はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第2話です。


まずは女子力

 人生とは、突如何が起こるかわからないものだ。

 

 小学生のころは『金色の死神』と呼ばれ周りの子供たちから恐れられた最凶のいじめっ子であった。

 その後彼女はとある経緯を得て沈静化し、一時的にここ遠夜市から離れることになった。

 中学ではいじめっ子時代の凶暴さが嘘のように消えた。しかし女子力があまりにもなかったため周りの女の子に付いていくことができず気が付けば孤立していた。

 当然、今も彼女を縛っている怪力は間の悪いところで発動し、クラスからは浮いた存在になっていた。

 

 そして高校生になり、1年の時は怪力のせいもあってか消極的となり。結果高校生デビューは逃す。

 2年生になるという手前で転校することとなり、妹と一緒にかつて自分が住んでいた遠夜市へ。

 かつて当時の小学生達を震撼させた『金色の死神事件』。今もなおその恐怖は根付いているのだろうか……。

 そう思いながらも、せっかく転校するのだから生まれ変わろうと、小鷹は再度高校デビューを自らに誓った。

 

 誓った結果、転校初日であんなことが起きてしまったわけだ。

 いきなり教室の扉を破砕、ある意味衝撃的な高校デビューである。というかデビューしすぎである。

 転校してから1ヶ月経った。小鷹と言う少女の周りにはたくさんの人間ではなく恐怖が取り巻いていた。

 見た目で怖がられるわけでもないのだが、彼女の場合はその"行動"が恐怖の対象なのだ。

 

 そんな友情はおろか、恋すらしたことのない少女にようやく、声をかけてくれた少年が現れた。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

 三日月夜空――『皇帝』と呼ばれた美少年。

 ミッションスクールである聖クロニカ学園は基本的にはおとなしめの生徒が多い、故に夜空のような荒くれ者は恐れられてしまう。

 しかし彼はそんなことを気にしたことはない。別に彼はこの学校で事件を起こしたわけではない。喧嘩は強いが喧嘩自体は好きではない。

 誰かを傷つけたわけでもないのだから、そう威風堂々としていても特に問題ではないだろう。あるがままに生きる。それが彼のスローガンであった。

 

 そんな少年に連れられ、廊下へと出るぼっち少女の小鷹。

 周りからの視線に、思わず縮こまる。特に女子の視線が痛い。

 

「……なんか、他の人からの視線が」

「気にすんじゃねえよ、俺を恐れてるだけだ」

「いや、絶対違うと思う。私が恐れられてるか……嫉妬っていうか……」

 

 女子から感じる視線、例えるならばそれは『なんでこんな中古女がイケメン夜空と一緒に歩いてるんだ』といった嫉妬の視線。

 自分で中古とか言ってしまうとあれだが、小鷹自身自分の容姿に自信がないのは本当のことなのである。

 

「……皇帝って結構モテたり……するよね?」

 

 小鷹は小さな声でぼそりと尋ねた。

 それを夜空は『考えたこともねぇ』とぶっきらぼうに言い張る。

 が、道行く女子は皇帝夜空に対し……。

 

「こ……皇帝、また明日……」

「その、皇帝、今度お話が……」

「皇帝、勉強教えてもらおうと思ったんだけど……」

 

 とか小さな声で言ってくるのが小鷹にははっきりとわかった。

 無言で夜空と小鷹が通り過ぎる度に小鷹は感じる。『中古女がいなければ皇帝と!』と嫉妬の念を浮かべる女子生徒のオーラが。

 別に愉悦に浸っているわけでもないのだが、それを気にいじめられないだろうか……まぁ多分ないだろう。

 

「……なんか答えてあげなさいよ」

「めんどくせぇ、俺は影分身なんかできねぇんだよ」

「その……別にボクの友達作りなんて手伝わなくても……」

「うるせぇよ、暇してんだ」

 

 てか暇つぶしだったんかい、と小鷹は内心むっとなる。

 しかしだとしてもこうやって自分に関わってくれるというのだ。今までなかった体験なので、その気持ちを無下にはできない。

 

「それで、友達作りってどうするの?」

 

 小鷹はそう尋ねると、夜空は道歩きながら答える。

 

「あんたは別に見た目うんぬんで友達できないわけじゃねぇだろ?要は女子力高めて怪力を隠せば友達もできるわけだ」

「女子力って、あんたがそれを高めてくれるの?」

「今後それをどうするかお前の家で決める」

「……家に来るの?」

 

 突然の話に、小鷹が内心焦る。

 今まで青春のせの字もしたことのない自分が、イケメンを家に呼ぶことになるなんて。

 というか友達一人家によこしたこともないのだ。これはさすがに緊張する。

 

「部活とかも入ってないし、部室もないんだ。拠点を決める必要がある」

「いや、でも……」

 

 小鷹がそうぼやくと、夜空が歩くのをやめ、振り返る。

 そして夜空が、多少顔を強張らせて言う。

 

「お前よ、ぼやいてばっかでなんとかなるわけねえだろうがこのバカ」

「うぅ……」

「人が手伝ってやるって言ってんだ。黙ってついてこいよこのバカ」

 

