俺は今、人気のない校舎にいる。
その理由はウサギから電話がかかってきたからだ。場所は毎回、同じ場所に来ている。ここはほとんど人が通らない。
『やぁやぁ、久しぶりだね、しっくん。声が聞けて嬉しいよ』
「それは毎回言わないと駄目なのか?今日、少しだけど喋ったよな?」
『束さんにとっては一時間会えないだけで久しぶりなのだよ』
何を自信満々に言ってるんだ、こいつは。まぁ、こいつがふざけているのは毎回のことだから気にしなくていいか。
『別にふざけてないよ。束さんは常に真面目だよ。ぶぅぶぅ』
「そんなこと言っても可愛くないぞ。て言うか最近、俺の心が良く読まれているような気がするな」
俺にプライバシーはないのだろうか?
『しっくんは大事なことは隠すのが上手いけど、それ以外は適当だから分かりやすいんだよね』
「それは知らなかったな。次からは気をつけるか。それよりも本題はまだか?この後、ちーちゃんに呼ばれているんだが」
電話するたびに雑談がはいるからな。いつものペースだと時間に間に合わない。
『何か悪いことでもしたのかな?』
「今日の無人機のことだ。俺は元々、ウサギの紹介でIS学園に入学しているから、色々目をつけられているんだよ」
『何で束さんの紹介だと目をつけられるのさ?意味が分からないよ』
「……お前、絶対分かってて言ってるだろ?」
『さすが、しっくん。束さんのことを良く分かってるね。束さん、感激だよ』
いつもなら、このままウサギのペースに巻き込まれるのもいいけど、今日だけはマズイな。
「ああ、俺はウサギの数少ない友達だからな。それよりも早く本題に入ってくれ。くだらん話なら、また今度行く時でいいだろ?」
『ちーちゃんに呼ばれているんだったね。もう少し話たいけど、仕方ないね。結果だけ言うと実験はおおむね成功だよ』
「おおむね、ってどういう意味だ?」
『細かいところを詰めないといけない、ってだけ。でも後回しになるかな。先に紅椿を造りたいし』
紅椿ねぇ。俺も少しは性能を知っているが、侍娘に使いこなせるとは思えない。俺なり他の優秀なヤツにでも渡した方が面白いことになると思うけどな。
『しっくんの直接見た感想はどんな感じかな?』
「俺としては不満はないな。まぁ、一つ言うなら早く欲しいってぐらいか」
『しっくんは我慢するのが苦手みたいだね。お、しっくんの数少ない弱点を発見したよ』
「……いや、俺は能力的にはパーフェクトだけど、人格的には問題だらけだろ」
『あはははっ、それは束さんも同じだね。だから、仲良くやれるのかな?』
本物の天才はどこか人間的に問題をかかえてるものだからな。
にしては、ちーちゃんは人間的に問題がないように見える。いや前にいっくんがプライベートだと、かなりだらしないとか言ってたな。
「さぁな。じゃあ、そろそろ時間だから行くわ」
『了解』
「俺の口癖をとるな」
『別にいいじゃない。ケチだなぁ』
「まぁ、別にいいけどな。じゃあ、また今度行くわ」
それだけ言うと俺は電話を切った。
はぁ。行きたくない。ちーちゃん、マジで怖いからな。
コンコン。俺はちーちゃんの部屋のドアをノックする。
「入れ」
そして、ドアを開けて部屋に入る。
にしても、いつもより怖かったな。ヤバくなった時のために逃げる準備をしとくか。
「失礼します」
「ほぉ。お前にしては礼儀正しいな」
「どっかで『人生を有意義にする一番の武器は礼儀だ』って聞いたことがあるような気がするからな」
「どこの誰かは知らんが良いことを言うな。お前も見習え」
「俺は元々礼儀正しいんだよ」
戯言だけどな。
「まぁ、いいか。早速、本題に入るぞ」
あれ?座らせてもらえないのか?鬼だな。
「何の用なんだ?俺はこの後、かんちゃんとアニメ談義があるんだが」
