綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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だらしない先生ですまない……

「私の霧を消した今の術は―――」

 

 鬼鮫が口を開いた瞬間、カカシがその場から消える。

 

「速い……っ!」

 

 凄まじい速さで鬼鮫に肉薄したカカシが飛びまわし蹴りを放ち、鬼鮫は後方へ飛んで辛うじてその一撃を避ける。カカシは蹴りを放つ勢いのまま回転しながら、ホルスターから引き抜いた苦無を振りかぶり、上から振り下ろした。

 鬼鮫は包帯で包んだ巨大な”何か”を横なぎに振るって応戦するが、カカシは”何か”に苦無の刃を当て、僅かな起点を軸にさらに跳躍し、かかと落としを放った。

 脳天に蹴りを受けた鬼鮫は地面に頭を叩きつけられるが、そのまま倒立。両手を地面につけて足を動かし、宙に浮くカカシへ蹴りを放つ。

 カカシは宙に浮いたまま鬼鮫の蹴りを両手で捌きつつ、回転。倒立する鬼鮫の腹に追撃の蹴りを打ち込み、鬼鮫を吹き飛ばすと地面に着地する。凄まじい速さで印を結び、その右手に雷を纏わせると、地面を蹴りつけた。音を置き去りにするカカシの突進は、雷で空気を裂いた。

 鬼鮫は体中の筋肉を動員して空中で体勢を整えると、”なにか”の先端を地面に叩きつけて支点を作り、両足で地面を掴むように付け、後方へ飛ぶ自身の体をその場に留めようとした。

 直進していたカカシは突如速度を爆発的に上げ、鬼鮫の視界から消える。

 鬼鮫は辛うじてカカシが背後に回っていることに気づき、振り向きながら膝を折り、頭上を通り過ぎた雷の手刀を避けるが―――倒れ込むように姿勢を低くすることでようやくカカシの雷切を避けることが出来た鬼鮫の表情には、焦りと危機感が浮かび上がっており、カカシの体術に翻弄されていることが伺えた。

 

 鬼鮫は自身の頭部へ向けて振り下ろされる、カカシの雷の手刀による追撃を首を傾けて避けた。

 しかし、カカシはその雷切すら”囮”とし、反対の拳で鬼鮫の頬を殴り抜ける。

 鬼鮫は呻き声をあげ、血反吐をまき散らしながら殴られた方へ向けて仰け反りながらも、その勢いを利用して後方へ飛び下がった。

 追撃に迫るカカシに向けて、鬼鮫は次々に水分身を作り出してその動きを阻害し、何とか距離を置こうと走り出す。カカシは肉の壁として立ちふさがる水分身を次々に破壊していくが、突如何かに気が付いたように後方へ飛び下がった。

 

 直後―――掻き消された水分身によって周囲にまき散らされた”水”が蠢きだし、巨大な龍の形となって、現れる。

 口が大きく裂けた水龍は、主人の敵であるカカシを喰い殺そうと、滝のような勢いでその頭上から襲い掛かったが―――突如として空間に歪みが生まれ、瞬く間に消滅した。

 

「”木ノ葉の白い牙”……。よもやこれほどとは……恐れ入りました」

 

 口から血の塊を吐き捨てながら、鬼鮫が驚愕と感嘆を口にする。

 鬼鮫は口端と鼻から流れる血を袖で拭い、薄気味の悪い笑みを浮かべつつ、水分身を周囲に次々に生み出して壁としながら、注意深くカカシを見つめた。

 

 ”白い牙”の切り札として知られる”雷切”すら囮にする厭らしさ。速度で敵を翻弄して圧を掛け続け、精神と肉体にダメージを蓄積させる卑劣さ。大技を発動させる隙を与えない攻勢の組み立て、フェイントを凌駕する眼力。疲労による判断力の低下、肉体と意識の齟齬、畳み掛けられる恐怖と焦燥から生まれる、一瞬の隙を虎視眈々と狙い続ける捕食者の眼―――なるほど確かに、”白い牙”の名にふさわしい。

 写輪眼があるからというだけの話ではない。明らかに―――はたけカカシは、はたけカカシよりも格上の体術使い(・・・・・・・)戦い慣れている(・・・・・・・)

