クラス対抗戦当日、俺はかんちゃんと黒と第二アリーナの観客席に座っている。
今からいっくんVS貧乳の試合が始まるところだ。
「くそっ!結局、何も思い付かなかった!」
「……いきなりどうしたの?」
「気にしなくていいよ。いつも通りだから」
たっちゃんがちーちゃんにチクったせいで、事前の準備は無駄になってしまったし。
他にゲリラで出来るようなことは何も思い付かなかった。
「ところで何で私はここにいるの?次、私の試合なんだけど」
「別にいいだろ。準備は終わってるし、それに何もしなくても普通に勝てるだろ」
て言うか、どうせ試合は台無しになるしな。
「相変わらず適当……」
「適当でも、俺の言うことが外れたことはないだろ」
「それがムカツク」
どういう意味だ?
「お、貧乳が出てきたな」
第三世代機のIS『甲龍』を展開した姿でピットから出てきた。
「……あれが織斑一夏とその専用機」
次にいっくんが白式を展開した姿で登場した。
『それでは両者、規定の位置まで移動してください』
そのアナウンスで二人は移動してお互いの距離が五メートルまで近づく。
何かオープン・チャンネルで会話をしているようだな。
『それでは両者、試合を開始してください』
「どっちが勝つと思う?」
「実力的には貧乳だな。だが、いっくんのワンオフアビリティの攻撃力は脅威だ。それを瞬時加速で当てることが出来れば勝てる可能性がある」
威力が高すぎて相手を傷つけるかもしれないから零落白夜を全力で使わないと言っていたから、勝ち目はないな。
貧乳の肩アーマーがスライドして開く。そして中心の球体が光った瞬間、いっくんが見えない攻撃に殴りとばされた。
「中国の人の見えない攻撃。あれは衝撃砲?」
「正解。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す第三世代兵器だな。しかも砲身までも目に見えず、砲身斜角がほぼ制限なしで撃てるのが特徴だ」
「言われなくても、そのぐらい分かる」
こういう時、頭の良いヤツは厄介だな。説明のしがいがない。
「でも、深夜と私には効かなかったけどね」
「そうなの?て言うか、いつ戦ったの?」
「昨日の放課後。さすがにクラス対抗戦の前日だったから、お互いに本気では戦わなかったけどな」
まぁ、あの程度なら全力で戦っても普通に勝てるだろうけどな。
「……色々忙しそうね」
まぁ、楽しいから忙しいと感じたことはないけどな。
「ところで、どうやって破ったの?今、織斑一夏がしてるみたいにハイパーセンサーで空間の歪み値と大気の流れを探らせるだけじゃあ遅れるでしょう?実際、織斑一夏はかなりギリギリで、いつ当たってもおかしくない」
かんちゃんの言う通りだが、いっくんがあそこまで動けるとは予想外だな。前に訓練で見た時より動きが良い。本番に強いタイプか?
「簡単だ。目線や癖から攻撃を読めばいいんだよ。砲身が見えなくても攻撃するのは人間だ。相手を観察すれば、どのタイミングでどの方向から攻撃するかは大体分かる。それに、あいつはかなり単純なタイプだから読みやすい」
「……いや、無理でしょ。ISで高速で移動しているのに、どうやって相手の目線とか癖を見るの?」
「だから、俺は基本的に動かないだろ?」
展開装甲の燃費が悪くて、あまり動けないというのもあるんだがな。何で全身が展開装甲なんだよ?本気で戦う時のために普通のスラスターも用意した方がいいかもな。まぁ、本気で戦う機会があるか分からないが。
「……それでも普通は無理。て言うか、あれは余裕の現れだと思ってた」
「まぁ、それもあるがな。ん?やっと本気になったか?」
目付きが変わったな。瞬時加速を使うつもりか?
