Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
…ゲームが開始して、今日で丁度二ヶ月の時が過ぎた。
その間にプレイヤーは2000人も命を落とし、その大半が前もって情報を持っていた者…βテスターだった。
その凄惨な有様と現状に、多くの生存者達は恐怖におののいた。
だが、朗報はある。長らく時は過ぎたが…ようやく第一層のボスが倒され、先へ進める様になった事だ。
その勇気あるプレイヤー達の中には、俺のリアルでも数少ない友人…キリト(和人)もいた。…まぁそのキリトが後々引きずる闇を抱える事になったが…今は敢えて伏せよう。
因みに俺はボス攻略に参加していないが、後に同じく攻略を共にしていたレイナとミリアの中々に窶れた様子から、俺は改めて、一刻も早くβ時代と同等の…いやそれ以上の力を身につけなければ。そう強く思った。
そして、これは第一層が踏破された二日後…2022年12月6日火曜日の話である
「んっ…あー…よく寝た…」
気の抜けた声を発しながら、俺はベッドから上半身のみ起き上がりシャン…というすっかり聞き慣れた音と共にメインメニューを開く。で、そこから‘‘パーティ’’をタップし、有るべき名前がある事に軽く安堵する。
まぁそれはフレンドの欄で生存している事は知れるが、基本的に解るのは今何処にいるか。その程度の簡素な情報だけだ。
最も、本当に確認したかったのは‘‘今日パーティを組むメンバーの名前’’だが。
「はぁ…ん?」
が。直後、パーティの下に表記されているメールのカテゴリー欄にNew!のマークが付いている事に気付き、導かれる様にタップし開くと…
「…何?」
その内容は、俺にとっては関係無い…のだが遠回しに関係があるものだった。これだけじゃ意味不明だろうが、ひとまず説明は後々にしよう。
「ったく…こっちは寝起きだっての…っ!」
で、俺はメールの内容を趣味ではあるが水泳とゲームで培った反射神経をフルに使って読み終え、短く『了解』とだけ打ち込み送信する。
そして念の為、最近あるクエストでドロップで手に入れた名の通り刀身が灰色の片手剣『灰燼』を背中に実体化させ、多分背後で糸を引いているであろう奴に愚痴りながら駆け足で泊まった宿を後にした。
因みに、送られて来た内容は…
『お願いします』
朝早くにすみません。
実は今、レイさんの妹さんと会いまして…
これからクエストに挑戦するんですが、
もし宜しければ…手伝って貰えませんか?
Siiica
シリカ。それが数日前、妹を通した縁で知り合ったプレイヤーであり、偶然にも今日が実際の初対面となるパーティメンバー名前だった…
☆☆☆
第二層…つい二日前に一層を踏破したプレイヤー達は、続々と主街区『ウルバス』へ登って来ていた。
その中には、私達….攻略に参加していないプレイヤーも含まれる。
「レイさん、見てくれたかな…?」
そして現在、私達はウルバスの街の西方…ナーシャと呼ばれるNPCの村に来ている。
因みに、今の呟きはとある少年へ向けたもの。まだしっかりと会った事は無いが、メールのやり取りなら今の様にした事はある。で、今はその人をある人物と一緒に村の入り口付近で待機しているところ。
「大丈夫よ!お兄ちゃんはああ見えてしっかりしてるから。ね?」
「う、うん。」
そう快活に言う右隣に立つたった一つ上とは思えない程、凛とした佇まいの美少女の名はミリア。これからここに来るプレイヤーの実の妹であり、‘‘攻略組み’’と呼ばれる迷宮区を攻略する高レベルプレイヤーである。
因みに彼女は私は歳は同じだけど、早生まれなだけで中学生なので––敬語は良いからと本人に強制されたが––お兄さんは2つ歳上…14歳という事になる。
でも、聞く限りでは近しくても彼が私のLv.3より11も上なのだから、やはり遠い人だなぁとしみじみ思ってしまう節はある。すると…
「あ、おーい!こっちこっちー!」
「あぁ…ったくこっちは寝起きなんだぞ?」
「そんなのお兄ちゃんの自業自得でしょ?昨日黙ってダンジョンに篭ってたのは誰かなぁ〜?」
「……」
ミリアの言葉、無言で髪をガシガシやるレイさんにとってどうやら図星らしい。で、私は改めて15㎝は高い彼を見上げ見る
やや長めの肩に垂れた黒髪。聞いていた歳より3歳は上乗せにして見える整った顔立ち。暗色寄りの皮装備を基調とした服装に、武器らしきものは背中に吊られた鞘一つ。
