はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド- 作:トッシー00
特に何が起きたというわけでもない、平凡な日常。
平日には学校があって、休日は学校はない。
最も、ここにいる三日月夜空からすれば平日も学校がないようなものである。
最近は小鷹との付き合いが増えてきたためか学校に顔を出す日も多くなってきたが、それでもたまにサボって授業を抜け出すこともある。
彼の場合は、授業など出てなくても中間テストの順位はクラスで一位なため、別に教師からどやかく言われることもないのだ。
夕方、授業も終わり下校時刻。
今日は隣人同好会(別名:小鷹の友達を作る会)の活動はしないため、一人ぶらぶら街を歩く夜空。
ぽっけに手を突っ込んで、家に帰るのもだるい気持ちで一人たそがれていた。
やることがないのなら、家に帰ってMOをやるのも一興だが、最近は身内がログインしていないので正直つまらなかった。
駅前のコンビニ行っても今日はスケゴは休みでおらず、図書館に行っても"ヒュウガ"までお休みだ。
それに加えていつもの集まりがないとなれば、今日という日ほど夜空にとって暇な日はなかった。
「暇だなぁ……」
もうこれで何回暇だと呟いただろうか。
一人歩いて気が付けば近くの公園へ、見れば小さい子たちがこんな時間まで遊んでいる。
そんな公園で、こんなやり取りが行われていた。
「クックック、うっとおしい神の手先め……今日こそ引導を渡してやろうぞ」
「なはは!くたばるのはお前の方なのだ!!この吸血鬼め!!」
会話の文章だけ見れば、「あれ?俺たちファンタジー小説読んでたっけ?」と誤解してしまう気持ちもわからなくはない。
しかしこれはファンタジー小説ではなく日常コメディ小説。そこは勘違いしてはならない。
「なんだなんだ?」
そのやり取りが耳に入り、興味津々に公園に目をやる。
そこにいたのは、ゴスロリ衣装の綺麗な金髪が目を引く女の子。
そしてもう一人は、シスター服の銀髪が特徴的な女の子。
その二人をいたって普通の子供、と例えるのには気が引ける。あきらかになんかの物語のキャラを模したように二人は浮いていた。
周りにはたくさんの小さい子供たちが、「いいぞやれやれ!」と場を賑わせている。周りの子供たちは特徴も何もなく普通の格好をしている。
「クックック、行くぞ神の手先め。この暗黒の力で貴様を消滅させてくれよう」
「そうはさせないのだ!!」
ゴスロリの子が暗黒の力うんぬんを発動させる前に、シスター服の子が突撃していった。
それを紙一重でかわすゴスロリ、今時の子供たちは過激な遊びをするもんだなぁ……と夜空は近づきながらそれを眺める。
そして結構近くに行った際、その二人に夜空は見覚えを感じ取った。
「……あれって、小鷹の妹か?そしてもう一人は……」
そう、ゴスロリの方は小鷹の妹――羽瀬川小鳩であった。
左目は外国の血が入っている碧眼、だが右目の方はなぜか紅眼。
ブラックホールのような黒眼の姉とはまた違う。てか本当に姉妹なのか?とついつい疑ってしまう。
「むお!いきなり向かってくんなボケェ!!」
「先手必勝なのだ!!」
と、次にシスター服の女の子は砂場の砂をつかみ小鳩にぶっかけた。
いやあの、ぶっかけたってそっちの意味ではなく……。
砂を被った小鳩は思わず後ずさり、目に砂が入り涙目になる。
「おいおい、大丈夫かよ……」
あの姉の妹だから、ひょっとしたら……と思ったがどうやら違うようだ。
妹の方は姉と違い怪力ではない。というかどっちかというと非力のようだ。
「ぐぐぐぅ、うげぇ」
「ほあちゃーーーーーー!!」
砂を被りよろめく小鳩を、シスター服の女の子は思いっきり押した。
押された小鳩は思いっきり体制を崩し、砂場に転ぶ。
「ふ、ふえぇぇぇ……」
「なはは!悪い吸血鬼を倒したのだ!!」
涙目になる小鳩、そして勝ち誇るシスター服の女の子。
その一部始終を見た夜空は見るに耐えかね……。
「おいてめぇら、何やってんだ?」
そろそろこんなくだらない喧嘩は止めた方がいい、と夜空が小さい子供たちのわだかまりの中に割って入る。
そこにいたシスター服の女の子が、夜空を見て驚いたように言う。
「ああ!!うんこ皇帝!!どうしてここにいるのだ!?」
「んだぁ?誰がうんこ皇帝だぁ!?」
皇帝というあだ名の前に不快な勲章をつけられ、本気で怒りを露わにする夜空。
小さい子供相手に大人げない夜空だが、やられている小鳩から子供達を遠ざけるためにはこうしたほうが手っ取り早い。
