はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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特別編です。


マリアストーリー~マリア太郎物語~

 むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。

 おじいさんとおばあさんは貧しいながらも、年金をもらいながら特に不自由なく暮らしていました。

 この日、おばあさんは山へ芝刈り……というか特に道具を使うことなく己の怪力のみを頼りに森林を伐採しに。

 そしておじいさんは、「なんで私みたいに輝いている女神が川へ洗濯しに行かないといけないのよ」と文句を言っていたが、おばあさんに拳で脅されしぶしぶ川へ洗濯に行っていました。

 

「ってなんなのよこの回想。初っ端から色々おかしいでしょ。あぁもう洗濯物多いわね、あたし洗濯なんてやったことないのに。でも……おばあさん怒らせると怖いし……」

 

 普段は最強チートお嬢様キャラである星奈おじいさんも、この世界では小鷹おばあさんには逆らえずにいた。

 川へ歩いて数十分、普段洗濯など自分でしないお嬢様である星奈おじいさんは慣れない手つきで洗濯をしている。

 当然こんな山奥に洗濯機などありはしない、せこせこ素手でたくさんの洗濯物を洗わなければいけないのだ。

 へとへとになりながら、あともう少しといった所で……。

 

「ん? なによあれ?」

 

 星奈おじいさんが洗濯をしていると。

 川の奥から、どんぶらこ、どんぶらこ。

 

「このパターン。なるほど、大きな桃が流れてくるってやつね」

 

 大きなポテチ袋が流れてきました。

 

「不法投棄じゃないのよ!! 桃じゃないの!?」

 

 桃と思っていた星奈おじいさんは驚愕。

 しかもこれまた大きなポテチ袋。よくこんな大きなサイズのを作ったなと星奈おじいさんは内心思った。

 あまりのめずらしさに、一応川からポテチ袋を救いあげる星奈おじいさん。

 

「おっも。って中にまだ入ってるのね。つうか中のポテチ湿ってるわよね絶対」

 

 川に流れていた巨大ポテチ、正直食べられるかどうかわかったものではない。

 とりあえず洗濯も終わり、星奈おじいさんはポテチを家に持ち帰ることに。

 

「うぐっ。こんなの持てるわけないじゃないのよ」

 

 持って数歩歩いて、星奈おじいさんはへたばって膝を地に付く。

 お嬢様である星奈おじいさんはスイカより重いものを持ったことがないのである。

 

「いやそこまでお嬢様じゃないんだけど。てかさっきからお嬢様キャラ推しすぎなんだけど。嫌味なの?」

 

 とりあえず文句を言って、星奈は結局携帯で小鷹おばあさんに連絡。

 数分後、自分の五倍はあるたくさんの薪を担いで小鷹おばあさんが川付近に到着。

 

「おまたせ~。どうしたのおじいさん」

「すご……。いやその、このポテチ袋重くて。おばあさんに持ってもらおうかなって……」

「なにこのポテチ袋。まぁいいや、面白いし持って帰ろう」

 

 そう言って小鷹おばあさんは、たくさんの薪に加えかなり重いであろう巨大ポテチ袋を担ぎあげ、星奈おじいさんとともに家へと向かう。

 その際も、星奈おじいさんは小鷹おばあさんの怪力に度肝を抜かれていた。

 数分後、家に到着した二人は、さっそくポテチ袋を開けてみることに。

 

「さてと。いったいどれだけポテチが入ってる事やら」

「多分水で湿って食べられた物じゃないと思うわよ……」

 

 夢のないことを愚痴る星奈おじいさん。

 だが中身は気になる。小鷹おばあさんは巨大ポテチ袋の天辺まで昇り、そして手刀でポテチ袋を開けた。

 すると、中からなんと。シスター服を着た元気な女の子が現れた。

 

「女の子!? なんでポテチ袋から!?」

 

