ドラゴンボールZ ~未来の戦士の戦いの記録~   作:アズマオウ

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サタンさん……。


英雄の死

「さて、ゲームの続きだ」

 

 冷酷に、しかし無邪気に告げられた人造人間の言葉は、静かに盛り上がっていた空気を刺し殺した。だが、それでもパパは何もひるまなかった。胆力があるのか、単に目立ちたがり屋なのか。どっちかは、パパにしかわからないことだろう。

 

「ゲームだと? お前がやせ我慢していることは知っているんだぞ……?」

「へぇ……じゃあ、それを証明して見せろよ。お前おパンチが本当に効いているのか」

「なんだと?」

 

 パパは目を見開く。人造人間はつかつかと歩み寄る。

 途端に―――。

 

「奴は……殺される」

 

 隣から声が聞こえた。見ると、またも例の転校生、孫悟飯だった。険しい表情だけは変わらない。そして、目は真剣だった。

 彼のいうことはでまかせだ。パパが嫌いなだけだ。本当に馬鹿なのは彼のほうだ。

 ―――本当に?

 彼は実は何も間違っていない可能性もある。

 レベルが違いすぎるのかもしれない。

 もしかしたら本当に、パパは殺されるかもしれない。

 でも、そんなこと―――。

 

「これから俺はお前の腹にパンチする。それをよけてみろ」

 

 人造人間の突然な言葉に私の意識は現実に戻ってくる。その言葉は明らかにパパをなめているとしか思えない。そして―――私をますます不安にさせた。

 

「何をバカなことを……だが、いいだろう。そのまま反撃してもいいか?」

「やってみろよ。できるものだったらな」

 

 そういって、人造人間は腰を落とし、腕を引いた。見え見えの動きだ。これなら、躱せる。そしてパパのカウンターが決まって終わる。

 そうだ、これで終わるんだ。何を恐れている。パパはチャンスをもらったんだ。これで全部が―――終わる。

 

 けれど。

 

「がっ……はぁ…………」

 

 全ては一瞬だった。目にも見えない、一瞬のことだった。驚きのあまり、私は声すら出ない。

 

「いったい……何が……」

 

 パパは、地面に突っ伏した。

 どさっ。

 この音が、この擬態音が、あたり一面に響く。ピクリとも動かないパパの姿を、私はただ見つめる。

 

(嘘……よね? パパがやられるはずが……)

 

 私は必死に否定する。人造人間に殴られたから、倒れたわけじゃないんだ。きっと、足をつって倒れて頭を打ったとか、そういうことなんだ。

 そう信じる。そう、信じたいのに……。

 どうしようもなく涙が滲んできて。

 どうしようもなく悲しくて。

 どうしようもなく、信じられなかった。

 そして。

 どうしようもないほどに、怒りが頭を貫いた。

 

「ぁ……ぁぁあああああああああッッ!!!!」

 

 視界が真っ赤に染まる。人造人間しか見えなくなる。殺意しか、感じられなくなる。でも、それでいい。今はそれでいい。今は、こいつらを殺す、いや壊せばそれでいい。

 

「やめろっ!!」

 

 誰かが制止した。でも、止める気はない。私は迷うことなく地面を蹴った。

 

「うああああああっっ!!!!」

 

 普段の私とは思えないほどの雄叫びをあげながら奴等に迫る。奴等は相変わらず、無邪気な笑みで迎え撃つ。その笑みのせいで何人の人が死んだんだ? ふざけるな……。

 

「ふざっけんなぁっ!!!!」

 

 私は全力で顔面を殴った。完全な殺意を形にかえ、遠慮のないストレートをぶつける。手応えはある。かなり堅い体だが、ダメージは通るはず。

 けれどーーー現実は非情だった。

 

「それが本気か? まああのアフロよりかは強いけど……それでも弱いな」

「う……そ……」

 

 パパより上だということに驚いたのではない。全く効き目が無いことに驚いた。余すことのない渾身のストレートだ。なのにもかかわらず、一切のダメージを受けていない。

 悔しい……何で届かないの……。

 何で……!!

 

「っ……あぅ……」

 

 突然私は首を捕まれた。片手で軽々と持ち上げられ、徐々に締め上げられる。息は簡単に通らなくなり、苦しくなっていく。喘ぐように空気を求めるも、それは無駄な足掻きでしかなかった。

 

「このっ……このぉ……!」

 

 私は抵抗しようと、ぶら下がる足を懸命に動かして腹を蹴っている。しかし当然ながらまるで怯んでない。

 

(そんな……何で……私はミスターサタンの娘よ……)

 

「くそっ……負けないわよ……負けたく、ない……!!」

 

 私はもがいて逃れようとした。でも、動かない。命はだんだん削られる。悔しい。パパの仇に殺されるだなんて……嫌だよ……。

 涙がこぼれる。視界がにじむ。意識が……消えていく。

 

「っ!!」

 

 だけれども……私の体は何故か解放された。首を絞めていた手が離れ、空気が喉を通り始める。地面に落とされた私は咳き込み、どうにか落ち着かせた。

 一体どうしたのだろう。私はちらっと人造人間をみる。すると、私の反対方向を向いていた。そこには一体何があるのだ? 私も思わず気になって見た。

 