 二回もバカと言われ、しょぼんとする小鷹。

 こうして、小鷹は自分の家を案内し、夜空と一緒に帰宅。

 結局イケメンを家に招いてしまった。まさかこんなことが起きるとは、と小鷹は奇想天外な人生に微妙な気持ちを抱く。

 

「中々いいところに住んでんじゃねぇか。一軒家とか」

「小さい頃はこの街に住んでた。ここはその時に父さんが買った家なの」

 

 10年前、小鷹はこの街に住んでいた。

 さすがに『金色の死神事件』のことは口に出すことはない。あれは封印しておくべき過去だと小鷹は自分に念を押す。

 

「家族は?さすがに家に上がるんだ。誰かに挨拶しておかないと」

「父さんは海外に旅に出てる。妹は自分の部屋でなんかやってる。母さんは……もういない」

 

 それを聞いて、夜空は申し訳なさそうな顔をする。

 

「……その、すまねぇ」

「いいよ、気にしなくても」

 

 そう言って、小鷹は台所の近くのタンスからポテチを取り出しテーブルに置く。

 はたしていったい、何を話し合うと言うのだろうか。

 

「んで、転校初日にあんな騒ぎを起こしたお前が今後どう学園生活を送っていくかだったな」

 

 その言い草だと、まるで夜空が家庭訪問に来た先生のようだった。

 

「まずはあれだろ、女子力高めろ。俺は男だからよくわかんねぇから……誰かこう憧れとしてる女子生徒とかいる?」

 

 夜空にそう言われ、「んー」と考える小鷹。

 小鷹自身あまり学校の生徒とは関わっていないから、女子生徒と言われても答えに困る。

 よく考えて、一人だけ目立つ生徒が頭に浮かんだので、その生徒の名前を出してみることに。

 

「……となりのクラスの"柏崎さん"とか」

 

 小鷹がその名前を出した瞬間、夜空の顔が一瞬にして不機嫌になるのがわかった。

 

「……どったの?」

「……いや、お前のセンスの悪さに脱帽した」

「褒めてんの?けなしてんの?」

 

 夜空自信、こいつあんまりこの学校のことを理解していないな。というのがある程度分かっていた。

 そのことを踏まえて、わかりやすいように訂正することに。

 

「素直に言うと、あの女はやめておいた方がいい」

「なに?知り合い?」

「俺の敵……とでも言っておこうか」

 

 その言葉を聞いて、小鷹が首をかしげる。

 が、あまり気にしないことにした。

 

「でも、柏崎さんって男の人にモッテモテじゃない?」

「まぁそうなんだけど……なぁ」

「とりあえず、知ってる女子生徒が柏崎さんしかいないから」

「……俺自身も、目立つ女子っつったら思いつくのはあいつくらいか。てか地味なうちの学校であいつが派手すぎるんだ。スズメの大群の中に一人クジャクがいるようなもんだ」

「じゃあ、明日頑張って柏崎さんに話しかけてみるよ」

 

 小鷹の中では、柏崎さんと仲良くなればとりあえず安泰と考えたらしい。

 夜空は2、3点訂正を加えようと思ったが、なんかもう投げやりになり。

 

「あぁ、じゃあとりあえずやるだけやってみろ。だけど一つ予言しておくわ」

「なに?」

「お前絶対に明日、その怪力を使用すると思う」

「ちょっと、そんなことしたら柏崎さんと近付けないでしょ?」

「賭けてもいいわ、正直俺もそれが楽しみ」

「???」

「あと、柏崎はお前と一緒で……」

 

 と、夜空が何かを言おうとした時、上の階から誰かが降りてきた。

 

「クックック、我が眷属よ……帰っておったのk」

 

 なにやら、ゴスロリ衣装で左右の眼の色が違う金髪の小さな女の子が階段を降りてきた。

 さながら別世界の住人にも見える。思わず夜空の目が点になる。

 その女の子自身も、夜空の存在に気付き思わず固まる。

 

「……誰?」

 

 夜空が尋ねる。

 

「うちの妹」

 

 小鷹のその言葉を聞いて、夜空が数秒黙る。

 

「……おい小鷹、俺は嘘が嫌いなんだが」

「嘘じゃないわよ……」

「いやいや、お前みたいな死んだような目の濁り金髪の顔面中古の妹がどうしてこうも新品の高級品になるんだよ?」

「てめぇ殴り殺されたいのか!?」

 

 さんざん悪口を言われ立腹する小鷹。

 

「あの……お客さん?」

 

 小鳩がぼそっと呟く。

 

「まあ認めたくないけど……」

「いや、そろそろ帰るわ。じゃあな小鷹……明日がんばって柏崎と仲良くなってみろよ~」

 

 そう小馬鹿にしたように、夜空はすたこら帰って行った。

 

「なんなのよまったく……」

「……それで、夜ご飯どうするけ?」

「適当で……」

「……買い物行ってくるけん」

 

 羽瀬川家の家事全般は、基本的にこの妹――羽瀬川小鳩にまかせっきりである。

 理由は、小鷹が前に料理をした際に、小鳩が白目をむいてぶっ倒れたから。

 それ以降小鳩はあんな目には会いたくないと、最終的に中二病まっしぐらだが色々と万能になってしまった。

 女子力どころか家庭的要素もない、本当に残念な小鷹なのであった。

 


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