ドラゴンボールZ ~未来の戦士の戦いの記録~   作:アズマオウ

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更新めっちゃくちゃ送れました。ドラゴンボール超も始まって未来トランクス編が始まりました。それでモチベが上がって筆を握った次第です。
ゴクウブラックの話もやりたいなぁ。超が進む前に何とかしたいですね……。
ではでははじめます。


進む少女と哀しむ母

「っ……う……」

 

 身体中が痛い。全身が焼けるように熱い。体を動かそうにも、上手く体が動いてくれない。

 

「な、何が……どうなって……」

 

 私はどうにか動く両腕で身体を起こす。そして足も動かしてなんとか直立した。

 その後、私は目を開いた。

 

「ーーーー!?」

 

 何にもなかった。私の視界が広がっていた。さっきまでは、ビルや道路や人、車がたくさんあったと言うのに、今はただの荒廃した大地と化していた。

 つまり壊されたのだ。先程の光によって。人造人間どもが放った光で。

 

「う……そ……」

 

 私は足が震えていた。何もかもが壊されたからではない。奴等の持つ力に恐怖したのだ。街全体を一瞬にして焦土と変えてしまうほどの力なんて、人間にはない。爆弾だって相当強力なものでないと無理だというのに、彼らはやってのけたのだ。

 そんな化け物に、パパや私が勝てるはずがなかったのだ。今こうして生きていることが、奇跡ともいうのかもしれない。

 私は自分の身体をみる。皮膚は擦りきれて、服がボロボロになってしまい、下着も見えてしまっている。でも羞恥心なんてなかった。心に広がる絶望と悲しみの方がずっと大きかったからだ。

 私はあの男の言葉を思い出していた。

 

『奴等は、化け物なんだ』

 

「化け物よ……こんなの……」

 

 彼の言葉は正しかった。それを理解するのにこんなにも多くの犠牲を払ってしまったのだ。あの男の言うことを聞いていれば、パパは死なずにすんだ。私も止められたのだ。

 もう今日は帰ろう。私は痛む体に鞭を打ってこの場から離れる。

 だが、その直前、音が聞こえた。何かが落ちるような音だ。

 

「……?」

 

 私は振り返る。瓦礫と死体の山ばかりで気分が悪くなるが、それでも音の発生源を探る。

 見渡していると、近くの瓦礫の山がわずかに動きがあるのがわかった。

 

(誰かいるの……?)

 

 私は近づいて確かめようとする。が、直後に足を止めてしまった。人造人間かもしれないと思ったからだ。

 

(いや、待って。動きがかなり弱々しい。人造人間なら直ぐに起き上がってもいいはずよね……)

 

 人造人間ならがばっと起き上がり、直ぐにでも生きている私を殺すだろう。だけどすぐには出てきそうにない。

 助けよう。私は止めていた足を動かして瓦礫をどけていった。

 

「…………あ、あなた……!」

 

 瓦礫の中に見慣れた人間がいた。服はボロボロで、身体中に傷があり、血がドロドロと流れている。でもそれでもわかった。彼は、孫悟飯だと。恐らく人造人間と戦ったのだろう。でも、彼は死ななかった。彼はこうして今も生きている。パパと違ってーー。

 

「っ……ぁ……」

 

「……っ、大丈夫!? しっかりして!! いま病院につれていくわ!!」

 

 いけない。この傷では放っておいたら死んでしまう。私はポケットから携帯を取り出し、救急車を呼ぼうとする。しかし、きっと町を爆破されたせいだろう、無惨にも壊れてしまっていた。

 

「そんな……どうしよう……隣町まで遠いし……」

 

 正直自分の今の状態では隣町まで背負っていける自信はない。かといって彼を見殺しにするわけにもいかない。どうしたらいいのか、わからない。

 

「くっ……ぅ……っ……!!」

 

 私の横で倒れている悟飯が突然うめきだした。慌てて彼に向き直ると、彼は無理して右腕を動かしていた。

 

「ダメよ安静にしてなくちゃ!!」

 

