ドラゴンボールZ ~未来の戦士の戦いの記録~   作:アズマオウ

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どうもアズマオウです。

今回は、あの惨劇の話です。全員が死にますが、少しだけ原作とは違います。本当に少しだけ。

ではどうぞ!


仲間と師匠の死

 悟空が死んでから1年後の、エイジ767年。この年は地獄の始まりの年として後の世にも認識されている。これから17年ものの長い年月をかけた戦いが始まるのだった。

 

 そう、この年に悪魔が現れたのだ。2人の人造人間が、はじめて人間の前に姿を現したのだ。

 

 

***

 

 俺ーーベジータは、漫然と時を過ごしていた。殺害対象でしかなかったカカロットが、あっさりと消えていなくなってしまったからだ。誰に殺されたわけでもない。病気でポックリ逝っちまったのだ。

 

 俺は、奴を殺すことしか考えていなかった。奴を殺すのは俺だと信じて疑わなかった。だから俺以外の奴が、カカロットを殺そうとした時、俺は加勢したことだってある。

 全ては自分の殺害欲のためだった。カカロットを殺せればそれでよかったのだ。

 だが、心臓病という、俺にはどうすることもできないものに奴は殺された。ウイルス性だったらしく、未知の範囲だった。ブルマが急いで特効薬を作り上げていたが、それも間に合わなかった。奴は、突然この世から永遠に消え去ったのだ。

 

 だから俺にはもう目標もない。生きる意味もない。あるとすれば、ブルマという女の間に生まれた息子、トランクスの世話だが、正直やり方がわからない。父親とはどうすればいいのか、全くわからない。

 

 また、俺の性格もいつしか丸くなっていった気がした。人を殺すことに興味もなくなっていったし、戦いたくもなかった。この地球が、平和が、好きになっているのかもしれない。

 

 だから今日も、修行せずに一人高地で昼寝している。この高地の景色が好きになって、穏やかになっていった自分を憎らしく思いながら。

 

(くそったれが……)

 

 もう考えるのはやめにしよう。考えても奴は再び俺の目の前には現れない。寝てしまおうと目を瞑った瞬間だった。

 

 どっかーーーーーーん!!

 

「!?」

 

 突然爆発音が響いた。勢いよく起き上がり、高地から下を見下ろす。すると、下にある町が、煙をあげているではないか。だが、誰の仕業だ?

 

 高層ビルが縦に真っ二つに割れている。あれは爆弾では不可能だ。しかも、連続的に爆発が轟いている。俺はすぐに気を探り、誰の仕業か確かめることにした。フリーザ? いや、奴はカカロットによって二度も倒されたんだ。生きているはずがない。まあフリーザなら、俺一人でも倒せるはずだ。恐れることはない。さっさと出てこい……。

 

 けれど、いくら探っても気は現れなかった。破壊は今も続いているのに。しかも、明らかに気攻波による攻撃だ。気が発生しているはずなのに。妙だ。何か嫌な予感がする。

 

 俺は近くにある携帯端末の電源をいれる。ブルマからもらった最新モデルだ。取り合えず、ブルマに電話を掛ける。

 

「ブルマ、南の都で何が起こっているんだ!?」

 

 ブルマが電話に出るや、すぐに質問をぶつけた。

 

「もしもしくらい言いなさい。んで、何が起こってるかって? ラジオ聴けばわかるけど、襲われているのよっ! 人形のロボットに」

 

「ロボット……? 何故そうわかる……?」

 

「クリリンが近くにいて聞いたのよ。気を感じないのに気攻波が放てるのは、人工的に作られたロボットの可能性があるって」

 

「なんだと……!?」

 

「とにかく破壊をやめさせて! あんたたちでいけばどうにかなるとおもうけど……ピッコロやヤムチャ、天津飯たちも向かってるわ。あんたもいけば大丈夫だと思う! だからいって!」

 

「分かった」

 

 以前の自分なら、勝手にしろと断っていた。だけど今は素直にいうことを聞いている。どうやら、本当に地球のせいで穏やかになってしまったらしい。あとは、平和とこの高地からの景色が好きなだけなのかもしれない。

 

 そんな気持ちを降りきろうと、フルスピードで南の都へと向かっていった。

 

 

***

 

