綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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『あらすじ』の、あらすじ部分(綱手姫(50代)が苛められている場面)を改訂しました。
綱手が折れるのが少し早すぎるというか、ちょっと弱すぎるかなと思いましたので。本作の綱手は妹なので原作綱手より脆いところはありますが、それでもちょっと簡単に折れすぎたかなと思いましたので。
もうちょっと強い綱手を折るには、もうちょっときつくしないといけないかなと思いましたので。


兄弟喧嘩

 畳間とマダラの瞬身による加速はほぼ同時に行われた。

 二人の足場が砕け散り、暴風が吹き荒れる。

 綱手は瀕死のガイを抱えて退避し、柱間はマダラの黒杭によって地面に縫い付けられたまま、暴風に晒されている。

 

 畳間とマダラの拳が激突し、砕かれ、血液が吹き出して、そしてすぐに再生される。

 蹴りを放てば蹴りで返され、鋭利な膝で貫こうとすれば、全く同じタイミングで膝蹴りが迎撃に放たれ、互いの膝頭が激突し、粉砕され、鮮血が舞う。しかし、その負傷はすぐに再生される。

 二人は自分の、あるいは相手の鮮血に濡れながら、しかし本人たちに傷が存在しないという奇妙な状況が生み出される。

 

 ―――互角。

 

 互いに見えている景色は同じ。戦国時代を生き抜いたマダラの戦闘経験値は群を抜いているが、しかしイズナの記憶を記録として保持しており、また第二次から第三次忍界大戦を戦い抜き、多くの死戦を潜り抜けて来た千手畳間の戦闘経験値も、マダラに劣るものでは無い。

 

 全ての尾獣を吸収した外道魔像は覚醒し、うちはマダラは十尾の人柱力へと到達した。そのチャクラ量は畳間を遥かに凌駕している。

 しかし、マイト・ガイがマダラに与えた損傷は完治しきっておらず、また短時間でイザナギを連続使用したことによって、マダラの瞳は、写輪眼の能力を失っている。

 

 一方で、畳間は忍界すべてを投じて稼いだ時間によって、『木ノ葉崩し』において負った傷は既に完治しており、また輪廻写輪眼を開眼したことで、その瞳力と動体視力、並びに身体能力は桁外れに上昇している。

 

 ゆえの、互角(・・)

 

 『十尾の人柱力』うちはマダラと、『五代目火影』千手畳間は、そこまでしてようやく、完璧な拮抗を見せているのだ。

 

 しかし、長期戦は畳間が不利となる。

 十尾の人柱力としての力を、マダラはコントロールしきっていない。しかし時を置かずして、マダラはその強大な力を支配下に置くだろう。そうなってしまえば、ガイがマダラに刻み込んだ傷は癒え、イザナギによって失われた写輪眼の瞳力すらも回復し―――畳間は捻じ伏せられる。

 求められるのは、短期決戦。

 

 畳間とマダラの総合的な力は、互角。

 ゆえに差を付けられるとすれば―――それは、その人生を掛けて培ってきた『技』である。

 

 畳間は激突の最中、マダラの体に飛雷神の術のマーキングを刻みつける。

 それに気づいたマダラは、マーキングが刻まれた部分の肉体を抉り取る(・・・・)

 畳間が飛雷神の術で飛べば、マーキングが刻まれた部分がマダラの体から抉り離されたことで飛ぶ(・・)位置が僅かにずれ、『仙法 水遁・螺旋丸』を掌に作り出した畳間の伸ばされた腕が何もない空間を通過する。

 畳間は螺旋丸を作り出した掌から挿し木を飛ばし、自身の螺旋丸を貫いた。高速で、しかし安定していた回転は均衡を崩し、水風船のように破裂した。

 

 水の螺旋丸は無数の小さな滴となって弾け飛ぶ。

 その水滴の一つ一つは、雨水ほどの小ささだが―――その威力・貫通力は天泣に匹敵する(・・・・・・・)

 螺旋丸が弾け飛び、生み出された水滴の数は、千を遥かに凌駕する。そのすべてが天泣と同等の殺傷力を以て、周囲へ無差別に襲い掛かるのだ。

 

 ―――神羅天征。

 

 畳間は輪廻眼の能力を発動する。

 畳間へ向かって飛んでいた『仙法 水遁・螺旋丸』の破片たちは、斥力によって弾き飛ばされる。

 

 ―――思兼神。

 

 ぎょろり、と畳間の瞳がマダラを捕える。万華鏡写輪眼としての能力が発動した。

 畳間が神羅天征で生じさせた斥力によって弾き飛ばされた数千の天泣の軌道が、にわかに変化する。

 万華鏡写輪眼の瞳術によって生み出された重力を利用し、数千の天泣の軌道のすべてを、マダラへと集中させたのだ。

 

 『仙法 水遁・螺旋丸』は、無差別攻撃などではない。万華鏡写輪眼、輪廻眼の瞳術を併用することで、敵のみをハリネズミに変える、必殺の一撃だ。

 

