「作戦完了と言いたいところだが、お前達は独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ。後、飛原には他の連中よりも更に厳しい罰が待っているから覚悟しろ。死んでも責任は取らん」
俺達が戻ってくると休む暇もなく魔王に捕まって大広間で正座させられながら説教をくらっている。
「織斑先生、何で自分だけ特別待遇なんですか?」
「貴様が最初から参加していれば、他の連中が怪我をすることもなかっただろうからだ」
何だ、それ?矛盾してるだろ。参加するな、と言っておきながら最初から参加しなかったから罰を与えるとか。
「先生、私は参加してません。殺られた皆を助けに行っただけです」
誰も死んでねぇよ。て言うか自分だけ助かるつもりかよ。
「更識妹が出撃していなかったとしてもバックアップしていたのは事実だ」
それに関しては俺も同意見だ。
「あ、あの、織斑先生。もうそろそろ、そのへんで……。怪我人もいますし、ね?」
マヤマヤがあたふたしながらも魔王に注意する。
「そうだな。一度、休憩してから診断だ。飛原と更識妹は室内待機してろ」
さて刹那っちを起こして朝食を食べにいくか。
部屋に戻ると刹那っちが腹を出しながら爆睡していた。
「自分で言っておいたことだけどイラッとくるな」
「……どうする?」
「叩き起こす」
とは言え、どうしたものか。下手に近付くと、こっちがやられる。
「山嵐で起こす」
「……いや、そんなことしたら魔王に怒られる」
かんちゃんは時々、かなり過激な発言をするよな。
「だったら、他に案があるの?」
「隣で俺と黒とかんちゃんでエロいことをしていたら、凄い勢いで起きるだろうな。嫌がらせにもなる」
「……寝言は死んでから言って」
かんちゃんがIS『打鉄弐式』を展開する。
「謝るからやめてくれ」
「……残念」
かんちゃんがISを戻した。何でこんな性格になったんだろう?最初は大人しかったはずだが。不思議だ。
「じゃあ、普通に縄で縛って起こすか」
「それ、普通なの?」
刹那っちが目をこすりながら起きてきた。
「ちっ!起きたか」
「そりゃあ、起きるよ。私は眠いが浅いからね。近くで会話してたら普通に気付くよ」
だったら何で腹を出しながら爆睡してんだよ。
「まぁ、いいか。じゃあ、朝飯を食べにいくぞ」
俺は夕食を食べ終わったところでウサギのいるところに向かった。
場所はまた岬で、柵に腰掛けている。気に入ったのか?
「やぁ、しっくん。そろそろ来る頃だと思っていたよ」
「いや、来るだろ。約束してんだから」
何、当たり前のことを言ってんだ?
「……しっくんって自分の演出を大事にする割りに、他の人の演出はつぶすよね」
「俺は性格が悪いからな。他人の思い通りになるのは嫌なんだよ」
「まぁ、いいや。しっくんも腰掛けたら?気持ちいいよ」
俺はウサギに促されるまま隣に座った。
「それよりも検査の結果はどうだった?」
俺は昼にワンオフ・アビリティーの影響で脳に異常がないか調べてもらった。
「全くナッシングだよ。ノープロブレムだね」
「そうか。それは良かった」
「にしても、しっくんもやり過ぎだよね。しっくんが一人で福音を倒したせいで、いっくんと箒ちゃんの戦闘データが取れなかったよ」
「IS学園に戻ってから俺がデータを取ってきてやるから我慢しろ。それに福音を倒したのは世間的には、いっくんと侍娘になってるんだから良いだろ。妹を晴れ舞台でデビューさせる計画は成功したんだ」
ウサギが色々と手回しをしたおかげで俺が福音を倒したという情報は、いっくんと侍娘が倒したという内容に改竄されている。俺的にも、そっちの方が助かる。まだ目立つつもりはないからな。
「まぁ、そうだけどね。これで目的の半分は達成かな」
「半分?」
まだ他にも計画があったのか?
