Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
バギィン…と鈍い音が鳴り響いた。
二つの剣がぶつかり、勝敗が決した証拠である…静かな戦の音色が。
その白熱の光景に、普段はお調子者なミリアも、シリカやアッシュ&ピナ共々ジッと息を呑んだ緊迫な表情で二人を見つめているのだが、
「ど…どうなったの…?」
「わ…分かりません…」
私達からはHPゲージは見えない為どれほど減っているのかは解らないが、確かモードは『半減損』だった筈。だからこそ、二人はすれ違ったまま固まっているのだろうが…やがて二人の間に出現した文字は…
《winner!Rei 2分03秒》
…と、はっきりと示していた。彼が…レイ君が勝ったと。
それを悟ったのか、二人は無言で剣を鞘に収めすっくと立ち上がったかと思うと、
「…流石だったな。が、今日は俺の勝ちだ」
「…えぇ。けど、次は私が勝つわよ」
「…フッ」
短く言葉を交わし、グッと握手を交わした。その表情はとても嬉しそうな笑顔で、とても今し方激しく剣を撃ち合っていた人物達には見えない。
それに…二人共言っては何だが、無愛想で他人と良く触れ合う様な人種ではない。だから、何というか…
(((すっごく新鮮…だよね…)だね…)ですね…)
…まぁ、それは今更だから言わないけども。ていうか凄いレアなシーンなんだし。
「さて…勝負は俺が勝ったし、アレは諦めてくれるか?」
「えぇ。団長には私から言っておくわ」
「そうか。…ん?どうした?」
「「「な、なんでもない!」から!」ですよ⁉︎」
「?」
こうして、SAO始まって以来の名勝負として後々に語られる事となる『閃光vs影閃』対戦カードは、偶然一部始終を眼にしていたプレイヤーにより一日足らずでアインクラッド中に広まる事になり、言わずもがな二人が更に有名になる事になったのはまたの話。そして…
「うわぁ…すっごいなぁ〜…!」
私達の目が届かない路地付近で、キラキラと眼を輝かせた少女が、文字通りジッとレイ君を観察していた事も。
♢♢♢
あの決闘が決着し、2日の時が過ぎた。
その間に誰が広めたのか『閃光vs影閃、驚異の剣劇で影閃黒星!』…と、随分早く記事され、今じゃ行く先々で『影閃さんですか⁉︎』やら『サイン下さい!』などなどまるでアイドルみたいな扱いである(ミリアには『女みたいだから寧ろアリじゃない?』とまさかの女扱い)
その所為で、今は昼にも関わらず自宅に引きこもってベッドをゴロゴロしている(一応この前レベル52には到達したが)。
「はぁ…何で単なる決闘がこうなるんだかな…」
「ク〜?」
そんな何処ぞのアイドルを扱うが如き大衆の都合の良さに、俺は今日何度目とも知れない溜息を吐く。
正直、人にアレやコレやと持ち上げられるのは嫌いだ。前の世界でもそうだが、人はこういった珍しい事に平気で首を突っ込んではやがて人に罪を擦りつける一面を持つ薄汚れた種族なのだ。
もちろんそうでない人種がいる事も知っているし、それが人間の全てでは無い事も解ってはいるが…やはり良い気はしない。
「はぁ…何か良い事ないかな…」
「クルル〜」
「え?『そのうち良い事あるよ』って?」
「クル」
「そうだと良いなぁ…」
アッシュとそんな気の抜けた会話を交わしつつ、最早癖と化したメインメニューを流し見る。何百と見たステータス・アイテム欄・メール・フレンドリストと見直して…
「…ん?」
「ク?」
その中で一つ、妙なモノがあった。何が?と聞かれるならば、俺はきっと、いや間違いなくこう答えるだろう。
「何じゃこりゃ…?」
「クル〜?」
その妙なモノ…見覚えの無い名前で飛ばされたメールの内容はこうだ。
『始めまして!』
あ、えと…始めまして!
レイさんだよね?僕はユウキ!
あの決闘見たよ!すっごいカッコ良かった!
でねでね!出来たら僕と戦って欲しいんだ!
場所は返信くれたら僕が迎えに行くよ!
宜しくね!
Yuuki
…と、恐らく12〜13歳の如何にも若々しい突っ走った文が今から丁度一時間前…9時25分に送られて来ていた。
それに因みだが、こうしたメールは『フレンドとして登録した者』か『フレンド越しに登録させて貰った者』にしか送る事が出来ない。
今回は送り主と文面から後者となる訳だが…そもそもだ。
「…何故に俺?」
まずそこが謎だ。あの決闘は確かに名が露見する事も考えてやり合ったが、元々名が売れている対戦者のアスナはそこまで大した影響は無い。…が、俺はこれで晴れて名がバッチリ売れてしまい、今正に防衛の如き引きこもり体制を敷いているのも全てはアレに起因している。
それにだ。送り主は俺と通じている面子(といっても5人しかいないが…)の誰かと何かしら通じている可能性がかなり高くなった。だからこそ、俺が面倒くさがりな性格なのは知っている筈…なのだが。
「…はぁ」
「クルル?」
「解ってるよ…放っておくのはマズイよな」
「クル」
そうだと言わんばかりにコックリと頷くアッシュ。もうコイツを相棒としてからもうすぐ1月の時が経つが、未だに本当にコンピューター制御されているのか不思議になる事がある。AI化されているなら納得は出来るが
「んじゃ早速…」
そうして俺が覚悟(面倒事その他諸々)を決め、パチパチとキーボードをタイプして打った文章が…
『解った』
了解した。場所はマップ追跡してくれ。
それと、あんたの身元もある程度教えてくれ。
教えてくれたら何でもやってやる。
Rei
…以上の文章をピッと送信し、ぐはっとベッドに背中から倒れる。特にやる事も無いし、何よりここは宿題や課題なぞも無いある意味最高の空間なのだから、今はそれをたっぷり堪能する事にした。
そうしてぐはー…とダラける事5分弱。
『ありがとう!』
ホント⁉︎ありがとう!
じゃあ今から向かうね!
Yuuki
と、ウキウキ感が滲み出た短文が返って来た。
まぁ12〜14なんてまだまだやんちゃ盛りだもんな…と、自分が15歳のガキなのはすっかり棚に上げてそう思った俺氏であった。