 しかし、マダラもまた神羅天征を発動した。

 マダラに迫る数千を数える天泣はその斥力によって弾き飛ばされる。

 

 ―――時空間瞳術・輪廻写輪眼。

 

 畳間が刮目する。

 マダラの背後に、時空の歪みが生じた。それは、畳間が作り出したワープゾーンである。

 神羅天征には、弱点がある。

 それは、生じた斥力が通り過ぎた後―――球状に展開する斥力の内側が、無防備になるということである。でなければ、斥力を生じさせた段階で、使用者の衣服も弾け飛ぶことになるからだ。神羅天征が発動し、その規模が巨大に成長するほど、その内側―――無防備な領域もまた増幅する。

 

 しかし、ガイがマダラの神羅天征を越えて、マダラへ攻撃を当てられたのは、内側に入り込んだからではない。実のところガイは、その身に掛かる斥力を、結局は、打ち破ることが出来なかったのだ。ただガイは、体に掛かり続ける斥力ごと(・・・・・・・・・・・・)―――そんなものは関係ないとばかりに、斥力によるバリアごと、ねじ伏せたのである。

 例えるなら―――貝の中にある真珠を、貝殻に穴をあけて壊すのではなく、貝殻諸共粉砕した、といったところか。

 

 ガイですら正しい意味で破れなかった神羅天征を、すり抜ける術はある。

 それが、時空間忍術だ。

 扉間の残した飛雷神の術も、マーキングがあれば斥力など関係なく接近できるが―――そのマーキングはマダラによって抉り取られた。ゆえの、輪廻写輪眼。

 時空間を歪ませ、空間と空間を繋げる瞳術。

 畳間は目の前に生じさせた空間の歪みに掌を向ける。中へと入り込み、マダラの背後を直接取れたならそれが最善であるが、その時間も惜しい。

 

 畳間が掌から挿し木を発射する。

 その挿し木は時空の歪みへと入り込み、マダラの背後に生じる歪みから出現し、マダラの背中を貫かんとするが、マダラが発生させた須佐能乎によって弾かれる。

 

 ―――飛雷神の術。

 

 挿し木に刻まれたマーキングへと飛んだ畳間は、そこで須佐能乎を展開。

 二人の須佐能乎が衝突し、互いを押しのけ合って究極体を顕現させる。

 

 しかしマダラが身を護るために展開したのに対し、畳間は攻撃をするために須佐能乎を展開させた。

 マダラの須佐能乎と、畳間の須佐能乎は、接する箇所が異なる。

 マダラの須佐能乎が、畳間の須佐能乎に接する個所は胴体で―――畳間の須佐能乎が接する箇所は、振りかぶられた須佐能乎の腕で握り締める、チャクラで構成された槍の穂先(・・・・)だった。

 

 ―――螺旋槍。

 

 畳間は螺旋丸を作り出すときの要領で、須佐能乎の槍を構成するチャクラを急速に回転させる。

 マダラが畳間の意図に気づき、表情を顰める。

 畳間の須佐能乎の槍先が、確実にマダラの須佐能乎の外装を抉り始める。さらに、畳間の須佐能乎が、腕を伸ばし始めた。

 畳間は、回転する螺旋槍と、それを押し付ける腕の力を、マダラの須佐能乎に、無防備な胴体で受けることを強いる。

 

 たまらず、マダラは須佐能乎を脱ぎ捨て、須佐能乎の頭部から脱出。地上へと急降下する。

 マダラの須佐能乎が崩れ去ったことで、畳間の須佐能乎は一気に腕を伸ばし、螺旋槍を投擲した。勢いを増した螺旋層は、既にマダラのいなくなった須佐能乎の頭部を貫通し、空へと消える。

 

 畳間の瞳が、空中を移動するマダラの異様な動きを捉える。

 他の人間が視れば、マダラが空中を自在に飛び回っているように見えるだろうが―――畳間の瞳は、マダラが、輪墓の世界に存在する分身を足場に跳躍している様子を映し出す。

 それは、マダラの輪廻眼の固有瞳術である『輪墓・辺獄』。影分身や、木分身よりも、オリジナルに近い性能を持つ―――恐らくは、分身系の術における究極であり、分身が異世界に存在するがゆえに、本来は視認することは出来ない。

 しかし畳間はそれを、同じ瞳(・・・)を以て、視認することが出来た。

 

 マダラは、距離を取った。しかし、逃走を考えているわけではないようだ。マダラの闘志は、依然畳間へと向けられている。

 

 須佐能乎の中、畳間が何かに気づいたように眼を見開き、空を見上げた。

 巨大な影が、畳間を呑み込んだのだ。そしてその影は、後方へと退避中の綱手を含む、生き残った連合の者達すら呑み込まんとする、巨大な―――隕石。小さな里一つなら覆い尽くせるほどの巨体である。以前、ペインを操っていたゼツが木ノ葉の上空に出現させたものや、連合を潰すために初手でマダラが生み出した隕石群とは、比べ物にならないほどの巨大さである。

