「ハァー、酷い目にあった」
銀髪ロリとの戦闘後ばっくれたはいいけど、まさかちーちゃんが出てくるとは。ちーちゃんの教育という名の暴力のせいで黒は一応、ISとしての機能は使えるが人型を保てない程のダメージを負ってしまった。回復には一晩中かかる、と言っていた。ばっくれた分は写真を与えて罰を軽くしてもらったのに、これとは。本来なら死んでいてもおかしくなかったな。
「……また何かしたの?」
「何もしてねぇよ。喧嘩を売って、終わったら逃げただけだ」
「何かヤンキーみたい」
そう言われると、そんな感じもするな。にしてもヤンキーか。俺から一番離れたイメージだな。
「今日はもう寝るか」
言った瞬間にプライベート・チャネルで連絡がきた。
「ハァー、誰だ?」
『深夜、ちょっといいかな?』
シャルか。何かシリアスな雰囲気だな。う~ん、今日はそんなのが多いな。シリアスな雰囲気よりもふざけている方が好きなんだが。
「いいけど、何?いっくんに風呂を覗かれて女だってバレたか?」
『……え!?何で分かったの!』
適当に言っただけなのに当たるとは。俺の勘は良く当たるな。超能力の域だな。
「で、何で俺に連絡してきたんだ?」
『……二人っきりはちょっと……』
正直、今はしんどいが仕方ないか。
「分かった。今から行くから待ってろ」
それだけ言うとプライベート・チャネルを切った。
今、気付いたけどISの私的使用で怒られないよな?次は本当に死ぬかもな。こうなったら、いっくんの女装写真を撮るしかない。
「というわけで、かんちゃん。ちょっと出掛けてくるわ」
「……また問題起こさないでね」
信用されてねぇな。俺が何回もバレるわけないのに。
「よぉ、来たぜ」
「「…………」」
とりあえず、いっくんとシャルの部屋に来たはいいが何だ、この重い空気は?無言の空間が一番苦手なんだよな。今は黒も動けないし。
「……よし、帰ろう」
「ちょっと待て!せっかく来たんだから、のんびりしていけよ」
俺が重い空気に耐えられず帰ろうとしたら、いっくんに止められた。
この状況でのんびりできわけないだろう。
「……何でシャルの風呂を覗いたんだ?」
「……いや、ボディーソープから切れていたから渡そうしただけなんだ」
まぁ、普通に考えて同じ部屋に住んでいて女だってことを隠し通すのは無理だよな。
「ハァー。とりあえずお茶でも落ち着け」
そういや、こんなに溜め息をするのは初めてだな。
とりあえず俺は電気ケトルでお湯を沸かして、それを急須に注いだ。
「……俺は今、かなりしんどいからさっさと話せ」
「……う、うん。分かった……」
それからシャルはデュノア社のことや男装している理由を話した。正直、全く面白くない話だったので半分寝ていた。
「ああ、なんだが話したら楽になったよ。……って深夜、起きてる?」
「……ん?ああ、起きてる、起きてる。さっきまで、ちーちゃんの折檻を受けてた上に面白くない話を聞かされていたけど起きてる。……」
「寝てるじゃねぇか!」
おっと、しまった。意識がまた飛んでしまった。速く終わらせて寝るか。
「大体、何でこんな酷い話を聞いている最中に寝れるんだよ!」
「酷い話?」
「ああ、親だからって子供の自由を奪う権利があるわけがない!生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ。それを親なんかに邪魔されるいわれは無い!」
んー、こういう熱いのは苦手だな。
「何?自分逹が親に捨てられたことを気にしているのか?」
いっくんとちーちゃんの話はウサギから色々聞いて知っている。正直、興味は全くないが。
「……知っていたのか?」
「そんなこと気にする必要ないだろ。過去なんて、どうでもいい。重要なのは現在だ」
「確かにそうだな。深夜の言う通りだ」
「にしても専用機持ちは家庭に問題があるヤツが多いな」
パッキン女と貧乳の話も恋愛相談の時に簡単にだが聞いたからな。まぁ、銀髪ロリに関しては試験管ベイビーだから家庭も何もないが。
「……深夜も何か問題あるの?」
「ああ、何年か前に交通事故で両親が死んでる」
「……え、え~と、何て言ったらいいか分からないけど……ゴメン」
「別に謝らなくていい。俺は気にしていない」
あんな面白くもない両親なんかいてもいなくても同じだからな。むしろ、生命保険でのんびり一人暮らし出来たんだからラッキーだ。