 認めよう。干柿鬼鮫は、木ノ葉の白い牙”はたけカカシ”に、体術では及ばない。

 

「木ノ葉は平和ボケしたと聞いていましたが……。いやはや噂とは当てにならないものです。あなたのような忍びがいて、平和ボケなどと……」 

 

 鬼鮫の言葉を無視し、カカシはちちちと手に帯びた雷を鳴らせながら、中腰になる。

 鬼鮫は話に乗ってこないカカシに内心で舌打ちするも、しかしひたすらに目の前の敵を排そうとする姿勢には、素直に感心した。

 強者ほど自身の力に慢心し、敵との”会話”に応じる傾向がある。能力や弱点を伝え、それでもなお超えられぬ絶望を叩きつけ愉悦を貪る嗜虐心であったり、あるいは相手を観察し次の戦術を組み立てる時間を設けるためであったりと理由は色々とあるが、ここまで無駄を排し”殺し”に特化した忍者というのは、忍界を見渡しても稀だ。

 

「よほど良い”師”を、お持ちのようで」

 

 鬼鮫は自身のことを、忍界を見渡しても数少ない”強者”であると認識している。そのうえで、はたけカカシの実力はその上を行く。それは認めよう。

 ”木ノ葉の白い牙”は獣。地を駆ける虎。

 対して、干柿鬼鮫は”魚”だ。水中に潜み、敵をテリトリーに引きずり込む狡猾な”鮫”。鮫の本分は水中戦であり、地の利は獣にある。このまま戦えば敗北することは、確かに道理であろう。

 だが、それは地上にあっての話であり、さらに言えば体術のみの話だ。体術など、忍者にとっては手段の一つでしかないのだから、体術で敵わないなら、別の手段を用いればいいだけの話である。

 鬼鮫はカカシの後方へと、僅かに視線を向ける。

 

「す……すげえってばよ……」

 

「……」

 

「はわわ……」

 

  カカシが戦いの最中、ずっとその背に庇い続けていた者達。カカシと鬼鮫―――影レベルの戦いを始めて目の当たりにした幼い子供たちは、各々その衝撃に動揺している様子である。

 己を制御できていない”甘ちゃん”たちを何故Bランク任務に連れ出したのか(・・・・・・・・・・・・・・・・)など、鬼鮫にとってはどうでもいいことだが、利用しない手はない。

 

 組織(・・)のためにも、やるべきことはやらねばならない。

 

(あんな子供を手に掛けるのは気が引けますが……)

 

 そう思いながらも、しかしそんな情けを即座に切り捨てられる程度には、鬼鮫は模範的な忍者であった。

 かつて霧隠れの怪人と畏怖された干柿鬼鮫は今、とある組織に所属している。霧隠れの次代の担い手と目された鬼鮫が、何故霧隠れの里を抜け野に下ったのか―――事の起こりは10年前に遡る。

 

 霧隠れの里は戦争が終わり、木ノ葉隠れの里と平和条約を締結し、軍事同盟を結んだ。周囲を海に囲まれ水産物に富む水の国および霧隠れの里と、肥沃な土地を持ち木材や家畜を有する火の国および木ノ葉隠れの里は、貿易上でも良きパートナーとして、手を取り合い始めていた。

 火の国と水の国―――その大名同士の確執は依然燻ってはいたものの、国の軍事力である”隠れ里”同士が友好を頑なに譲らなかったために、結果として大名たちが譲らざるを得ず、二国間の関係は、少なくとも表面上は友好関係を築くことが出来ていた。

 水面下においては、水の国の大名は当時、端的に言えば長の弟分を人質に取られていたがゆえに沈黙を守っていた雷の国雲隠れの里に対し、たびたび火の国の大名の暗殺や誘拐の依頼を出していたが、どこからかその情報は必ず洩れ出てしまい、その悉くを阻止されている。恐らくは木ノ葉隠れの里―――もっと言うならば、五代目火影の手の者であろうとはまことしやかにささやかれていたが、水の国の大名にとって”忌むべき者”の正体は、未だに不明である。