 俺ーークリリンは、町の惨状に震えていた。5分しか時間がたっていないのに、町のほとんどが破壊されている。どうかんがえても、一般人には出来ない。ヤムチャや天津飯、ピッコロ、餃子、ヤジロベーもあまりの惨状に息を呑んでいる。死体は火傷しており、中には四肢がバラバラになっているものもある。死体は正直見慣れてはいるが、見たいものではない。

 

「すげえあり様だな……」

 

「ああ……ここまでとはな……」

 

 ヤムチャは、瓦礫に座り込んで息を吐く。

 

「一体どうなっていやがる……?」

 

 ピッコロは首を動かして、この町を破壊した奴を探した。だが、気は一切現れない。だがーー。

 

 

「あっ!!!!」

 

「どうした餃子……あっ……!!」

 

 突然餃子が、ふるふると震えながら上空を指差す。天津飯もつられてそこを見ると……二人の人間がそこにいた。俺もそれを確認する。

 

 まだ幼い少年少女だった。少年の方は、黒髪のショートカットで、無垢そうな顔をしているが、笑いが残忍だ。少女の方は、可愛い。金髪のショートカットで、かなり華奢な肉体をしている。けれど、両者とも恐怖を覚えさせる笑いを浮かべていた。そして、服には赤いリボンのマークがあった。あれは、かつて悟空に滅ぼされたレッドリボン軍のマークだ。だが、そんなことはどうでもよかった。復讐だとしても、悟空を狙いにはもうこれないのだから。

 

(あれが悪人じゃなければなあ……)

 

 俺は、一人どうでもいいことを考えていた。彼らの視線が俺と合った瞬間俺は目をそらす。殺されると思ったからだ。

 

「貴様らかっ!? この町を破壊したのは!!」

 

「そうだぜ」

 

「町を破壊するのは勝手だが……なんでか貴様らが気に食わん……ここで破壊させてもらうぞ」

 

「おお、怖い怖い」

 

 ベジータはいつもそういう理由で戦ってきた。けれど何故か今回は嘘をついているように俺は思えてきた。実際ベジータとブルマさんの間には息子がいる。ブルマさんや、息子さんを守るために戦うのかもしれない。そう思うと、俺はこんな状況なのに嬉しく思う。

 

「貴様らは手を出すなよ! ここは俺一人で片付ける」

 

「無茶いうな! 貴様一人では勝てんっ。みんなでかかるんだ」

 

 相変わらずプライドの高いベジータの発言にピッコロは噛みついた。ピッコロのいうことは正論だ。この中で戦闘能力が高いのはベジータだが、悟空が死んで以来、修行は一切していないと聞いている。だからみんなでよってたかった方が勝てる。

 

「ちっ……分かった。貴様はあの男の方を相手しろ。俺は女の方を相手する」

 

「分かった」

 

 珍しくベジータが案に賛成した。やはりベジータはプライドが薄れてきたのだろう。少し嬉しく思ってしまう俺であった。

 

「お前らっ。一斉にかかるぞ」

 

「……分かったよ」

 

 ピッコロが声を張り上げた。俺は、正直いきたくはないが、言うことにしたがった。

 

「そこのがらくた女。俺は一切容赦しないぞ」

 

「少しは楽しませてくれるんだろうね」

 

「……舐めるなよっ!!」

 

 ベジータは、気をフルチャージしてスーパーサイヤ人に変身した。髪が金色に変わり、金色のオーラがベジータを包み込んで、砂ぼこりが巻き上がる。ベジータは余裕の笑みを浮かべて、女のいる場所までゆっくりと上昇した。そして、殴りかかった。

 

「17号。邪魔しないでね」

 

「分かったよ。じゃあ俺は残りの奴を片付ける」

 

 17号と呼ばれた男の方は、俺たちの方を見て不敵に微笑んだ。

 

「迂闊に動けないぞ……」

 

 ヤムチャさんが震え声で言った。俺も同様だった。しかし、男の方は襲う気配がない。どうやらベジータの戦いを見るようだ。

 

 ベジータは、気を高めている。全力で戦うらしい。確かにすごい気だ。けれど、3年前に見せた悟空の気よりかは多少劣っている。

 

「たああああっっ!!」

 

 ベジータは、女へと殴りかかっていった。スピードもある。ここで決まるか。固唾を飲んで、俺たちはベジータを見ていた。

 

 だが、ベジータのパンチは、簡単に躱された。まだそこで攻撃の手は緩めず、高速のパンチを何発も繰り出す。しかし、女は余裕の表情で受け流し、躱していく。

 

