「よく来たわね。待ってたわ、飛原深夜くん」
どこのラスボスだ、あんたは。
現在、放課後になりシスコン会長との模擬戦のためにアリーナに来ている。
にしても、観客が凄い人数になってるな。ただの模擬戦なのにアリーナの観客席を埋め尽くす勢いだな。
「何格好つけてんだ?」
「雰囲気を大事しているだけよ。なのに台無しにしないでよ」
「ああ、それは悪かったな」
まぁ、確かに雰囲気は大事だな。だが、相手の流れになるのは嫌いだ。
「まぁ、いいわ。いくわよ」
そう言うと、シスコン会長はIS『ミステリアス・レイディ』を展開した。
アーマーは面積が全体的に狭く、小さい。
特徴的なのは左右一対の状態で浮いているアクア・クリスタルである。
そこから水のヴェールが大きなマントのようにシスコン会長を包み込んでいる。
「了解だ」
そして、俺もIS『黒嵐』を展開した。
全身、真夜中を思わせる真っ黒なボディーに包まれる。
無駄な物を全て省いた特徴のない鎧のような外見。だが、シンプルが故の美しさのあるフォルムだ。
唯一、特徴的なのは展開装甲だけである。
これは現在、ウサギが製作中のIS『赤椿』に装備する展開装甲の試作版である。燃費が悪くてまともに使えるものではない。
『深夜、調子はどう?』
黒の声が直接、頭に聞こえてくる。
「ああ、問題ない」
ハイパーセンサーで観客席を見ると、いっくんに侍娘、それにパッキン女まで観戦に来ていた。
「それが貴方のISね。格好いいじゃない」
「それはどうも。あんたの武装はランスか」
そう言うと、俺は槍の武装『ブラックトライデント』を呼び出す。ギリシア神話のポセイドンの武器で有名なトライデントを元に俺が作った武装だ。ウサギに教えてもらいながら俺が初めて作ったもので頑丈なだけがウリの武装だ。
「さて、模擬戦を開始する前に一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
何でわざわざ今、聞くんだ?別に模擬戦が終わってから聞けばいいのに。
「今日の授業中にね、簪ちゃんが居眠りしてたのよ。あの真面目な簪ちゃんがよ」
「それがどうしたんだ?授業が退屈だったか、眠かったんだろ」
「そんな訳ないでしょう。……ねぇ。昨晩何があったの?」
物凄く怖い雰囲気を出してる。ああ、そういうことか。
て言うか、よく考えたら、何で授業中のかんちゃんのことを知っているんだ?シスコン恐るべし。
「聞かなくても分かるだろう。男と女が同じ部屋にいて寝不足。それだけだ」
実際はアニメ談義をしていただけなのに、わざと意味深な言い方をする。
アニメ談義のせいで、俺も眠くて今日は昼頃まで寝てしまっていった。
「……よ、よ、よ、よくも簪ちゃんの初めてを。初めては私が貰う予定だったのにー!」
かなり危ない発言をしながら突っ込んでくる。予想以上のシスコンぶりだ。
『……深夜、大丈夫?どう見ても本気に見えるんだけど』
「ああ、ヤバイな。もしもの場合は『アレ』を使うか」
俺のポリシー的には使いたくないんだが。そうも言ってられないな。
「はぁぁああああー!」
シスコンの猛攻が開始した。
冷静さを失っているわりに無駄のない正確な攻撃をしてくる。さすが、学園最強を名乗るだけはあるな。
「ちっ!」
攻撃を防ぎきれずに何発か、ダメージをくらう。
俺は展開装甲を使って少し下がって距離をとるように見せかけて突進を仕掛ける。
「なっ!水!?」
俺の突きを水のヴェールでガードされた。
「この水はISのエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているのよ。凄いでしょ?」
そんなものがあるのか?それは黒の装備の中にもないな。後でウサギに作ってもらおうかな。
『深夜、ブラックトライデントじゃあ勝てないよ』
「元々勝ち負けには興味ないが、このまま何も出来ずに負けるのは嫌だな。ちょっと本気出すか」
「どうしたの?その程度で私よりも強いって言ったのかしら」
シスコンの攻撃をまともに食らってしまった。シールドエネルギーの残りが少ない。ヤバイな。
にしても、かなり機嫌が悪そうだ。後でかんちゃんのことはちゃんと説明するか。
とりあえず、くらった攻撃を利用して距離をとることに成功した。
「よし、反撃だ」
「甘いわよ」
そう言うと、『蒼流槍』から四門ガトリングを射撃した。
そんな装備まであったのか。厄介だな。
俺はブラックトライデントを回転させて盾にすることで、その射撃を防ぐことに成功した。
そして、ブラックトライデントを戻して別の武装『グングニル』を呼び出す。
これは俺がブラックトライデントを作っているのを見たウサギが「そうだ、しっくん。どっちが優れた武装を作れるかで勝負しようか。よし、決定。束さん、頑張っちゃうぞ」という感じになって作られた物だ。勝てる訳ないだろ。馬鹿か。