 そんな闇の戦いは、水の国の大名の下に、雲隠れの里に依頼を申請するために送り出した使者が、数時間後に首だけとなって帰って来たことで終わりを告げた。

 

 ―――いつでも殺せる。

 

 ―――お前だと知っている。

 

 それを死のメッセージだと受け取った水の国の大名は恐怖し、火の国に手を出すことを諦めた。

 数日後でも、数週間後でもない。数時間後(・・・・)である。大名の周辺を見張り、正確な情報を握っていなければ、そんなことは出来やしない。

 

 戦時中、霧隠れの里の手練れたちに守られていた水の国の大名は、これまでそんな恐怖を知る機会など無かったが、それが却って、大名たちの恐怖を煽った。

 

 第三次忍界大戦において、木ノ葉隠れの里は、自国領土と里の防衛並びに火の国の大名の守護で手がいっぱいであり他の国の大名に刺客を送る余裕など無かったし、第二次忍界大戦においては、二代目水影率いる霧隠れの里の精鋭たちが水の国の大名を守っていた。絶対の安心感があった。

 

 しかし身近な”死”を叩きつけられたことで、それは崩れ去る。水の国の軍事力の要である当代の”霧隠れの里”が、自分たちタカ派の大名を守るつもりなど毛頭ないという事実を、水の国の大名たちは理解させられたのである。”自分たちは安全だ”と己惚れていたタカ派の大名たちを襲った衝撃は大きく、見張られているという不安、守られていないという恐怖に、彼らは身を竦ませたのである。

 

 そんな変革の時代を迎えていた霧隠れの里において、干柿鬼鮫は機密情報を守る任務を専門とした暗部に所属していた。平和な時代になってなお―――いや、平和な時代だからこそ、鬼鮫の任務は過激さを増したと言えるだろう。

 外敵を持った集団は、一つになりやすい。戦時下において敵のネズミを狩ることが専門であった鬼鮫の仕事は、平和になったからこそ、戦争を望む同胞の処理という悲壮なものへと変貌した。霧隠れの里はもともと好戦的な一族が中心となって興った里である。三代目水影時代の仲間同士で殺し合う”血霧”に辟易したがゆえに和平に同意する者も多いが、かつての気風はいまだ健在であり、戦いを望む者も少なくない。干柿鬼鮫の任務は、そういった戦火を煽る同胞の、内定及び粛正が主となっていた。

 

 そんな日々に自覚なく疲弊していた鬼鮫が里を抜ける決定打となったのは、数年前に霧隠れの里で発生した内戦―――かぐや一族による霧隠れの里へのクーデター、”かぐやの乱”である。

 かぐや一族は、好戦的な者が多い霧隠れをして”戦闘民族”と称する戦いに狂った一族であり、仇敵である木ノ葉隠れの里との和平を推し進める四代目水影への不満を募らせており、大名たちが沈黙してしばらく経った頃、彼らは平和に耐えきれず暴動を起こした。それだけならば鎮圧も容易かったが、内心で人柱力が”影”であることを面白く思っていなかった者や、平和を厭う好戦的な霧隠れの者たちがかぐや一族の暴動に便乗したことで、里は二つに割れ―――結果、”かぐやの乱”は、霧隠れ史上最悪の内紛へと発展してしまったのである。

 

 五代目火影への救援要請も間に合わぬまま戦火は瞬く間に拡大し、水影の側近である西瓜山河豚鬼は殺され、四代目水影は激怒し尾獣の力を以てかぐや一族へ報復を遂行―――血で血を洗う血霧の里が、再誕することとなった。

 しかし悲劇はそれだけでは終わらない。内乱中、かぐや一族を滅亡させた四代目水影は、憎しみに染まってしまったのか、まるで何かに取りつかれたかのように、和平から一転して軍拡を主張し始め、タカ派を取り込むと味方だったはずの和平派を弾圧し始めたのである。

 内情が二転三転した霧隠れの里は現在、まさに地獄と呼べる場所と化しており、和平派は分断されながらも各地に潜み、木ノ葉隠れの里を―――五代目火影を頼り、クーデターの機会を伺っている。

