「あ、深夜に一夏。ここにいたんだ」
ビーチバレーをしている、かんちゃんのところに行こうとした時にシャルとバスタオル数枚で全身を頭の上から膝下まで覆い隠している何かが現れた。
「何やってんだ、ラウラ」
「こんな全身を隠しているのによくラウラだって分かったね」
「俺の観察眼を見くびるなよ」
て言うか、これがラウラが遅れていた理由か。
「それよりも速く、そのタオルを脱げよ」
「そうだよ、ラウラ。可愛いんだから一夏に見てもらわないと」
「そう言われても私にも心の準備があってだな……」
ラウラの声はいつもと違って弱々しいものだ。ずっと軍人として生きてきたラウラにはレベルが高かったか?
「ずっと、この調子なのか?」
「うん。僕もずっと言ってるんだけど中々頑固で困ってるんだよ」
「可愛いんだから大丈夫だぞ、ラウラ」
「や、やっぱり私が可愛いとは思えないんだが」
ラウラのこの認識を変えるところから始めないといけないかもな。
「いっくんも可愛いと思うよな?」
「え?ここで俺か?」
「思うよな」
俺は思いっきり睨みを利かして言う。
「あ、ああ、俺も可愛いと思うぞ」
「そ、そうか、可愛いか……。だったら仕方ないな……」
そしてラウラはタオルを脱いで水着姿になった。レースをふんだんにあしらった黒の水着で、髪型は左右一対のアップテールになっている。
俺は全力で写真を撮った。
「……シャル、この髪型は?」
「僕からのサービスだよ」
「ナイス、シャル!報酬を上乗せしといてやる!」
内容が内容だけに本当は嫌なんだが仕方ない。それだけラウラが可愛いんだから。
「おい、いっくん。ちゃんと感想を言ってやれ」
「……何かいつもとキャラが違わないか?」
「そんなことはどうでもいい。速くラウラの水着姿を褒めろ」
「ああ、似合ってるぞ、ラウラ」
もっと褒めろよ、ヘタレ野郎。
「そうか……。なら、良い……」
まぁ、ラウラが喜んでいるから良いか。
「し、深夜。代わって……」
かんちゃんが疲れた様子でやって来た。
「どうかしたか?」
「いや……もう……疲れて、しんどい……」
「疲れるの早すぎだろ。体を鍛えた方が良いぞ」
「いや、私とほとんど生活なのに運動神経の良い深夜がおかしい……」
そんなことはないぞ。たまに休日に道場破りとかしてるし。
「あっ!織斑くんに飛原くんだ!」
「さっきの約束!ビーチバレーしようよ!」
さっき約束した女子だな。
「かんちゃんもやろうよ~」
「……いや、本音。……無理。慣れないことして疲れた」
今度、かんちゃんの運動メニューを考えるのも面白いかもしれない。
「ああ、いいぜ。ルールは?」
「タッチは三回まで、スパイク連発禁止、キリのいい十点先取で一セットのお遊びルールよ」
「じゃあ、メンバーはどうするか。こっちには五人いるし」
俺と黒とラウラの三人でやりたいけど、ラウラはさっきので照れて使い物になりそうにないし。
「私と深夜で二人だけで充分よ」
「……私も参加する」
気配もなく、落ち込んだ様子の刹那っちが現れた。
「どうかしたか?」
「……ナンパに全敗したのよ」
予想通りだな。
「だからビーチバレーで活躍して女の子達にアピールするのよ!」
ここまでポジティブだと逆に尊敬できるな。
そして俺達はすでに出来ているコートに移動して試合を開始した。
相手は、のほほんさんと誰だろうか?ほとんど授業を受けていないせいでクラスメイトを全員、覚えていない。
「そっちのサーブから始めていいぞ」
「ふっふっふっ。七月のサマーデビルと言われたこの私の実力を……見よ!」
名前は分からないが次からサマーデビルと呼ぼう。
そして、そのサマーデビルはいきなりジャンプサーブを打ってきた。
「余裕」
刹那っちがレシーブをした。
「深夜」
次に黒が俺にトスを上げた。
「そこだ!」
そして俺が相手の届かない位置を計算して、そこにノータッチでスパイクを決めた。
「お~、三人共やる~」
「ちょっと布仏さん、何で敵を褒めてるのよ」
そんな感じで試合は進み俺達が完封勝利した。
「さて、次は誰が相手だ?」
「だったら俺が相手だ」
いっくんが出てきた。
「だったら僕もやるよ」
「嫁がやるなら私もやろう」
ラウラは復活したみたいだな。だが、困ったな。ラウラは狙えないし。
そして試合が開始した。
「何であんたの近くにはそんなに可愛い女の子が集まってるのよ!私に一人ぐらい寄越しなさいよ!」
刹那っちが嫉妬にまみれた発言をしながらスパイクを打った。そんなんだから駄目なんだと思うが。
「うわっ!」
そして、いっくんの顔面に直撃した。
「おい、いっくん、大丈夫か?」
「心配するな、大丈夫だ」
鼻血を出しながら言っても説得力がないな。
「私の嫁に何をする!」
ラウラが刹那っちめがけてスパイクを打った。
「そんな程度の攻めじゃ、私は感じないわよ」
俺は刹那っちがレシーブしたボールを刹那っちの顔面にめがけて打った。
「いきなり何するの!」
ちっ!避けたか。
「いや、ウチのラウラに下ネタを言ったから」
「このシスコンが」
その後は俺と刹那っちのスパイクが、いっくんに集中しているせいで互角の展開になっていた。だが、いっくんが顔面に三回目のスパイクが当たったところでダウンして俺達の勝ちになった。ビーチバレーのルールはいつから格闘技になったんだ?
