はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第1話です。


ファースト・シーズン
皇帝との出会い


「いらっしゃいませー」

 

 コンビニに入り、第一声に聞こえてきたその声は久しぶりに自分にかけられた一言だった。

 少女は一人寂しくコンビニに入る。その奇妙な金髪を揺らして。

 そしてドリンクを1本手に取りレジへ、その際に見えた一番くじ。

 運だめしに1枚引いてみるかと、手にとってレジに出すとドリンク1本が650円に。

 くじが当たれば儲けもの、外れればドリンク1本650円。

 

 くじの結果は、F賞でタオルという微妙な結果に。

 

 くじの結果さえ充実しない、そんな少女は非リア充。

 少女の名は……羽瀬川小鷹という。

 

「……当たるわけない……か」

 

 そう呟き再度くじの景品を見ると、A賞からC賞は『この商品は終了しました』。

 つまり少女は、あたりのない無駄な500円のくじを引いたことになる。

 

「……むーーーー!!」

 

 怒りをあらわにする小鷹。それをジト目で見る高山という店員。

 

「……まだくじをお引きになりますか?」

「引かないよ!!」

 

 高山店員にそう聞かれ、すぐさま否定する小鷹。

 当たったタオルとドリンクを持って、一人寂しくコンビニを出る。

 

「ありがとーございましたー」

 

 マニュアル通りの感謝の意、それは当然お客全体に述べられるありがとう。

 自分に欲しいのはそんなありがとうではない、だが彼女は他人にありがとうと言われることをしたわけでもない。ましてやしたいわけでもない。

 

「……ボクはどうしてこんなに非リア充なんだ!!」

 

 コンビニから出て一人外で叫ぶ小鷹、周りから見られる視線が痛い。

 思えば5月、聖クロニカ学園という学校に転校して以来良いことなど一度もない。

 まず第一に、彼女は転校初日に遅刻をするというヘマをおかしている。

 これからご学を共にする仲間たちとの初対面、そんな大切な日に神様はひどいことをするものだ。

 学校とは行き先が逆のバスに乗った彼女はすぐさま学校行きのバスへ乗り、早くしてくれと貧乏ゆすりをし駅に付いてすぐさまダッシュ。

 駆け抜ける小鷹。その勢いはなんとか・ヘッジホッグを思わせた。

 そんな彼女が急いで教室に向かう、がついた時には勢いがつきすぎていた。思いっきり教室の扉にぶつかる。

 

 どがしゃーーーーーーーーーん!

 

 普通ならば、ここで大きな音が鳴って『なんだろう?』で済むのが普通というものだ。

 だが、この羽瀬川小鷹という少女の場合は奇妙な現象が起きた。

 

 ぶつかった際、扉は綺麗なまでに木っ端みじんに吹き飛んだのだ。

 

 おわかりいただけただろうか、はたしてどれだけの勢いでぶつかればそんなことになるというのだろうか。

 当然教室内の生徒、ないし授業をしていた教師は目が点になる。惨劇が起こった扉付近を皆が一斉に見やる。

 そこにいた、ただでさえ奇妙な出で立ちの少女小鷹が……額から大量の血を流しながらその場に立っていた。

 皆が『初号機?』と思ったのだろうかはさておき、染めそこなった奇妙な金髪、ただでさえそれで目を引くというのに少女の瞳には光が宿っていない。

 死んだ魚のような目、闇混じる金色の髪を揺らし血をポタポタと流し、教壇へと歩みよる。そして……。

 

「て……転校生の……羽瀬川小鷹です(DEATH)」

 

 名乗った瞬間、みんながいっせいに自分とは違う方向を見た。

 羽瀬川小鷹17歳、現役バリバリ女子高生の転校初日からいきなり最悪な学園生活が始まってしまったのだ。

 その日、教室はおろか学校の誰からも声をかけられずに1日を過ごした。無論今もそんな毎日を過ごしている。

 

-----------------------

 

 そんなぱっとしない割に怪力持ちという、奇妙な少女は羽瀬川小鷹。

 そんな彼女は今現在、"友達が少ない"。

 作ろうと努力はした。見た目はヘンテコだがそれほど怖くはないので名誉を挽回しようと思えばできたはず。

 しかし最初のイメージを皆に植え付けてしまった結果、やることなすこと上手くいかず。

 体育の授業ではドッジボールをやった際に、小鷹の投げたボールにぶつかった生徒は腰の骨を折って入院した。

 それ以降体育の授業では仲間外れだ。一度その怪力を見た男子生徒が野球でピッチャーをやらせたが、キャッチャーをやった人が手の骨を複雑骨折した際に完全に見限られた。

 とんでもない怪力と、微妙な容姿で成績のぱっとしない。完全に怪力という要素に色々飲み込まれてしまった。よって現在孤独真っ最中である。

 

「あ~あ、転校してもう1ヶ月経つのに……友達一人もいないってもう終わりじゃないのよ……」

 

