俺は今、電車を乗り継いで一時間、そこからバスでさらに一時間の山奥にある研究所に来ていた。
「ここで合ってんのか、倉持技研」
研究所の看板を確認してみると合ってるみたいだ。
ここが白式と打鉄弍式の開発元か。まぁ、打鉄弍式はほとんど俺とかんちゃんで作ったが。
前にいっくんのセカンド・シフトした白式を見るために来ていた倉持技研の研究員と知り合って倉持技研に招待されたので来た。
「で、どうやって入ればいいんだ?」
入口には取っ手のないドアがあるだけで、チャイムもない。
ん?後ろに人の気配がするな。
「って、ウワッ!いきなり何をしようとしてんだ!?」
いきなり変態が俺の尻を触ろうとしていた。にしても最近、見ただけで変態かどうか分かるようになってきたな。欲しくない才能だ。
「んー?よく気付いたね?気配を隠して近付いたのに」
この変態は水中メガネをつけており、スク水みたいな紺色のISスーツを着ている。しかも名札で『かがりび』と書かれている。見た目まで変態なのは新しいパターンだな。
「で、君は誰?」
「この研究所の変態……いや、あんたじゃなくて別の変態に会いに来たんだよ」
「ああ、あの特別研究員の客か。話は聞いているよ」
変態で通じるのか。
「ところで何でいきなり尻を触ろうとしたんだ?」
「可愛い美少年がいたら尻を触るのが礼儀というものだよ」
どんな礼儀だよ。
俺がこの変態の対処をどうしようかと迷っていると、いきなり背後のドアが開いた。
「やぁ、少年。来たんだね」
変態が増えた。
「久し振りだな、兎吊木さん」
白衣にスキンヘッドの中年のオッサン。これが今日、俺が会いに来たシスコンでロリコンの変態、兎吊木垓輔だ。
ん?スキンヘッド?
「前に会った時に兎吊木でいいと言ったはずなんだがな。俺は《さん付け》が苦手なんだ。昔の仲間は呼び捨てにしてくれて気楽だったんだがな。君は歳上を敬うタイプには見えないし、実際にタメ口で喋っている。単純に性格が悪いんだな」
「それよりも何でスキンヘッドなんだ?前に会った時は髪フサフサだったよな?」
「ああ、あれはカツラだよ。今は男がいるとはいえ、女子校に行くのにスキンヘッドはないだろ?まぁ、知り合えたのは可憐な女子高生じゃなくて君だったわけだが。半分以上の生徒が帰省していたのが残念だったな。教員には会えたが俺は年増には興味がないのでね」
相変わらず、よく喋る変態だな。ウザい。すでに来たことを後悔してきた。
「それよりも速く中に入りたいんだが」
「ふむ、それもそうだね。では再会と友愛の証に」
そう言うと、兎吊木さんは俺に顔を近付けてきた。キスじゃないよな!?
「私の深夜に何をしようとしてんのよ、変態!」
人型になった黒が兎吊木さんを全力で蹴り飛ばした。そして研究所の壁に叩き付けられた。
「ん?君はどこから現れたのかな?さっきまではいなかったはずだが」
ヤバい!科学者タイプの人間には黒のことを知られたくなかったのに。確実にめんどくさいことになる。
「それよりも私の深夜に何をしようとしたのよ!」
「再会のキスだが?それがどうかしたか?」
「…………」
黒の正体からは話がそれそうだが、それよりもヤバい話になりそうだ。マジで中年のオッサンにキスされるところだったのかよ。考えただけで恐ろしいな。
て言うか、叩き付けられたのに元気だな。見た目よりも体は頑丈なようだ。嫌な情報だ。
「あんた、シスコンとロリコンだけじゃなかったのか?もしかしてホモでもあるのか?」
だったら今すぐ山を全速力で駆け降りるが。
「いや、そうじゃない。可愛い女子はもちろんのこと、可愛い男子も俺にとっては妹だよ」
格好つけながら変態発言してんじゃねぇよ!しかも倒れたまま。本格的に気持ち悪いな。て言うか、実の妹が二人いるはずだし。
「それに君は女装が似合いそうだしね」
それは間違ってないが。
「おうおう、そっちだけで楽しんでないで私も混ぜろよ」
こっちも参戦か。くそっ!どうしたらいい?逃げ場がない。
「さっき、何か音がしましたがどうかしましたか?」
男性職員がやって来た。良かった。この人は変態じゃない。
「変態に襲われているんです!助けてください!」
三十分後、何とか落ち着いて変態二人と俺と黒の四人で応接室にいる。さっきの男性職員には同席してほしかったが逃げられた。
「まずは自己紹介をしておくか。俺はIS学園一年一組所属、実質的に男性初のIS操縦者、飛原深夜だ」
「私は深夜の恋人の黒です」
「黒?何か犬みたいな名前だね。まぁ、いいけどね。世の中にはキラキラネームとかいう変な名前の人もいるみたいだし。俺はそんな名前の人に会ったことないけど。ところで君もIS学園の生徒なのかな?」
お前の名前も充分、変だ。
「ああ、そうだ」
とりあえず話を合わせるか。
「俺としてはそっちのお嬢さんに聞いたつもりだったんだけど。とりあえず俺も自己紹介しとこうか。俺の名前は兎吊木垓輔。前に働いていた研究所が壊れたから昔の知り合いがいる、ここで特別研究員として働いているんだ」
「私は篝火ヒカルノ。倉持技研の第二研究所所長をしている」
変態が所長で大丈夫なのか?
