ISに告白された少年   作:二重世界

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第38話 本気

「起きなさいよ、馬鹿!」

部屋で気持ちよく寝ていたら、いきなり蹴起こされた。

とりあえず時計を見ると午前四時だった。

 

「こんな時間に何だ?夜這いか?今日は疲れているから無理だ」

起きて見てみると、俺を起こしたのは貧乳だった。

 

「ふざけんてんじゃないわよ!あんたにも協力してもらうわよ」

 

「協力?」

中途半端な時間に起こされたせいで無茶苦茶ねむい。気を抜くと二度寝しそうだ。

 

「私達で福音を倒すのよ」

 

「詳しくは知らないが魔王がそれを許可するとは思えないな」

 

「そりゃあ、私達の独断行動だからね。後で千冬さんに怒られるのも覚悟してるわよ」

面白そうなことになってきたな。まぁ、俺は団体行動が苦手だから参加する気はないが。

 

「何でそこまでやる気満々なんだ?やる必要があるとは思えないが」

 

「決まってるでしょ。私達で一夏の仇を取るのよ!」

 

「いや、死んでねぇよ」

 

「細かいことを気にするわね。そんなんじゃあ、モテないわよ」

本当に大丈夫か?かなり心配なんだが。

 

「て言うか、俺を誘う前に侍娘を誘えよ」

寝る前に少しだけ見たが凄い落ち込みようだったな。そういや落ち込み、っていうのはどういう感情なんだろうか?俺は落ち込んだことがないから分からない。

 

「ここに来る前にちゃんとやる気にさせてきたわよ」

まぁ、侍娘の思考は単純だからな。適当にそれっぽい言葉をかければやる気になるか。

 

「じゃあ、俺は寝るから代わりにそこで寝ている刹那っちを連れていけ」

 

「何で参加しないのよ!後、こいつも起こすか」

俺に質問しながら貧乳は刹那っちの方に歩いていった。

 

「だって俺がやる理由がないし。そして何より眠い。今、こうして喋っているのもめんどくさい」

 

「何よ、そのふざけた理由は!あんたもたまにはウワッ!」

刹那っちがいきなり起き上がって貧乳を凄い勢いで押し倒した。

 

「アレ?確か二組の胸が残念な人」

 

「殺すわよ!あんたもそんなにないでしょ!」

お前ほどではないけどな。

 

「もしかして夜這い?ちょうど相手がいなくて困ってたから胸が残念でも歓迎するよ」

 

「何であんたも飛原と同じ発想なのよ!?後、そろそろどいてくれない?」

 

「いや、我慢できないからこのまま」

 

「やめろ」

布団から出て刹那っちを殴って止めた。

 

「残念」

そう言うと刹那っちは渋々といった感じで貧乳から離れた。

 

「……いきなり何なのよ」

 

「寝ている刹那っちに攻撃の意志をもって近付くとこうなる」

寝ている時は無防備だから対処できるように家でしつこく教わったらしい。

 

「……あんた、分かっててやったわね?」

 

「さて、何のことやら」

わざとらしく肩をすくめながら言った。

 

「まぁ、いいわ。確か天吹だっけ?あんたも福音を倒すのに協力してほしいのよ」

 

「断る」

いつものふざけた態度じゃなくて仕事モードに入ったみたいだ。

前に一回だけ刹那っちの仕事の様子を見たことがあるけど言葉数も少なくなって、まるで別人だった。そういや、会議の時も一言も発してなかったな。

 

「何であんたも断るのよ!」

 

「仕事柄、そういうのには関わりたくないのよ。どこでどう繋がってくるか分からないから下手なことは出来ない」

 

「仕事?何よ、それ?」

 

「秘密」

何で俺には簡単に話したんだ?

 

「まぁ、いいわ。でも飛原には参加してもらうわよ」

 

「何故?」

 

「シャルロットに聞いたけど強力なワンオフ・アビリティーを持ってるらしいじゃない?」

ああ、前に少しだけ喋ったな。

 

「無理だ」

 

「何で?」

 

「シャルに能力の危険性は聞かなかったのか?それに今は黒が寝てるしな」

 

「それが何の関係があるのよ!だったら起こせば良いだけの話でしょ!」

何か目が覚めてきたな。二度寝は無理そうだ。

 

「この能力には精神面も影響するんだよ。万全じゃない精神状態で使う気はない」

万全でも使いたくないが。

 

「だから参加しないっていうの?」

 

「まぁ、関係なく参加はしないがな。そういや、かんちゃんは参加するのか?」

ラウラは聞かなくても参加してるだろ。

 

「私達のバックアップとしてね」

そりゃ、良かった。もしも時、助ける人数は少ない方が楽だからな。

 

「やる気のない俺達の相手をする暇があったら他のメンバーと作戦会議でもしておいた方が良いんじゃないか?」

 