 マダラもまた、連続攻撃を続ける畳間と同じように、その攻防の中で、次の攻撃への布石を張っていたということだ。

 

 しかし、畳間は動じない。

 

 ―――輪墓・辺獄。

 

 輪墓の世界に、畳間の体から分かたれた5体の分身達が、一斉に目指す先へと、クナイを投擲した。そして分身達は、飛雷神の術を同時に発動する。

 分身達はそれぞれの方向へ、凄まじい勢いで飛翔するクナイのマーキングへと転移し、未だ飛翔を続けるクナイを掴み取ると、またさらにクナイを遠方へと投擲し、また再び、飛雷神の術で飛んだ。

 それを繰り返していく畳間の分身5体は、速やかに隕石の真下へと到着し、同時に時空間結界を起動する。

 

 ―――四赤陽陣。

 

 四点に展開する4体の分身達を起点に、隕石を囲むように、正方形の、赤いチャクラの結界が構築される。畳間は、本来ならば影クラス四名にて発動される最高位の結界術を、たった一人で発動して見せたのである。

 そして中央に位置する分身が四赤陽陣によって構築されたチャクラの床を足場として着地し、掌を叩きつける。中央の分身の掌が触れるチャクラの床に、その掌から広がる様に、術式が巨大に展開されていく。

 

 ―――時空間結界・飛雷陣。

 

 まず、中央の畳間の分身が術式に沈んでいくようにその場から消える。そして巨大な隕石もまた、術式の中に呑み込まれていくように、その姿を消していく。

 

 ―――同時。

 

 畳間の分身が隕石の対処のために転移をした瞬間、輪墓内の分身を含め、マダラが、一人残った畳間の本体へと、総攻撃を開始する。

 究極体須佐能乎を再展開したマダラは、四本ある須佐能乎の腕で、輪墓内の分身達を掴み上げると、畳間へ向けて全力投球を行う。

 マダラの分身達は、凄まじい勢いで畳間目掛けて吶喊する最中、完成体須佐能乎を展開した。そして、それぞれ須佐能乎の刀を構え、その刃先を畳間へと向けて、突っ込んで来る。

 

 ―――空間歪曲・輪墓。鉱遁・金剛分身の術。

 

 畳間の目の前に、時空の歪みが出現する。

 そして畳間の体から、木分身が分裂しするように現れた。木分身達は、金剛石へとその体の材質を変化させながら、時空の歪み―――輪墓の世界へと侵入を開始する。

 

 輪墓内に入り込んだ畳間の分身達が、それぞれ金剛石の巨人を生み出した。

 さながら人手槍となった須佐能乎を纏うマダラの分身達の吶喊を、金剛石の巨人がその体で迎え撃つ。

 金剛石の巨人は、マダラの須佐能乎が押し出す刀に貫かれることも、斬られることも無かったが、衝撃によって砕け散る。

 

 ―――鉱遁・金剛槍破。

 

 砕け散った金剛石の巨人が細かい破片となり―――とはいっても、破片一つ一つが、大人一人分ほどの大きさである―――、マダラの分身達の須佐能乎へと襲い掛かった。鋭利な凶器と化した金剛石の破片が次々にマダラの分身達の須佐能乎に突き刺さっていく。マダラ達の須佐能乎は、さながら針山の様である。

 

 現実世界にて―――畳間が半歩下がり、双手の構えを取る。

 次の瞬間、マダラが畳間の目の前に現れる。究極体須佐能乎は未だ遠方に見える。それはマダラが、究極体須佐能乎を置き去りにしたということ。術者が離れたことで、須佐能乎の崩壊が始まるよりも前に、マダラが凄まじい速さで、畳間に接近したということだ。

 瞬間移動ではない。ただの超スピード。そしてそれは、直前まで出し得なかったものだろう。

 

 ―――つまり、出力が上がった。馴染んできたか。想定より早い。

 

 畳間が視線を鋭く細める。僅かに、焦りが畳間の中に生まれる。

 マダラは、獣の様な―――あらゆる生き物を凌駕する俊敏さで、畳間へと攻撃を仕掛ける。

 畳間はマダラの動きを、輪廻写輪眼の瞳力にて追う。

 低く身を屈めたマダラが、下段から畳間の顔面目掛け、斜め上に突き上げるように放った熊手を、畳間は突き出した側の腕を差し込むように動かし、その進行を止める。

 畳間の拳を、マダラの掌が包むような形―――二人の手と手が触れる。眼と眼が合う。

 

 ―――激痛。

 

 畳間が表情を顰める。

 マダラの掌に、螺旋丸が形成されていた。畳間の拳が、マダラの螺旋丸によって抉れ、鮮血が巻き散らされる。

 畳間は奥の手を拳から掌底へと変化させた。そして畳間は、マダラの掌に掴まれた拳が壊れるのも厭わず、一歩、力強く踏み込みながら、奥の手をマダラの顔面へ向けて突き出す。

 

 ―――火遁・螺旋丸。

 