「くそったれが!!」

 

 業を煮やしたベジータは、距離をとって、エネルギー弾を連射した。今度は全段当たった。土煙がごうごうと舞って、相手の姿はよく見えない。

 

「やったか……!?」

 

 俺は叫んだ。けれどそれは甘かった。土煙が薄れ、姿を現した女は、服がボロボロになっただけで、傷ひとつおっていない。

 

「うそ……だろ……!?」

 

 ヤムチャさんが、絶句した。あれほどの威力のエネルギー弾を全発食らっても傷ひとつつかないなんて。

 

「ば、バカな……」

 

 ベジータも震えながら女を凝視していた。女は、驚きと恐怖で満ちているベジータの顔を、面白可笑しい目でニタニタと見つめていた。もはや可愛いげのない、悪魔のように俺は見えていた。

 

「今度はアタシの番ね」

 

 小さく女が呟くと、高速でベジータへと迫った。ベジータはさっと構え、カウンターを狙おうと、拳を突き出す。

 

 が。

 

 女の拳がベジータの懐に入り込み、勢いよくめり込んだ。鈍い音が響き、ベジータの体は止まった。

 

「がっ……はあ……!」

 

 涎を垂らし、白目を剥きかけている。まさか一撃で……!?

 

 女の拳がベジータから離れる。すると、ベジータはなんの抵抗もなく地面へと落ちていった。金髪になっていた髪も黒に戻り、そのまま起きることはなかった。女はベジータの近くに寄って、起こそうとしている。

 

「あれ、こいつ死んだのかい? 弱いねえ」

 

 そういわれても起きない。気も感じられない。

 

 つまり、ベジータが死んだのだ。それもたったの一撃で。それらは俺たちに衝撃を与えた。同時にどうしようもない絶望がこの場を包み込む。

 

「くそったれがぁっ!!」

 

 突然ピッコロが、地面へと降りた女の方に殴りかかった。ベジータの次にこの中で強いが、勝てるわけがなかった。

 

「うおおっ!!」

 

「破れかぶれだ!! くそっ!!」

 

 ヤムチャさんも天津飯も二人に立ち向かう。だが。

 

 女の目の前に男が現れた。ピッコロを阻む形となったが、構わずピッコロは突っ込む。

 

「はああっっ!!」

 

 ピッコロは、まっすぐパンチを放った。が、男は難なく躱して、懐へ潜り込んだ。そして、ヘビーブローが、ピッコロの腹へと突き刺さった。

 

「ごっ……!?」

 

 ピッコロは唾を吐き、力が抜けていく。そして、腕が離れた瞬間、力なく地面へと伏した。

 

 ヤムチャさんと天津飯もあとに続く。しかし、ヤムチャさんは女に首を蹴られ、天津飯は男に脇腹を蹴られて、斃れていった。餃子は、ビームで木っ端微塵にされ、ヤジロベーは、腹をビームで貫かれて即死した。

 

 

 残されたのは、俺一人だけだった。

 

「なーんかつまんないよな」

 

「骨のある奴が多いと思ったけど、大したことないんだね」

 

「そこのハゲも弱そうだしな」

 

 二人がべちゃくちゃしゃべっていた。俺は怖かった。勝てるわけもないし、殺されるからだ。

 

「まあ、こいつも殺そうよ。めんどくさいし」

 

 女が鬱陶しそうに男にいう。男も頷いて同意した。

 

「そこのハゲさん、仲間殺されるってどういう気持ちだよ」

 

 男が聞いてくる。俺は非常に悔しかった。舐められている。絶対に負けないという自信からそういうことができる。しかも実際実力がある。これほどまでに理不尽で、悔しい思いはしたことはない。

 

「悔しいよ。みんなが殺されていく中、俺はなにもできなかったんだ」

 

「なるほどなあ……取り合えずお前を殺してやるよ。良かったな、仲間と一緒にいられるぞ?」

 

「フフフ」

 

 男が俺に近づいてくる。怖かった。チビりそうだった。謝って命を乞うことも考えた。

 

 だけど。それはしなかった。死んだ悟空に顔向けなんてできなくなるから。アイツは、どんなにピンチでも、諦めなかった。戦う意思を必ず見せていた。だから俺も、勇気を出す。

 

「お前たちは確かに強い。けどな、いつまでもお前たちがいきられると思うなよ」

 