「そうね。じゃあ、行くわ」

そう言うと貧乳は部屋から出ていった。

 

「じゃあ、刹那っちは寝とけよ」

 

「深夜くんはどこに行くの?」

 

「目が覚めてしまったからな。ちょっと散歩だ」

 

 

 

適当に岬のあたりを散歩していると柵に腰掛けたウサギを見付けた。どうやらディスプレイで福音の様子を見ているみたいだ。福音はうずくまった状態で静止している。

 

「こんなところで何をやっているんだ?」

 

「湯涼みをしているだけだよ」

いや、嘘だろ。風呂に入ったのは四時間ぐらい前だぞ。

 

「しっくんは何してるの?今から呼ぼうと思っていたところだったんだけど」

 

「ちょっと目が覚めたからな。散歩をしていたんだよ」

 

「そうなんだ。だったら時間まで一緒に喋らない?」

 

「まだ喋るのか?風呂でかなりで喋っただろ?」

長く喋りすぎて軽くのぼせたからな。

 

「まぁまぁ、良いじゃない。束さんはいつまででも喋ってられるよ」

 

「まぁ、俺も暇だし良いか」

その後、ウサギとのんびり話しているうちに五人が福音のところに到着した。そして砲弾パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備したラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の攻撃で戦闘が開始した。

 

「ほぉ。パッケージってのは結構、使えるんだな」

紅椿の侍娘以外のISはパッケージを装備している。そして福音相手に有利に事を進めていた。

 

「まぁ、五人がかりだしね。でも、これで終わらないよ」

だが福音も反撃を開始して状況が厳しくなってきた。だが何とか福音の両方の翼を破壊することに成功する。

 

「でも、まだ終わらないんだろ?」

 

「うんうん、しっくんも分かってきたね。これからが本番だよ」

次の瞬間、海面が強烈な光の球によって吹き飛んだ。そして、その中心に青い雷を纏った福音が自らを抱くようにうずくまっている。

 

「これは『第二形態移行(セカンド・シフト)』か!」

 

「その通りだよ」

やばい!何かテンションが上がってきた!黒を初めて起動した時以来の高揚感だ!

 

「なぁ、黒も『第二形態移行(セカンド・シフト)』できないのか?」

 

「出来ないことはないけどやめた方が良いよ。黒ちゃんに負担がかかるからね。自然になるのを待つ方が良いんじゃないかな?」

まぁ、こればっかりは仕方ないか。

 

「いきなり何なの?気持ちよく寝ていたのに。そんな玩具を貰って喜んでいる子供みたいにテンション高くして」

俺の高揚感が伝わって黒が起きたみたいだ。

 

「おい、黒。ちょっと遊びに行くぞ!」

 

「深夜が言うなら良いわよ。説明は移動中にしてもらうわ」

 

「了解」

俺はIS『黒嵐』を展開する。

 

「ねぇ、アレは使うの?」

 

「一分だけな」

 

「おっ!アレ、使うの!」

 

「この方向に真っ直ぐ行くと、すぐに辿り着くよ」

 

「じゃあ、行ってくる」

そして俺は全力で福音めがけて発進した。

 

『そろそろ着くわよ』

すると福音が倒れているラウラに攻撃をするのが見えた。

俺はドリルの武装『ドリルアーム』を呼び出す。

 

「俺の可愛いラウラに何してやがんだ、テメェ!」

俺は高速移動の勢いのままぶん殴った。

だが俺の攻撃はエネルギーの翼に防がれた。ガードした翼は壊れた。

て言うか、何これ?俺、エネルギーの翼なんて知らないんだけど。俺が移動している間に翼が生えたのか?

 

『深夜!?何でここにいるの!?』

かんちゃんからオープン・チャネルで話しかけてきた。。

 

「よぉ、かんちゃん。メチャクチャ面白そうなことになってるから参加しにきたぜ」

 

『……深夜、口調が崩れてる』

確かにテンションが上がって口調が変なことになってるけど今、言う必要あるか?

 

「まぁ、いい。てめぇら、刮目して見やがれ!これから俺様の本気を見せてやる!」

俺が会話している間に福音の翼が復活していた。楽しめそうで何よりだ。

 

 

「ワンオフ・アビリティー発動!完全同調!」

 

 

『……何も変わってないけど?』

無粋なツッコミだな。

 

「見た目はな。まぁ、見てろ」

この能力は俺がIS『黒嵐』と意識を完全に同調させることで脳が活性化し人間の限界を超えることが出来る。だが、この能力には決定的な弱点がある。ISの保護機能を持ってしても長時間の使用に脳が耐えられない。ウサギの計算では十分以上の使用で俺は廃人になるそうだ。そして脳に確実に後遺症を残さないで戦える時間が二分弱。初めて使った時は脳がオーバーヒートして辛かった。何回も使用していけば脳が慣れて使用時間が長くなる可能性もあるそうだが試す気にはなれない。

