はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド- 作:トッシー00
「あぁ~眠……」
「おはようございますお嬢様。お着替えは隅の方へ置いておきましたので」
午前六時半、柏崎家の朝。
目覚めたばかりの星奈はとても眠そうにあくびをしていた。
十分ほどぼーっとした後、ステラに用意させた学校の制服に着替え下の階に降りる。
父親の柏崎天馬は朝から忙しいらしくすでに家を開けていたので、朝食は一人で取ることに。
『それではトモちゃんの友達占い、今日の最下位はおうし座のあなたです』
「げっ、私今日最下位じゃないのよ」
午前六時五十分頃、テレビをつけると毎朝恒例の占いがやっていた。
長い黒髪をした少しキツめの美人キャスターが見えない誰かと話をしながら順位を発表している。
そして最下位はおうし座。星奈は五月十九日が誕生日なのでおうし座である。
『出会いたくない人物に会ってしまうかもしれません、親しい人の目の前で赤っ恥をかいてしまう可能性があります』
「どうせテレビでやってる占いなんて当たるはずがないわよ。この私が赤っ恥ですって笑わせるわ」
『特に"肉"というあだ名の方は注意してください』
「それ私しかいないわよね?」
『普段から傲慢な態度で「私は女神でお姫様ハァッ!!」と言っては男子を侍らせて女王様ぶっている無駄に胸の大きいそこのあなた。下手したら死ぬかもしれません。てか死ね肉が!!』
「なんなのよこの無愛想なキャスター腹立つわね! あんたこそ死になさいよ!!」
あからさまに自分の事を言われているようで、朝から嫌な思いをした星奈。
この占いは全国ネットで毎朝放送されているものだが、こうもピンポイントに言われると不気味でしかたない。
まさか本当に占いが当たってしまうのだろうか。いやそれはないだろう。少なくとも死ぬことはないだろう。死ぬような思いをするかもしれないが死ぬことは絶対にない。
星奈は思いこむとだんだん怖くなってきて、朝食である食パンをすぐさま頬張り、コーヒーを一気飲みする。
『では次の事件です。昨日遠夜市のデパートでシスター服の幼女にお兄ちゃんと呼ばせていた濁った金髪の少年が逮捕されました』
「なんかもうくだらないニュースやってるわね。見るだけ無駄だわ」
星奈はそう言うとテレビを消して、ステラに車を手配させる。
そして星奈は我が家で所有している高級車に乗り込み、学校へと向かう。
星奈は毎日が車の送り迎えであり、自らの足で登下校をしたことは最近までほとんどなかったという。
最近は小鷹という遊び相手ができたため、彼女と一緒にバス亭前までは一緒に下校をするようになった。
そしてその日も学校が終わり下校時間に。
この日も小鷹とバス停まで一緒に歩くことに。
夜空はというと用事があるらしく一人で帰ると先に学校を出てしまった。
星奈からすればむかつくやつがいないのでありがたいことこの上なかった。
「あぁそうだ。ちょっとゲームショップに寄りたいから付き合ってもらえる?」
「いいよ~」
星奈は近々発売する新しいゲームを予約するため小鷹と一緒にゲームショップへ。
「星奈ってなんてギャルゲーをやってるの」
「ふふん、これは私なりの努力の形なのよ。女の子と仲良くなるゲームをやってコミュニケーション能力を極めるのよ」
「へぇ~。それ実際に効果に現れてるの?」
「……現れてる……わよ?」
痛いところをつかれた星奈は、少しよろ付きながらもそう答えた。
最も小鷹は善悪もない純粋な笑顔でそう発言する星奈を見つめているため、全く信じてはもらえていないだろう。
言わずもがなというやつか、本当かどうかも疑う余地もないのか。
その笑顔はまるで星奈をバカにしているようだった。
「あぁそうだ。今日の朝の占い、本当に最悪だったわ」
ゲームショップを後にした帰り道、星奈は今朝の占いの話題を切り出した。
「あからさまに私の事を言ってるのよ。おかしいと思わない?」
「普段から傲慢な態度で「私は女神でお姫様ハァッ!!」と言っては男子を侍らせて女王様ぶっている無駄に胸の大きいそこのあなた……ってやつ? いや考えすぎだと思うよ」
「絶対本心から言ってないでしょその顔は。またバカにしてるでしょ?」
「どうかなぁ?」
「むー」
意地悪な小鷹はクスクスと笑い星奈をからかう。
一方で運勢の方なのだが、もう学校も終わりあとは家に帰るだけだ。
今のところ出会いたくない人と会うようなこともないし、死ぬような出来事も起きていない。
ひどい言われ方をしたものだが、所詮テレビの占いであった。当たるはずもないし当たる気配もない。
