ドラゴンボールZ ~未来の戦士の戦いの記録~ 作:アズマオウ
原作準拠でやっていきます。けれど、そこにオリジナルもからめていきます。
視点はコロコロ変わるのでご注意ください。
では、どうぞ。悟空が死んだところから始まります。
父の死と、恐怖の始まり
エイジ766年。
僕――孫悟飯は、必死に走っていた。全速力で複雑な地形を飛び越え、ただ走る。頭の中はただ、パオズ山にある自分の家まで走り抜くことだけだった。
谷や川を飛び越え、山道に沿って走り続け、ようやく一軒の家が見えた。福と大きくドアの上に書かれてある。そして、家の前には仲間がたくさんいた。
全員が俯いている。誰もしゃべっていない。僕の友達の、つるつるの頭であるクリリンさん、全身が緑であるナメック星人で、僕の師匠のピッコロさんをはじめ、ヤムチャさん、天津飯さん、ウーロンさん、プーアルさん、ヤジロベーさん、餃子さん、ブルマさん、ベジータさん、そして、ブルマさんとベジータさんの子、トランクスが家の前にいた。
「あ、悟飯だ! 早く早く!」
僕を見つけたウーロンさんが、叫ぶ。会釈する暇もなく駆け足でドアへと入り込んだ。すると……。
そこには、亀仙人さん、牛魔王おじちゃん、母さんーーチチがいた。僕が入ってきた瞬間一斉に振り返り、驚きの表情と、悲しみの表情が入り交じった顔があった。
「悟飯ちゃん……」
母さんが、涙ぐんだ声で僕を呼ぶ。僕は、ふらふらと母さんのいるところまで歩いた。その先には、ベッドがある。
僕はベッドを見た。そこには――山吹色の胴着を着た男が寝ていた。顔は、白い布で覆われていてよく見えない。だが、僕はそれだけで誰が寝ているかわかってしまった。
――そんなはずは……まさか……だって……。
頭では否定していた。嘘であってほしい。夢であってほしい。そんな思いがぐるぐると渦巻く。
母さんが僕の顔を覗きこむ。そして白い布が取り外された。すると……。
よく知っている顔がそこにあった。穏やかな表情でその人は寝ていた。よく締まった胸筋、常人離れした腕の筋肉、しかし、どこか暖かい、その顔を見た瞬間、僕は泣き叫んでいた。
「お父さああああああああぁぁぁぁん!!!!」
溢れる涙が、愛する父親の頬を打つ。しかし父親は何も言わない。目も開けない。僕の中で一番強かった人ーー孫悟空は何も言わなかった。
――お父さんは……強いんだ。こんなことで倒れたりなんか……! ただ、寝てるだけですよね……!!
僕は何度もそう語りかけた。けれど、起きない。揺すっても、頬を叩いても、ダメだった。今までどんなに強い敵でもお父さんは倒した。なんとか勝てたんだ。
だけどこんなのってない。どうして死んでしまったのか。僕は疑問に思った。
「悟空さは……心臓病だ」
「え?」
僕の心を読んだのか、察したのか、母さんが話してくれた。けど、信じられなかった。健康で、強くて、運が強いお父さんが、病気で負けるなんて……。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だっ!!」
僕は何度も何度もいい続けた。そうじゃないと自分を保ってられない。
「悟飯ちゃん……少し休んだらどうだ?」
母さんが、わめき続ける僕に声をかけた。でも僕の耳には入らなかった。
「お父さん……お父さん……!」
悔しかった。まさかこんなことになってたなんて。僕は、今の今までお父さんが病気になっていたなんて知らなかった。しかも心臓病は一日で死ぬようなものじゃない。母さんは知ってたんだ。お父さんが病気になっていたことを。
それなのに僕はのんきに塾の講習にいってたんだ。気づくべきだったんだ。お父さんが、帰ってきても居なかったことから。母さんは、修行にいったといっていたけど、考えてみればばれる嘘だ。お父さんの気は弱かったのだから。僕はバカだ。学者なんてなれない。自分の父親の危機すら察知できないのだから。
「だめじゃ……今の悟飯に何をいっても無駄じゃ。外にいるクリリンたちに知らせるんじゃ」
「分かりました武天老師様」
牛魔王おじちゃんが、ドアをそっと開けて外へとでた。今ごろピッコロさんたちに知らせているのだろう。
僕はいつしか泣くことが出来なくなった。泣きすぎてしまったのだろう。いつの間のか疲れがどっと押し寄せてきて、意識を手放してしまった。
――お父さん……?
――すまねえ悟飯。母さんをよろしくな……。
――そんなっ……! 待ってよ、行っちゃだめだよ!