「言わなくても分かってるだろ。今日の無人機のことだ」
いきなりだな。まさか、駆け引きもなしで核心をつくか。完全に予想外だ。こういうタイプはウサギ以上に苦手だ。
「何のことだ?ISは人が乗らなきゃ動かないだろ?無人機なんてありえない」
「普通はそうだな。だが、束なら無人機を造れるだろう?」
もう完全に確信してんじゃねーか。
「そんなこと言われても知らないものは知らない。大体俺はウサギのことを全部知っているわけじゃない。むしろ、隠していることの方が多いだろうからな」
これは本当のことだ。まぁ、俺がネタバレを嫌がって聞いていないだけだが。
「それはそうだろうな。だが、お前は何かを知っているんじゃないか?」
さっきから……て言うか、最初から怖い。下手なことを言ったら殺されそうだ。
「何を期待しているか知らないが俺はマジで何も知らない」
「そうか。お前がそう言うならそうなんだろう」
意外とあっけなく納得したな。拷問でもされると思っていたのに。
「だが、学園に迷惑をかけるようなことをするつもりなら覚悟しておけよ。その時は全力で排除する」
出来るだけちーちゃんは敵に回したくないんだよな。勝てる気がしない。何かする時は上手く立ち回らないとな。
「じゃあ、話も終わったようなので帰っていいか?」
「まぁ、待て。まだ話が残っている。お茶ぐらいは出すぞ。そこのイスにでも座っていろ」
何で今更、座らせるんだよ?て言うか、急に親切になって怖いな。
「これ以上何を話すんだ?」
「そんなことは決まっている」
そして俺にお茶を出して、ちーちゃんもイスに座った。
「この前に頼んだ一夏の写真についてだ!」
「は?」
「前に束に渡す写真を撮らせた時に一夏の寝起き写真やお風呂の写真とか頼んだだろ」
今、それについて話すのか?さっきまでのシリアスな空気はどうした?
「……ああ、一応あるが」
元々戦闘になったら写真を使って時間を稼いで、その間に逃げる予定だったから持ってきてはいるが。
「おお、やっぱり一夏は可愛いな。世界一だ。一夏のためとはいえ、普段厳しくしているせいでコミュニケーションがあまりとれないてないからな」
何か色々台無しだ。何だ、このとろけきった顔は?
ちーちゃんは本物の天才にしてはまともだと思っていたが、それは間違いだったな。思いっきり問題をかかえている。こいつは重度のブラコンだ。下手したら弟を異性として見ている可能性もある。
「何を言っているの?そんなヤツよりも私の深夜の方が可愛いわよ。この深夜の女装写真を見なさい」
さっきまで、ちーちゃんにビビって指輪になっていた黒がいきなり人型になって敵対心剥き出しの発言をした。
「ふん。貴様こそ何を言っている。一夏の女装の方が可愛いに決まっているだろう。これを見ろ」
そう言って、どこからか写真を取り出す。
「何でそんな写真持ってるんだ?俺、撮った記憶がないんだが」
「これは一夏がまだ小学生の時に頼んで撮った写真だ」
そんな昔からかよ。さすがに引くな。
世界最強の威厳はないのか?
「そうだ、飛原。一夏の女装写真を撮ってきたら多少の問題は目をつむるぞ」
駄目な大人を目撃してしまった。
「……じゃあ、黒。帰るぞ」
「分かったわ」
「ちょっと待て!一夏の――」
俺はちーちゃんが何か言っていたが無視して帰った。
これ以上関わるのはめんどくさい。
本当はシリアスなまま終わらす予定だったのに、書いている途中で思い付いてこんなラストになってしまった。何故こうなったのだろうか?
とりあえず、これで一巻の内容は終了です。
次回からは二巻に入ります。
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