 孫悟飯だった。孫悟飯が右手をかざして睨み付けている。

 

「……おいおい、楽しみを邪魔するなよ」

 

 人造人間は孫悟飯に文句を言う。

 

「か弱い女の子をいたぶるのは感心しないな。それにいい加減貴様らを倒したいんで我慢できなかったのさ」

 

 か弱いと言う言葉に若干苛立ちを覚えたが、今は噛みつく余裕がなかった。

 今はなんとしても、みんなをつれて逃げなくては。私は必死に弱った体に鞭打って立ち上がり、よろよろと野次馬たちへと近づいた。

 

「ビーデル!!」

「ビーデルさん!!」

 

 皆が心配そうに声をかける。

 

「皆……とりあえず……逃げて……。奴等は危険すぎる……」

 

 私がかすれ声でどうにか伝えると、皆はそそくさに逃げ始めた。私は友人のシャプナーに担がれて逃げた。

 

「そうはさせるかよ」

 

 私の鼓膜に、人造人間の冷淡な声が響いた。気がした。まさか……殺す気なの?

 私はシャプナーにそれを伝えようとした。

 

「シャプーーー」

 

 だが、その時には目映い閃光が私の視界を奪い。

 意識を遥か彼方まで消し飛ばしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 俺は言葉がでなかった。

 逃げ惑う人々が、無惨にも人造人間たちにエネルギー波で殺された。勿論、あのミスターサタンの娘も、死んだ。

 

「……そったれ……」

「ん? 綺麗になったろ? これで思う存分この町で戦えるぜ」

「くそったれぇっ!!!!」

 

 俺は、激昂しながら気を高める。遠慮なんか要らない。こいつらには全力でぶつかって、速攻で倒す。そうすれば、未来は救われるから。

 金のオーラがやがて俺を纏い始め、髪が金色へと変色する。

 

「またそれかよ……飽きないな」

 

 人造人間が呆れているが無視する。これなしでは戦えないのは事実だ。俺は腰を落とし、地を蹴った。

 

「うあーーーっ!!!!」

 

 俺は右足で回し蹴りを放つ。人造人間はそれを容易くかわす。だがそれは予想の範疇だ。回し蹴りで流れた足を再び素早く戻した。意表を突かれたようで、後頭部にヒットする。

 

「ぐっ……!」

 

 17号はこの戦闘で初めて笑顔を崩した。ようやく本気になったか。

 俺は反撃を食らう前に下がっておく。しかしそれを許すまいと17号はエネルギー波を放った。俺は右腕を素早く払って弾く。その間にも人造人間は迫っていた。

 そこからは殴り合いになった。素早く飛んでくる拳を裁き、その隙に攻撃を加える。それを人造人間は受け止める。一進一退の戦闘だ。手応えは……ある。

 

「うらぁっ!!」

 

 俺は生まれた隙を利用して思い切り蹴りを入れた。17号は大きく吹っ飛び、ボロボロのビルに突っ込んだ。

 

「これで終わらせてやる……!!」

 

 俺は息を吸うと、指二本を額に押さえる。全身の気をすべて指先に集中させていく。すると、指先にスパークが巻き起こる。

 そう、これは俺の永遠の師匠から盗んだ大技だ。決めるなら、これで決めてやる!!

 俺は、その技を大声で叫んだ。

 

「魔貫光殺砲ーー!!!!」

 

 突き出された指先は真っ直ぐビルへと向けられ、そこから光線が発射された。凄まじい速度でビルを貫き、盛大な爆発音をたてた。この技を喰らったら間違いなく死ぬ。貫通力が桁違いだからだ。ずっと昔にお父さんとピッコロさんがサイヤ人と戦ったとき、その技でサイヤ人を殺したのだから、きっとこれで終わりだ。

 煙が舞い、ビルは完全に倒壊する。さあ、生きているか……?

 俺は目を凝らして、状況を確認する。煙もそろそろ霞始めている。

 すると、そこに人影が見えた。嫌な予感がする……。一般人か? それともーーー。

 

「そ、そんな……!?」

 

 思わず声に出ていた。足もガクガク震えている。目の前の光景が信じられない。

 

「お、俺の……ピッコロさんの魔貫光殺砲が……嘘だろ……」

 

 そう、奴は魔貫光殺砲を受け止めていたのだ。証拠に、片手を俺の方に翳していた。恐らくあれで受け止めたのだろう。

 万事休す。

 俺はそう静かに悟った。こいつらには勝てない。全力での一撃もこの様だ。全身から力が抜け、戦意すら挫かれていた。目一杯修行していたのに、通用しなかった。何でだ。何でだよ。何が、足りないんだよ……!

 ーーーもう、考える意味はない。俺はここで消されるんだ。

 まるで他人事の様に俺は感じていた。遠い世界で、無力な男が独りで戦っている。その事実を観測しているだけのように感じる。だからそこで死のうが、関係がないのだ。本当は違うのに……そう思ってしまうほどに、俺は絶望していた。

 だから……奴等が放ったエネルギー弾を躱すこと無く、俺は薄ら笑いを浮かべ続けていた。




次回で章は終わりです。そのあとどうしようか考えてます。

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