Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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ども、xuronsです。本作は、私事やりたい放題のオリジナル作品です。見たいという器の広い人のみ、本作をオススメします…


不可思議の始まり
プロローグ


 

 

 

…朝。

 

その単語で、連想するものは人によって違うだろう。日差し。太陽。明るい。怠い。学校。これ以外にもまだまだ考えれば出てくる。

 

俺は少なくとも全てが該当している。退屈で、刺激の無い朝が、今日もまたやって来たと。

 

 

「……はぁ」

 

 

俺…奏間 零はこの2LDKのリビングにドンと置かれた木製のテーブルに腰掛けながら思う。年季の入った椅子がギシギシと鈍い音を立てているのも、何処か遠く聞こえる。そして、目の前のコイツの声も。

 

 

「ちょっとお兄ちゃん!聞いてるの?」

 

 

そうまるでお母さんの如く、放心気味の俺に甲斐甲斐しく声をかける目の前のコイツは、俺の1つ下の妹こと奏間 美弥。パッチリとした日本人特有の茶色の瞳に、スラッと伸びた鼻筋。腰近くまである枝毛の一切無い黒髪。ボンキュッボンの体型。所謂美人のカテゴリーにある我が妹は、見れば誰しも惹かれるであろう魅麗な見た目をしている。実際にファンもいる様だし。…が、何かと兄の俺を弟の如く叱咤するオカン的要素のあるちょっと残念な奴なのだ(言うと怒るが)。

 

 

「…悪い、何か大事な話か?」

 

「もう…やっぱり聞いて無いんじゃん。」

 

「ちょっと考え事してたんだよ。」

 

 

またそれ?と、すっかり呆れた様子で朝の朝食ことトーストされたパンを齧る美弥。好きな物に‘‘食パン’’と答えるだけあり、頬張る時の顔はだらしなく緩んでいる。…まぁジッと視線を送ったら直ぐハッとした表情になったが。

 

 

「で、何の話だ?」

 

「高校だよこ・う・こ・う。お兄ちゃん、今日から高校生でしょ?」

 

 

でしょ?とキラキラした視線を送られても困るんだが…まぁコイツの言う通り、今日から俺は‘‘横浜私立アクタースクール’’に通う事になっている。因みに‘‘なっている’’と遠回しなのは、この高校が‘‘通信制’の高校で入学式も先日行ったからだ。普通、通信制の高校は自宅学習が基本だ。だが、この高校は全日制同様に月〜金と通う珍しい学校なのだ。俺がここを受けたのも、通える範囲であり、何より私服オンリーだからだ。だが、

 

 

「大袈裟だな…ガキじゃないんだぞ。」

 

「えー?ワクワクするじゃん!」

 

「俺をお前の思考回路と一緒にするな。」

 

 

ちぇ〜っと頬を膨らませて不貞腐れる美弥だが、実際ワクワクの様な‘‘期待感情’’は無い。これっぽっちも?と聞かれたら微妙な所だが。てか美弥。お前今その顔見せたらファンが腰抜かすぞ(可愛さ的意味で)。

 

 

「そういや美弥。時間は?」

 

「え?……げっ⁉︎もうこんな時間⁉︎」

 

 

恐らく男子ファンが全力で引くであろうびっくり表情の美弥の視線の先には、午前8時をキッチリ指す機械式の時計。それを見て妹はバタバタと世話なく髪を結んだり、バックに詰め込んだりと、何処の漫画だと突っ込みたくなる光景が俺の前で繰り広げられる。

 

 

「遅れる〜⁉︎行ってきまーす!」

 

「おー…行ってらっしゃ〜い…」

 

 

やがて慌ただしく繰り出して行った美弥に、恐らく聞こえていないであろう声量の行ってらっしゃいを添えてやる。そんな喧騒が消えた家は、一人減っただけだというのに随分と寂しく感じる。

 

 

「…ご馳走様」

 

 

そう無感情に手を合わせ、使った食器を食洗機へ突っ込む。後は‘‘自動洗浄’’のスイッチを押し、リビング奥の自室へと向かい、スライド式のドアを開ける。人間を感知すると開くソレはスッと音も無く開くと、見慣れた俺の部屋が現れる。二段ベッド(の上のベッドだけ)や資料が散らかった机など、何ら変わりない自室。

 

 

「……」

 

 

漫画やゲーム機が散乱し、散らかった部屋。だがそれに俺は特に何かの感情は抱かず、黙々と出かける準備を行う。着慣れた黒パーカーをTシャツの上から袖を通し、下をスウェットから灰色のジーンズに履き替え、十字のネックレスと鉄で出来た特徴のブレスレットを付ける。

 

 

「…行くか。」

 

 

そして締めに黒のスポーツリュックに左肩だけ通し、部屋にの電源を消して部屋を出る。出入り口のスライドドアが閉まったのを横目で確認し、玄関へと向かう。右側に丁寧にズラッと並べられた靴の中で、気に入っている白のスニーカーに足を通す。

 

 

「…行って来ます。」

 

 

爪先を地面に突いて履き具合を整え、俺は誰もいない家に向けて数分前に美弥が放った言葉をボソリと呟く。もちろん返答は無い。そんな事は分かっている。だが、どうしても想像してしまう。…家族が居たら良いな、と。

 

 

「…はぁ」

 

 

そんな夢そのものな自分の考えに、直ぐ自分自身で辟易した。そんなもの、来るはずが無いのに。

 

 

(…行くか)

 

 

その言葉を自分自身に投げかけ、俺は永遠にも思える一歩を、外へ繋がる道へと、小さく踏み出した。後々に心臓に悪い体験をする事も知らず…

 

 


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