 突き出されていく畳間の掌に、にわかに生み出されたのは、螺旋丸である。

 その螺旋丸はにわかに紅蓮の炎を纏い、その螺旋丸は地上に出現した極小の太陽の如き強烈な光を放ち、マダラの瞳を焼き尽くす。

 

 超至近距離で放たれる赤光に網膜を焼かれ、マダラはたまらず瞼を閉じる。

 超高温の螺旋丸は、直撃すれば顔面の肉は燃え上がり、瞬く間に炭に変貌し、塵となって消えるだろう。

 畳間は、我愛羅が砂を纏うように、自分の体を、薄い金剛石の鎧で纏った。

 

 次の瞬間、畳間の螺旋丸がマダラの輪廻眼によって吸収されて行き、徐々にその体積を減らしていく。   

 

 ―――畳間はその前に、螺旋丸を起爆した。 

 

 激しい熱と衝撃波が生み出され、畳間とマダラを襲う。

 畳間はそのために纏った金剛石の鎧が身を守り、マダラの顔面は焼けただれる。

 畳間はさらに一歩踏み込んだ。

 畳間の掌から、再び挿し木が発射される。

 

 マダラの額を貫く直前―――挿し木は宙を切った。マダラが仰け反る様に避けたのだ。

 

 ―――火遁・灰塵隠れの術。

 

 マダラが仰け反りながら口を窄め、灰を口から吐き出した。にわかに膨れ上がった灰によって、畳間の視界が奪われる。

 瞬きを忘れるほどの連撃。流れるように行われる命の奪い合いは、その実数瞬の時に行われているものだ。

 畳間はマダラの動きを絶対に見逃さないという意志がゆえに、マダラを凝視していた。マダラの放った灰が、畳間の眼に入り込む。

 高熱を帯びた灰だ。畳間の眼球が焼かれ、激痛が畳間を襲った。

 

 ほんの一瞬の停滞。瞬きの間の怯み。

 マダラはその隙を見逃さず、即座に撤退―――を選ばず、焼けただれた顔のまま壮絶な笑みを浮かべて、畳間へと吶喊した。

 

 輪廻眼の能力―――修羅道を用い、巨大な杭を打ち出す武器を腕に口寄せし、畳間の金剛石の鎧を砕き割り、肋骨下部を圧し折った。

 

「―――ッ」

 

 畳間が苦悶の声と共に、口から血を流す。

 骨が圧し折れ、肺に突き刺さり、血液が食道を逆流して来たのだ。

 抗えない内臓の生理反応―――を置き去りに、己の体を、まるでからくり人形に見立て、筋肉を無理やりチャクラで動かし、畳間が迎撃を行う。

 

 伸ばし切られたマダラの腕―――その肘関節へ膝蹴りを叩き込む。

 マダラの肘関節が砕ける感触が畳間の膝から伝わってくる。

 

 ―――神羅天征。

 

 畳間とマダラが同時に発動した輪廻眼の瞳術が激突する。斥力は互いを押し合い、互いにずりずりと、後退していく。

 

 ―――木遁・木分身。

 

 拮抗していた神羅天征が終結したと同時、全く同じタイミングで、二人の胸部から、まるで生え出るようにして、木分身が出現した。

 二人の木分身は、自身のオリジナルを守る様に身を呈し、しかし相手を仕留めんがために、腕を鋭利な槍に変貌させ、突き出した。

 木分身が、互いの顔面を貫き合った。

 

 互いに致命傷を受けた二つの木分身は、同じタイミングで樹木へと戻る。そしてその体から枝を伸ばして、分身の後ろにいるオリジナルへ向けてその鋭利な先端を向け―――互いの木分身が伸ばし合った枝先同士が、激突し、停止する。

 

 畳間とマダラは、樹木へと変貌した木分身を体から分離させるため、互いに一歩後退する。

 

 直後、畳間は自分の懐に潜ませてあるクナイ―――飛雷神の術のマーキング―――へと飛び、僅かに立ち位置をずらした。ただ横にずれただけ―――しかしその位置は、畳間とマダラを遮蔽物の無い直線で結ぶ。

 

 畳間とマダラの瞳が、損傷を修復し、光を取り戻す。

 

 ―――仙法 陰遁雷派。

 

 マダラが突き出した両腕から、仙術の雷鳴が轟き、周囲を破壊しながら、畳間へと襲い掛かる。

 

 ―――仙法 木遁・皆布袋(ほてい)の術。

 

 マダラが放った仙術チャクラによって作り出された雷の嵐を、畳間の周囲から次々に生え出した樹木の掌が堰き止める。そして雷を巻き込んで地面へと倒れ込み、掻き消した。

 

 畳間が地面に手を叩きつける。

 

 ―――仙法 水遁・水断波。

 

 畳間の腕から、莫大な量のチャクラが地中へと送り込まれ、それは凄まじい速さで地中深くの水脈へと到達する。

 大地が揺れ、鳴り響く。

 

 マダラが宙へ飛び上がり、究極体・須佐能乎を展開。

 直後、地面を突き破り、細い水柱が次々に噴き上がる。

 

