カツユをカツイというオリ蛞蝓に変換。それに伴いオリ設定追加。
1話もストック作ってないから出来る荒業。
腹部を串刺しにされ、吐血するサクモを角都は笑う。サクモは力を振り絞り、クナイで触手を切り裂くも、上から触手に叩きつけられ、地面に激突する。
「ガッ」
「終わりだ」
地面に激突したサクモの腕が曲がってはいけない方向へ折れ曲がり、サクモは鼻を強打した。血が諾々と流れ落ちる。
満身創痍となったサクモに止めを刺すべく、触手の槍が倒れ伏すサクモに迫る。
「―――ッ!!!」
「貴様!!」
突如―――角都の足元、地面が隆起した。現れたのは、木の葉の額当てを額に締めた、血と泥で汚れきった畳間である。瞳は真っ直ぐに角都を捉えている。
畳間の付けているその額当ては、かつて苦悩していたころ、祖父・柱間から貰った、畳間の大切な宝物。畳間はそれを、毎日、肌身離さずこっそりと持ち歩いていたのである。
―――オレは木の葉隠れの忍、千手畳間。
かつて柱間は畳間に言った。火の意志を持つ者は皆家族なのだと。畳間はその言葉を鮮明に覚えている。
―――俺は火影の意志を、火の意志を継ぐ者だ!
いずれ畳間が忍者養成施設を卒業し、下忍になるとき―――それは晴れて額当てを巻くことを許される日である。その日が来たら、畳間は胸を張って、その言葉を大好きな祖父に伝えたいと思っている。
「あなたの意志を継ぐ」と口にすることで、かつて救われた感謝を伝えたい。そして改めて認めて貰いたい。そしていずれは祖父の跡を継ぎ、火影へ―――。
畳間はそんな幸せな日を待ち望んでいた。そんな夢を壊そうとする外敵を、畳間は許すことは出来ない。
身に着けた額当ては、覚悟の証。
「畳間! 間に合ったのね!!」
木陰から現れたイナが、喜びの声をあげる
実のところ、カツイによる畳間の怪我は、イナに運ばれている最中にすでに回復の兆しを見せていた。それは『うずまき』と『千手』の血統ゆえの超回復力。
畳間はイナに、治り次第、土遁・土中遊泳の術で接近し、隙を見て至近距離から角都を攻撃すると、話を合わせていた。
弱っているがゆえに、チャクラが本来と比べて激減している現状―――それは大きな術を発動出来ないというピンチであり、敵から感知されにくくなるというチャンスでもある。
先ほどのイナとサクモの会話―――
「ううん、畳間はこいつの他に、2人も相手取って戦ってたんだもの。私だって、戦える。それとね―――」
(―――驚異的な回復力よ。畳間はすぐに戻ってこられる。私たちは囮になって、角都の気を逸らすの。隙を見て至近距離から畳間が攻撃をぶつける。危険だけど・・・やるわよ)
「―――分かった。このままじゃジリ貧だ。賭けるよ」
そしてサクモは作戦通り、絶好の隙を作り出した。
畳間はそれを無駄にはしない。素早くその印を結ぶ。
「水遁・水断波!!」
触手のガードは間に合わない。畳間を妨害しようと、機動力のある細めな触手の槍が畳間の肩を貫くが、畳間の決死の覚悟は揺るがない。ここを逃せば死するのみ。ならば体の激痛なにするものぞ―――角都は、畳間の攻撃を間近で喰らうこととなった。
「やった!」
水のはじける音と共に、角都が吹き飛ばされていく。
イナが喜びで声をあげ、術を発動しを終えた畳間が、倒れるサクモへと駆け寄っていく。
「サクモ、生きてるか?」
「なんとかね」
畳間に肩を借りたサクモがゆっくりと立ち上がる。疲れた顔で笑うサクモと同じように、畳間も泥に塗れた笑顔を見せた。
でも―――とサクモが言う。