「ん?」

 

 どうせ死ぬなら言いたいことは言ってやろうと思ったまでだ。

 

「悟飯だってまだいる。悟空の血を継いだあいつなら、まだやってくれる。俺たちの地球を……舐めるなよ……!」

 

「へえ、その言い様だと、孫悟空は死んだのか?」

 

「ああ、死んだよ。でも、まだ終わった訳じゃない! 悟飯が必ず倒してくれる!」

 

「なんかこいつめんどくさいね。もうやっちゃおう、17号」

 

「そうだな、18号」

 

「さっさとやれよ。だけど最後まで抗ってやる!!」

 

 俺は、さっと構えた。勝てるわけがないのに。だけど、諦めるつもりはもうない。戦って負けて死ねばいい。

 

 男の方が飛びかかってくる。俺はそれを危うく躱し、がら空きになった背中を蹴りつける。女も俺にかかってくる。俺は、女の強烈なパンチをどうにか受け止め、カウンターのパンチを顔面に放った。

 

「レディの顔を殴るとはね……いい気になってんじゃないよ!!」

 

「俺だって女の顔は殴りたくねえよ……でもお前だけは別だ!」

 

「調子に乗るなっ!」

 

 女は、俺の腹を蹴飛ばして廃ビルへとぶつけた。俺の体はずるずると落ちていき、地面に伏す。しかし、当たりどころが外れていたのか、どうにか生きてる。

 

「ぐっ……」

 

 俺はよろよろと立ち上がる。そして、両手を合わせて腰まで引いた。すると、両手で作られた空間にエネルギーが生まれる。それは徐々に大きくなっていった。

 

「か~め~は~め~……」

 

 破れかぶれだ。これを撃って見せる! 俺は、フルパワーで放った。亀仙流技《かめはめ波》。

 

「波ーーーーーー!!」

 俺は一気に両手を前に突きだして、エネルギーを放つ。ビーム状に延びていき、男の方へと向かっていく。

 

ーーどうだっ!?

 

 男はそれをただ凝視するだけにとどめる。しかし、当たるその寸前、男は腕を横に降って後ろへと弾いた。渾身の技が、いとも簡単に防がれたことにショックを覚えた。

 

 けれどそれでは終わらなかった。二人は指先を俺に向けて、エネルギーを溜める。逃げなくては。そう思ったが体が動かない。

 

ーーなんで、動かないんだよっ!?

 

 俺は必死に動かない体を動かそうとした。けれど足はがくがくしていて、息は切れ切れだった。

 

 数秒後、彼らの指先からビームが放たれ、俺の頭を貫いていった。

 

ーーごめん……悟空……地球、守れねえや……。

 

 天国にいるのであろう親友の姿が最期に映る。暖かい思い出が俺を包み込んでいき、やがて、果てしない暗闇に放り出されていった。

 

 

 

***

 

 

「気が……消えていってる……!」

 

 僕ーー孫悟飯は大急ぎで空を飛んでいっている。毎年ある塾の講習の最中、突然ピッコロさんやベジータさんの気が上昇したのだ。何があったんだろうかと胸騒ぎがした。修行なのかなと思ったが、すぐに気を落としたのだ。しかも0まで。ベジータさんだけでなく、ピッコロさん、ヤムチャさん、天津飯さん、餃子さん、ヤジロベーさん、そしてクリリンさんの気があまりにも早い速度で消えたのだ。修行じゃないだろう。だとすればーー。

 

「お願い……間に合ってくれ……!」

 

 この先を想像するのが怖くなった僕はさらに速度を上げた。山を越え、森を越えていくと、見えてきたのはーー焼け野原になった南の都だった。

 

 空はいつしか灰色の雲におおわれていった。僕は、廃墟と化した都に降り立ち、歩き始める。

 

 ひどい有り様だった。人の死体がごろごろ転がっている。腕をちぎられたもの、焼けどの跡が酷いもの、白目を剥いて死んでいるもの。とても見ていられず、走り抜けていった。

 

 しかし、僕はそこでこけてしまった。足になにかが引っ掛かったのだろう。僕は起き上がり、何が引っ掛かったかを確かめる。するとーー。

 

「これって……!?」

 