調子の出てきた星奈は後半は占いの事をバカにしながら、悪徳商売とまで言いながら小鷹と通学路を歩く。
ちなみに今歩いているところはいつもの道ではない、聖クロニカとは違う他の高校が立ち並ぶ通学路であった。
ゲームショップへ寄り道をしたためか、遠回りになってしまったのである。
普段からあまり歩かない星奈は、いつも以上に歩いたせいか疲れが見え始めている。
「ちょっと疲れたわ」
「このあたりでステラさんを呼べば? ボクは一人で帰れるよ」
「そうしよっかな……」
と、星奈がステラに連絡を取ろうとした時であった。
ここから、星奈の運勢が一気に転落する。
「あっ、あなたは!?」
なにやら少し遠くからこちらに対して声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、背の小さい赤い髪の女の子がそこにいた。
来ている制服は聖クロニカ学園とは違うもの。ここらの近くの高校の生徒のようだ。
「うん? 星奈、なんかあの赤い髪の人あなたのこと呼んでない?」
「え? げっ!?」
その赤い髪の女の子を見た瞬間、星奈の顔が一気に青ざめた。
「やっぱり、星奈さんじゃないですか!! お久しぶりですお久しぶりです!!」
「ひ、久しぶりね。"葵"……」
葵と呼ばれたその女の子は、ぽきゅぽきゅとこちらの方へ走ってきた。
くせっ毛の赤髪のウルフカット。高校生にしては小柄な体系。
動物に例えるならばまさしく"子犬"が似合いそうな女の子。
名は"遊佐葵"と言い、星奈をよく知っているようであった。
「星奈の知り合い?」
「知り合いっていうかその……そうか、占いはこれか……」
何やら納得したようにそう呟く星奈。
「はい、遊佐葵と言います!! あっちの高校の二年に属しています。あなたは星奈さんのお友達ですか?」
「ボクは羽瀬川小鷹。星奈の友達……みたいなもんかな?」
「んもう勿体ぶらなくてもいいじゃないですか。完璧でモテモテでお金持ちで人柄もよく"友達の多い"星奈さんの友人ならば、そこは素直に友達でいいと思いますよ!!」
「……ん?」
なにやら葵は星奈の事をものすごく評価しているようであった。
確かに星奈は完璧でモテモテでお金持ちであるのは事実だ。そこは小鷹も素直に認めている。
だが問題はその後だった。人柄がよいのは大幅にツンが混じっているだけで実際に面倒見のいい人であることは完全に否定はできない。
しかし、その後の"友達が多い"という部分。その部分に関してはどう説明をすればよいものなのだろうか。
「あ、あのさ葵。その……」
「それは忘れられない去年の夏の全国学力テスト。高校に入学したばかりの自分はその日に向かって一生懸命勉学に臨み、テストに挑みました。しかし結果はここらの県にて三位。まさかの三位!! 一位はうちの学校の"日向さん"だとしてじゃあ二位はどこにいるのかと、噂を聞けば聖クロニカの星奈さんじゃありませんか!!」
葵のどこかにあったスイッチが入ってしまったのか。突如語りだした。
確かに去年、星奈の学力テストの順位はここらでは二位であった。
つまりそこにいる遊佐葵に勝ったことは事実である。星奈からすれば特に気にすべきことではない。
だが問題はこの後だった。
「自分は自分を負かした星奈さんを探しました。そして見つけるとなんと、なんと!! イケメンやら体育系男子に囲まれて華々しく歩いている星奈さんを発見!! すごいオーラでした。最高に憧れました!! 私の目に映るあの時の星奈さんはまさに、ニューヨークの自由の女神をも超越した輝かしさを解き放っていましたっ!!」
「も、もういいわよ葵! お願いだからもうやめてちょうだい!!」
「そして後日星奈さんが一人なのを見つけて勇気を振り絞って話しかけたのです。友人の多い星奈さんが一人だけでベンチで座っているとこれまでにない好機!! チャンスは今しかないと!!」
(大体一人ぼっちでいると思うけどなぁ……)
星奈を超人気者と勘違いした葵は、星奈に話しかけたと言う。
その時の会話がこんな感じ。
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『あの、自分は遊佐葵と言います!! 聖クロニカ学園の柏崎星奈さんですよね!?』
『そうだけど何?』
『あの、今読んでいる本はなんという本ですか!?』
『これ? イギリスの歴代大統領の自伝が載った本(文字は全部イギリス英語)』
『こ、こんなにも難しい本をお読みで。さすがは学力テスト二位!!』
『……あんた私をバカにしてるの? 私は一位を取れなくてものすごく悔しがっているのに』