 しかし五代目火影は変貌した盟友や霧隠れの里を気に掛けつつも、他国への内政干渉となるため直接的な手出しが出来ない状態にあり、いまや反乱軍となってしまった和平派―――照美メイや桃地再不斬と言った霧隠れの勇士たちに対し、密かな支援をするに留まっている。

 

 干柿鬼鮫はそんな霧隠れの里にあって四代目水影の下、”忍者”として過ごしていたが、あるとき、とある人物からの勧誘を受けて里を抜け、”暁”と呼ばれる組織に所属することとなった。その目的は―――鬼鮫のみが知ることだ。

 そして鬼鮫は現在、組織の金策として、世界有数の大金持ちガトーに雇われてここにいる。

 

 ―――木ノ葉隠れの里から、橋職人タズナが”白い牙”を引き連れて帰還する。

 

 その情報を仕入れたガトーの恐怖は想像に難くない。裏世界だからこそ五代目火影の名声は絶大であるし、その右腕の”白い牙”もまた同様だ。

 このままでは殺されると考えが飛躍するのも無理は無いだろう。そして慌てたガトーは金に糸目は付けぬと、裏世界で名を轟かす忍者傭兵集団”暁”に護衛を要請したのである。

 

 鬼鮫は凄まじい速さで印を結び、カカシが驚愕に目を見開く。

 その写輪眼には、鬼鮫の体内で練り上げられる膨大なチャクラが映っていた。

 

「―――これはコピーしても地力で負ける……っ! ナルト、サスケ、サクラ!! オレの土遁の壁に隠れろ!! 来るぞ!!」

 

「水遁―――大爆水衝波!!」

 

「土遁・土流壁!! ―――神威!!」

 

 現れたのは、巨大な水の塊。

 まるで湖ひとつ持ち出したのかとすら見紛うほどの規模の水が、突如として顕現した。山一つ覆えるのではないかと思えるほどの巨大な水の球体は突如として決壊し、あらゆるものを押し流す激流の暴威を示した。

 その様はまるで流動する壁のようであり、その水位は球体が決壊し流体となってなお、優にカカシの背を越えている。

 

 カカシはナルトたちを守るため、土遁の壁を自身の後方へ築き上げるとともに、押し寄せる激流を異空間に送り込み始める。しかしその激流はまさしく桁違い。あまりに膨大な量は、神威による消滅を待ちはしなかった。膨大な水は異空間に吸い込まれながらも勢いを止めることはせず、カカシを避けるかのように突き進み、ナルトたちへ向かっていく。

 

「……っ!!」

 

 カカシの左目に激痛が走る。消しきれない激流がカカシの膝を攫おうと襲い掛かるが、カカシは地面に足をめり込ませるほど強く地面を踏みしめてこれを耐える。

 後方で、土遁の壁が根元からへし折られ、崩れ落ちる音が聞こえる。

 

「逃げろ!! お前たち!!」

 

 カカシは神威で水を消し続けているため正面を向き続けざるを得ず、ナルトたちがどうなったのか確認することも出来ないまま、ただ叫ぶことしかできなかった。

 タズナを逃がそうとしているのか、後方からはサスケとナルトの叫び声とサクラの悲鳴が聞こえる。

 

 ナルトの影分身は壁にすらならず激流の威力に消し飛ばされ、サスケの火遁は一瞬で掻き消される。サクラにはそもそも性質変化に対応できる実力はない。

 

「ちくしょう……っ!!」

 

 激流に呑み込まれたのか―――ナルトたちの声が消える。

 やがて血の涙がカカシの目じりから流れ出してなお、カカシは神威を発動し続けた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 遂にすべての水を消し去ったカカシが膝をつき、項垂れながら肩を大きく揺らしている。

 もともと万華鏡写輪眼の燃費は良いとは言えない。それを長時間かつ大規模な範囲で発動し続けたカカシの体力は限界が近かった。写輪眼は既に万華鏡ではなくなっているが、しかしカカシの写輪眼は解除が出来ないため、目を開けているだけで、チャクラを消費する。

 

「……万華鏡写輪眼。まさかここまでのものとは思いませんでしたよ。あるいは”足手纏い”さえいなければ、結果もまた、違っていたかもしれませんねぇ」

 