「あいつの心臓はまだ残ってる。今ひとつと、水遁の仮面―――2つは潰すことは出来たけど・・・。土に埋めた火遁の仮面は良いとして、カツイさん・・・が抑えてくれている2つ、残ってる。お互い、戦える力も残ってない。あいつが動き出す前に、ここから離れよう」
今の畳間の水断波は、サクモの言う通り、最後の力を振り絞っての攻撃だった。畳間はチャクラを、サクモとイナは体力を使い果たした。戦える余裕はもはやない。
畳間が発動している口寄せの限界時間が過ぎ、残り2体の仮面が解き放たれれば、3人は成すすべなく殺されてしまうだろう。
畳間としても、逃げることに是非もない。
「ああ、そう―――だ・・・がッ・・・」
頷こうとして―――畳間の胸部から触手が姿を現した。畳間の胸部を破り、血しぶきをまき散らしながら現れた触手は、見間違えるはずもなく、角都の操っているそれだった。
先ほどの畳間の水断波―――あの術は、初めから角都の心臓を貫いてなどいなかったのだ。それは角都本来の土遁の力―――土矛の術。体を極限まで硬質化するそれは、雷遁の術以外、ほぼすべての術を無力化する絶対防御。角都は死んだふりをして、3人の油断を誘ったのである。
「ごふッ・・・」
「畳間!!」
「いやあああ!!」
目を見開きその小さな体を痙攣させた畳間の口から、噴水のように血が溢れ零れ落ちる。
サクモとイナの悲鳴を、角都は心地良さそうに聞いていた。
「潰された水遁の心臓・・・小僧、貴様の心臓で補充させてもらおうか。土、水、火を扱えるその才、貰い受ける」
触手に引きずられ、サクモから引き剥がされた畳間は、胸部から血をまき散らし、触手の海へ呑みこまれていく。畳間と言う支えを失ったサクモは成すすべなく崩れ落ち、イナは畳間の救出に向かうも、角都の触手で呆気なく弾き飛ばされた。
触手が畳間の中で暴れる。絶叫、そして―――森は静寂に包まれた。
「ふははははは!!」
角都の笑い声が響き出し、離れた場所で仮面に捕えられていたカツイが、煙と共に消えた。
角都は畳間の体を放り投げる。投げ飛ばされた畳間の体は、何度も跳ねながら地面を転がり、サクモの目の前で静止した。
「畳間・・・?」
すでにその顔に、生気は見られない。
「いや・・・いや・・・!」
畳間の亡骸にイナは駆け寄った。畳間に直に触れ、その体から生が失われていく実感に晒される。イナとサクモがその表情を絶望に染める。
角都はやっと見たいものが見れたと、満足げな表情を浮かべていた。
「では貴様らはそろそろ死ね」
角都の触手がイナとサクモを串刺しにせんと蠢く。2人を狙い移動していた触手たちは、しかしその本懐を遂げる前に、突如現れた障害物に突き刺さった。それは突如出現した、一本の大木。
「こ、これは・・・」
「火影様!?」
倒れ伏しているサクモとイナの前、大木の隣に現れたのは、風に黒髪を揺らし、甲冑に身を包んだ男。木の葉隠れの里の長たる『火影』。
名を―――千手柱間。
「これはこれは・・・火影自らお出ましとは。出向く手間が省けたというものだ」
角都が余裕の笑みを崩さず、柱間の登場を歓迎する。
柱間は角都を一瞥すると興味を無くしたように振り返り、傷つき倒れたサクモの傍でしゃがみ込むと、その汚れた頬に触れる。
「遅れてすまぬ。サクモ、イナよ」
「火影様、畳間が!!」
「分かっておる。―――貴様、なぜ、このような真似を・・・」
角都に背を向けたまま、柱間が角都に問いかける。角都は何を言うのかと一瞬呆気にとられ、また次の瞬間には笑みを浮かべていた。柱間の震える手に気づかないまま。