 地下水を利用した、大規模かつ無尽蔵の水断波が、マダラを襲う。

 遠目に見れば、一つの間欠泉のように見えるそれは、実際には細い水柱の集合体であり、直撃すれば体は細かな穴だらけになって千切れ飛ぶことになるだろう。

 マダラはその危険性を察し、空中を須佐能乎で旋回し、逃げ回る。

 次々に地面から噴射される水断波から、まるで踊る様に逃げ続けるマダラへ、畳間は追撃を放つ。

 

 ―――瞳術・思兼神。

 

 マダラの須佐能乎の動きが、僅かに鈍くなる。

 畳間の瞳から血涙が流れ出した。マダラの抵抗が凄まじく、重い負荷が両目に掛かっているのだ。

 

 そして―――破裂音。

 マダラの須佐能乎の翼を、水断波の柱が貫通した。

 動きを止められたマダラの須佐能乎を、噴き出す水断波の柱が次々と襲い掛かり、貫通していく。マダラの須佐能乎は穴だらけになり―――マダラの須佐能乎が、修復されていく。仙法の水断波はマダラの須佐能乎を貫通することが出来なくなった。

 

 ―――仙法 究極体・須佐能乎。

 

 マダラの究極体・須佐能乎の表面に、仙術模様が浮かび上がっている。仙術によって強化された須佐能乎を、畳間の仙術は貫通させることが出来ない。

 畳間は苦々し気に眉を寄せる。

 

(また一段階、力の出力が上が―――)

 

 マダラの須佐能乎が、畳間へ向かって刀を振りかぶりながら、急降下を開始する。

 振り下ろされ、近づいて来るマダラの須佐能乎が振るう刀を、畳間もまた須佐能乎を展開し、両腕を交差させて受け止める。

 

 ―――先ほど、綱手をマダラの一撃から守った須佐能乎の小手が、切り裂かれた。

 

「―――なッ」

 

 一瞬の戸惑い。

 その一瞬で、マダラの須佐能乎が振り下ろした刀が、畳間の須佐能乎の腕の中ほどまで侵入する。

 畳間は須佐能乎を身代わりに後方へ跳躍した。

 畳間の須佐能乎が主が逃げたことで脆くなり、マダラの須佐能乎の刀によって斬り飛ばされる。

 振り抜かれたマダラの須佐能乎の刀から発された巨大な斬撃が、後退する畳間を追い駆けて来る。

 

 ―――神羅天征。

 

 作り出した斥力の壁が、押し戻される(・・・・・・)

 

「―――ッ」

 

 血涙を流しながら、肩で荒い息をする。

 押し留め、威力を減退させて、斬撃を霧散させ、神羅天征を終わらせたとき―――うちはマダラが、目の前に現れた。

 神羅天征が終わるタイミングで、高速の突進を仕掛けて来たのだ。

 

 マダラの表情に、笑みは無い。ただ無表情で、畳間を見つめている。

 

「ぐ―――ッ」

 

 マダラの拳が、畳間の頬を殴り抜ける。

 首が吹き飛んだかと思うほどの衝撃を耐えた畳間は、間髪入れず反撃の拳を放つ。

 しかし畳間の拳は跳ね除けられ、マダラが再び拳を放った。

 

 畳間はその拳を叩き落す。しかし、間髪入れず放たれた追撃の拳が、畳間を襲った。畳間はその拳を掃い除けたが―――再び、拳が放たれる。

 畳間は続く攻撃を紙一重で避け、カウンターの拳を放ったが、マダラの回し受けによって掃われる。

 互いに拳を放っては、それを弾き、あるいは受け流し、再び攻撃へと転じる。

 人柱力に適合し、徐々に強化されていくマダラの身体能力が、畳間の防御を上回り、拳が直撃する。

 輪廻写輪眼の動体視力に依る、マダラの筋肉やチャクラの動きの観察、そこから推察できるマダラの全体の動きを俯瞰し、その動きを先読みし、畳間の拳が、マダラの思考の隙を突き、一撃を叩き込む。それはこれまでの経験が裏付けする、未来予知にまで昇華された先読みであった。

 しかし、畳間が叩き込む攻撃の回数よりも、徐々に力をあげていくマダラの攻撃が畳間にぶち込まれる回数の方が多かった。

 

 ―――圏境。

 

 これでは『木ノ葉崩し』の二の舞を踊ることになると、畳間は自らの体全体を覆うように、なりふり構わず、膨大なチャクラを球状に放出した。それは畳間の少年時代、扉間の威圧(パワハラ)を忍術として落とし込んだ、接近戦における畳間のオリジナル。畳間の膨大なチャクラを相手に押し付け、それを以て疑似的な超重力空間を生成し、近くにいる者の体へ圧力をかける術である。チャクラに依る物理的な圧力は、掛けられる者の動きを心身共に阻害する。

 しかしマダラほどの実力者が、畳間の放つ威圧に怯むわけもない。そもそも輪廻眼を持つマダラに、チャクラの重圧は―――悪手。畳間の放出したチャクラは、マダラの瞳に吸い込まれていく。

