臨海学校、二日目。今日は一日中、ISの各種装備試験運用とデータ取りに俺と刹那っち以外の専用機持ちは忙しい。俺と刹那っちの専用機はウサギが作ったものだから、する必要がない。て言うか、俺は日頃から趣味でやっている。
ちなみに現在地はIS試験用のビーチだ。
「ちょっと深夜くん!私を騙したわね!」
かんちゃんが専用パーツのテストを手伝っていたら急に刹那っちが詰め寄ってきた。
「何だ、開放されたのか?」
「織斑くんが朝食を食べさせてくれるために開放してくれたわよ」
ちっ!あいつ、余計なことをしやがって。
て言うか一晩中、拘束されていたのに元気だな。
「助けてくれた、いっくんに惚れたりしたか?」
「いきなり何言ってるのよ。私が男に惚れるわけないでしょ。女装が似合うなら別だけど」
いっくんのフラグ体質を持っても刹那っちは無理だったか。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
打鉄用の装備を運んでいた侍娘が魔王に呼ばれて、そっちに向かうのが見えた。
「お前には今日から専用――」
「ちーちゃ~~~ん!」
砂煙を上げながらウサギが凄い勢いで走ってくる。
「やぁやぁ、会いたかったよ、ちーちゃん!さぁ、ハグハグしよう!何ならこのままベットで愛を――」
「黙れ」
魔王がウサギを片手で顔面を掴もうとした。
「フッフッ。それは昨日、しっくんに食らったから効かないよ。私は学習する生き物だからね。イェーイ」
魔王のアイアンクローを避けるとウサギは抱き付いた。
「やっばり、ちーちゃんの抱き心地は最高だね。このまま一生やっていても飽きないくらいだよ」
「そうか。私はごめんだ」
そう言うと魔王は鳩尾を思いっきり殴った。
「うおっ!」
そして、そのまま俺のところにぶん投げてきた。
「……仕方ないな」
俺は飛んできたウサギをサッカーのボールみたいに侍娘に目掛けて蹴った。
「……」
それを無言で侍娘が日本刀の鞘で叩き付けた。
「……」
そこを刹那っちが無言で近付いて脱がしていた。
「……何、この状況?」
かんちゃんがこの一連の光景を見て冷たい目で呟いた。
すでにウサギは下着姿になっているので、とりあえず写真を撮った。後でクロエに売るか。
「皆して束さんを苛めるなんて酷いよ!これ、束さんじゃなかったら大怪我だよ!泣いちゃうよ!」
この状況を見て他の生徒達がぽかんとしている。
「そら一年、手が止まっているそ。この馬鹿のことは無視してテストを続けろ」
魔王に言われて女子達は作業を再開した。
「今度は無視!本格的な苛めだね!ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ!」
喋りながら刹那っちから服を取り戻して着直した。
「そうか。それは世界が平和になるな」
「相変わらず、ちーちゃんはツンデレで可愛いなぁ」
ツンデレじゃなくて本心だと思う。
「ふざけたこと言ってないで早く本題に入れ」
「オーケーオーケー。すでに準備は完了しているのだよ。さぁ、大空をご覧あれ!」
そう言うとウサギはビシッと上空を指差した。それにつられて俺達も空を見上げる。
ズズーンッ!
すると上空から金属の塊が二つ砂浜に落下してきた。
そして次の瞬間、片方の金属の塊の正面らしき壁がばたりと倒れて中身が見えた。
「じゃじゃーん。これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ」
真紅の装甲に身を包んだその機体は、ウサギの言葉に応えるかのように動作アームによって外に出る。
「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか!私が補佐するからすぐに終わるよん」
「おい、束。こっちのは何なんだ?」
「ああ、それ。それはしっくんと相談して暇潰しに作った物だよ」
と言うとアレか。シャルの件が終わった後にウサギの暇潰し用に頼んだヤツ。
「何で持ってきたんだ?念のために頼んだだけで今、必要な物ではないだろ」
「あははっ!いつ、何が起こるか分からないからね。念のためというヤツなのだよ、ワトソンくん」
絶対、何か企んでいるな。まぁ、俺は楽しめれば良いけど。
「じゃあ、箒ちゃん。こっちに来て。今度こそ始めるから」
ウサギがフィッティングとパーソナライズを開始したところで俺は自分の荷物を取り出した。
「それは何?」
「黒のパッケージだ。本来、第四世代機には必要ないんだが黒は趣味と試作を兼ねて作られた欠陥機だからな。第四世代機の技術が使われているのに、ほとんど第三世代機と同じ性能しかない。特にエネルギー効率は最低だな。その欠陥を埋めるための物だよ。だから一般的なパッケージとは意味合いが少し違うな」
と言っても、このままでも充分戦えるけどな。これが必要になるとか、どんな事態になるんだろうな。楽しみだ。
「深夜、その欠陥機って呼び方を変えてもらえると嬉しいんだけど」
「なるほど。だったら何て呼べばいいんだ?」
「特別機とかで良いんじゃない?」