「貴様を殺す邪魔をしたからだ、火影」
「今は戦争も終わり、平和が訪れた。なぜそのようなことを」
「木の葉は強くなりすぎたのだ。貴様を殺し、パワーバランスを崩し、新たな戦争を起こす。我らのような小国の隠れ里は、こう平和だと仕事が少なくて困るのだよ」
「―――そうか」
見開かれたまま微動だにしない眼球―――柱間は畳間の瞼を優しく降ろし、ゆっくりと立ち上がった。その体からにじみ出るチャクラと怒気は、傍にいるイナとサクモさえも呼吸が苦しくなるほどの圧力。
「死ね、火影!」
柱間の気に呑まれた角都は、しかし己は強いという自負を持って乗り越え、柱間へと触手を向ける。また同時に、畳間が死にカツイが消えたことで、自由になった2つの仮面を呼び寄せる。畳間の心臓から作り出した新たな仮面と、その2つの仮面を、触手の槍と共に、柱間を殺すために差し向けた。
一方、柱間は己の体から絞り出すように、木遁分身を作り出す。3つの分身は、角都と戦うためのものではない。サクモとイナ、そして畳間の亡骸をそれぞれ抱きかかえ、分身達は離脱する。
「里に仇なす者は―――許さん」
柱間の呟き。
次の瞬間、柱間の顔に浮かんでいたのは―――隈取。
それは自然エネルギーに適合し、それを上手く取り込めた者のみが到達できる『仙人モード』の証。角都はその隈取に一瞬訝し気な表情をするも、次の瞬間には驚愕に表情を歪めることとなった。
角都の目の前に突如現れたのは、巨大な仏像。地に立つ角都には、空を見上げてもなお、頂点を見ることは出来ない大きさ。大蛞蝓カツユどころか、山すらも越えるほどに大きく、その背に数百数千に至る数多の手を背負った、千手観音―――。
「仙法―――木遁・真数千手」
戦いは一瞬だった。いや、それは戦いと言っていいのかどうかすらも定かではない。
仏像に生える無数の腕から突き出される、風を切る拳の軍勢―――それは一瞬のうちに、大地を抉り消し飛ばした。地響きが続く。
角都は悲鳴を喘げる間もなくその拳の軍勢に呑みこまれ、その姿を瓦礫の中へ消したのである。
★
「すごい・・・これが火影様・・・」
少し離れ―――。
柱間の木遁分身に治療されているサクモが息を呑んで魅入られる横で、イナは横たわる畳間にすがり付いて泣いていた。
分身の柱間は悲痛な―――しかし何かしらの思いを秘めた表情を浮かべている。
「無事か、2人とも」
しばらくして合流した柱間の体には、傷一つ付いてはいない。隈取が消えたその表情に、すでに怒りの形相はなかった。
「火影様・・・」
「火影様ぁ・・・畳間が・・・うぅぅ!!」
「よく頑張ったのぉ」
俯いたサクモと、泣きじゃくるイナの頭を撫でた柱間は、畳間の亡骸へ近づいていく。
冷たくなりつつある畳間の頬を撫で、柱間は己の鎧を脱ぎ捨てた。
「火影様。なぜ、この場所が分かったのですか?」
「畳間の影分身と遊んでいてな。そのとき口寄せしていたカツイの分裂体が、この場所で起きている危機をワシに知らせたのだ」
扉間がいれば飛雷神でもっとはやくに来れたのだが―――という言葉を、柱間は胸に秘めたまま。扉間は外交で霧隠れの里へ出張している。大事な仕事だ。口にしても、どうしようもないことだから。
柱間は印を結ぶ。その順は、亥、戌、酉、申―――。
「―――口寄せ」
煙と共に小さな蛞蝓が呼び出された。名をカツユ。畳間の呼び出したカツイの同位体であり、階級的には子にあたる蛞蝓である。
その大きさは拳ほどの小さなものであったが、柱間の目的を果たすには十分だった。
「カツユ、扉間に伝えるのだ。里を頼むと」