 鬼鮫が薄ら笑いを浮かべ、しかし本心からの賞賛を口にする。

 先の大戦で、写輪眼にはさらに先があることは、忍界に知れ渡っている。畳間が使っていたこともそうであるし、決戦でフガクが天照を連発していたこともそうだが、戦いを生き残った者達の口から、”万華鏡”の存在は語られていた。

 

「この大刀”鮫肌”で終わらせてあげましょう」

 

 鬼鮫が巨大な”何か”の包帯を解き―――現れたのは、棍棒のような鉄塊。しかしその表面には無数の棘が鮫の肌のように敷き詰められていた。斬るのではなく、削ることを目的とした形状の禍々しい刀。

 カカシは驚愕した。かつて、それを見たことがあったからだ。

 

「それは……」

 

「頂いたんですよ。前任者が不運にも(・・・・)死んでしまったもので」

 

「貴様……!」

 

 近づいてきた鬼鮫に、カカシは体中から雷を放出してカウンターを狙う。

 術の名を紫電。かつてカカシが写輪眼を畳間に無理やり封じられて体術修業を課せられ、体術に秀でるガイに為す術なく”タコ殴り”にされていた際にカカシが編み出した放電雷遁である。カカシの奥の手の一つであるが―――。

 

「私の大刀鮫肌はチャクラを削り、喰らう」

 

 カカシの放電した紫の雷は、鬼鮫に届くことなく消滅した。

 蠢いているのは、鮫肌なる刀。見れば、”口”がある。チャクラを―――カカシの紫電を咀嚼していた。

 化け物だ。生きる刀など、そうとしか言えない。

 写輪眼による幻術を何度か発動していたが、鬼鮫に掛かった様子が見られなかったのは、この鮫肌が、それを阻害していたのだとカカシは気づく。

 

(……五代目。申し訳ありません……っ)

 

 託された子供たちを守れず、右腕として扱ってくれた恩も返せず、ここで死ぬ。

 カカシはあまりの悔しさに歯を食いしばり―――。

 

「な!? これはっ!?」

 

 鬼鮫の驚愕の声。その右腕からは黒い炎(・・・)が立ち上り、肉を焼いていた。

 鬼鮫は手を振って火を消そうとするが、風に揺らめくだけで消える様子は無い。水を口から吐き出して鎮火しようとするが、服が濡れるだけで、炎が消えることは無かった。

 

「ぐォ……」

 

 鬼鮫が慌てている最中、サンダルを履き黒いペディキュアを爪に塗った足が、鬼鮫の顔面を蹴り抜けた。

 鬼鮫は呻き声をあげ、地面を転がっていく。

 

「な、なにあれ!? きも!!」

 

「おい、サクラ顔を出すな! 兄さん(・・・)の邪魔になる!!」

 

「すげぇってばよ……いろんな意味で……」

 

 離れた場所の岩陰からひょこりと顔を出しているサクラが鮫肌という異形に不快さを示し、そんなサクラをサスケが引っ張り戻す。そして、顔を出してカカシの無事を確認するとすぐに身を隠したナルトの声を聞いて、カカシは安堵のため息を吐いた。

 

「この声は……みな、生きていてくれたか……。お前のおかげか……? 正直、かなり助かったよ……」

 

「オレの須佐能乎で皆を庇いました。間に合ってよかったです……カカシさん」

 

 右手を黒炎に焼かれながら、体勢を立て直した鬼鮫が自身を蹴り飛ばした乱入者を睨みつける。

 

「―――あなた、何者ですか」

 

「木ノ葉隠れの里―――」

 

 その若い男は、艶やかな黒い髪を肩まで伸ばしている。目頭から延びるしわは気になるが、知る人が見れば、幼いころに比べ、そのしわが短くなっていることに気づくだろう。

 緑色のベストを身に着けていた。それは木ノ葉隠れの里の中忍以上の忍者に支給される量産品であり、カカシも同じものを身に着けている。しかし一つだけ、その男のベストには、違う箇所があった。

 それは、背中に刻まれた”うちわ”の家紋。

 

「―――うちはイタチ」

 


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