「おい、ラウラ。いっくんを海の家にでも運んで休ませてやれ」
「了解だ、お兄ちゃん」
「ちゃんと頑張れよ」
「う、うむ。分かった」
そして、いっくんをラウラが引きずっていた。確かにラウラの体格じゃあ、背負うのは厳しいかもしれないが。大丈夫か、いっくん。
「何があったんだ?」
ちーちゃんとマヤマヤがやって来た。ちーちゃんの水着は前に、いっくんが選んだ水着だな。
「いっくんが顔面にボールがぶつかって鼻血を出してダウンしただけだ」
「織斑くんは大丈夫なんですか?」
「ラウラに任せたし大丈夫だろ」
そのまま夏の魔力でヤってきたら面白いんだが。
「せっかくの休憩時間だし、私もしていくか」
ちーちゃんに勝てる奴がいるわけないだろ。
「え……、いや、さすがに織斑先生は……」
「怪我ですむかな……」
他のメンバーがビビっている。
「安心しろ、小娘共。私の相手をするのは飛原だ」
何で俺が修羅の相手をしないといけないんだよ。
「……そろそろ昼だから飯を食べにいかないと」
「まだ時間はあるぞ」
「大丈夫よ。私と深夜ならアマゾネスに勝てるわ」
何で煽るんだよ。そして、その自信はどこから来るんだ?
「ほぉ、大した自信だな。だったら、その実力みせてもらおうか。後、私はアマゾネスよりも強いぞ」
何だ、このラスボス感は?何で、物語の途中でラスボス戦がくるんだよ。
「……仕方ない。ここは腹を括るか」
「そうだ、一つ賭けをしないか?」
「賭け?」
「ああ、勝った方が負けた方に一つ何でも命令を出来るというヤツだ」
この状況は俺の人生の中で二番目ぐらいヤバいかもしれない。ちなみに一番目はシャルが初めて俺の部屋に来た時だ。
「……断っていいか?」
「駄目だ」
くそっ!なんて暴君なんだ!
「私が勝ったら貴様には私に対するタメ口をやめて敬語で喋ってもらうぞ」
思ったよりはマシな内容だが、それでも難易度が高いな。俺が敬語なんて喋れるわけがない。
「飛原はどうする?まぁ、貴様には万に一つの勝ち目もないがな」
「……今すぐには思い付かないから勝ってから考える」
「まぁ、いいだろ。後、私はハンデとして山田先生と二人でやる。貴様は三人でいいぞ」
それ、ハンデになるのか?ちーちゃん一人で十人分以上の活躍をしそうだが。
そして試合が開始した。こっちのメンバーはさっきと一緒だ。
「いくぞ」
俺はちーちゃんと反対サイドのコートぎりぎりのところにサーブを打った。
「ふっ、甘いな」
マジか!今のはマヤマヤがレシーブするところだろ。それをレシーブするとか人間レベルじゃないぞ。
「では、次はこっちの番だな」
ちーちゃんがマヤマヤのトスをスパイクした。
パァァァーンッ!
ボールが地面にぶつかったところで破裂した。
「「「…………」」」
周りを静寂が支配した。
どんな力で打ったらボールが破裂するんだ?
「ふむ。ボールが破裂したみたいだし、変わりの物を海の家から借りてくるか」
えっ!まだ続けるの?こんなボール、レシーブしたら骨が折れそうなんだが。
「では、そこの貴様。ボールを借りてきてくれ。もちろん自腹で」
ちーちゃんのことは今までブラコンとしか思ってなかったが認識を改める必要があるな。ただのブラコンじゃない。ブラコンで魔王だ。
いや、待て。諦めるには早い。何か勝つ方法があるかもしれない。……無理だな。コート全体が守備範囲、そしてスパイクは破裂する。勝てるわけがない。
「棄権します!」
こうして俺はちーちゃん……もとい、織斑先生に敬語で話すことになりました。
明けましておめでとうございます。
新年一発目の投稿です。今年も頑張って書いていこうと思います。
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