ISに告白された少年   作:二重世界

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第42話 プール

「なぁ、かんちゃん。明日、プールに行かないか?」

夏休みに入って半分以上の生徒が帰省してIS学園は静かだ。そのせいで、のんびりと読書するにはいいが退屈だ。

 

「……何で?」

 

「この前の臨海学校の時に思ったんだよ。かんちゃんはもっと運動した方が良いって」

 

「余計なお世話」

 

「良いじゃないか。それに漫画を読んでるだけで、どうせ暇だろ?」

まぁ、これは俺も同じだが。

 

「で、ここに今月できたばかりのウォーターワールドのチケットが二枚ある。どうだ?」

 

「黒と行けばいいでしょ?」

 

「黒はISだから中に入ってから人型になれば大丈夫だろ」

 

「それ、良いの?」

 

「問題ないだろ。黒は人間じゃなくてISなんだから」

それでも問題になったら、なった時に考えればいいだけの話だ。

 

「黒は深夜と二人で行かなくていいの?」

かんちゃんが俺に膝枕をさせながら漫画を読んでいる黒に聞いた。

 

「私、人混みが苦手だから、あんまり行きたくないのよ。それに二人でデートしなくても深夜と私はずっと一緒にいるから大丈夫よ」

マジでずっと一緒だな。何せ初めて会って以来、一回も目の届かないところに行ったことがないんだから。多分、半径十メートル以上はなれたことがないじゃないか。

 

「じゃあ――」

 

「ヤッホー、簪ちゃん。明日、デートに行こうよ!」

たっちゃんが勢いよく扉を開けて入ってきた。その手には俺が持っている物と同じチケットが二枚ある。

 

「何々?プール?私も行く!」

気付いたら目をキラキラと輝かせた刹那っちがいた。

 

 

 

 

あの後、刹那っちに押しきられて四人でウォーターワールドに来ている。黒は人混みが苦手なのと刹那っちを恐れて最初に水着姿を見せて指輪になった。

 

「生徒会長さんはスタイルが良いですね。食べちゃいたいくらいですよ」

いきなり、たっちゃんにナンパをする刹那っち。

 

「え~と、どうしたらいいの?」

それに戸惑う、たっちゃん。

 

「殺せばいい」

 

「それはやり過ぎだ。適当に動けないほど痛め付けて放置するだけで充分だろ」

刹那っちは何回もボコボコにされてるのに何故、懲りないのだろうか?魔法少女バトルの時は手足を縛って目隠しした上で水も与えず六時間も地下に監禁されてたのに。もしかして本物の変態からしたら、それも気持ちいいのか?それとも裏の世界の住人からしたら普通なのか?

 

「じゃあ、早速シャワールームに行きましょう!さすがに野外プレイは途中で邪魔が入るでしょうから」

そういう問題じゃないだろ。

でも、どうしたらいいんだ?さすがに一般人を被害に遭わせるわけにはいかないし。

 

「あ!物凄く可愛い幼女が死んだ魚みたいな目をしている変質者に襲われている!助けなくては!そして、そのお礼として――」

そう言うと刹那っちは凄い勢いで走っていった。続きの言葉が気になるな。

て言うか、俺にはただの兄妹に見えるが。いや、兄の方はかなりヤバそうだが。一般人に迷惑をかけるのは嫌だが仕方ない。刹那っちが犯罪を犯しても俺は無関係だ。後、変質者はお前だ。

 

「さて、変態もどっかに行ったところで、かんちゃんを鍛えるか」

泳ぎに行こうと思った瞬間、園内放送が響き渡った。

 

『では、本日のメインイベント!水上ペアタッグ障害物レースは午後一時より開始いたします!参加希望の方は十二時までにフロントへとお届け下さい!優勝賞品は何と沖縄五泊六日の旅をペアでご招待!』

何か面白そうなイベントだな。優勝賞品は興味ないからラウラにやるか。

 

「よし、かんちゃん。このイベントに参加しようか」

 

「断る」

 

「そうよ。簪ちゃんは私と出るんだから」

 

「そういう問題じゃない」

たっちゃんとどっちが、かんちゃんとペアで出るかを言い争いながら受付に着いた。

 

「やっぱり私が簪ちゃんと出るみたいね」

受付で参加を希望している男が『お前、空気読めよ』という無言の笑みに退けられていた。まぁ、確かに女だけの方がイベント的には盛り上がるだろうからな。

 

「ふむ、確かに一人だけ男が入って会場を変な空気にするのは嫌だな」

 

「そうでしょ。だから私が――」

 

「ここは奥の手を使うか」

 

「……奥の手?」

 

「待ってろ」

それだけ言うと俺はどこかに移動した。

 

十分後

 

「これで問題ないだろ」

 