「柱間様・・・」
カツイから話を聞いていたのか、あるいは戦っている最中、カツイと意識を共有していたのか―――柱間の言わんとすることが分かったのか、カツユはただ静かに柱間の名を口にした。
湿滑林の蛞蝓は、分裂体であっても意識を共有できる能力を持っている。蛞蝓は雌雄同体であり、分裂によってその数を増やす。稀にその分裂体の中にオリジナルとは異なる意識を持ったものが発生するが、それが蛞蝓仙人から生まれたカツイであり、カツイから生まれたカツユである。
彼らは違った意識を持ちながら、その意識を共有することが出来るのだ。
「イナ、サクモ。口寄せはワシの孫娘、畳間の妹である綱手にも教えてある。里に戻ったのち、綱手にカツユを口寄せさせるのだ」
「火影様・・・いったい、なにを・・・?」
サクモの問いに、柱間は笑って返すだけ―――
「2人とも、今はもう眠るがいい」
柱間の幻術にかかった2人はふっと意識を失い、力なく横たわる。
(そう、オレは火影だ。里を、子を守る柱よ)
眠ったまま畳間に縋り付くイナを優しく退けて、柱間は畳間の顔を見つめる。愛おしげに畳間の頬を撫でて、名残惜しげな表情で、血で額当てにへばり付いた、畳間の髪を掃った。
柱間は自然エネルギーを吸収し、再び仙人モードへと至る。瞑目すると、ゆっくりと印を結んだ。
「仙法・奥義―――」
★
「ん・・・」
ずっと眠っていた身にとって、朝の優しい光ですら、強い刺激になるものだ。少年は体にかかっていた布団を気だるげに避けて、瞼を腕で覆い、日光を遮った。
「畳間、気づいたのね!」
少年―――畳間は聞きなれた少女の声でゆっくりと意識を覚醒させる。
「よかったよぉお!!」
「うぉッ―――イナ?」
少女―――イナが感極まった表情で、畳間の首元に抱き付いた。目を潤ませているイナに何も言えず、畳間はされるがままになる。
「イナ・・・? いったい・・・」
「待ってて、お医者様呼んでくるから!」
畳間の呼びかけで何かに気づいたようだった。イナは慌ただしげに、しかし喜びを隠しきれず立ち上がると、興奮で危なげな足取りで、一目散に病室を駆け出していく。
ぼうっとしたまま起き上がり周囲を見ると、眩い光に包まれた白い部屋。感触の良いシーツに、手入れの行き届いた純白のベット。畳間は病人服を纏っていた。
眠り過ぎて鈍く痛む頭を押さえた畳間は、腕に刺さっている異物―――点滴を引き抜く。
「ちょっと! 勝手になにしてるの!」
「綱・・・?」
怒声。
扉の方を見れば、今度は別の少女―――妹の綱手が、目を吊り上げて立っている。
ずんずんと大股で近づいてくる綱手の勢いに尻込みしつつ、しかしその顔を見て、畳間は記憶を覚醒させる。
「そうだ、角都は?!」
「兄様!」
畳間は勢いよくベッドから立ちあがったが、足腰が弱っているのか、ふらりとよろめいた。慌てたのは綱手である。急いで駆け寄ると無理やりと言った様子で畳間をベッドに押し戻す。
しかし角都角都と取り乱す畳間に、綱手は鬼の形相を浮かべ、畳間の頬を叩いた。
「大人しくしろ!」
「いってェ・・・」
妹に叩かれた頬を抑え、畳間は沈黙する。状況は理解できなかったが、なんとなく把握はした。つまり、自分は生き残ったのだと。
「もう、大丈夫だから」
「綱、何があったんだ。サクモは、イナは? 俺は・・・」
「兄様、落ち着いて。今、イナさんが人を呼びにいって・・・」
「目が覚めたようだな、畳間」
「おっちゃん・・・」
「!!」