「まぁ、いいか。俺はここに勉強をしに来たんだから」
「どういうこと?勉強ならIS学園でも出来るでしょ?」
「俺が学園で学べることは何もない。前まで三年首席の布仏虚に教わっていたけど、すでに俺の方が上だからな。だから専門家の人に習おうと思ったんだよ。独学では限界があるからな」
ウサギに教わるという方法もあるが、それは無理だろう。ウサギは感覚派だから人に教えるのには向かないから。
「ふーん、それは凄いね。で、何を教わりたいんだい?」
「俺はソフトウェアが苦手なんだ」
「だったら私の出番だね。私の専攻はISソフトウェアだからね」
何か嫌な予感がしてきた。
「教えるのはいいけど、その代わりの報酬はちゃんと貰うよ。もちろん、体で払ってもいいよ。というより、そっちがお薦め」
予想通りだ。しかも、かなり本気だ。したなめずりをしている。
「いや、普通に金で払う」
「ちぇー、残念だな」
物凄く不満そうな顔だ。
「俺は金に困ってないから体で払ってくれ」
「断る。俺は中年のオッサンに興味はない」
「だったら仕方ない。他に可愛い女子高生を紹介してくれたらいいよ」
可愛い女子高生ねぇ。かんちゃんとラウラは絶対に紹介したくないし、シャルは嫌な予感がするから無理だ。侍娘を紹介したらウサギに殺されそうだ。
「金髪のお嬢様はどうだ?」
正直、可愛いとは全く思えないが人の趣味はそれぞれだからな。可能性はある。
「金髪はいいけど、お嬢様というのは俺のタイプではない。俺に命令していいのはこの世で、たった一人だけだからな」
使い捨てにもならんとは。役に立たないな。
「その兎吊木さんに命令していいのは誰なんだ?」
「俺が敬愛してやまない彼女さ。一度、見たら君でも彼女に踏まれて足を舐めるのが快楽になるだろう」
どんな女なんだよ!
「ああ、前に写真を見せてもらったな。確か十九歳だけど中学生ぐらいにしか見えない可愛い女の子だったよね?」
マジで想像できない。
「……深夜。別のところに行った方がよくない?」
「ああ、俺もそう思っていたところだ。いや、最初から思っていた」
黒ウサギ隊とは顔見知りだしドイツに行こうかな。
「おいおい、それは困るな。俺は寂しがり屋なんだ。せっかく出来た友達とは仲良くしたいんだよ」
「友達じゃねぇよ、変態!」
「可愛い女の子に罵倒されるのは好きだが、野郎にされるのは好きじゃない。俺を罵倒したければ女装してからにしてくれると助かる」
こっちが助からねぇよ。
「それよりも飛原くんはどうするんだい?研究所はむさいオッサンばかりだから美少年が来てくれるのは嬉しい。しかも美少女のおまけ付きだ。だから教えるのはいいけど、まさかIS学園から通うつもりじゃないよな?」
「ここで泊めてもらえるのら、それが一番だけどな。まぁ、駄目なら学園から通うけど」
黒でステルス飛行すれば問題ない。
「部屋も余ってるし、泊めてもいいよ。何なら私の同じ部屋をお薦めするよ」
「全力で拒否する」
「俺の部屋に泊まるんだよな?」
「んなぁわけねぇだろが、変態!」
完全に俺の口調が崩れてきた。刹那っちと同じレベルとそれ以上の変態を相手取るのはしんどい。
「で、どのくらい泊まって行くつもりなんだ?」
「俺も夏コミに温泉旅行と色々と忙しいからな。三、四日を予定している」
「いいだろう。君のことは気に入ったからバシバシしごいてやる。ただし、君も仕事は手伝ってもらうよ。それぐらいの能力ならあるだろう?」
「もちろんだ」
むしろ職業体験できる分、ラッキーだな。
「そういや、今更だけど兎吊木さんの専門は何なんだ?」
「うん?俺の専門かい?俺の専門は
こんな奴に習って大丈夫なのだろうか?
こうして不安しかない倉持技研での職業体験が開始した。
続きそうな終わり方をしましたが続きません。というより、この変態共の話を続ける自信がありません。
何で、こんなことになったのだろうか?最初は主人公が物語をかき乱す話を書きたかったはずなのに。気付いたら変態とシスコンが跋扈する話になっていた。
後は温泉旅行の話を二話して終わる予定です。最後まで読んでくれると嬉しいです。
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