 私は彼の腕を掴んで止めさせる。だが、悟飯はその瞬間ものすごい悲鳴をあげて痛みを訴えた。

 

「あっ、ごめんなさい!!」

 

「はぁ、はぁ……た、たのむ……お、おれの……」

 

 悟飯はかすれ声で何かをいう。

 

「俺の?」

 

「お、おれの……はぁ、ポケットに……ゴホッ、袋が、ある。それをとってくれ……」

 

「袋……? 分かったわ」

 

 私は彼のズボンのポケットに手を入れて指示通り袋をとる。緑色の埃が被っている小さなものだ。私は封がしてある紐をほどいて中身を見る。

 

「豆……何よこれ?」

 

 中にあるのは2つの豆粒だった。私は一粒手に取ってみる。

 

「そ、それを……俺に、食わせてくれぇ……」

 

「こ、これを?」

 

 こんな豆粒食べたところで何もならないはずだ。でも、正直反論する気にもなれず素直に彼の口の中に入れる。

 力なく彼は豆を噛み砕き、ごくりと飲み込んでいく。するとーー。

 

「くっはあ……生き返った!!」

 

「えっ……?」

 

 急に悟飯はがばっと瓦礫の中から起き上がり、埃を払い始める。

 

「あと少しで死ぬところだったな。でも奴等の攻撃を受けて死ななかったのは奇跡だぜ……」

 

「えっ、えっ……?」

 

 私は困惑する。何故悟飯はこうして元気そうに身体を動かせる? さっきまで傷だらけで今にも死にそうだったのに何故……?

 ふと私は思い出した。そういえば彼は豆を食べたんだ。もしかしてこの豆が彼を治してくれたのか?

 

「よっと」

 

 私の疑問をよそに悟飯は瓦礫から抜け出し、立ち上がった。身体中の傷はいつのまにか塞がっており、血も止まっている。もしあの豆のおかげだとしたらどんな特効薬をも凌駕する効力だ。そんなものいったいどこで手にいれたのだろうか……?

 

「ふぅ……ありがとな、仙豆食わせてくれて」

 

「えっ? あ、ああどういたしまして……」

 

 自分の思考にどっぷりはまってしまい、ビックリしてしまった。しかし本当に豆で回復したようだ。

 私は彼の見る。傷口を確認するためじゃない。

 

「あなた……人造人間と戦ったの?」

 

 私は尋ねる。悟飯は表情を険しくさせながら答えた。

 

「ああ。だが、奴等に全く歯が立たなかった」

 

「……そうなんだ。まあ、そうよね……あたしのパパだって歯が立たなかったんだから」

 

「…………」

 

 そう、私のパパですら歯が立たず、殺されてしまった。最強だったはずのパパが殺されたのだ。希望なんてもうない。パパで勝てない相手なのにどうやって勝てばいいんだ……?

 ……何弱気になってんのよ。

 私は、ミスターサタンの娘よ? そんな弱腰でどうするの? もっと修行して、もっと強くなって、それで倒すんだ……!

 

「絶対に……許さない……パパの仇は、私がーー」

 

 想いを込めて拳を握りしめる。だがーー。

 

「よせっ!! 無駄に命を捨てるだけだ!!」

 

 悟飯は厳しい表情で叫んだ。とても感情的で、怒っているようにも思えた。だけど、私には受け入れられなかった。

 

「無駄に命を捨てるだけ!? 私はミスターサタンの娘よ、父親の仇をとるためなら命なんて惜しくない!!」

 

「無茶だ!! 君じゃ何年かかっても、いや、一生かかっても奴等は倒せない!!」

 

 一生かかっても、ですって?

 この発言には流石に頭に来る。私はもう理性が無くなり、怒鳴り散らす。

 

「なんであんたが決めるのよ!! 私が女だから!? それにあんただって同じことよ!! 私よりも弱いくせにごちゃごちゃ言わないでよ!!!!」

 

 ガーガーと言い続けて、息を乱す。悟飯は怯んだ様子もない。私のいうこと、わかってないの? 