その時、携帯電話が鳴った。
「誰だよ?いいところだったのに。ってお前か」
表示を見ると、そこにはウサギの名前があった。
「かんちゃん、ちょっと電話がきたから席を外すわ」
「試合の途中なのに?」
「大事な用みたいだからな」
そう言うと、俺は立ち上がって移動しながら電話にでる。
「何か用か?今、良いところだったのに」
『それは悪かったね。それよりもそろそろアレが着くと思うんだけど、どう?』
適当に人の話を聞き流すなよ。
「いや、まだ――」
ズドオオオオンッ
突然、アリーナ全体に大きな衝撃が走る。
「……今、来たみたいだ」
ステージ中央からもくもくと煙が上がっている。
『それは良かったよ。のんびりしててね』
「……俺ものんびりしたいところだが、こっちは既にパニックになってて大変そうなんだが」
『もう少し話していたいけど、仕方ないね。じゃあ、また夜にも電話するよ』
「了解」
そう言うと、俺は電話を切る。
そして、俺は黒と逃げようとしてパニックになっている人を煽動しながらオモチャを観察する。
オモチャの外見はISでは通常ありえない全身装甲だ。腕を入れると二メートルを越える巨体で、全身にスラスター口がある。
そして、頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並び、腕にはビーム砲口が左右合計四つある。
正式名称はゴーレム。そういや、どれが来ているんだろ?弱いヤツが来ているとは聞いているが詳しいことは聞いてなかったな。
「ふぅ……。やっと終わったか……」
何とか自分の周りを避難させると、俺は席に戻った。他の場所はまだパニックだが、どうでもいい。
「にしても、あの程度相手にだらしないわね」
「そうだな。今回のオモチャはそんなに強い機体じゃないからな」
さっきから、あの二人の攻撃は全く当たってない。逆に相手の攻撃は上手く避けれていない。
俺なら本気のフルバーストをやれば一瞬で倒せるだろうな。
「目付きが変わったな。やっと本気になったか?」
どうやら、あれが無人機だということに気付いたみたいだ。やっと全力の零落白夜を見れそうだな。
「一夏ぁっ!」
いきなりアリーナのスピーカーから大声が響いた。
中継室の方を見ると侍娘がいた。
「何やってるの、あれ?」
「さぁ。俺にも分からん。あんなことしたら危険なだけなのに」
あいつは本当にウサギの妹なんだろうか?あいつはあんな意味のないことをしないぞ。
「男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
「どうする?ウサギの妹だし、助ける?」
オモチャはさっきの放送のせいで侍娘の方をじっと見ている。
「助けなくていいだら。アリーナの遮断シールドのせいで助けにいっても間に合わないだろうし。それに、なによりめんどくさい」
いっくんの方を見ると突撃態勢に移行して瞬時に加速した。
そして、貧乳が発射しようとしている衝撃砲の斜線上に躍り出た。
「ふむ。面白いことを考えるな」
「あれは貧乳の衝撃砲のエネルギーを利用して瞬時加速をしようとしているの?」
「そのようだな」
そして、いっくんは衝撃砲をくらい、瞬時加速をした。
そして零落白夜を使用してオモチャの右腕を切り落とした。
だが、左腕で反撃されてモロにくらった。
「本当に大丈夫なの?私はどうでもいいけど」
「大丈夫だろ。まぁ、つまらん結末だが」
さっきの一撃で遮断シールドを破壊していたみたいだな。そして、そこからパッキン女のピットがオモチャを打ち抜いた。
作戦としては悪くないが、もうちょっと白式の性能を見たかっただけにがっかりだな。
「まだ終わってないみたいね」
黒の発言通り、オモチャを見ると再起動していた。そして最大出力形態に変形して、いっくんを狙っている。
そして発射されたビームの中をいっくんが突っ込んでオモチャを切り裂いた。
「ふむ、悪くない。最後の最後にマシなものが見れたな」
オモチャの性能には問題ないし、いっくんも多少は面白いことが分かった。おおむね満足な結果で終わったな。
深夜が何もしていないので予想よりも短くなってしまいました。
次回で一巻の内容が終わります。
二巻では深夜を活躍、もとい暗躍させたいと考えています。まだ、ほとんど思いついてないですけど。
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