だが一番やっかいなのが全能感なんだよな。人間の限界を超えるせいで神にでもなったような錯覚がおきて気持ち良い。

 

俺はドリルアームを戻して『スカイルーラー』を全機と『グングニル』を呼び出す。

 

「さぁ、パーティーの開始だ!」

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

福音のエネルギー弾による一斉射撃が始まった。

 

「お兄ちゃん!大丈夫か!」

ラウラの俺を心配してくれる声が聞こえてきた。とりあえずラウラは無事みたいだな。良かった。

 

「心配してくれるのは嬉しいが、この程度でやられる程お兄ちゃんは弱くないぞ」

大量のエネルギー弾の嵐から俺は何事もなかったかのように現れた。

今の俺には周りがスローモーションで見えている。だからスカイルーラーで当たる攻撃だけをガードしたのだ。

 

「にしても実際に見てみると凄いな」

やっぱりデータで見るだけと実践は違うな。面白い。

 

「楽しいパーティが始まったばかりで悪いが、こっちには時間がなくてね。もうお開きとしよう」

そう言うと俺は新たに盾の非固定装備『矛盾』を呼び出し、スカイルーラーによる一斉射撃を開始した。

 

『お楽しみのところ悪いけど、こっちに来るIS反応があるんだけど』

 

「は?誰が?」

俺は黒の発言に驚きながらも福音の避けきれない攻撃だけを矛盾で防ぎつつ、スカイルーラーで相手を追い詰める。

 

『この反応は白式ね』

と言うことは、いっくんか。

 

「おいおい、あの怪我で来るか普通?さすがヒーローだな」

 

『どうする?福音は適当に弱めて、いつも通り出番は譲るの?』

 

「いつもなら、そうするんだがな。今は気分が高まってるから譲ってやるつもりはない。それに、そろそろ止めだ」

俺は福音の動きをスカイルーラーで囲んで止める。今の俺なら複雑な動きをする福音の行動を予測して詰め将棋の如く追い詰めることも可能だ。

 

「初めて本気を出して楽しかったが、これでパーティーは終了だ」

そう言うと俺はグングニルを構える。

 

「一撃滅殺!グングニル!」

そして全力でグングニルを投擲した。

 

『キアアアアアアア……!』

福音は獣の咆哮のような声を発して片方の翼は破壊されるもギリギリのところで回避した。

 

「おいおい、嘘だろ!あのタイミングで避けられるのかよ!」

やばい!こんなに面白いことは久し振りだ。もっと遊んでいたい気分だ。

 

「でも、これで終了だって言っただろ?」

俺は福音が反撃してくる前に『矛盾』によるラストアタックで倒した。

『矛盾』は盾でありながら矛の性質を持つ矛盾した武装だ。

 

そしてアーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者『ナターシャ・ファイルス』が海に堕ちていく。

 

「仕方ない……」

 

「お兄ちゃん、こっちは大丈夫だ」

俺が助ける前にダメージから回復したらしいラウラが操縦者をキャッチした。

 

「ナイス、ラウラ!」

さて、これで終わりだな。

 

「完全同調、解除」

能力を解除すると同時に俺は凄い疲労感に襲われる。そして頭が痛い。

 

「おい、黒。時間は大丈夫だったか?かなりしんどいんだが」

 

『使用時間は二分三秒。確実安全ラインは少し越えてるけど大丈夫だと思うわ』

楽し過ぎて時間をオーバーしたようだな。後でウサギに見てもらうか。

 

「おい、皆!無事か!……って、あれ?福音は?」

ヒーローは遅れてやって来る、と言うが遅れすぎだな。

て言うか、怪我が治っているように見えるんだが。まさかISによる生体再生か。話にきいた『白騎士』みたいだな。

 

「よぉ、いっくん。遅かったな。福音は俺がたった今、倒したぞ」

 

「深夜か。折角、急いで来たのにこれはないだろ……」

これでVTシステムの時の借りは返したな。

 

「まぁ、皆が無事で良かった」

 

「そういや、皆は無事なのか?俺が来た時には全員、倒れていたが……」

ラウラの無事を確認できたら俺には充分だから、他のメンバーは確認してなかった。

 

「えっ!?マジか!」

そう言うと、いっくんは皆の安全を確認しに行った。

 

「かんちゃん。かなり疲れたから迎えにきてくれ」

 

『分かった。待ってて』

かんちゃんにオープン・チャネルで救援要請をすると俺は近くの休める場所に移動した。




やっと出せました、深夜のワンオフ・アビリティー。かなり最初の方から思い付いていて、ずっと出したかったんですよね。ちなみに話の展開しだいでは出ない可能性もありました。

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