確かに人型になってる時点で特別だが。でも、それだと優れているイメージがあるな。
「じゃあ、異常機はどうだ?」
「深夜の意見でも、それはさすがに嫌ね」
「う~ん、難しいな。まぁ、呼び方は後で考えるとして先にパッケージをインストールするか」
「ああ、そうだ。しっくん、言い忘れてたことがあったよ。まとめて持ってきてるけど今回は増設ブラスターをインストールしておいてね」
ウサギが作業しながら言ってきた。にしても、よくよそ見しながら同じ速度で作業を続けられるよな。ウサギには脳が二つあって別々に思考してる、って言われても信じられるな。
十分後、俺はパッケージのインストールが終わったのでウサギのところに来た。どうやら、今は紅椿の方は自動処理に任せて白式の様子を見ているみたいだ。
「よぉ、ウサギ。そっちはどうだ?」
「やぁ、しっくん。もう終わったの?相変わらず仕事が速いね」
「たかがインストールするだけで速いも何もないだろ。それにまだ調整も残ってるし」
「あははっ!それもそうだね」
だったら最初から言うなよ。
「それよりも今、いっくんと白式の改造計画について話してたんだよ」
「改造計画?」
普通に考えると遠距離装備を付けるとか、そんな感じか。
「いっくんが執事の格好になるんだよ。セバスチャンだね。もしくはメイド服」
「だったら女体化なんてどうだ?」
「おお、良いね!創作意欲が湧いてきたよ。イェーイ。帰ったら早速、作ろう。もちろん、しっくんの分も作るよ」
何か俺も色々、思いついてきた。後でアイデアをまとめるか。
「ちょっと待ってください!何で俺を無視して話を進めてるんですか!俺は嫌ですよ!」
「何で?面白いと思うけど」
「こんなに面白そうなことを断るなんて本気か?」
「何で俺がおかしい、みたいな雰囲気になってるんですか!?普通、女子の体になるなんて嫌でしょ!」
何を言ってるのか理解できない。
「……あの、盛り上がっているところ悪いのですが、こっちはまだですか?」
侍娘が話に割り込んできた。
「んー、もう終わるよ。はい、三分経った~。今の時間でカップラーメンが出来たね、惜しい」
今は三分じゃないカップラーメンもあるけどな。
「んじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」
「ええ。それでは試してみます」
プシュッ、プシュッ、と音を立てて連結されたケーブル類が外れていく。その次の瞬間には紅椿は凄い勢いで飛翔していた。
そして武装のテストを開始した。武装は刀で『雨月』と『空裂』。
雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出。射程距離はアサルトライフルくらいだ。
空裂は対集団仕様の武装で斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつける。しかも降った範囲に自動で展開する仕組みだ。
「さてさて一通り終わったけど、しっくんはどう思う?」
「データで見た時と比べると、だいぶ性能が低いな。少なくとも俺が満足できるレベルではない」
「これでか!?かなりの圧倒的なスペックだと思うが!」
まぁ、他の連中からしたらそうか。この段階でも一般と比べると充分なレベルだからな。
「俺の見たところ全力の一割ぐらいだな」
「まぁ、それは仕方がないよ。それだけ紅椿の性能は圧倒的だからね。いくら箒ちゃんでも一回で使いこなせるわけがないよ」
「……何か別次元すぎるな」
俺達の会話を聞いて周りがぽかんとしているが、どうでもいいか。それよりも魔王がウサギを鋭い支線で睨んでいる方が気になるな。まぁ、さすがに今回のはやり過ぎだからな。何たって各国が努力して開発している第三世代型ISの開発を無駄にする行為だ。俺に言わせれば第三世代ごときで手こずっている無能の方に問題があると思うが。
「た、大変です!お、お、織斑先生!」
物凄く慌てた様子でマヤマヤがやって来た。
「どうした?」
「こ、これをっ!」
マヤマヤが魔王に小型端末を渡す。その画面を見て魔王の表情が曇った。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた――」
「機密事項を口にするな。生徒達に聞こえる」
俺には聞こえているがな。
そこから周りの生徒の視線を気にしてか手話でやりとりを始めた。しかも軍関係の暗号手話だ。まぁ、俺には分かるが。
「それでは私は他の先生達にも連絡してきます」
そう言うとマヤマヤは走り去っていった。そして魔王が手をパンパンと叩いて生徒全員を振り向かせた。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動に移る。今日の稼働テストは中止。各班はISを片付けて連絡があるまで各自室内待機すること。後、専用機持ちは全員集合しろ。以上だ」
ウサギが具体的に何を企んでいるかは分からないが面白くなってきたな。
話の展開的にここからは真面目な話が続きそうです。ですが、隙を見付けてボケていこうと思います。
感想、評価、お気に入り登録待ってます。