 悟飯は睨むように目を細めてこう言い放った。

 

「君は人造人間と戦った時、奴等にダメージを与えられたのか?」

 

「ッ――!?」

 

 私は図星を突かれて何も言えなくなってしまった。怒りに任せて拳を奮ったのだが、全く通じなかった。怯みもしないし、笑いさえする、そんな奴等だった。

 

「無理だっただろう? 君には、いくら頑張っても無理だ。次元そのものが違うんだ」

 

「……そういうあなたはどうなのよ? こうしてボロボロにやられているじゃない!!」

 

 私はキッとにらみ、言い返す。だが彼は目をそらさずすかさず反論する。

 

「そうだな、俺もまだまだ修行不足だ。だが、奴等を倒せるのは今のところ俺しかいないと思っている。俺がもっと強くなって、奴等を潰すんだ」

 

「あなたは奴等と戦える次元に到達しているとでもいうの?」

 

「ああ。というよりいま生きている人間のなかでは、一番近い存在だ。だが、それですら遠い」

 

 私はイライラしてきた。私が格下のような言い方は本当に腹が立つ。私は世界でナンバーツーだ。なのにどうして格闘界で名前も知られてないような奴にこうも言われなきゃいけないのか?

 

「なら、貴方の実力を証明して見せてよ。私と戦って」

 

 そうだ、何にも知らないこの男に私の強さを教えてあげればいい。自分がいかに愚かなことを言っていたか、後悔させてやる。

 だが悟飯は鼻でふんと笑ってこういった。

 

「やめておけ。もう結果は見えている」

 

「貴方の勝ちっていう結果? でもそれは……」

 

 私は疲れた足に無理矢理力を込め、地面を蹴った。

 

「やってみないと、わからないんじゃない!?」

 

 前進する身体の勢いを利用して右拳を突きだし、悟飯の顔面めがけてストレートパンチを繰り出す。だが、彼は妙な行動をとった。

 

(動かない……? まさか棒立ちになって私の攻撃の強さを確かめようっていう魂胆? それならーー望み通り全力で殴ってやるわ!!)

 

 限界まで引かれた右腕が勢いよく突き出され、拳が唸る。悟飯の顔面までもう数ミリもなく、彼の鼻っ柱をへし折るような感じで気を抜かず、彼の顔面を直撃するーー。

 だが、突然彼の姿が目の前から消えた。

 

「えっ……!?」

 

 私は振った拳を元に戻しキョロキョロと辺りを見渡す。しかし、悟飯の姿は全く見当たらなかった。さっきまで確かにそこにいたはずなのに。

 

「ど、どこなの!?」

 

「後ろだ!!」

 

 私の背中がブルッと震え、はっと後ろを振り返る。するとそこには悟飯が立っていた。

 

「い、いつの間に……?」

 

「今度はこっちからいくぞ」

 

 悟飯はそう静かに宣言すると、彼の体がふっと消えていった。

 

「消えたっ!?」

 

 どこにいったのだ? 彼は今どこに……?

 私が虚を抜かれていたその間にーー悟飯は私の目の前に移動していた。

 

「ーー!?」

 

 私は驚いて体を仰け反る。だが、その隙すら悟飯は許さなかった。

 

「せいっ!!」

 

 殴られる。そう確信した私は腕を交差して体を守る。

 だがーー痛みが走ったのは腹ではなかった。

 

「いたっ……!!」

 

 私は痛む場所を押さえる。そこは、額だった。彼の手元を見ると中指が前に突き出ていた。それで私は察した。彼は私の額にデコピンをしたのだ。

 だが、ただのデコピンじゃない。有り得ない速度で接近し、私の反応よりも早くデコピンを決めて見せた。もしこれが実践なら、きっと私は反応する間もなく全力の拳で骨が砕けていることだろう。ほとんどの人間のパンチを見切れないことはないと思っていた私が唯一無理だと思ったのだ、彼の強さは半端じゃない。

 