『そ、それは自分とて同じです。自分はあなたに負けてしまいました。だから次は負けないためにあなたに会いに来たのです!!』
『へぇ、あんた背は小さいくせに中々わかっているじゃない。この私に挨拶しに来たってわけね?』
『はい! どのような人物かと期待を寄せて拝見させていただきましたが。予想通りとても美人で、人望の厚い方だったのですね!!』
『あは! もっと褒めなさい!! この容姿端麗成績優秀スポーツ万能、それに加えて様々な人に注目され続ける完璧なる女神! "友達なんて何千を超えたか覚えていない"わ!!』
『あ、憧れますーーー!!』
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と、褒められて湛えられて嬉しかったのかはわからないが。
気分が良いまま大きいことを言いまくってしまい、葵に完全に誤解を与えてしまったまま今に至るというわけである。
「……へぇ」
「こ、小鷹。やめてそんな目で私を見ないで!!」
「"友達なんて何千を超えたか覚えていない"んですかぁ、星奈"様"」
「やめてぇぇぇ! 様なんてつけないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
小鷹はジト目で星奈を見つめて問いただす。
まさか星奈に友達が千人以上いるなんて思わなかった。
小鷹は口で言わんとその空っぽな視線が星奈の心の中にそうメッセージを送った。
おまけにわざとらしく様付けで呼ぶ始末。これは面白い話を聞いてしまったと、小鷹は内心しめしめと笑みを浮かべるのであった。
「それで、今更友達なんて一人もいないなんて言えず仕舞で、街で会うたび会うたびこうやって追いかけられてるってわけだ」
「うぅ、けして悪い奴じゃないんだけど。会うたび人前で大声で褒めちぎられて、姉にしたいだのペロペロしたいだのべったりくっつかれてこの様よ」
「なるほど……。悪いんだけど遊佐さん。ボクとこの完璧でモテモテでお金持ちで人柄もよく"友達の多い(ここだけやたら大声)"星奈とは今帰りの途中だからまた今度にしてもらえるかな」
「あんたどっちの味方よ!!」
小鷹は半分以上わざとらしくそう説明し、今日のところは葵と別れる。
葵自身はそこまでしつこい性格ではなく、むしろ物分かりの良い性格なので素直にわかりましたと言ってくれた。
「では星奈さん、羽瀬川さん。また後日お会いしましょう!!」
「うん、あ、そうだ。遊佐さんついでだしメルアドを交換しておきたいんだけど、時間ある時でいいからゆっくりと星奈の事教えてもらえるかな」
「はい! 自分でよければ」
「鬼! 小鷹のおにぃぃぃ!!」
途切れることのないドSな小鷹の攻撃。
それに耐えきれなくなった星奈はそう叫びながら、先の方まで走り去ってしまった。
「あ、皇帝でないにしろやりすぎたかな……」
「皇帝? もしかして"夜空くん"のことですか?」
「え?」
と、ここにきて葵の口から意外な人の名前が飛び出た。
なんと葵は星奈だけでなく、夜空の事も知っていたのだ。
「そ、そうだけど……」
「そういえば同じ聖クロニカでしたもんね。自分と夜空くんは同じ中学校だったんですよ」
「そうなんだ。あいつあまり自分の過去話はしたがらないからな……」
葵と夜空は同じ中学校だったという。
これまた変な因果か、幸村にしろ理科にしろどこかこっか夜空か星奈が関わってくるものだった。
「実のところこの後夜空くんと図書館で会う約束をしているのです。久々に日向さんが暇をしているというので、三人で昔話でもしようと思いまして」
「その日向さんも、あなたと皇帝の同期?」
「正確には日向さんは一年上の先輩なんですけどね。夜空くんが中学時代に荒れに荒れていた時、日向さんが大人しくさせたのがきっかけで仲良くなったんですよ」
夜空、葵、そして日向という人物。
その三人は同じ中学出身で、今でも付き合いのある仲。
だが小鷹が注目したのはそこではなく、夜空が中学時代に荒れに荒れていたというところ。
小鷹からすればなんとなく予想はついていたことだった。
そう、夜空は中学時代の初期は非常に荒い学園生活を送っていたという。
「すごい人なんだね、日向さんって」
「別名"図書館の日向さん"。学校が終わって暇なときは決まって遠夜市総合図書センターにいますよ。今度羽瀬川さんにも紹介しますよ」
「楽しみにしておくよ」
そう言うと、二人はその場を去って行った。
葵は遠夜市総合図書センターへ、小鷹はまっすぐバス停に向かった。
「星奈はもう家に帰ったのかな、まぁいいか。一応明日謝っておこう」
そして数分後バスがやってきて、小鷹はバスに乗り家に帰るのであった。