綱手の言葉を遮る形で、突如、扉間が病室に現れた。畳間に付いたマーキングを利用して、飛雷神を使い、文字通り飛んできたのだ。足元にはイナが引っ付いている。
突然のことに、綱手は腰を抜かしそうになる。扉間の飛雷神での登場に、綱手は中々慣れないでいた。
「おっちゃんはやめろ。せめて師匠と呼べ。それより、どこか、異常はないか?」
「怠いってくらい、かな。大丈夫そう」
「そうか。聞きたいことも多いと思うが・・・、単刀直入に言おう。貴様たちが闘っていた角都とかいう滝隠れの忍は、兄者が退けた。見ての通り、山中一族の娘も、ここにいないはたけの倅も無事だ」
「そうなんだ。じいちゃんが・・・。良かった。でも―――」
オレは死んだはずじゃないのか、と続けようとした畳間。扉間もそれがわかったのか、畳間に最後まで言わせず、口を開く。
「そうだ。貴様は死んだ―――が、兄者が蘇生させたのだ。その後、貴様は眠ったまま時は過ぎ―――すでに半年が過ぎておる」
扉間の言葉に、畳間は至極当然のように納得した。なんとなく、そうではないかと思っていたのである。
現実感が無かったが、それでも”また”祖父に救われたという事実が、畳間の心を温かくする。
「そっか、じいちゃんが俺を助けてくれたのか。そっか。それで、じいちゃんはどこ?」
嬉しそうに微笑む畳間から、イナと綱手が辛そうに目を背ける。
扉間は構わず、畳間に告げた。
「兄者は―――初代火影・千手柱間はもういない。貴様を救う為、文字通り命を捨てたのだ」
畳間の体に凄まじい圧力が掛かる。それは他でもない畳間自身が生み出した精神的な重圧。その言葉でわかってしまったのだ。心臓を抜き取られたはずの畳間の中で、強く刻まれる鼓動が、いったい何を意味するのかを。
「畳間、貴様は兄者に託されたのだ。―――その命、無駄にするなよ」
言って、扉間が病室を出ていく。残ったのは呆然とする畳間と、彼を心配そうに見やる2人の少女。
綱手とイナは掛ける言葉が見つからない。ただ、震える畳間の手を握り締め、畳間がどこかへ行かない様に、温もりを与え続けるのだった。
★
話は半年前、角都戦の2日後にまで遡る。
柱間が己の命と引き換えに畳間に”命”を吹き込んだ後、遅れて駆けつけた猿飛ヒルゼンに、3人は保護された。己の到着と同時に木へと還った柱間の分身と、静かに横たわる柱間を見て、ヒルゼンは一つの時代が終わったことを感じ取った。
その後、3人を連れ帰ったヒルゼンは至急、外交に出ていた扉間に連絡を取る。連絡を聞いた扉間は飛雷神の術で文字通り飛んで里に戻った。眠るように死んでいる柱間を見て、弟は何を思ったのか―――。
「扉間様、イナが目覚めました」
「山中一族の娘か。話は聞けそうか?」
「まだなんとも」
「そうか」
―――焦っている。
火影の執務室の窓から、扉間が里を見下ろしている。その後姿を、ヒルゼンは見つめていた。気丈にふるまっているが、やはり深い絆で繋がれた千手兄弟。柱間の妻・ミトの焦燥も激しいが、弟である扉間もまた―――。
「なにが起きたのか、早々に把握せねばならん。今日にでも、話を聞きたいが・・・」
「さすがに、イナも衰弱しております。医療忍術を使える者に、改めて治療を施させておりますが、せめて明日までは・・・」
「そんなことは分かっておる。しかし里が要よ。兄者亡き今、いつ他里との条約が反故にされるかも知れん。打てる手は打たねばならぬ」
「しかし・・・」
「失礼します、扉間様!」
「む、ダンゾウか?」
ヒルゼンと扉間が口論している最中、顎に十字傷を持つ男―――志村ダンゾウが入室した。ヒルゼンはダンゾウの登場に肩すかしを喰らうも、熱くなりかけていた自身を落ち着け、一歩身を下げる。
