はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド- 作:トッシー00
別に俺、リア充ってわけじゃないぞ。
そうぼそっと呟く男は、間違いなく勝ち組の方だった。
学ランを大胆に羽織って、その男は一人街をたそがれる。
皇帝と呼ばれたその男はただ、あるがままにただ毎日を満喫していた。
彼はまず不器用だった。なんだかんだで他人を助け、断る時も相手を傷つけないようにするが結局は相手をしょんぼりさせて首をかしげた。
美少年を絵に書いたような少年は髪が長く、整えれば可憐な美少女のようにも見えた。
三日月夜空という"男"は、怖くも優しい少年である。
聖クロニカ学園に通う彼は、学校の中でも態度の悪い方だった。
ミッションスクールである彼の通う学校では彼を恐れる物は多い、だがそんな中でも彼は周りの目など気にしてはいなかった。
気にいらないものは気にいらない、放っておけないものは放っておけない、やる時はやる。そんな男であった。
学校では一人身の彼だが、街に出れば色んな人に声をかけられる。
彼の喧嘩仲間から近所の子供に年寄り、彼はなんだかんだで街の人間からは尊敬されていた。
彼は外見から恵まれていた。その容姿はまさしく美少年であり、そこらの女子よりも綺麗で長い黒い髪の毛と整った顔立ち。
学校の授業はさぼっているが成績はそれなりに良く、運動神経もよく喧嘩も強い。
文字で書けばそんな少年、だけどその不器用さが災いし友達と呼べる友達がいないのが現状だった。
そんな彼は、当たり前のようなこの日常に飽きが来ていた。
渇きと飢えを癒すため、色んな事をやったが結局は癒されない身と心。
寂しさを感じる彼は時より独り言が多くなる。そんな彼からは一抹の寂しさを覚える。
その寂しさの裏には、ある少女との約束を叶えられなかったことへの悔しさがあるのかもしれない。
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10年前、彼は周りの子供たちからいじめられていた。
当時の彼は喧嘩も弱く、容姿も女の子っぽいという理由でいじめられていた、ただの無力な少年だった。
悔しかった。やり返そうにも返り討ちに会う。少年は毎日泣いていた。
泣くだけ泣いて家に帰る。学校に行ってもいじめられる。外に出てもいじめられる。
そんな毎日に小さなその少年は絶望していた。そんな時だった。
ある日、一人の少女がこの弱い少年を救ったのだ。
その少女はすごかった。同じ小学生、それも女の子だというのに公園のベンチを振りまわし、屈強な他の小学生をことごとく叩きのめした。
その姿は『オーガ』にも見えた。眼が血走り、黒く濁った金色の髪が恐ろしげに靡く。叩きのめされた少年達は泣き叫び逃げ出した。
だが、助けられた当時の少年は、その少女から逃げなかった。
「助けてくれてありがとう!」
少年は逃げ出すどころか、その少女に興味を持った。
以後その少女とよく遊ぶようになった。そのおかげで彼をいじめようとするやつは少なくなっていった。
いじめの少ない日常、そして初めてできた友達。でも彼は悔しかった。
女の子に守られている毎日、いずれは自分が守ってあげなければ。そして少年は少女と約束した。
「いつか僕は、君を守れるような強い男になる」
少年と少女の約束だった。だがその約束をした数日後、少女は家族の都合で引っ越してしまった。
あの日以降、少年は少女が返ってくると信じて、男に磨きをかけた。
結果今では遠夜市の"皇帝"と呼ばれ、遠夜市で特に喧嘩を売ってはいけない男とまで言われるようになった。
長い黒髪、整った顔立ちの中性的な美少年。なんだかんだで人を助け、あるがままに毎日を生きる男。
強き心を持った不器用な少年の名は……三日月夜空。
彼は友達と呼べる友達を見つけるため、そしていつかの約束を守るため……この遠夜市を駆け抜ける。