 僕は驚いた。何故なら、そこにはヤジロベーさんの刀が置かれていたから。しかも、ボロボロになっている。それを僕は拾い、鞘から刀を抜こうとするが、刀は鞘の中ではなく、地面に落ちていた。半分以上がへし折れた状態で。そしてその近くにはーーヤジロベーさんの死体が、あった。

 

「や、ヤジロベーさん!!」

 

 僕は急いで駆け寄る。ヤジロベーさんの傷はひどい様だ。腹のあたりが空洞になっており、血が大量に流れていた形跡が見られる。僕は急いでヤジロベーさんの腕をとって、脈を計った。

 

「……だめだ、死んでいる……」

 

 僕は、ゆっくりと立ち上がり、ヤジロベーさんから離れた。すると、僕のよく知っている人の姿が、ヤジロベーさんの近くに散在していた。

 

 首の骨が折れて有り得ない方向へと曲がっているヤムチャさん、泡を吹いて倒れている天津飯さんと餃子さん。嫌な予感が、僕を襲う。もしかして、あの人たちも死んでいるんじゃないかと。

 

 僕は、重くなっていく足を引きずるようにして前へと進む。瓦礫の山があちこちにあり、気がだるくなる。

 

 どうにか飛び越え、ふうと一息ついたその瞬間。ベジータさんとクリリンさんが斃れていた。クリリンさんは、頭に穴が開いていて、ベジータさんは、白目を剥いている。まさかベジータさんまでもがと僕は戦慄した。今この地球にいる最強の戦士はベジータさんだ。なのに、負けた。殺された。ということは、まさかーー。

 

 僕は頭を振って推測を消す。そんなことあってたまるか。もうこれ以上、僕の大切な人を失いたくない。僕は、早足で先へと進む。答えなど、知りたくもないのに。

 

 瓦礫の山をまた飛び越え、名前を呼ぶ。僕の師匠の名前を。けれど答えはない。絶望と不安が僕の心を病ませていく。でも僕はまだ抗っていた。そんなはずはないと、もう何百回も繰り返している。

 

 どのくらい進んだだろうか。僕は、疲弊した精神に鞭を打って、歩き続ける。だが、物音が聞こえた。なにかが崩れ落ちる音だ。 僕はその方向を向く。瓦礫の山からだ。そこから緑色の手が伸びている。それを見た瞬間、僕は飛び出していた。瓦礫を取り除き、その手を引っ張りあげて地表へと出してやった。その人物を見た瞬間、僕は目が潤む。

 

「ピッコロさん!!」

 

「ご……は、ん……」

 

「しっかりしてください!! 今すぐブルマさんのところに……」

 

 ピッコロの傷は一ヶ所だけだったが、腹のあたりがめり込んでいる。

 

「ふん……も、もうおれは……なお、らん」

 

「なにいってるんですか!! しんじゃだめですよ、ピッコロさん!!」

 

 僕は泣いていた。そういえば以前にもあった。サイヤ人が地球に来たときだ。僕をかばってピッコロさんが死んだ。あのときはどうにか生き返らせられたけど、もう、無理なんだ。だからどうにかしないと……。

 

「むだだといってる、だろ……。そんなことより……おれのはなしを、きけぇ……」

 

「で、でもっ……!」

 

「いいから、きけぇぇ……!!」

 

 弱々しかったが、僕はビクついた。修行してくれたときの厳しいピッコロさんのようだったから僕は黙るしかない。

 

「い、いいか……俺たちをころしたのは……人造人間だ……」

 

「人造……人間……」

 

「見ての通り……半端じゃない強さだった。いちげきでこのざま、だぜ……?」

 

「……」

 

「のこされたのは……おまえだけだ……お前なら……やつらをたおせる……いつの日か……」

 

「むりだよ……むりですよ……」

 

 僕には無理だ。ベジータさんやピッコロさんでも歯が立たなかった敵に勝つなんて。

 

「きさまは……孫の息子だろ……なら……できるはずだ……」

 

「でも……でもっ……!!」

 

「わかったか……? おまえが……世界を救え……じゃないと、未来は、ない」

 

「……っ!」

 

 僕は、涙が出てきた。目の前に倒れている人がいるのになにもできない自分、みんなが戦っているのに、のんきに塾へといっていた自分が憎くてたまらなかった。一年前のお父さんの死の経験が活かせていない。そのせいでまた僕の大切な人が、いなくなってしまった。

 

「つらいことをいっているのは……わかる。だが、おまえにしか……できないことだ……」

 

「うぐっ……うう……」

 

「……」

 

 ピッコロさんは、僕の堅く握り締められた拳をそっと握る。はっと僕は顔をあげた。優しいピッコロさんの顔が、見える。

 

「すまなかった……こんなうんめいを背負わせたのは……俺のせいでも、あるんだ」

 

「え……どういうことですか?」

 

 どういうことだろう……ピッコロさんは僕になにしたんだろう。謝るようなこと……?