 桃から生まれたならぬ、ポテチ袋から生まれた女の子。

 もはやなんでもありな気がしてきたが、この際細かいことに気にしてはいけない。

 ポテチから出てきてしばらくすると、綺麗な銀色の髪をした女の子は目を覚ました。

 

「ん~。ここはどこなのだ?」

 

 どうやら眠っていたせいで、自分がどこからきたのかもわかっていないらしい。

 困惑している女の子に、小鷹おばあさんが話しかけた。

 

「おはよう。ここは私たちの家だよ」

「おう? どうしてわたしがこんなボロっちい家にいるのだ? わたしは茶の間でぬくぬくしながらポテチを食べていたのだ」

 

 ボロっちいは余計だが、マリアは自分の家でお菓子を食べていたらしい。

 だがこんな山奥に来てしまえば、もう家に帰れるかも怪しい。

 その後、自分の名前も忘れているということで、少女は新しく『マリア太郎』と名を与えられた。

 行くあても無かったマリア太郎は、しばらくの間おばあさんとおじいさんの家で暮らすことに。

 活発で大食いのマリア太郎。一週間一ヶ月と、もう自分の家に帰ることすら忘れ、時はあっという間に過ぎ去っていく。

 

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「……リア。マリア~」

「ふにゃ……」

 

 時は現実。

 我が家の茶の間のこたつで寝オチしていたマリアは、姉のケイトに起こされうっすら目を覚ました。

 

「あ~。おばあさん飯はまだかなのだ~?」

「なに寝ぼけてんじゃこの腐れ妹は。ご飯なら何時間も前に食べただろうが」

 

 どうやら夢と現実がごっちゃになってしまっているマリア。

 時計を見ると午後十時半。良い子は寝る時間である。

 

「明日も学校あるんだろ? ちゃんと自分の部屋で寝ろ」

「ふみ~ん」

 

 マリアは寝ぼけながら、ケイトに誘導され台所へ。

 そしてケイトに歯をごしごし磨かれ、ケイトに担がれ自分の部屋へ。

 残った眠気に誘われるがまま、マリアはベッドに入り眠りに付いた。

 

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 マリア太郎が居候を始めてから一ヶ月ほど経った。

 この日、マリア太郎は星奈おじいさんと小鷹おばあさんにこんな話を聞かされた。

 

「マリア太郎。実は困ったことになって」

「なんなのだ?」

 

 小鷹おばあさんの話に、半分興味無さそうに返すマリア太郎。

 

「もう食料が底をついてしまって。年金でも賄えそうにないのよ」

「何気にリアルよね設定が……」

 

 小鷹おばあさんのその話を、隣で星奈おじいさんが聞いて思わず呟く。

 どうやらマリア太郎があまりにも食事を食べあさるものだから、食料が無くなってしまったのだという。

 これは困ったと、マリア太郎は焦りまくる。

 

「どうするのだ!? これではごはんが食べれないのだ!!」

「あんた居候の分際でなんでそんなに頭が高いのよ……」

 

 この原因を作った張本人のマリアは、特に罪悪感を抱いていない。

 それどころかどうしてくれると攻め立てる。星奈おじいさんはこの子供にどう感情を抱いていいのかわからなくなった。

 だが別に解決策が無いわけではない。食糧難を防ぐ策が、小鷹おばあさんの口から語られた。

 

「そこで、最近街で暴れまわっている鬼を、マリア太郎に退治してきてもらおうかなって」

「え~。そんなのめんどくさいのだ」

「ん~。じゃあ言いたくなかったけどお姉ちゃん言ってあげようか? 大した働きもせず飯だけ食ってのうのうと暮らしてんじゃねぇぞこのガキ」

 

 どがしゃーーーん!!