――わりい。オラ先いってる。達者でな。
父さんは、僕を残してこの世から去っていった。
***
悟空が消えていった事実は、仲間たちに衝撃を与えた。悟空の古くからの親友のクリリンは、泣き叫び、仲間であるヤムチャや天津飯、餃子は、悲しみを打ち消すために修行に明け暮れ、ピッコロは、しばらく落ち込んでいる悟飯の傍にいてやり、ベジータはスーパーサイヤ人になったものの戦いを辞めていた。
悟飯は、ただ惰性的に生きていた。父悟空という大きな心の柱が崩れ落ちてしまい、虚ろになっていった。母の言われた通りに勉強をこなし、修業は一切しなかった。夕食も会話が続かず、すぐに寝てしまった。
ドラゴンボールで生き返らせたかった。けれど、悟空は一度死んでいる。地球に襲来した サイヤ人、ラディッツとの戦いにて命を落としたのだ。地球のドラゴンボールは一度死 んだら二度と生き返らせることはできないのだ。
悟飯は学者になろうと誓った。それが唯一父親のためになるから。父親の二度にわたる死に悲しんでいる母のために。
だから、通信教育も欠かさずやっていた。どうにかブランクを取り戻した。
時代は平和だった。誰もが悟空の死の悲しみをどうにか乗り越えつつあった。
だが、1年後。
地獄が始まった。
***
「これで、これで、孫悟空が殺せるぞっ!!」
一人の男――ドクター・ゲロが狂気じみた声で叫んだ。二つのパッチが煙を吹きだして一斉に開き、男は覗き込んだ。
そこには、二人の少年少女が各パッチに一人ずつ収納されていた。彼らは人ではない。人によって
少年と少女はパチッと目を開けてゆっくりと起き上がった。少年は、黒髪のショートカットで、幼く無邪気な印象を与える。少女は、金髪のショートカットで、顔はどこか大人な雰囲気を持つ、かなりの美人だ。だが、ゲロに言わせれば、彼らは、男が憎む孫悟空を殺害する兵器に過ぎない。
「よくぞ目覚めてくれた! 17号、18号!!」
「……」
「……」
両者とも何も言わない。
「では早速孫悟空を殺してもらいたい。わしの命令にしたがえよ」
「はい」
「わかりました」
とても従順だ。その様子に安心して、ゲロは外に出る。
だが、突然少年17号の手がひらめいた。そしてゲロの懐から何かが奪われた。
「なっ!?」
「おっとこれはこれは、制御コントローラーだな」
17号が飄々とした口調でゲロに言った。
「き、貴様!! さっさと返せ!!」
「やーだね」
17号は、手にコントローラーを握りしめて、破壊した。
「何のつもりだ17号!」
「さあね」
「くそっ! なら、とっとと孫悟空を殺さんか!!」
ゲロは17号と18号に叫んだ。しかし二人はにやにやしていて真面目に聞いていない。
「俺たちは俺たちのペースでやる。ゆっくりやるよ」
「な、なんだとっ!?」
「縛られるのは好きじゃないんだよ」
18号が恐怖を感じさせる笑みでゲロに言う。
「勝手な奴らめぇ……!! コントローラーさえあればっ!!」
「ふふっ……」
「だが、わしを怒らせないほうがいいぞ!! 貴様らなど、どうだってできる!!」
「へえ、コントローラーもないのに?」
「また作ればいいのだ!」
ドクターゲロは叫び返す。だが、それを聞いた17号は、にやりと笑いをさらに浮かべて、歩み寄った。
「貴様らは失敗作だ!! 今すぐ息の根を止めて――!?」
言葉は最後まで続かなかった。17語に右胸を貫かれているためだ。彼らの力をもってすればたやすいことだった。
「ごっ……はっ……!?」
身動きの取れなくなたゲロから左手を抜き、短くジャンプした。その後、ゲロの頭部めがけて回し蹴りを繰り出した。
頭は簡単にもげて、首はゴロゴロと転がっていった。ゲロ自身も人造人間のため、血などはない。
首だけ残されたゲロは、17号と18号をにらんだ。
「この……ガラクタどもが……」
17号は何も答えず、足を躊躇なく上げて、踏み下ろした。ぐしゃっと気味悪い音が響き、目玉や、脳ミソなどがぶちゅっとぐちゃぐちゃになっていた。
「さて、じゃあどうする?」
主なき研究所で17号がつぶやく。
「とりあえず、どこか行こう?」
「そうだな。気晴らしもかねて、俺たちの実力も知りたいし」
そう言って、二人は研究所から出て、空へと飛んだ。
「一番近いのってどこ?」
「近いわけじゃないけど、南の方に町があるんだ。そこ行こうぜ?」
「そうだね」
二人は、全速力で、南へと飛んでいった。彼らの胸にあるのは、破壊衝動だけだった。
これから、17年にわたっての地獄が始まろうとした瞬間だった。
次回は、あの惨劇です。南の都で起こったあの惨劇です。
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