 最初からクライマックスだぜ!とか笑いたいところだが笑っては負けである。

 小鷹は一人寂しく呟き、小石を蹴ろうと思ったが前に小石に当たった猫が死んだのを見て以降小石を蹴ってはいない。

 一緒に帰る友達もいない。一人しょぼくれていた時だ。

 

「……体操服忘れた」

 

 駅に近いコンビニから学校までは15分ほど。めんどくさかったが戻るしかなかった。

 せめて学校に残っている友達がいるなら、その友達に頼むことだってできたはずなのに。

 

 そして15分、小鷹はめんどくさいも反面、さっさと体操服を見つけて帰ろうと気持ちを入れ替える。

 学校に入るともう6時を過ぎており、ほとんど誰もいない。

 運がいいのか悪いのか、まぁ友達のいない彼女からすればどちらでもよいことだろうか。

 廊下を歩き、階段を上る。そんなこんなで自分のクラスへ。

 確か体操服は自分の机に……と扉に近づいた時だ。

 

「わかってるよ、大したことねぇって……」

 

 と、何やら声が聞こえる。

 扉の先を覗きこむと、男子生徒が一人いた。

 女子並みに長い綺麗な黒髪、学ランを羽織ったやつ。

 

「フフフ~ンフフ~ン♪」

 

 と、鼻歌まで歌いだす始末。

 誰もいない中一人でボソボソ呟いたり歌ったり、その姿はとてつもなく隙だらけ。

 

「……うっわ、キモ」

 

 思わず呟く小鷹、自分はそれ以上に気持ち悪い(怪力的な意味で)存在だというのに。

 その中で少しだけ顔が見えた。その顔はとても整ってて、全体を通して見れば美少年だ。

 

「……ちょっとかっこいい……かな」

 

 と、扉によっかかったその瞬間。

 

ガラガラガラ!!

 

 よっかかった影響で扉が勢いをつけて開いてしまった。

 さすがに壊れたわけではないが、これでは扉の向こうにいる少年と鉢合わせてしまう。

 悪い空気の中、目の会う小鷹とその少年。

 

「……やば」

 

 睨まれる小鷹、こりゃあ変に関わらない方がいい。

 何事もなかったかのように体操着を取って、さっさとその場から立ち去ろうとする小鷹。

 帰り際、だけど先ほどの整った顔立ちが気になったのか、その少年を一瞥する。

 改めてみるとその少年は、とんでもないほどにイケメンだった。思わず顔を赤らめる小鷹。

 

「……な~にジロジロ見てんだこのバカ」

 

 これにはさすがの少年も思うところがあったのか、小鷹に因縁をつけてきた。

 バカと言われてむっとする小鷹。だがそこで関わってもロクな事がないのは目に見えていた。

 しかし、言われっぱなしではおさまらないのが今時女子高生の性分。

 

「……一人でぶつぶつ言ってた気持ちの悪いやつにバカって言われたくないね」

 

 そう悪態付いた際、少年が顔をしかめたのがわかった。

 言われて嫌なことだったのだろう、小鷹にはそれがすぐに分かった。

 

「なによ、あなた幽霊でも見えるの?それとも何?エア友達?」

 

 小鷹はつい最近図書館で呼んだラノベに出てきた単語を使って少年を煽る。

 少年は軽く舌打ちをして、小鷹から顔を反らす。意外と恥ずかしかったようだ。

 これ以上いても気まずいだけだ。小鷹はそのまま教室から出ようとした。のだが……。

 

「ノー友達のお前にそんなこと言われてもな……」

 

 少年のそれを聞いて、小鷹はまたもむっとする。簡単に挑発に乗ってしまうとこういうことになる。

 

「ちょっと、誰がノー友達よ。勝手に決め付けんじゃないわよ」

「転校初日に扉粉砕した怪力女がよく言うよ」

 

 んぐっ!と小鷹が悔しそうな表情をし、何も言いだせなくなった。

 思えばこの美少年も同じクラス、当然転校初日も普通にいた。

 というかそれ以前に扉粉砕事件は学校全体に広まっている。違った意味で小鷹は有名人なのだ。

 

「あなたこそ、他におしゃべりするやつがいないから独り言なんてしてんじゃないの?」

「独り言じゃない、あれだよ?一人で考え事とかする際に声に出しちゃうとか、カラオケの練習する際に小さい声で歌とか歌っちゃうあれだよ」

「もはや差異がないじゃないのよ!」

「あ~じゃああれだ。宇宙人との交信だ」

「心の中のもう一人の俺がー!とか言ってる方がマシよ!!」

 

 変に言い逃れをしようとする少年を必死に批判する小鷹。

 

「言いたいこと言いやがって、えぇと……多串ちゃん?」

「誰よ!?羽瀬川よ!羽瀬川小鷹よ!!」

 

 聞き覚えのない名字で覚えられていたようですぐさま訂正をする。

 このままでは多串ちゃんにされてしまうのでなおさらだ。

 

「羽瀬川小鷹ね、友達いない怪力女の小鷹にとやかく言われる筋合いはないな」

「うるさいなぁ、怪力なのは結構コンプレックスなのに……」

「まぁいいや、んで俺は誰かわかるか?」

「知らないよ、転校してまだ1ヶ月しか経ってないんだから」

 