 

 ―――使ったな。輪廻眼を。

 

 畳間が眼を見開き、マダラの瞳を射抜く。

 

 ―――幻術・輪廻写輪眼。黒暗行。

 

 写輪眼、万華鏡写輪眼をも超えた輪廻写輪眼に依る幻術攻撃。

 マダラの五感から感覚を奪い、そのうえでさらに別の幻術を上から被せる二重幻術。すぐに破られるだろうが、僅かな隙でも作ることが出来ればそれでよかった。

 互いに激しく、しかし緻密な攻防を続ける超近接戦。必殺の一撃は一瞬の隙があれば叩き込める。

 マダラの動きがほんの一瞬ぎこちなくなった―――瞬間、畳間は八門遁甲の第三の門をこじ開ける。量と質が跳ね上がったチャクラを、膨れ上がる腕の筋肉に乗せて引き絞る。その一瞬のため(・・)を作る時間を設けるのに、膨大な手間を必要とする。マダラは、それほどの実力だった。

 

 畳間は振り絞った腕を一気に解放し、マダラへと拳を突き立てる。その拳の先端―――指の付け根の(第三)関節からは、金剛石と木遁の千本が突き出している。鋭く脆い金剛石の千本は、対象の体に突き刺さりながら砕け散り、その体の中に粉砕した金剛石を散りばめる。木遁の千本はいわずもがな。対象のチャクラを吸い上げ、その肉体の中で成長し、抉り喰らう。さらに手首の内側から黒杭を出現させる。黒杭は突き刺されたものに、術者のチャクラを送り込み、対象のチャクラの流れを狂わせることが出来る。

 身体および経絡系を破壊するための、畳間のストレートパンチ。鋭利な針だらけの、まるでモーニングスターと化した畳間の拳が、マダラの顔面を狙い放たれた。直撃すれば、マダラの顔面の皮膚は引き裂かれ、骨は砕け散り、その内側に金剛石の破片がばら撒かれ、内側から肉と骨を喰い破った樹木が穴という穴からあふれ出し、そして新たな穴を増やして出現し、黒杭から流し込まれるチャクラが経絡系を辿り、経絡系そのものと脳神経を破壊する。

 

 千手畳間に接近戦を挑むな。動きを封じられ、残酷に殺される。

 遠距離戦も挑むな。木遁で縛殺される。

 ゆえに奴に会ったらただ逃げろ。

 

 もしも第三次忍界大戦中にこの一撃を行使できていれば、敵里はそのように畳間を畏れ、戦いを避けただろう。

 

 直撃―――その瞬間、マダラは掌を顔の前に挿しこみ、畳間の拳を受け止めた。

 マダラの掌の肉が裂け、骨は貫かれ穴だらけになり、ひび割れた末に粉砕される。

 しかし畳間の拳は止まれど、拳から突き出る無数の千本は止まらない。マダラの掌の壁を容易に貫いて、マダラの顔面の目前に迫る。

 

 ―――発射。

 

 黒杭と木遁の千本が畳間の拳から分離され、マダラの顔面目掛けて飛び出した。金剛石の千本は砕け散り、鋭利で細かい破片となって、面上に広がって、マダラの顔に突き刺さるために飛び散った。

 マダラは畳間の腕を右下に引き下げ、自身の顔―――上半身を左へと傾けた。

 同時に、マダラは須佐能乎を部分展開し、顔を覆い、襲い来る攻撃を防ぐ。

 

 どくん、と畳間とマダラが震える。

 マダラの腕に突き刺さった黒杭から送り込まれる畳間のチャクラが、マダラの経絡系を刺激し、チャクラの流れを狂わせ始めたのだ。

 しかしマダラもまた、畳間の拳を握る腕の袖口から黒杭を出現させた。

 畳間は手首に鋭い痛みを感じる。マダラの黒杭が突き刺さった。

 

 ―――チャクラの支配権の奪い合い。

 

 相手の経絡系を支配せんと互いにチャクラを流し込む傍ら、二人はもう片方の手で互いが放つ攻撃を弾き合う。

 しかしマダラは畳間の攻撃を避けるために、体勢が崩れていく。上から拳を振り下ろす畳間に対し、下から防ぐことになるマダラの方が体勢的には不利。

 

 ―――天泣。

 

 チャクラの支配権の争奪戦という繊細な戦いをしているがゆえに、マダラの顔を覆う須佐能乎の防御は不安定に見えた。畳間は口腔内で練り上げた水遁のチャクラを凝縮させた水の千本を、唾を吐き出すように発射した。

 マダラを貫こうとした水の針は―――突如として現れた黒い球体に呑み込まれ、消滅する。

 

 ―――コレはマズいものだ。

 

 畳間の本能が恐怖を叫ぶ。

 理性が警鐘を鳴らす。

 かつてあった二代目水影との戦いの後から強く感じるようになった、警戒心が震えた。

 