「……これで分かっただろう。君ではいつまでたっても、奴らを倒せない。これはもう、超えられない壁なんだ。そしてそれを超えたところで、奴らに届く可能性は限りなく低い。俺を超えない以上、話にすらならないんだ」

 

 悟飯は見下すように顎を引く。

 もうお前は何をやっても無駄だ。俺以外に戦える奴はいない。

 そう、彼の眼が言っていた。

 

「……そんなの、分からない」

 

「分からないだと?」

 

 悟飯がいぶかしげに目を細める。私はぐいっと彼に迫る。

 

「ええ、やってみなきゃわからない。貴方がどんなにすごくても、努力すればあなたを越えられることだって、あるわ!!」

 

 たしかに、彼の見せた《力》は私たちでは考えられないものだ。普通目の前で人は消えはしないし、突然現れたりはしない。それを習得できるなんて、考えたこともない。

 でも、人は努力すればなんだってできるとも思っている。きっと彼だって血のにじむ努力を重ねてこうなったんだ。だったら――天才格闘家の血を引く私に、できないなんて、ありえない。

 私は彼の目をまっすぐ見る。彼も逸らさず私を見つめる。情緒の欠片もなく、だ。

 

「……わかった。なら好きにしろ。でも、これだけは約束してくれ。――死ぬな」

 

 悟飯はそれだけ言って後ろを振り向いて去る。私も、これ以上彼と話をしたくなかったので何も言わず同じく背を向けてその場を歩み去った。

 ふと振り返って見ると、彼はいつの間にか宙に浮いていた。そして白いオーラを体に纏い、土煙を巻き上げながらジェット機をも上回るような速度で空の彼方へと消えていってしまった。

 

「……うそ」

 

 空も飛べるような相手をどう超えろというのか。人造人間は彼をすら余裕で超えるのだ、ますますお先真っ暗だ。

 

「いや、やるんだ。けがを治したら早速特訓しなきゃ!!」

 

 私は痛みをこらえながら隣町までの道を踏みしめようとした。だがーー

 

「あ、れ……?」

 

 足がうまく地面につかず、グラッと体が揺れていきそのまま地面に倒れ込んでしまう。立ち上がろうと両手をつくが、力が入らない。

 

(……なんだか眠くなって……)

 

 瞼が重く感じ、視界が閉ざされていく。意識も朦朧としはじめ、力が抜けていき……そのまますべてを手放した。

 

 

 

***

 

 

「残念なお知らせです。世界の英雄、ミスターサタンが人造人間に敗れ、この世を去ってしまいました。。もはや希望はついえました。私たちはもうおしまいなんでしょうか……」

 

 ラジオから聞こえるニュース番組のアナウンサーが悲壮極まる声でミスターサタンの死を告げている。きっと全世界の人間は絶望に打ちひしがれ、人造人間から逃げ回ることを決めているだろう。

 だが、カプセルコーポレーションの地下室で黙々とパソコンとにらみ合っているブルマは、諦めていなかった。そもそもミスターサタンの実力では人造人間に勝てないことを分かっていたというのもそうだが、ブルマにはある考えがあった。

 

(奴らは機械。ということは弱点がどこかにあるはず……)

 

 たしかに人造人間は強い。悟空を除けば最強だったベジータをあっさり葬ったほどなのだ。悟飯が必死になって人造人間と戦っているが、ブルマは内心諦めていた。悟飯は確かに強くなっているが、それでもベジータや、父親の悟空を超えたとは思えない。それに奴らは永久式エネルギーを内蔵しているので、スタミナが無尽蔵である。そのため長期戦になったら明らかに不利になる。

 だからブルマは若いころから培われている頭脳を駆使して科学的に攻めていた。

 

(でも、正直環境が悪すぎるわ……)

 

 人造人間によって破壊されたこの世の中において、研究物資が手に入りにくい。そのため研究が進まないのである。人造人間の設計図の一部を解析できたのも、つい最近なのだ。

 

(でもこのままじゃ、どんどん人が死んでいく。早くしないと……!)