「それよりも対処策が三つある」
「み、三つも!」
「それは何なんだ?」
て言うか、こんな簡単なことに気付いていないのかよ。
「一つ目は単純に目的である白式の情報をやることだ」
「おお、良いアイデアだな」
「え……、いや、でも……」
何かこういう遠慮しているのを見るとイライラするな。
「二つ目は白式の代わりになる重要な情報をやることだ」
「白式の代わりの情報?」
「まぁ、色々あるが一番はISコアの製造方法だな」
教えたところで第三世代機に手こずってるような会社には造れないがな。
「ISコアって完全なブラックボックスなんでしょう?何で知ってるの?」
「ウサギに聞いたら普通に教えてくれた」
「えっ!そんな世界中が欲しがっている情報を簡単に教えてくれたの!」
今後何をするかは、あまり教えてくれないが過去のことは簡単に教えてくれるからな。
「他にも色々知っているから外部に俺のことを言うなよ。マジで戦争になるから」
「……わ、分かったよ。で、最後の方法は?」
「これが一番楽しめる方法なんだが、デュノア社をなかったことにしよう」
「「……は!?」」
二人揃って驚くようなことか?
「……え~と、どういう意味?」
「どういう意味も何もない。単純にそのデュノア社が邪魔だっていうなら潰せばいいんだよ」
デュノア社のIS保有数が何台か知らないがオモチャが五台もあれば殲滅可能だろう。白騎士に使われていたステルス能力とウサギのハッキング能力があれば暗殺も余裕だ。
「……い、いや……そ、それはその……」
「その後の生活を気にしているなら大丈夫だ。世話ぐらい見てやる」
金はウサギに頼めば問題ないだろ。
「いや、そういうことを言ってるわけじゃ……」
「まぁ、今すぐに決めなくてもいいだろ。少なくともIS学園を卒業するまでは時間はあるんだから」
「どういう意味だ?」
「いっくん、勉強不足だぞ。特記事項第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則とした許可されないものとする。つまり、そういうことだ」
「そんなの良く覚えていたな」
ああ、自分でもビックリだ。全く興味がないからすぐに忘れたのに思い出せるとは。俺の脳は自分で思ってるよりも都合良く出来ているようだ。
「だからシャル、卒業までのんびり考えろ。まぁ、結果が出ているというのなら明日にでも実行するが」
「いや、いいよ。卒業までのんびり考えてみる」
「そうか、了解した。それよりも楽しい思い出とはないのか?さっきまでの真面目な話で疲れてしまったんだが」
何か今の台詞は俺っぽくないな。やっぱり疲れているんだな。
「楽しい思い出か……。俺の場合は千冬姉がいたから親がいなくても普通に楽しかったぜ」
シスコン確定だな。
「僕のお母さんは日本が大好きだったんだ。その中でも特に漫画が大好きでね。良く二人で読んだりしたっけ……」
何かしみじみと語っているが、それがシャルの腐女子の原因か。俺的には全く感動出来ないどころか迷惑な話だな。
「へぇ、そうなのか。だったら今、その思い出の国に来れて良かったじゃないか?」
「うん。深夜に色々なところを案内してもらって日本を良く知れて楽しいよ」
あれ?疲労と睡魔のせいで思考力が落ちていて気付かなかったけど、この状況ヤバくないか?シャルの前に男が二人、しかも他には誰もいない。速く逃げよう。
「じゃあ、話も終わったところで体力も限界だし帰るわ」
「いやいや、深夜もついでだから家族との楽しい思い出を話していきなよ」
この優しい笑顔が悪魔の微笑みにしか見えない。黒も動けない状態で敵地に来るべきではなかった。
「俺にはそんな思い出はないし、マジで限界だから早く帰るわ」
俺は勢いよく立ち上がって部屋から出ようとする。
「そ、そうか。分かった。じゃあ、またな」
「ちぇー」
「じゃあ、お休み」
そして俺は部屋を出た。何とか助かった。さすがのシャルもISは使わないよな。
もう少し気付くのが遅かったらトラウマになった上に、ちーちゃんに殺されてもおかしくなかったな。
今回、シリアスっぽい話をしたのでボケたい衝動に襲われています。
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