 

 そう本音をブチまいて、小鷹おばあさんは床を蹴り破った。

 それを見たマリア太郎は、がくがく身体を震わせ小鷹おばあさんを見上げた。

 

「す、すすすすいませんなのだ。是非とも鬼退治やらせていただきますなのだ……」

「よしよし。ザ・素直な良い子」

「……」

 

 この光景を隣で見ていた星奈おじいさんは、ただただ頭が上がらなかったという。

 心の中で「あんたが行けば鬼なんて楽勝じゃないのよ」とか思ってたけど、口にしたらなんか飛んできそうなので言えず。

 幼女をいじめて笑顔のドS小鷹おばあさんは、せめて力になってあげようと普段はけして立ち入ってはいけない厨房へと向かう。

 いつもご飯は星奈おじいさんに作らせていたというのに、いったいなにをするというのだろうか。

 

「はいできた。元気の出る"きびだんご"。おばあさんもたまには料理するんだよ」

「厨房に入って一分も経ってないわよ……」

 

 いったい数秒で出来るきびだんごとはなんなのだろうか。

 それをマリア太郎に持たせる小鷹おばあさん。

 星奈おじいさんも、奥から大きな旗をマリア太郎に持たせたが、重いからいらないと断られて半ギレ。

 こうして、マリア太郎の鬼退治が始まったのであった。

 

「おじいさんおばあさん。行ってくるのだ~」

「いってらっしゃ~い」

 

 マリア太郎を見送る小鷹おばあさん。

 

「ま、なんやかんやであの大飯ぐらいはいなくなったことだし。これでしばらく安泰よね~」

「そうだね~。ていうか星奈おじいさん、何呑気にワイドショー見ようとしてんの~?」

「……え?」

 

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「ちょっと。風邪引くわよ~」

 

 再び現実。

 今度は寒い外の公園のベンチで寝ていたマリア。

 それを通り掛かった星奈に起こされた。

 

「ふにゃ。星奈おじいさんどうしたのだ?」

「おじいさんってなによ。あんたこんな所で寝てたら変な男の人に襲われるわよ」

「む~。眠い……」

 

 どうやら遊び疲れて寝てしまったようだ。

 星奈は仕方ないと、マリアをおんぶし、家まで送ってあげることに。

 

「しょうがないわね。って……こいつの家どこかしら」

 

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 鬼退治に出かけ、山の中を歩くマリア太郎。

 鬼がいるであろう鬼ヶ島までまだかなり歩く。

 それに、仮に順調に鬼ヶ島にたどり着いたとして、マリア太郎一人で鬼に勝てるだろうか。

 

「そろそろ家来がほしいところなのだ」

 

 普通そんなことを口に出してはいけないのだが。

 マリアは家来になりそうなやつを探しながら歩く。

 すると数分後。

 

「クックック。我が宿敵の天使め、ここで会ったが百年目」

「家来になりそうなやつはいないか~」

「って無視するな!!」

 

 マリア太郎の目の前に現れた謎の美少女。

 恐らく順番からして、マリア太郎の前に現れたのは犬だろうか。

 

「クックック。犬ではない。我は偉大なる夜の王。その名も……」

「『レイシス・ヴィ・フェリシティ・煌』。もうその名は聞き飽きたのだ」

「ってなんで先に言うんじゃバカたれ!!」

 

 定番となった名乗りを先に言われ怒る犬。

 

「それで? お前はいったい私になんの用なのだ?」

「む……。その、なんなら貴様の家来になってやってもいいかなって……」

「お前弱そうだからいらないのだ」

「なんやとーーー!! このガキ言わせておけばこんの!!」

 

 せっかく家来になってくれるというのに、ぞんざいに扱うマリア太郎。

 

「そもそも"小鳩"なのになんで犬なのだ? 鳩はどこへいったのだ。飛べない鳩なんてただの厨二病なのだ」

「うぐぐ……お前いいかげんにせぇよ……」

 

 散々ボコボコに言われて涙を浮かべる小鳩。

 どうして年下にここまで言われなければいけないのかと、身体をぶるぶる震わせている。

 

「ごめんなのだ。まぁきびだんごあげるからこれで仲直りなのだ」

「う~。なんかこいつの方が年上みたいで腹立つ!!」

 