「山中イナが証言しました。柱間様のお孫様―――綱手姫に、カツユを口寄せさせるように―――と、柱間様が遺言を」
「なに・・・カツユを?」
湿骨林に住む、蛞蝓。
柱間に仙法を伝授した蛞蝓仙人の眷属であり、柱間とも口寄せの契約を交わしていた。
―――なるほど、そういうことか。
扉間は頷く。
「そうか、分かった、綱手を呼べ。いや、ワシが連れてこよう」
言って、扉間の姿が消える。
「飛雷神・・・。いつになく気が早い」
ヒルゼンは肩を落とした。
―――場所は変わって火影の家の会議室。
そこには扉間、ヒルゼンを筆頭に、里の重役がそろっている。その中央に立つ綱手は緊張で固くなっていたが、ヒルゼンが肩に手を置き、緊張を解してやる。
「綱手、カツユを口寄せしろ」
扉間が言い、綱手は頷く。
綱手は親指をクナイで少し斬って血を滲ませ、印を結び、床に掌を置く。
「口寄せの術!」
口寄せの術式が床に展開され、ぼふん、と煙を出し、小さなカツユが現れる。
「今の私のチャクラじゃ、この大きさしか・・・」
「話が聞ければそれで良い。ご苦労だったな」
「来なさい」
「は、はい」
ヒルゼンに手を引かれ、綱手は部屋の隅へ移動し、椅子に座る。ヒルゼンは綱手の隣に立った。
「カツユ。話を聞きたい。なにがあった?」
「はい・・・」
カツユは自分の知っていることを扉間に聞かせる。滝隠れの忍者の暗躍、畳間、イナ、サクモの奮戦。そして畳間の死と蘇生、柱間の死。
「なるほどの・・・。兄者が殺されたなどとは露程も思っておらんかったが、そういうことだったか」
「滝へ報復を!」
誰が言ったか、その言葉は火種となり、室内へ瞬く間に燃え広がった。熱気と殺意に包まれた室内。
祖父である柱間の死で弱っていた綱手は、怯えも隠せずに震える。そんな綱手に、ヒルゼンは目線を合わせ、大丈夫だと手を握る。
「ならん」
扉間がチャクラを溢れさせ、室内を己の圧で埋める。しん―――と室内が静まり返った。
なぜ、という声に、扉間は答える。
「兄者の死を公表するのは、2代目が決まり、就任してからだ。今動けば、兄者の死が知れ渡る。砂の動きも怪しい今、弱みを見せるわけにはいかぬ。しばらく、ワシの影分身を兄者に変化させ、里は通常通り統治する」
「しかし―――!!」
「黙れ!」
老人の言葉を、扉間は強く遮り、しかし老人は言葉を続けようとする。扉間は一変、落ち着いた声音で口を開く。
「感情論ならいくらでも言える。だが分かっておるのか? 貴様らは火影を失ったが、それ以前に、ワシは兄を失ったのだ」
扉間の言葉に、老人は遂に口を閉じた。
―――それから、扉間はその敏腕を存分に振るい、2代目火影に就任。わずか半年で、千手扉間の政治体制を確立させたのである。
★
「おっちゃんが2代目か~。なら、俺は3代目になるのかな。おっちゃんじゃなくて2代目様だ、とか言いそうだなぁ」
「そうだね」
間延びした声で笑う畳間に、サクモが答える。
昼下がりの病室。今朝早く見舞いに来た妹の綱手と入れ違いで、サクモが訪れていた。サクモは畳間のいるベットの隣に椅子を置き、ミカンの皮を捲っている。なんでセオリーなリンゴじゃないのか、という畳間の言葉は無視されている。ちなみに畳間は桃が好きである。
「ほら、食べなよ」
「自分で食べれるぞ」
「誰が食べさせるなんて言ったよ。受け取ってくれないかな!」
「はい」
変わらない畳間に、笑うサクモ。扉の外で、イナがその光景を見つめていた。