特徴としては投擲用の槍。そして一点集中の攻撃力である。
「一撃滅殺!グングニル!」
俺はそう言って、グングニルを相手に向けて投擲する。すると回転しながら凄い勢いでシスコン会長に向かっていく。
「そんな物、この水には効かないわ」
そう言って、水のヴェールで防御する。
「なっ!」
だが、多少ずらすことには成功するが水のヴェールは貫通されてしまう。
さらに、そのままグングニルをくらって地面に勢いよく衝突する。
「うっ!」
そしてグングニルは一旦、量子化して消え次の瞬間には深夜の手に戻っていた。
グングニルはトライデントと違い、北欧神話のオーディンの武器で有名である。
そして、これは敵を貫いた後は自動的に持ち主の手元に戻るという話を元に作られた能力である。
「さて、形勢逆転だな。どうする、学園最強(笑)」
「……こっちにもまだ奥の手はあるのよ」
シスコンの掌の上で、しゅるしゅると水が集まっていく。
「黒。あれは何だ?」
『通常は防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中、攻撃形成しているわ』
「……つまり?」
『あれをくらえば負けるわ』
そんな、明らかな奥の手を使ってくるなんて完全に予想外だ。
だが、攻撃に特化するということは防御力はおちるということ。
こっちが先にグングニルを当てれば勝てる。
「一撃滅殺!グングニル!」
二発目のグングニルを放つ。
「そんなの関係ないわ」
シスコン会長は突っ込みながらグングニルを避けるが、完璧には避けきれずに少しダメージをくらう。だが、ダメージを気にしないで、そのまま突っ込んでくる。
「くらえぇぇえええ!簪ちゃんの仇!ミストルティンの槍!」
「くっ!」
俺は相手の迫力に呑まれて動くことが出来ず、もろに攻撃をくらってしまった。
て言うか、かんちゃん死んでねぇし。
『試合終了。両者――引き分け』
最後の自分の攻撃の衝撃に耐えきれずに自滅したようだ。どこまでキレてんだよ。
「ごめん。本当にごめんっ!」
現在、二人とも怪我をしていて保健室で休憩している。
そこで、かんちゃんの寝不足の原因を説明すると、シスコン会長が謝ってきた。
「でも、深夜くんも悪いのよ。あんな意味深な言い方をするから」
「……まさか、あんな嘘で騙さられると思わなかったんだよ」
まぁ、嘘だけどな。でも、あそこまでキレるとは思わなかったな。
「ところで次のクラス代表決定戦には間に合うの?」
「大した怪我じゃないからな。二、三日休めば完全回復だ」
「そう、よかった。後、黒ちゃんは大丈夫?」
「ああ、現在、指輪になって休憩中だ。黒もダメージをくらったからな。まぁ、今日中には完全回復だろ」
人型の時よりも指輪の時の方が回復が早いらしい。
「にしても、腹のさぐりあいのような頭脳戦を予想していたのに、まさかパワーゲームになるとは。予想外もいいところだ」
「……いやぁ、そう言われても困るんだけど。そ、それよりも賭けはどうするの?この場合」
逃げたな。まぁ、いいけど。
「……そうだな。両方の意見を聞くことにするか」
「つまり?」
「俺は生徒会に入るし、あんたは俺の遊びの協力をする」
まぁ、元々お互いに損のない賭けだったし。
「じゃあ、まずは私の呼び方を変えてもらおうかな?」
「う~ん。呼び方ねぇ。すぐに思いつかないな」
「だったら、たっちゃんとかどう?オススメよ」
「よし、採用」
「えっ!?い、いや、軽い冗談のつもりだったんだけど」
冗談を真に受けられて焦っている。すぐに呼び方も思い付かないし、考えるのもめんどくさいから、これでいいや。
「そういや、かんちゃん来ないな。同居人と姉が怪我したというのに」
「……い、いや、それはその……」
急に言いづらそうにしている。もしかして、姉妹仲、良くないのだろうか?もしかして。
「自分の貞操を狙う姉が恐ろしくて、距離をとっているのか?」
「いや、違うから。そういうことじゃないの!」
何が違うのだろうか?自分の貞操を狙う姉なんて恐怖の対象以外の何者でもないだろう。
「その話は簪ちゃんに聞いても答えてくれないと思うから、後で私が教えてあげるわ」
何か訳ありなのだろうか?
「じゃあ、その前に今から来る鬼をどうにかしようか?」
「おい、飛原に更識」
ちーちゃんが怖い顔をして保健室に入ってきた。
そして、怒られた上に反省文の提出することになった。
まぁ、あれだけ大事になったんだから当たり前と言えば当たり前だけど、怪我人にはもう少し優しくしてほしい。
やっぱり戦闘シーンは難しいですね。正直、自信がないです。
黒の細かい設定はセシリア戦の時に説明しようと思います。
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