そんな全体的に透明感を漂わせた彼は、正直Lv程強そうには見えない。
そして更に言えば、私にとって兄と妹は仲が悪い印象があった。が、二人はどうやら違うらしく、お互いがお互いを信頼し合っている仲の良さが伝わってくる。
私はリアルでは一人っ子なので、そんな兄妹が仲睦まじく会話する光景が凄く羨ましい。
「…で、お前がシリカ…だな?」
「は、はい!始めまして!」
「大丈夫よシリカ?そんな緊張しなくても。」
「そ、そうだけど…」
確かに彼とはメールで会話した事はある。レベリングのやり方やフィールドでの戦い方なども、ミリアが忙しい彼を通して伝えてくれた。
…が、それは実際の対面で緊張しないという材料にはならない。それに元々、私自身目上の人間にはキチッとしてしまう性なのだ。
そんな緊張気味な私ん彼は血の様に紅い瞳をふっと緩め見ると、
「あぁ。俺はそんな偉くは無いし、別にこのバカ妹同様タメで良いぞ。」
「は、はぁ…」
「まぁ個人の自由だがな。」
そう諭す様に告げた彼の歳の割に低めな声量の言葉は、やや早口にも関わらず素直に頷いてしまう程…もう二カ月も会っていない父の様に優しい響きだった。
「誰がバカ妹よ!」
「事実だろ?あ、バーサーカーの間違いだったか?」
「うぐっ…こ、このバカ兄ー!」
「おっと、危ないぞー」
「うるさいうるさいうるさーい!」
…まぁ口は少々達者であるようだけど。
更に今はブンブン細剣を振り回すミリアを余裕たっぷりに揶揄いながら避けてるのもあってか、やはり年齢の相応さはしっかり持ち合わせているようだ。
まぁ何にしても…
「いやぁぁっ⁉︎れ、レイさんこっち来ないでー!」
第三者の私をばっちり巻き込むのはやめてほしい。
そのせいか、パーティを組んでる影響の防護システムが働いてるとはいえ、さっきからミリアの細剣から飛んで来る斬撃が恐ろしい事になってるし。
けど当のレイさんは、そんなの何処吹く風といった表情を崩さずで…
「いやー悪いな。恨むならあいつの揶揄いやすさを恨め。」
「えぇぇ⁉︎む、無茶言わないで下さい!」
「待ぁちぃなさぁぁぁい!」
「ひえぇぇっ⁉︎」
…その後このイタチごっこは30分近く続き、途中途中ポップしたMobは全て彼女の逆鱗の餌食になった為、結果として経験値均等割りとなっていた影響か、いつの間に私のレベルが1つ上がったのは余談である。
☆☆☆
第二層の主街区『ウルバス』の西にあるここ、ナーシャの村は、NPC…システムに設定された言葉や行動を行える力持つアバター達が住む村だ。
そして、そんな彼らはコンピューター制御を受けている…という点以外は俺達プレイヤーと何ら変わりはない。
若干無機質な喋り方や言葉に対応しない事の範疇での話だが。
まぁそれはそうと、俺達は当初の目的通りにとあるクエストを受けるシリカの手伝いをする為、村の最奥…この村の村長である如何にもな長髭を生やした姿のNPCに話しかける。
『おぉ勇敢なる戦士よ…其方達はこの老いぼれの頼みを聞く気はあるか?』
「はい。なんでも言って下さいお爺さん」
『おぉ頼もしい。では話すぞ…』
NPCの爺さんは、壮年らしく随分掠れた声で語り始めた。
何でも、この村から更に奥の森の中に、巨大な地下洞窟があるらしい。で、その地下洞窟の中にはモンスター達が貯めに貯め込んだ溢れんばかりの財宝と血肉があるらしく、村長はその肉の方を自分の代わりにとって来て欲しいという。
『あと、洞窟の中には恐ろしい主が住んでおる。十分に気をつけるのだぞ』
「あぁ。必ず血肉は持って帰る」
『うむ、頼んだぞ…』
そして会話が終わり、入れ替わりに爺さんの頭上にクエストスタートの文字が点滅する。
『白銀の戦慄』と名が付けられたソレは、固定のアイテムを依頼主の代わりに取り渡す…所謂お使いクエストにしてはやたらと物騒な名前だ。
まぁ過去、一度このクエストは受けていて内容は全部知っているので今更感も有るにはあるが。
「さて…準備は良いな?」
「はい!」「うん!」
「よし、じゃあ早速行くとするか。」
まぁ兎にも角にもクエストだ。少しでも気を緩めたらこの先死ぬのがオチだし、全く笑えない冗談になってしまう。
それを肝に命じ、俺→シリカ→ミリアの陣を組んだ俺達は血肉を求め、村から更に奥の森を目指して突き進むのだった。