「……人違いじゃないですか?」

やっぱり分からないか。

 

「……嫌がらせ?」

 

「いやいや、そんなことないぞ、かんちゃん。俺の方がちょっと胸が大きいからって気にするな」

 

「……え?え~と、どういうこと?簪ちゃんの知り合い?」

まだ気付かないのか?かんちゃんはすぐに気付いたのに。

 

「俺だよ、俺」

 

「オレオレ詐欺?」

 

「そうじゃなくて飛原深夜だ」

 

「……え?」

たっちゃんの思考がフリーズする。

 

「ええぇぇぇぇぇーーー!本当なの!?女装とか、そういうレベルじゃなくて女の子にしか見えないんだけど!?胸もパットじゃなくて本物よね!?しかも滅茶苦茶、可愛いし!」

そう言いながら、たっちゃんは確認のために俺の胸を揉んできた。

 

「いや、さすがにそれは人前では……。やるなら帰ってから」

 

「深夜も冗談を言わないで。後、お姉ちゃん、目立ってるからやめて」

確かに周りの視線が俺達に集まってるな。

 

「……あ!え~と、ご免なさい。つい」

たっちゃんは視線に気付くと俺から離れた。

 

「あー!百合カップル!私も混ぜてください!」

刹那っちが大声をあげながら凄い勢いで走ってくる。

 

「お前は少しは自重しろ!」

向かってくる刹那っちに思いっきり蹴りを入れようとしたが避けられた。

 

「今の容赦なく人の急所を的確に狙う蹴り。もしかして深夜くん!?」

 

「ああ、そうだよ。後、どんな目線から人を判断してるんだよ、刹那っちは」

 

「でも、一体どういうことなの?」

 

「この前の魔法少女バトルで使ったデバイス。あれを使って変身したんだよ。ISに繋いでないから、ただ性別が変わっただけだな」

ウサギが変なところにこだわったせいで体の作りから女になるんだよな。だから多少、筋力が落ちるが問題ない。さすがに子供は生めないが。

 

「中身は関係ない。見た目が可愛い女の子だったら私はイケる。だから――」

 

「それよりも、さっきの幼女はどうなったんだ?」

とりあえず話を誤魔化そう。

 

「ん?あの後、幼女のお兄さんが来て邪魔された」

まず、幼女という呼称をやめた方がいいだろ。いや、俺も言ったが。

 

「あの死んだ魚みたい目をしたヤバい奴が兄じゃなかったのか?」

 

「ああ、かなりイカれてる人はただの付き添いだったみたい」

 

「ふーん、そうだったのか。ところで兄が来たくらいで刹那っちがやめるなんて、らしくないな」

もしかして、その兄もシスコンだったのか?そうだったら世界は変態とシスコンと可愛い妹だけで構成されている可能性も出てくるな。

 

「兄もかなりヤバい存在だったのよ。あれには出来るだけ関わるな、って家から言われてるし」

裏の人間って意外と普通にいるんだな。俺もウォーターワールドに来る前にIS学園で会った倉持技研から来ていた男も裏の人間だと思うし。何というか雰囲気が違った。そして、何よりシスコンでロリコンの変態だったからな。

 

「そんなことよりも――」

刹那っちが話を戻そうとした瞬間、俺はスタンガンで気絶させた。これは黒の武装の一つで市販の物よりも、かなり電圧が強い。下手したら人が死んでしまうくらいに。

 

「さて、たっちゃん。この変態の世話は任せた。俺はかんちゃんとイベントに参加してくる」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

たっちゃんを無視して俺はかんちゃんと受付に向かった。

 

 

 

 

 

「さあ!第一回ウォーターワールド水上ペアタッグ障害物レース、開催中です!」

適当にウォーターワールド内の喫茶店で昼食を食べてからイベントに来た。刹那っちはまだ気絶しているけど大丈夫だろ。

 

「さぁ、皆さん!参加者の女性陣に大きな拍手を!」

俺は男だけどな。にしても、俺が企画したイベント程ではないけど盛り上がってるな。

 

「ん?」

参加者の中に貧乳とパッキン女を見付けた。珍しい組合せだな。何で二人でこんなこところにいるんだ?そういや、いっくんが貧乳と連絡を取りたかったのに取れなかったと言っていたが、それが関係しているのか?まぁ、どうでもいいか。俺的に好都合だ。

 

「……おい、かんちゃん。あの二人が大立ち回りをするだろうから俺達は漁夫の利を狙うぞ」

 

「て言うか、何で私が参加してるの?」

 

「今さら何を言ってんだ?もうイベントが始まるんだから諦めろ」

 

「……仕方ないから適当にやる」

渋々と言った感じだが何とか納得してくれた。

 

