。…意見はあるか?」

 

早口で告げた俺の言葉に、二人は数秒思案顔になり、首を横に振った。

 

「いや、特に無い。アスナはどうする?」

 

「私も良いわ。今は貴方にも話があるし」

 

「ほう…それは楽しみだ。じゃ、二人共…俺に捕まれ」

 

二人の態度に笑みを浮かべつつ、俺は二人に手握る様促し、握ったのを確認して右眼にセットした能力《神威》を発動し、俺達三人は部屋から姿を消した。

 

 


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