「ここからは真面目な話になるけど良いかな?」
「ああ、いいぜ」
ウサギと真面目な話なんて一回もしたことなかったな。内容が想像できない。
「ねぇ、しっくん。
「は?」
ウサギが意味の分からないことを言うのは珍しくないけど、今回はいつもと意味が違いそうだ。
「ああ、単刀直入すぎたね。つまり、しっくんは生まれて初めて本気を出して楽しかったでしょ?」
ああ、そういうことね。
「つまり俺に篠ノ之束や織斑千冬と同じステージに立て、そういうことか?」
つまり、今回のウサギの目的は侍娘の誕生日会と俺に本気を出させることだった。
「そういうことだね。しっくんと束さんは友達ではあるけど親友ではないからね」
俺は天災『篠ノ之束』を理解することが出来ても、決して対等ではない。
「ちーちゃんはそんなに相手してくれないし、束さんも対等に遊べる親友が欲しいんだよ。でも、しっくんはその可能性があるのに中々来る気配がないからね」
「今まで俺が本気を出す機会がなったからな」
まぁ、負けたことがないわけじゃないがな。去年、近くで元オリンピック選手が教える卓球教室に乗り込んで戦った時は負けたな。一セット取るのが限界だった。チェスならネットでプロに勝ったことがあるが。
「でも束さんなら、今回みたいに本気を出す機会を与えることが出来るよ」
「それは興味深いな。例えば何だ?」
まだ俺の知らない世界があるということか。それはワクワクするな。
「そうだね。しっくんは
「ほぉ、つまりISには俺の知らない領域がまだまだあるということか」
それは考えてだけで楽しいな。未来に希望を持てるのは良いことだ。
「それに裏の世界には束さんレベルも数少ないけど存在するしね」
「マジか!ウサギみたいな人外が他にいるのか!」
「いやぁ、しっくん。今まで見たことのないような良い笑顔だね。惚れちゃいそうだよ」
そりゃあ、笑顔になるさ。今まで色々と楽しんできたけど、本気でやる方がもっと楽しいことが分かったからな。
「で、どんな奴がいるんだ?」
「束さんもそんなに詳しいわけじゃないけどね。自分の主以外に姿を見られたことがない、生きながらにして伝説と呼ばれる暗殺者がいるという噂を聞いたことがあるね」
普通に考えたら物理的に不可能だと思うが、もしそんな人物がいるとしたら人間の可能性は凄いな。
「他にはISを素手で殴り飛ばした人がいるというのも聞いたことがあるよ」
「いやいや、そんなの世界最強でも出来ないだろ!」
「まぁ、ただの噂だけどね。でも、その噂の人物は人類最強と呼ばれていて裏の世界では、ちーちゃんよりも強いと言われているよ。詳しいことが知りたかったら刹那っちに聞いたらどうかな?」
よし、後で聞くか。 ついでに他の有名どころも確認しよう。
「後、数年前に束さんのラボにハッキングがあってね。まぁ、ハッキング自体は珍しくないんだけど、あの時のは凄かったな。何とか撃退には成功したけど、いくらか情報を持っていかれたし」
それは凄いな。ウサギに匹敵するハッキング技術か。
「もしかしたら束さんの知らないISコアが裏で出回っている可能性もあるね」
いや、それ本当だったら、かなりヤバいんじゃないか?
「で、しっくん。
「いや、ないな」
「え!?何で!?
こんなに焦っているウサギを見るのは初めてだな。そんなに意外だったのか?見ていて面白いな。
「いやいや、そうじゃない。大体、俺はほとんどの人間を玩具にしか思ってないんだ。だから俺が理解していれば充分で、向こうが俺を理解する必要はない」
俺が友達だと思っているのは更識簪と篠ノ之束だけ。家族と思っているのは黒嵐とラウラ・ボーデヴィッヒだけ。敵と思っているのはシャルロット・デュノアと織斑千冬だけ。その他は天吹刹那だけ。これが俺が今のところ正確に認識している全てだ。後、更識楯無は友達になる可能性があるな。
「だったら何で?」
「単純な話だ。今はこの状態を楽しみたいんだ。俺が
「う~ん、しっくんなら
確かに器用にやっていく自信はあるが、それは対等じゃない。少なくともIS学園在学中に何人かは巻き添えにしないと行く気にはなれない。まぁ、元々卒業してから行く予定だったが。
「そういや、さっきの裏の住人の話だけど。そんなに凄い人物なら表でも活躍できると思うんだが」
「
「そういや、前に俺も似たような考察をしたことがあったな。何でだ?」
「束さんの予想で良いなら言うよ。行き過ぎた力は人々に恐怖を生む。でも、更にそれを越えた力は人々を崇拝させる」
なるほど、有り得る話だな。だったら、さっきの人類最強はどうなのか気になるな。
「もしくは力が強すぎて逆に理解されてない可能性もあるけどね」
「……それって、生物なのか?本格的に魔王じゃねぇか」
「誰が魔王だ、馬鹿者」
急に現れた魔王に殴られた。
「ちょ、落ちたらどうするつもりなんですか!?」
危なかった。ギリギリでバランスを取ったけど、後少しで海にダイブするところだった。
「知るか。そんなところで座っているお前が悪い」
殺人未遂で、この態度はおかしいだろ。
「ところで、ちーちゃんは何しに来たのかな?もしかして束さんに会いに来たのかな?」
「そんなわけないだろう。私は勝手に抜け出した飛原を連れ戻しに来ただけだ」
そう言うと魔王は俺の首根っこを掴んで引っ張った。
「痛い痛い!首が絞まる!殺す気か!?」
「勝手に抜け出した罰だ」
こいつが普通に人間と生活できている理由が今分かった。他の人間を圧倒的な暴力で支配しているからだ。
「ああ、そうだ。最後に一つ質問」
「何だ?手早くすませろ」
そしてウサギは溜めて言った。
「今の世界は楽しい?」
「そこそこにな」
「俺は自分で楽しくしてるから問題ない」
「そうなんだ。じゃあ、また今度ね」
そう言ってウサギは手を振ると次の瞬間に消えた。良い演出だな。俺の首根っこが掴まれてなかったら。
微妙な感じですが今回で本編は最終回です。次回からは番外編に入ります。一発目はかなり自由にいこうと思っています。
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