「ではルールの説明です!この巨大なプールの中央の島にあるフラッグを取ったペアが優勝です!なお、ご覧の通り円を描くようにして中央の島へと続いています!その途中には障害が設定されており、基本的にペアでなければ抜けられないようになっています!ちなみに、妨害はアリです。つまりポロリもあるかもしれませんよ、野郎共!」

無駄にテンションの高い司会だな。

 

とりあえずコースの確認をするか。中央の島はワイヤーで空に浮いている。しかもショートカットも出来ないように上手く工夫されてるな。

 

「さぁ、いよいよレース開始です!位置について、よーい……」

パァンッ!と競技用ピストルの音が響き、参加者が一斉にスタートした。

すると予想通りに貧乳とパッキン女が大立ち回りを開始した。そのせいで妨害が二人に集中している。

 

「よし、今のうちに進むぞ」

 

「それでいいの?」

 

「俺は雑魚の相手をするのは嫌いなんだよ」

その後、二人の陰に隠れて全く目立たず最後のステージまで進んだ。

そこでトップのペアが反転してきた。ここで二人を倒すつもりなのだろう。

 

「おおっと、トップの木崎・岸本ペア!ここで得意の格闘戦に持ち込むみたいです!二人は先のオリンピックでレスリング金メダル、柔道銀メダルの武闘派コンビです!」

え?オリンピック?何それ?最後に活躍して注目を浴びる予定だったけど作戦変更だな。このままスルーしよう。

 

「あ!まだ敵が残ってる!あっちを倒した方が良いんじゃない!」

貧乳の野郎!俺達に筋肉ダルマを押し付けるつもりか!

 

「こうなったら仕方ない。俺が注意を引き付けるから、その内にフラッグを取れ」

 

「……分かった」

そう言うと、かんちゃんは一人で先に行った。

あ!しまった。あの台詞を言いそびれた。まぁ、いっか。

 

「ちょっと待ちなさいよ、そこのあんた!」

 

「黙れ!貧乳!」

 

「何ですって?もう一回、言ってみなさいよ!」

やっぱり貧乳は単純で操りやすいな。とりあえず、このまま煽って注目を集めるか。筋肉ダルマ二人も俺達を見て、どうしたらいいか迷っているみたいだし。

 

「二回も言わないと分からないのかよ。胸だけじゃなくて頭にも栄養がいってないみたいだな。じゃあ、どこに栄養がいってるんだろうな?尻か?いや、尻に栄養がいっているのは、そっちの金髪の方か?ああ、確かに醜い雌豚みたいな見た目してるな」

 

「あんた、セシリアはともかく私まで馬鹿にするのは許せないわ」

 

「そうですわ。鈴さんはともかく、わたくしを馬鹿にするなんて許されることではありませんわ」

何て醜いコンビなんだ。

 

「そっちのオリンピックコンビだとか言う筋肉ダルマもそうだ。筋肉のお化けか何かかよ?女性的魅力が全くないな。そんなんじゃ、結婚どころか永遠に処女だぞ。花嫁修業でもしたらどうだ?まぁ、したところで相手は見つからんだろうがな」

 

「おおっと、ここでフラッグが取られました!これで優勝は更識・飛原ペアに決定です!」

ん?もう終わりか?罵倒するのが楽しくなってきたところだったんだが。

 

「へ?更識?飛原?」

 

「どういうことですの?」

俺が女になってるから混乱していみたいだな。

 

「デバイスで変身しているんだよ」

 

「また、あんたか!何度、私を馬鹿にすれば気がすむのよ!」

 

「そうですわ!今日は一夏さんとのデートもなくなってしまいましたし、酷い一日ですわ!」

いっくんにも対する恨みまで言われても知らねぇよ。

て言うか、こんな人の多いところでISを展開しようとしてないか?コイツらに常識はないのかよ。今度、倫理の授業をすることを職員室に薦めるか。

 

「おい、黒。頼む」

 

「了解」

 

「え?何でISが展開できないのよ!」

 

「強制スリープモードになっていますわ!どういうことですの!?」

これが人型になれる黒だけが使える裏技。ISの意識に直接、語りかけてスリープモードにする。まさか、こんなところで使うことになるとはな。

 

「今回は交渉が一瞬で終わったみたいだな」

 

「あの二人は自分の専用機に嫌われているのよ。いつも雑に扱って、しかも負けてばかりだから」

まぁ、確かに俺もISだったら、あんな持ち主は嫌だな。でも、あいつらってISランクはAだったよな。IS個人の好き嫌いとランクは別物ってことか。

さて賞品を貰ったら、かんちゃんを鍛えるか。




今回の話は番外編の中で唯一、原作にある話です。後、考えていたけど使う機会のなかった裏技を出しました。補足しておくと、この裏技は万能ではありません。ISの意識に断れたら終わりですから。

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