 色々あったが、マリア太郎はきびだんごをくれるという。

 これはマリア太郎の家来になる契約の証のようなもの。なのだが……。

 

「べ、別にいらへん。お腹いっぱいやし、そんなもんなくとも家来にはなっちゃる」

「え? いやいや食べないと家来になれないって聞いたのだ」

「いや……正直言うと食べたくない。なんか食べたらとんでもない目に合うような気がする……」

「それは困るのだ。きびだんごで契約して家来になってよなのだ」

「それあかんパターンや! 食べたくないもんは食べたくないんじゃ!! さっさと家来にでもなんでもせえ! タダ働き大歓迎!!」

「え~。だったら家来にしてくださいって深々と頭を下げるのだ」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!! うっさいわあほ!! 家来になるって決めたんじゃ家来になっからな!!」

 

 こうして犬の小鳩が無理やり家来になった。

 こうなると残すは二匹。猿と雉がいるはずだ。

 マリア太郎は注意深く探す。この犬だけでは鬼には勝てないだろう。

 

「おひかえなすって。まりあたろうどの」

 

 と、聞き覚えのあるひらがな口調が聞こえてきた。

 すると奥から、浴衣姿の美少女がやってくる。

 これは順番的には猿であろう。

 

「お~猿なのだ。家来になってくれなのだ」

「かまいません。ただそれには契りを交わすひつようがありましょう。ささ、ともにさかずきを……」

「う~ん。わたしはまだ幼女なのでお酒飲めないのだ。だからきびだんごで勘弁してくれなのだ」

 

 そう言って、契りを求めてくる猿の幸村にきびだんごを一つ分けるマリア太郎。

 

「まぁよいでしょう。では……いただきます」

 

 きびだんごを受け取った幸村は、なんのためらいもなくきびだんごを口にする。すると……。

 

「……ごほっ!!」

 

 なにやらむせ始めた。

 顔も青ざめている。いったい何があったのか。

 

「むむ! どうしたのだ幸村!!」

「うっ……なんですかこのきびだんごは……」

「……」

 

 幸村はとてつもないものを食べたような、苦い顔をしている。

 小鳩からすればそのだんごがどういったものか大体察しがついていたため、奥で哀れむ様な表情を幸村にむけていた。

 

「きびだんご。きびだんごがどうしたのだ」

 

 気になって、マリアが一口きびだんごを食べると。

 

「ヴェェェェェェェェェェェ!!」

 

 まさかのその場でリバース。

 可愛い幼女が山の中とはいえ吐かざるを得なくきびだんごとは、いったい小鷹おばあさんは何を作ったというのか。

 

「な……なんなのだこりゃ! すっぱくてべとべとでぬめついてんでよ! おまけにくせぇ!」

「これが……まりあたろう殿とのちぎり……。承知いたしました。お供させていただきます」

 

 色々トラブルはあったが、幸村が家来に加わった。

 犬と猿とくれば、いよいよ最後は雉だろう。

 雉も、この殺人きびだんごで服従させれば解決だろう。

 そんなとんでもないことを考えながら、マリア太郎たちは山を歩くと。

 

「いえーい! あたし輝いてる~!!」

 

 と、なにやらものすごく存在を輝かせている美少女が現れた。

 恐らく雉だろう。だがマリア太郎はその雉をどこかで見たことがあった。

 

「なにやってるのだ星奈おじいさん」

「って空気読みなさいよこの幼女!!」

 

 その雉はさきほどまで家にいた星奈おじいさんだった。

 これはいったいどういうことか。二役させるほどこの世界のキャラ数は少ないわけではないのに。

 

「ゆっくりワイドショー見ようと思ったら、手伝ってやれと小鷹おばあさんに家を追い出されたのよ……」

「色々大変だなぁ。じゃあこのきびだんごやるから、仲間になるのだ」

 

 と、マリア太郎は星奈にあの殺人きびだんごを差し出した。

 だが案の定、星奈はそれを突っぱねる。

 そう、星奈はこのきびだんごを誰が作ったのかを知っている。故に食べたくなかったのだ。

 