 急に見慣れない相手に誰かと言われても、ぼっちの小鷹には名前を答えることはできない。

 だけど思えばこんな美少年、クラスにいたっけか。小鷹はそう思い返す。

 

「まぁ俺はあんまり授業には出てねぇからな」

「なに、あなた不良なの?」

「似たようなもんだ。"三日月夜空"……みんなからは『皇帝』って呼ばれてんだが……」

 

 三日月夜空、少年はそう名乗った。

 ついでに彼が皆から『皇帝』って呼ばれている事も。

 

「夜空……ねぇ。女みたいな名前だね」

「小鷹こそ、男みたいな名前だな」

 

 名前に付いて悪口を言ったら言い返されたの巻。しかもいきなり名前で呼ばれて少々困る。

 

「てか皇帝って、言っててはずかしくないの?」

「あだ名みたいなもんだろ、友達同士でよく使うような。そんなもんだろ」

「友達……ねぇ」

 

 友達。その単語を聞くたびに奥底で引っかかるものを感じる。

 本来ならばあの事件がなければ、今頃は一人くらい友達が出来ていたかもしれない。

 

「てかあんた、その髪の毛どうした?金髪美人に憧れて染めそこなったのか?」

「違うよ、これは母親の……」

「あの怪力……常時スーパーサ○ヤ人だと?」

「絶対に違うよ!!」

 

 正直小鷹的にはそのネタには飽き飽きしていた。実は結構ネタにされてきた単語である。

 当然小鷹はまぎれもない普通の人間。ただ脳のリミッターが他の人よりはずれてしまっているだけである。

 

「この髪の毛は遺伝。怪力は……いつのまにか」

「ふ~ん、てか目がなんか虚ろだぞ?ちゃんと寝てんのかあんた」

 

 そう言って夜空は小鷹に顔を近づける。

 

「ちょ……まじまじと見ないでよ!」

「……SE○D覚醒中か?」

「してない!!」

 

 そういって小鷹は夜空を遠ざける。

 少し嫌味な奴だが、あんなにも顔を近づけられると思わず顔が赤くなってしまう。

 夜空は小鷹が今まで見た男の子の中でも、かなりの美形だったのだ。

 

「……あんたの場合怪力以前に容姿もあんだろうよ。ヘンテコな髪の毛に虚ろな目……ついでに胸もないし」

「胸の話はしなくていいだろうが……」

 

 更にマイナスポイントが増えた上に触れてほしくなかったところを触れられたため、小鷹の怒りはさらに募る。

 

「てか何よ?心配してくれてるの?」

「はぁ?お前の悪いところを一から述べてるだけだっつうの」

「よけいなお世話よ……」

「まぁ大変だろうが、頑張って友達作れや」

 

 そう言って立ち去ろうとする夜空。

 簡単に言われる、『友達を作れ』のその一言。

 その簡単なことに、どれだけ自分が苦労してきただろうか。

 

「友達……作れるものなら作りたいよ……」

「そうかい、じゃあ部活とか入れば?」

「怪力のせいでほとんどの部活の入部お断り」

「そりゃあかける言葉もねぇ……」

 

 夜空は呆れほけたような顔で手を横に広げる。

 その発言で更にテンションの下がる小鷹を見て、夜空はめんどくさそうに頭をかく。

 

「別にいいよ~。ボクは一人でこの学校を生き抜くんだ!!」

「寂しい奴だな小鷹は……」

「ほっとけ、イケメンで皇帝って持て囃されてるリア充のあなたに言われたくないよ!!」

「別に俺、リア充ってわけじゃないぞ」

「絶対にその発言はリア充でしょ!!」

 

 余裕綽々の夜空の発言に小鷹は心の底から悔しがる。

 言いたいことは言われ放題、返す言葉もない。

 相手はきっと女子にモテモテのイケメン皇帝、対する自分は外見中古のぱっとしない地味な怪力が邪魔な少女。

 こんなやつに会った今日は、なんて最悪な一日なんだ!!小鷹は心の底で不幸を嘆いた。

 

「さよなら!リア充なんて死んでしまえ!!」

「あぁはいはい、さよならさよなら」

 

 そう無下な態度で手を振る夜空。

 小鷹はただ体操服を取りに来ただけなのに、よけいに気分を害して帰宅するのであった。

 

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翌日。

 

「おい、ナイチチ女」

 

 翌日の放課後、突然夜空が小鷹に声をかけてきた。

 不本意な呼ばれ方だったが、いきなりのことだったので少し驚く小鷹。

 

「な、なによ……」

 

 不機嫌そうに答える小鷹。

 そして夜空が小鷹にかけた言葉は、あまりにも意外な一言だった。

 

「……お前友達作りたいか?」

 

 夜空のその一言を聞いて、はぁ?と小鷹は呆気にとられた表情を浮かべた。

 そしてその、美少年は言った。

 

 

「お前の友達作り、俺が手伝ってやるよ」

 

 それが、小鷹のプロデュースの始まりだった。


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