 

 焦りに駆られたブルマはキーボードに指をかけて文字を打とうとする。しかし、近くにおいてあるモニターが突然点いた。

 

「母さん、今いい?」

 

「あらトランクス! 帰ってたの?」

 

 息子の顔を見てブルマはほっとする。でも緊迫した様子だ。

 

「うん、ただいま。それでさ、帰る途中で女の子が倒れていたんだけど……」

 

「なんですって!? 連れてきたの?」

 

「うん、医務室に連れて行ったんだ。ボク怪我の事よくわからないから……」

 

「待ってて、すぐ行くわ!」

 

 ブルマは席を立って医務室へと向かった。

 早歩きで医務室にたどり着くと、ベッドの側に息子のトランクスがいた。

 

「トランクス!!」

 

「あっ、母さん! こっち来て!」

 

 トランクスがブルマに駆け寄って手を引き、ベッドまで連れていかれる。するとトランクスの言う通り、ベッドで一人の女の子が横になっていた。ボロボロの服を纏い、あちこちに傷が目立つ。

 

「……凄い怪我ね。トランクス、机の上にある救急箱とって」

 

「わ、わかった!」

 

 トランクスが救急箱を取ってくるとブルマは手際よくガーゼで彼女の止血を行う。

 

「この子はたぶん高校生ね……可哀想に」

 

 ブルマは近くに置いてあるタオルを手にとって彼女の血やら土やらを拭いていく。

 これだけの傷を負う理由はただ一つ、人造人間に襲われたとしか考えられない。

 

「人造人間……なんて酷いことを……」

 

 ブルマは拳を握りしめ、怒りに震える。こんな時代になったのもすべて奴等のせいだ。許せるはずがない。

 一刻も早く奴等の弱点を突き止めて、破壊しなければならない。決意を一層固めブルマは席をたつ。

 

「トランクス、この子の看病お願いできる? 母さんちょっとやることがあるから」

 

「あっ……えーっと……その……」

 

 トランクスは目を逸らして両人差し指をツンツンとつついている。ブルマは訝しげにトランクスを見つめた。

 

「何? 何かあるの?」

 

「その、俺も修行しようかなーって」

 

「……ハァ」

 

 ブルマはため息をつく。最近トランクスは悟飯の影響で修行したがるからだ。悟飯が直向きに人造人間に立ち向かう姿を見て憧れてしまったのだろうが、母親からしたら命を落とすかもしれないことに突っ込んでほしくないのが本望だ。例え人造人間を倒せるもうひとつの可能性だとしても。

 

「じゃあせめて私が帰ってきたからにしてちょうだい。この子を一人にするのは流石にだめだからね」

 

「はーい」

 

 トランクスの返事が聞こえるとブルマは医務室を出た。修行なんてさせたくないが本人が望んでいる以上止められない。自分の若い頃にそっくりだからだ。どんなに無茶だとしても諦めず突っ走ってしまう。そんな自分の遺伝子を濃く受け継いでいるのだろう。

 ブルマが研究室の前のドアに立つとドアの目の前のモニターが反応した。パスコードを入力しようと手を伸ばすが、突如ポケットにある通信機がブルブルと震える。ブルマは手にとって応対する。

 

「はい、もしもし」

 

「ブルマ様、お客様が来ております」

 

「お客? 誰かしら?」

 

「チチと名乗っております」

 

「チチさん!? 懐かしい名前ね。通してちょうだい」

 

「畏まりました」

 

 懐かしい名前に思わず大声をあげてしまったが、ブルマはすごく嬉しい気持ちになった。ここのところ友人が誰一人として遊びに来れなかったからだ。人造人間から逃げるために。

 ブルマは玄関まで向かい、ドアを開ける。

 

「こんにちはチチさん!」

 

 ブルマの声を聞いて一人の女性が駆け出した。中華風の服を纏い、お団子を作った髪形をしている。間違いない、彼女は今は亡き孫悟空の妻、チチだ。

 

「あ、ブルマさん……久しぶりだべ」

 

 訛ったしゃべり方は変わっておらず懐かしさを感じる。でも、声に覇気がなく表情も窶れている。それに少し悲しみも覚えてしまう。

 