「い……いらないわよ。そんな労働に対価を求めるほどあたし卑怯な人間じゃないし。そんなあたしなんて、輝いてないわよ」

「輝きなんていらないのだ。いいからさっさと食べるのだ」

 

 そうマリアは、ハイライトのない目で星奈を見つめる。

 奥で幸村も見つめる。小鳩は見えない所で存在を隠していた。

 

「い、いらないって……」

「いやいや食べるのだ。もう食べなきゃいけないって決まってるのだ」

「決まってないでしょ! なによそのバラエティ番組みたいなルール!!」

 

 必死に拒否する星奈。

 だがそれは許さないと、後ろから幸村が押さえつける。

 

「ちょっと幸村! 離しなさいよ!!」

「あねご。お覚悟を」

「お覚悟をじゃねぇ!! マジでいやなんだって!!」

 

 押さえつけられても口を開こうと頑なに拒む星奈。

 

「えい!」

「あひゃ!!」

 

 そんな星奈を、小鳩が横からくすぐった。

 思わず口を開ける星奈。そしてその口にきびだんごがジャストミート。その結果……。

 

「オヴェェェェェェェェェ!!」

 

 金髪巨乳の美少女キャラともあろう星奈が、みんなの前で思いっきり胃の中の物をリバース。

 あまりのきびだんごの不味さにとち狂う星奈。そして数分後、なんとか意識を取り戻し。

 

「……お供させていただきます」

 

 目から光を失い、操られるようにそう口にする星奈。

 

「さてと。これで家来は揃ったし、鬼ヶ島へ向かうのだ。けど……その前に」

 

 どうやらこれで準備が整ったわけではないらしい。

 マリアと幸村と星奈は、ゆっくりと小鳩の方を睨みつける。

 

「うっ!」

「まだ……契りを交わしていない家来がいるのだ……」

「小鳩殿。あなたもわたくしたちのかぞくならば、ちぎりはうけるべきですよ」

「さっきはよくもやってくれたわね。このクソ吸血鬼……」

 

 そして数分後、小鳩は無理やりきびだんごを食べさせられ(しかも残りの二つ)、悶絶したとのこと。

 

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「くはは。幼女よ、こんな所で寝てしまうとはなにごとだ」

 

 現実。

 またも外で寝ていたマリアは、通り掛かった女子高生に起こされる。

 

「ふにゃ? お姉さん誰なのだ?」

「通りすがりの化け物さ。まぁそんなことはどうでもいい、まだ君にはやるべきことが残されているのだろう?」

「やるべきこと?」

「勇者マリア太郎よ。鬼を倒すまでが冒険だぜ? それでは……夢の続きを……」

 

 そう言うと女子高生は、指をパチンと鳴らし、再びマリアを夢へと誘った。

 

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 鬼ヶ島にて。

 

「あ~ようやく俺たちの出番かよ。長かったな赤鬼よ~」

 

 そう腕を伸ばす黒鬼。

 その隣には、先ほど呼ばれたように赤鬼がいた。

 この二人が、今回悪事を働いたという鬼だという。

 

「緊張感がないですよ黒鬼。自分達はこれでも立派な悪役です。悪役は悪役らしく真面目にいきましょうよ」

「ったくてめぇは真面目すぎんだよ。だから胸も育ちやしねぇの」

「胸は関係ないでしょ!!」

 

 コンプレックスの貧乳をおちょくられ、怒る赤鬼。

 黒鬼の夜空と赤鬼の葵は、そんな会話をしながらマリア太郎たちが来るのを待つ。

 そして数分後、鬼ヶ島の扉が開いた。

 

「たのも~!! 鬼をぶっ倒しにきたのだ~!!」

「んだと~? この際だ、調子に乗る幼女を懲らしめてやらぁ!!」

 