 畳間はマダラとの腕を介したチャクラの繋がりを一方的に断ち切り、己の懐にあるクナイのマーキングへと飛雷神の術で飛んだ。再び僅かに位置をずらした畳間の視界には、直前まで畳間がいた位置を、黒い球体が通り過ぎる様子が映り込む。

 

 一つ、二つと増えていく黒い球体が、畳間へと襲い掛かる。

 だが、畳間は危機感を抱くとともに、確信も抱いた。

 そしてチャクラを起動させると、畳間の周囲にも、同じような球体が、同じ数だけ浮かび上がる。

 それらは衝突し、消滅し合う。

 

「やはりな」

 

 マダラが納得と言った面持ちで呟く。

 畳間の中には、未だマダラのチャクラが流れ込んでいる。

 マダラのパワーアップは、転じて畳間のパワーアップにもつながる。

 しかし先ほどの格闘戦において、畳間が劣勢を強いられたのは―――十尾の人柱力という、決定的な違いが存在するからだ。

 チャクラがほぼほぼ均等に振り分けられたとしても、十尾の人柱力としての身体能力は誤魔化しがきかない。それが、顕著に見え始めている。

 

 ―――ゆえに、マダラが選んだのは。

 

 力強い踏み込み。

 畳間は険しく眉を顰める。もともと近距離にいたこともあり、一瞬で懐に入り込まれた。

 畳間が放った膝蹴りが、マダラの掌底で防がれる。

 畳間がチャクラを練り、天泣を放とうとして―――マダラが放つ間髪入れぬ拳が、畳間の腹を貫いた。

 

「―――っ」

 

 威力は強大だ。並みの忍が受ければ一瞬で肉体が破裂するだろう威力だが―――今の畳間にはそれほどのものではない。

 今の畳間にとっては、速いだけの、一撃。

 それを、マダラは次々に放つ。

 体勢を崩された畳間の天泣が彼方の方へと飛んで行く。畳間は両腕を振るいマダラの拳を跳ねのけようとするが、一瞬間に合わず攻撃を喰らう。

 しかし畳間は攻撃を喰らった後でも、確実にマダラの腕を叩き落し、その体勢を崩し、チャクラを練り反撃を―――間髪入れず、マダラの追撃。

 

 ―――チャクラを練る、という一瞬の動作が、あまりに遅い。

 

 身体能力に物を言わせた原始的な殴り合いを、マダラは仕掛けてきているのだ。

 

 一手先を読む畳間の攻撃を、更にそれを上回る速度で放たれるマダラの攻撃によって阻害される。

 

「新たな世界に、忍術など不要」

 

 忍術が、チャクラがあるから、人は争うのだと、マダラは述べる。だからこそ、古い時代の最後の戦いは、原始的な戦いをしようということだ。

 

 畳間は、それを受けざるを得ない。

 一撃一撃が、ただ当てるためだけに放たれた軽い拳でも、蓄積すれば重く圧し掛かる。すぐに回復すると言えど、マダラは徐々にヒートアップしてきており、いずれ一撃一撃が重くなる。

 

「―――ッ!!」

 

 畳間に徐々に迫る劣勢。

 辛うじて保っている均衡が崩れるのは目前だ。

 

 ―――ゴン、と何かが激突したマダラの頭が僅かに動く。

 

 凄まじい勢いと速さだった。だが、マダラにダメージは無い。ただ、突然、意識の外から訪れた何かに、マダラは一瞬気を割かれた。

 

 マダラの視線が何かが飛来して来た方へと向けられる。

 そこにいたのは―――。

 

「―――火の意志を、舐めるなよ」

 

 死者の意志が、残された者を突き動かし、力を現す。

 マダラは、見せてみろと言った。

 だから、見せてやるのだ。

 単純な力ではない。

 意志の力(・・・・)―――火の意志を。

 

「女……」

 

 納得、と言った様子のマダラは、今更障害にもならないと、興味も無さげに視線を切り―――ぬかったと、歯噛みする。

 マダラが畳間から割いた、そのほんの一瞬の隙に、全力のため(・・)を畳間が築き上げていたのだ。

 壮絶なる覚悟―――この一撃にすべてを賭けると言わんばかりの形相を浮かべた畳間が、一歩踏み込んだ。ただの踏み込みで地面が破裂し、岩盤がはじけ飛ぶ。

 

 ―――それは、畳間が苦手なものだった。

 

 畳間は幼少期、緻密なチャクラコントロールが苦手だった。魚を爆散させたり、狭い部屋で多重影分身を作り過ぎて生き埋めになったりと、豪快過ぎるチャクラの操作法が、繊細な所作を不得手とさせていた。

 だが、長い年月を掛けて、畳間はそれを少しずつ克服した。

 扉間が授けた飛雷神の術の修業は、主に緻密なチャクラコントロールを上達させるためのものであったし、戦後の里を復興させるために、樹海降誕の様な力技な木遁ではなく、木材を作るための細かな木遁を乱発して来た。そして、自来也とアカリに頼らぬ、完璧な仙術を会得するために、人間、動物問わず、あらゆる仙人に教えを請うた。

 