「とりあえず中に入って。お茶を出すわ」

 

「ありがとだべ」

 

 チチを客間に通し、お茶を淹れた。チチは会釈をして少しだけ啜るように飲む。

 

「それで……最近はどうなの?」

 

 ブルマは穏やかな口調で切り出す。チチは微笑しながら答えた。

 

「どうもこうもねえだ。毎日パオズ山に籠っておっ父と暮らしてるだけだ」

 

「そうよね……外に出られないもんね……」

 

「んだ……みんな、いなくなっちまうしな……」

 

 チチの言葉で空気が重くなる。すでに沢山の仲間がこの世を去っていて、今も人造人間に怯え続けている。

 どう言葉を続けていいかわからずしばらく沈黙が続く。チチはずっとうつむいていた。ブルマはそれを見てとても悼まれない気持ちになる。最愛の夫を失い、息子は人造人間と戦うために離れていく。今チチは独りなのだ。心に深い傷を負っていても無理はない。

 

「なぁ、ブルマさん」

 

「何かしら?」

 

「悟飯ちゃんは元気か……?」

 

「元気よ。人造人間と戦うために今頑張ってるけど」

 

「……学校にはちゃんと、行けてるだか?」

 

「ええ。チチさんのいう通り、学校には行っているわ」

 

「そっか……それはよかっただ」

 

 このご時世に学校のことを案じるとは、まだ教育ママらしい部分が残っているようだ。ブルマなんてトランクスの学業のことを考えてやる暇もない。というか暇な時間に自分が教えてしまっている。

 でもチチの顔色は曇っている。悟飯はもう戦うために親元を離れていってしまったのだから。今の悟飯はチチの住んでいるパオズ山ではなくブルマの家のカプセルコーポレーションを拠点としている。その事実が余計声をかけづらくさせてしまう。息子を奪っているのと同じような感じだからだ。

 再び沈黙が場を支配して時間が流れていく。その流れを打ち破るすべを考えていると、ポーンと音が響く。客間の前に設置したインターホンだろう。

 

「誰かしら?」

 

 ブルマは手に通信機を握り、応対する。するとーー

 

「あっ、ブルマさん。今お客さん来ているんですか?」

 

 悟飯だった。悟飯の声が聞こえたのだった。ブルマは一瞬肩を跳ねさせ、チラリとチチを見る。

 

(ダメね……気づいてる)

 

 チチの表情は明らかに驚きに満ちていた。悟飯の声を聞いたのだ。まるで長い間探し求めていたものが突然目の前に現れたときのような反応だ。

 ブルマは一瞬迷った。この二人を会わせるべきか否か。

 でも、このチチさんの顔を見たら会わせないなんてできない。だからブルマはちょっと待っててと悟飯に小さくいってスイッチを切った。

 

「悟飯ちゃんが……悟飯ちゃんがいるんだか……?」

 

「そうよチチさん。悟飯君を通しましょうか?」

 

「お、お願ぇだ!! 会わせてくれねぇか!?」

 

「いいわよ。じゃあ私は席を外すからね。親子水入らずでね」

 

 ブルマは多少の不安を抱きながら部屋を出る。勝手に出ていった息子と母親、どうなるのか本当に怖い。

 

「あ、ブルマさん。どうしたんですか?」

 

 悟飯はボロボロの服装でドアの前にいた。きっと人造人間と戦ってきたのだろうが、傷がないので恐らく仙図を食べたにちがいない。

 

「お客さんが悟飯君に会いたいそうよ」

 

「え、俺にですか? 誰なんです?」

 

「それは、会ってからのお楽しみよ」

 

 ブルマはそれだけいってその場を去った。そして、そのとなりのモニター室へと行ったのだった。

 

(大丈夫かしら、あの二人……)

 

 ブルマは心配しながらもテキパキ操作をしてモニターのスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チチと悟飯、ビーデルと悟飯。二人の関係をかければと思います。チチのところなんかは特に書きたい。

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