 いつもナメられているツケを晴らそうと、夢の中ということで本気になる夜空。

 だがマリア太郎にも頼もしい仲間がいる。相手が鬼でも簡単に負けるわけにはいかない。

 

「この鬼倒して。あらたな吸血鬼城を建ててくれるわ!!」

「あくとうめ。わたくしがたいじしてさしあげましょう」

「ふん! 夜空相手にあたしが負けるわけがないのよ!!」

 

 小鳩、幸村、星奈共にやる気満々である。

 マリアは仲間と一致団結し、夜空たちを倒そうと一斉に突っ込む。

 

「行くのだーーー!!」

 

 と、その時。

 

「はう!!」

 

 なにやら突如として、行く手が止まった。

 いったい何があったのか、マリアが後ろを見ると。

 そこにはお腹を押さえて苦しんでいる星奈が、幸村に介抱されていた。

 

「マリア太郎殿。星奈のあねごが腹痛を訴えております」

「あ、あんなもの食べりゃそりゃこうなるわよ……うおぉ……」

 

 なんということか、星奈が美少女ともあろう苦い表情を浮かべている。

 これはまちがいなく、腹にいち物抱えている状態。普段空想の美少女が見せてはならない一面である。

 こんな絵面あってはならないと、マリアが一度休戦を申し入れ、鬼に問う。

 

「鬼~。トイレはどこにあるのだ~? このままだと星奈があぶないのだ~」

「んなもんねぇよ。そこらでしろよ」

「あんた美少女になんてこと言うのよ! ……お……おぉ……」

 

 鬼ヶ島にはトイレがないため、とりあえずそこで用を足せと夜空は言うのだが。そんなことできるわけもなく、星奈が強く反発した。

 当然ヒロインが脱糞など、はがない史上あってはならない暴挙である。

 だがこのままでは戦うどころの騒ぎではない。戦いどころか急がないと本気でそこらへんで脱糞する羽目になる。

 実写化も控えているため、なるべくファンは減らしたくないのが現状である。

 

「鬼~。なんとかしてくれなのだ~。星奈が本気でうんこ野郎になるのだ~。星奈がガチでうんこもらすのだ~」

「めんどくせぇな。もらすならもらせよ。盛大に笑ってやらぁ」

「あんたどこまで最低なのよ!! あ……あぁ~」

 

 ツッコミをすれば更にやばい状況になるとわかってはいるのだが、黙ってはいられないのが看板ヒロインの宿命である。

 これって攻撃しちゃだめだよなと、とりあえず夜空と葵は空気を読んで黙っている。

 だが戸惑っている葵の反面、夜空は本気で楽しんで見ていた。ドSである。

 

「星奈のあねご。落ち着いてください。小鳩殿、何かあねごに助言を」

「そうや。こういう時は確か……えぇと。ひぃひぃふぅ~。ひぃひぃふぅ~?」

「それ出るやつぅぅぅぅぅ!!」

 

 小鳩の名案は、確実に星奈を地獄に落とすやつであった。

 そんな光景を見て、葵は夜空に提案する。

 

「夜空くん。確かに作品の看板が脱糞しちゃうのはまずいと思います。とりあえずトイレを手配しましょうよ」

「そんなこと言ったってよ……。とりあえずあれだ。俺らを倒せば物語は終わるわけだし、お前らさっさとかかって来い」

「三人じゃ勝てるわけがないのだ」

「あ~わかった。手加減してやっから」

 

 とは言ったものの、夜空たちが素直に勝たせてくれるとは限らない。

 時間もこくこくと迫る中、悩んだ末にマリア太郎はあることをひらめく。

 

「ちょっと待ってくれなのだ」

 

 なにやらマリア太郎は携帯電話を取りだした。

 そしてある人に電話をかける。

 

「……というわけでちゃちゃっと鬼を倒してくれなのだ」

 

 どうやら誰かに鬼退治を代理で依頼しているようだ。

 

 どがしゃあああああああん!!