皇帝が現れたことに危機感を持った子供達は、逃げ去るように公園から離れる。
「うんこ皇帝はさっさとうんこ食べてやられるのだーーー!!」
「うっせぇこのクソガキがぁ!!」
追いやるように夜空も叫び、公園には夜空と小鳩だけになった。
まったく……。と夜空は呆れた後、小鳩の方に目を向ける。
「おい、大丈夫か?」
「うぅぅうぅう、あんのくそがきぃ……」
涙目で悔しそうに地に伏せる小鳩。
「ったく、あのシスター服のガキ。ありゃあスケゴの妹だな……」
「……スケゴ?」
「あぁ、こっちの話だ。そんなことより立てるか?」
砂が被って服も髪の毛もボロボロの小鳩に、夜空は手を差し伸べる。
小鳩も立とうとするが、立とうとした瞬間足に痛みを覚えた。
「痛っ!」
「おい、膝から血が出てんじゃねぇか」
先ほど押された際に膝の皮が剥けたらしい。
砂が血と混じり、見る限りけっこう痛そうであった。
「うぐぐ、この暗黒の使者である我が、このような怪我で……」
暗黒の使者であるかはわからないが、中々痛そうなのは小鳩の顔を見ればわかる。
意地で立とうとするが痛そうに、歩いてもよろよろしている。
さすがに夜空も、このまま歩かせるのもどうかと思い。
「……ほら、乗りな」
「ふえ?」
「お前の家までおんぶしてやるって」
夜空はそう言っておんぶする体制になる。
小鳩も最初は迷惑だと断ったが、歩くと足が痛い。
歩くたびに痛みが増してきて、涙が出てくる。
「……おねがい……します」
慣れない敬語でおんぶを頼む小鳩。
それを夜空はお安い御用と、軽い小鳩をおんぶして家まで運ぶ。
「あのクソガキもたまったもんじゃねぇな、お前もいじめられてばかりじゃないで少しはやり返してやれ」
「い……いじめちゃうもん!」
夜空にはあれがいじめに見えたのだが、小鳩からすればいじめと言われるのはプライドが許せなかった。
「そうかい、にしてもスケゴにも言っておかないといけねぇな。もう少し妹を厳しくしつけとけってな」
「……次こそはあの神の手先を返り討ちにしてやる。クックック」
素で悔しがったり、暗黒モードに入ったりと忙しい小鳩。
そんな小鳩を背中でおんぶしながら、夜空は言う。
「まぁ喧嘩もいいけどな、怪我をしない程度にしろよ」
「うー、すいません……」
「いくら"小学生同士"とはいえ、力加減が出来ないとこういう風に怪我に繋がるからな」
「ふぇ!?」
と、何やら小鳩が大きく反応を示した。
今の会話の中で、どこかしら気に食わない点があったらしい。
「ん?どうした?」
「う……うちは中学二年生じゃ!!」
中学二年生……?
夜空は( ・_・)?という顔になる。
「……へ?中学二年生?」
「うん、聖クロニカ学園の中等部に通ってるけん」
そう、小鳩は身体がこうも小さいが立派な中学生。
そしてさっきのスケゴの妹はまだ10歳、つまり小鳩は4歳も年上なのだ。
しかしさっきの喧嘩はどう見ても小学生同士のやり取りにしか見えない。と、普段星奈と同じようにあーだこーだやりあってる夜空が言えたものではないが。
「……そうか、中学生か」
「なんや、その「嘘だろ……」みたいな返し」
「いや、別に。ってことはお前、その暗黒なんたらっていうのはあれか?中二b」
「あーあー聞こえへんー!闇の瘴気でまったく聞こえへんー!!」
小鳩が最も言われたくないワードが出そうになったので、必死に聞こえないふりをする。
しかし小鳩はどストライクに中学二年生、そんでもってこの数の痛い台詞。
夜空は小鳩に見えないところで、小さく笑いをこらえていた。
「……しかしまぁ、中学生があんな小学生と本気でやりあってんのはな」
「うぅ、でもあのクソガキが気にいらんけん。いっつもうちにちょっかい出してくるし」
「気にしなきゃいいじゃねぇか。それともあれか?小さい子と遊んでやってんのか?」
「そ……そういうわけじゃないけど」
恥ずかしがる小鳩、夜空の背中で縮こまる。
そんな小鳩に対し、夜空はまっすぐこう言った。
「ま、いいじゃねぇか」
「ふえ?」
「何かに対してまっすぐに入れ込むことが出来るのはいいことだ。中二なんてまだ立派なガキだ。小学生と戯れてたって別に恥ずかしくなんかねぇ」
「………」
「年下になめられっぱなしってのは悔しいもんな。ならこれからもあのクソガキと「遊んでやってる」って気分で付き合ってやればいいんだよ」
その夜空の言葉が、小鳩に深く突き刺さった。