 

「お前に……戦いを教えたことだ……」

 

「戦い……?」

 

 そういえば教わった。5才の時だ。サイヤ人襲来に備えてのことだった。勉強に明け暮れていた僕を無理矢理さらって、修行させられたんだ。

 でも、それとこれは……別だ。そういいたいのに……言葉がでない。

 

「全ては、俺のせいだった……すまん……」

 

「そんなこと……言わないでくださいっ」

 

 僕の声は涙で濡れていた。ピッコロさんは手を伸ばし、僕の頬に触れる。それだけでもすごい力を使うのだろう。

 

「ごはん……おれと、いっしょに……こんなひどいおれ、と、いっしょにいて……くれて……」

 

ーーだめだよ。しんじゃ。やめてくれ……。これ以上僕から……大切な人たちを奪わないで……!

 

「ありがとう……」

 

 恩師はホロリと涙を一滴だけ垂らした。僕を強くしてくれた師匠は、それだけ言い残して、白目を剥いて力なく崩れた。

 

 

 

 僕のもう一人の大切な人は、今日、涙を流して死んだ。

 

 

 

 その事実は僕を激しく打った。すべてがボロボロになった。悲しみが胸から込み上げてくる。涙も浮かんできた。でも止めようとは思わない。骸となったピッコロさんの体に僕の涙が打たれていく。

 

 もう、生きる意味もなかった。死にたかった。僕には大切な人が近くにいればいい。お父さんとお母さん、ピッコロさん、クリリンさん、他のみんながいればそれでよかった。それのなにがいけないんだ。それだけの幸せがなぜ壊されなきゃいけないんだ。だったらいっそ、僕もアイツらに殺されたかった……。

 

 アイツらに殺された……?

 

 アイツらとは……人造人間というやつだ。そいつらが、クリリンさん、ベジータさん、ピッコロさんたちを殺したのだ。

 

 不意に僕は、怒りに襲われた。気が勝手に高まっていく。僕の仲間を奪っていった人造人間、そして、それに対して何もできなかった僕自信への怒り。それらがだんだん如実に現れていっている。

 

 ごうっと、炎に似た金のオーラが僕を包む。怒りはどんどん増していっている。

 

 

ーー許さない……人造人間……お前たちは……お前たちは……。

 

 スパークが身体中に走り始め、目は青色へと変化していった。もしかして、これがスーパーサイヤ人か。その時僕は感じた。いや、まだだ。髪の色も怒りも、足りない。

 

『父さんは怒りに任せてスーパーサイヤ人になったんだ。まあ、おめえはぶちギレたことはほとんどねえと思うからな。ま、怒りをイメージすればなれると思え。まだまだ先の話だと思うけどな』

 

 亡き父の言葉が、甦る。どうしたら自分もスーパーサイヤ人になれるのか聞いたのだ。その時はなれないだろうなと言われてしまったが、本当は僕の素質がどうとか、そういう意味じゃない。なってほしくないのかもしれなかった。僕に学者になってほしかったから、新たな強さの世界にいかせたくなかったのかもしれない。

 

 つまり、スーパーサイヤ人になったら僕は、やつらと戦わなくてはいけない。偉い学者さんになる夢を捨てなくてはいけない。

 

 でも、僕には無理だった。偉い学者さんになんかなれない。人造人間がいる限り。何よりこの怒りを抑えられない。仇をとりたい……! ピッコロさんに報いたい。じゃなければ、父さんに顔向けできない。

 

 だから僕はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴等を……倒す!!」

 

 

 頬を伝う涙は、枯れた。

 

 

 

 

 

 たった一人の金色の戦士が立ち上がった瞬間だった。

 

 

 




ほんとはピッコロさん即死ですwけど、絡みほしかったので……。あと、悟飯は恐らくこの日からスーパーサイヤ人になれていないと思うんですが、そうした方がいいかなと思いました。オリジナル要素でしたw

では、感想、お気に入り、評価、等お待ちしております。

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