 その経験は、畳間に―――綱手の怪力にあたる、チャクラのコントロール技術を獲得させた。

 

 綱手の怪力は、須佐能乎すら砕き割る。

 速度が無いゆえに当たらず、脅威足り得なかったその一撃を―――畳間は、その時代において忍界最速を謳われた二代目火影、四代目火影すら超えた俊足を以て、叩き込む。

 

 ―――柱間の怪力に、扉間の速度。

 

 拳の威力は、筋力と、速度を掛け合わせて生み出されるもの。

 それは―――八門遁甲の陣をしたガイには届かなくとも、それに迫る究極の拳。

 千手畳間がこれまでに歩んで来た、人生のすべてを乗せた(・・・・・・・・・・)一撃だった。

 

 畳間とマダラの世界が、ゆっくりと流れる。

 イザナギは使えない。避けることも出来ない。

 

 ―――いつもいつも、誰かが邪魔をする。

 

 マダラの、他人事のような独白が、危機から離れようとする本能から切り離された思考の中で呟かれる。

 思えば、『語られぬ死闘』の折より、イズナ(畳間)はずっと―――誰かに、守られていた。大切にされていた。オレ()以外の奴に―――。

 

 ―――マダラの胸中を過る、嬉しさ、寂しさ。

 

 直撃。

 凄まじい衝撃と轟音。

 畳間の拳が、マダラの心臓を確実に貫いた。

 マダラの胸部は畳間の拳によって弾け飛び、風穴が開く。

 畳間の拳が生み出した衝撃波はそこで留まらず、遥か後方にまで凄まじい勢いで飛んで行き、遠方の岩盤に拳の形の凹みが刻まれた。

 

 余りの威力に畳間自身の拳が耐えられず、砕け、腕の皮膚と血管が弾け、ぷしゅ、と腕のいたるところから血が噴き出した。

 

 畳間が上空を睨みつける。

 胸に風穴が開き、倒れ伏すマダラが、消滅する。

 

 ―――変わり身の術。

 

 輪墓の分身を囮に、マダラは上空へ退避していた。

 だが、上空からは夥しい血液が降って来ている。マダラの変わり身が行われたのは、畳間の一撃を受けてからであることは間違いない。

 

(アレをやる気か……ッ)

 

 マダラはもはや畳間にすら視線を向けず、一目散に遥か上空―――いつの間にか姿を現していた月へ向かって飛んでいく。

 見上げていた畳間は大地を蹴りつけ、凄まじい勢いで飛翔する。

 拳を放った方の腕が、だらんと、力なくぶら下がる。千切れて落ちてしまいそうだった。

 

 ―――神羅天征。

 

 血を巻き散らしながら、マダラが畳間の接近を阻害する。

 畳間は輪廻写輪眼を起動させ、自身の後方と、マダラのさらに上空に、時空の歪みを生み出し、繋げる。

 神羅天征の斥力を利用して地上へ急降下した畳間は、その勢いのまま時空の歪みの中へと入り込み、マダラが向かっている上空へと出現する。

 落ちる畳間と、昇るマダラが対峙する。

 

「ミナ―――」

 

 突如として、マダラと畳間の間に、黄色い閃光が現れる。

 畳間は悲痛に、表情を歪めてしまった(・・・・・・・・・・)

 

 ―――守れなかった後輩。

 

 それは畳間の人生において、恐らくは最も大きな後悔。

 ミナトの死は、畳間に『影』としての覚悟を無自覚に抱かせるほど影響のあるものであったが、だからこそ精神攻撃としてこれ以上無いほどに機能する。

 

 ―――穢土転生の術。それはやはり、あまり良い術ではないのだろう。

 

 その一瞬の戸惑いのうちに、マダラが畳間を避けて上空へと飛翔した。

 畳間は歯を喰いしばり、操られるミナトの頭部の上半分に拳を叩き込んで粉砕。そして掌を広げると、覗き見えたミナトの顔の内面に、掌から発射した挿し木を植え付けた。

 ミナトが地上へと落ちていく。その頭部は挿し木を取り込んだまま修復されていく。

 

 ―――神・樹界降誕。

 

 巨大な樹木が、畳間の下から凄まじい勢いで成長し、空へと駆け昇る。途中、まるで神樹は意志を持っているかのように、主の仇敵たる畳間へと襲い掛かった。

 次々に襲い掛かる樹木は、一撃一撃が必殺のそれ。チャクラを奪い、生者の肉体に侵入し、食い荒らす―――神樹とは名ばかりの、デモンズプラントである。

 

 畳間は直線での飛翔を中断することを余儀なくされる。舌打ちをして、一度横へと進路を変える。 

 

「―――さあ、この世を照らせ」

 

 ―――無限月読。

 

 角を圧し折り、その下から現れた第三の眼(輪廻写輪眼)を月に投影したマダラは、胸に風穴が開いたまま、血まみれのまま―――壮絶に、笑った。




須佐能乎の漢字を作品の中盤くらいから素で間違えてました
すみません
教えてくれた人ありがとなす

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