 

 そして数分後。鬼ヶ島の壁を突き破り、小鷹おばあさんが現れた。

 

「とんでもねぇの呼びやがったよこの幼女!!」

 

 まさかの最強キャラ降臨に、夜空が顔を引きつらせた。

 

「まぁ事情が事情だし。とりあえず死んでよ夜空」

「待て待て!! わかった降参!! 奪った金品食料全部返すから!!」

 

 当然小鷹に夜空が勝てるわけもない。

 痛い目に合いたくなかったため、夜空はすぐに頭を下げたが。

 そんな夜空を、小鷹はSの眼差しで見やり一言。

 

「駄目だよ。主役にやられるまでが鬼の役目なんだよ?」

「おめぇ主役じゃねぇだろ! 主役はそこの幼女!!」

 

 夜空の説得も意味をなさず、問答無用で小鷹は夜空に攻撃を仕掛け始める。

 

「わたしも昔はマリア太郎のように冒険家だったんだけど、膝に矢を受けてしまってな……」

「バリバリ現役じゃねぇか!!」

 

 そんな冗談の一つ二つ言いながら、徐々に死神に変貌していく小鷹。

 夢の中ということで怪力を躊躇なく使いこなし、夜空を追い詰める小鷹。

 

「おい遊佐! おめぇも俺の仲間なら助けろ!!」

 

 夜空は仲間である葵に助けを求めるが。

 

「お~夜空くん。あなたのことは忘れませんよ」

「このナイチチがぁぁぁぁぁ!!」

 

 葵は夜空を見捨てて鬼ヶ島から立ち去ってしまった。

 一人残された夜空、目の前には完全に瞳を紅に染めている小鷹。

 

「一度夜空と喧嘩してみたかったんだよねぇ~。ぎゃは、ぎゃはははははははははは!! 楽しいね夜空ーーー!!」

「楽しくねぇーーーーーーーー!!」

 

 こうして夜空は小鷹に成敗され、物語が終わったことで他のヒロインたちは暴挙に出ることなく無事に解決。

 

「お姉ちゃん。結局最後の最後でまかせっきりにしてごめんなさい」

「いやいいよ。マリアはよく頑張ったよ」

 

 結局主役として何もできなかったマリア。

 だが小鷹は知っている。マリアは常に誰かを引っ張りつづけている事を。

 かつて小鷹達が遊んでいた公園を守りつづけている。楽しく遊び続けていることを。

 小鷹はマリアの頭を撫でて、覚めゆく夢の中、最後にこう言葉をかけた。

 

「あなたは一人じゃないよ。あなたには……たくさんの友達がいる……でしょ?」

 

 そう優しくほほ笑んだ小鷹の顔を最後に、マリアの長い冒険は幕を閉じた。

 

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「う~ん」

 

 目が覚めると、そこは図書館だった。

 マリアは学校の宿題である読書感想文をやっている最中に、寝てしまっていたのだ。

 最近よくそういうことがあったが、その中で広がる物語も、等々終わってしまった。

 

「幼女よ。もう子供は帰る時間だぞ」

 

 ぼーっとしていると、図書館でアルバイトをしている学生に声をかけられる。

 

「眠いのだ。しかも全然感想書けていないのだ」

「そうか。だけど……書きたいことは山ほどあるのではないか?」

 

 そう学生に言われ、マリアは少し考える。

 そして……なんとなくだが元気よく、そう返した。

 

「……うん!」

 

 そう言って、借りた本『桃太郎』を持って、マリアは図書館から立ち去った。

 

「くはは。私もかつてはあの幼女のように活発な子供だったが、膝に矢を受けてしまってな……」

 

 そんな冗談を呟き、日高日向は図書館の奥へと入って行った。




6人目は高山マリアです。
話としては原作の桃太郎回に、アンソロジーのネタを混ぜた感じに仕上げています。どちらもアニメにはなっていないのでコアなネタかもしれません。
特別編はそれまで全部マイルドな話が多かったので、久しぶりにギャグ全面に作ってみました。

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