その中二病な痛い発言も、姉には半分飽きられている。同級生からはマスコット扱いでまったく通じていない。
でも、夜空はその自分の痛い発言を肯定してくれた。ような気がした。
そう、初めて誰かに褒められた。そんな気がしたのだ。
「く……クックック、ようやくこのレイシス・ヴィ・フェリシティ・煌を認める者も出てきたか」
褒められて嬉しかったのか、さっきの暗黒モードに切り替わる小鳩。
ちなみにレイシスというのは、小鳩の真の名前らしい。
名乗っても反応などしてくれない設定だが、夜空はというと……。
「レイシス・ヴィ・フェリシティ・煌……」
「ん?クックック、我の真名であるぞ?」
「……ふふふ、くくくくく、あははははははははははははは!!」
と、突如として噴き出した夜空。
これには小鳩も驚きの表情を浮かべる。
「ふえ!?ど……どうしたん?」
「あはは。いや、お前やっぱりあの姉の妹なんだなって改めて思ったんだよ」
「???」
何かに納得したように、すっきりしたように言う小鳩。
まるで、その小鳩の真名に何かしらの思い入れがあるようにも思えた。
「さてと、あっという間にお前の家に付いちまったな」
気が付けば小鷹の家へ。
確か小鷹は先に下校しているため、きっと家の中で小鳩の帰りを待っているのであろう。
夜空はチャイムを押し、小鷹を呼ぶ。
「皇帝?今日は集まりやらないんじゃなかったの?」
ガチャリとドアを開け、小鷹が家から出てくる。
「いやいや、お前の妹が……」
と、小鷹の真っ先に目に付いたのは怪我をした小鳩。
それをおんぶしている夜空。小鷹は言うが早いか拳を握りしめ。
「ってうちの妹になにしてくれてんじゃーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「おうわ!!」
小鷹はマグナム砲のようなパンチを夜空に放つ。
夜空はそれを間一髪でよけ、慌てふためく。
「あああああんた!その年下の従妹だけじゃ飽き足らずうちの妹まで……!」
「ちちちちちちち違う!!お前の妹が公園で小学生と喧嘩してて、怪我したからおんぶしてつれてきたんだ!!」
「そそそそうじゃ姉ちゃん!!このあんちゃんはなんも悪くあらへん!!」
「お兄ちゃん(あんちゃん)とまで呼ばせてーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「違うーーーーーーーーーーーーーー!!」
誤解する小鷹を説得すること4~5分。
「な、なんだ~。ただ公園で喧嘩しただけなのね」
「だからさっきそう言った……」
必死に謝る小鷹、危機感で汗びしょびしょの夜空は今も顔をひきつらせている。
「そういえば前も怪我して帰ってきたよね、小鳩も駄目だよ」
「ふえ、ごめんなさい」
「まぁそういうことだ。そんなことより早く手当てしてやれよ、結構膝から流血してるし」
見ると、時間が経って向けた膝がかぴかぴになっている。
早く消毒しないとばい菌入って大変だ。と小鳩をすぐさま家に入れる。
数分後、小鷹と一緒に消毒液をつけて絆創膏を貼った小鳩が家から出てくる。
「その、妹をここまで送ってくれてありがとね、ほら小鳩もお礼言いなさい」
「あ、ありがとござます」
「あぁかまわねぇさ。じゃあな小鳩、あんまり怪我しないようにな」
そう言って、夜空が小鳩の頭に軽く手をあてる。
すると小鳩は、トマトのように顔を真っ赤にした。
「ふ……ふぇ!?」
「ん?どうした?」
「あ……あの……その……」
なにやらすごく動揺しているようだ。
隣にいる小鷹が夜空を睨む。「うちの妹をたぶらかすな……」と死んだような目で警戒している。
夜空もそれを悟ったのか、すぐさま帰ることに。
「う……じゃあな。小鷹また明日な」
「うん、皇帝も気をつけてね」
そう言って、夜空は家に帰って行った。
「さてと、夕食にしよっか小鳩。たまにはお姉ちゃんが作るかい?」
「そ……それはやめちょくれ!!」
小鳩が料理を作る、それは羽瀬川家の地獄に繋がる。
そんなこんなで今日の羽瀬川家の夕食はコンビニ弁当になった。
夕食時。小鳩は今日の出来事を思い出し。
「……皇帝のあんちゃん」
「ん?どうしたの小鳩?」
「な、なんでもないわ!この暗黒の王に資格などあらへんのじゃ。クックック……」
何かを誤魔化すように、レイシスモードに入る小鳩。
そんな小鳩のつぶやきを、小鷹はしっかりと耳にしていたので。
「……今後妹に手を出さないよう、皇帝に釘さしておかないと」
今後、夜空の苦労は増えるばかりである。