綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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三部作です②
次は0時です


『伝説』を越えるとき②

 柱間が座して持久戦を行っていた真数千手を起動させ、その本体の崩壊を気に留めず突撃を仕掛けてから少し後、扉間とイタチ達精鋭部隊が合流した。

 

 輪墓内にいるイタチ達の前に、時空の亀裂から、四体のマダラが姿を見せた。イタチは一人現世へと戻り、扉間を輪墓へと連れ帰る。

 

「このオレを相手に眼で語る戦いを仕掛けるか。面白い」

 

 イタチがマダラの分身の一体と目を合わせたと同時に、幻術を叩き込む。

 マダラの分身は面白そうに笑うと、その誘いに乗った。

 

 ―――計画通りだと、扉間はマダラ達を見据える。うちは一族としてのプライドが一際高いマダラのこと。幻術戦を仕掛ければ、必ず乗ってくると踏んでいた。ゆえにイタチがその力でマダラに劣ろうと、マダラの内の一体は必ず足止めが出来るはずだと、イタチ達に伝えていたのだ。

 あとは、イタチの力を信じるしかない。最高峰の幻術たる月読は失われてしまったが、しかしイタチの磨き上げて来た幻術の技術は、今もなお木ノ葉において並ぶもの無し。あるいは、マダラを上回るかもしれない。とはいえ、そんなことは大した問題ではない。必要な手順は踏んだ。あとは、手筈通りに。

 

 ギリギリの布陣、ハイリスクローリターンの、破滅と隣り合わせな崖っぷちの策。強いられるは背水の陣。その全てを成功させなければ、うちはマダラは倒せない。

 

「皆、覚悟を決めよ! 兄者が戦えるうちに、ここを突破する!! ―――勝つぞ!!」

 

「「「応!!」」」

 

 自来也、やぐら、雷影、土影が呼応する。

 ナルトを肖って分身を使った仙人モードへ瞬時に移行する自来也。尾獣を解き放ち同化したやぐら。雷を纏い縦横無尽に駆ける雷影。塵遁にてカウンターを狙うオオノキ。

 イタチがマダラの一体を幻術戦で押し留めたことで、連合側5人に対し、マダラの分身は3体。数では利があるが、質では劣る。

 

「扉間。無様に逃げ回るのは、もう終わりか?」

 

「マダラ。お前の分身には、時間制限があるそうだな?」

 

「……あの小娘か」

 

 扉間の言葉に、マダラが静かに言った。木ノ葉隠れの里で逃がしたアカリによって、既に情報は伝えられていることを悟る。

 ゆえにマダラは、扉間の策に思い当たった。 

 この世界におけるマダラの分身には時間制限があり、そしてそう言った制限は往々にして、使用した力に比例して、強くなっていくものだ。そこまで扉間は考えているだろう。

 

(オレに力を使わせ、制限時間を消費させ、分身が消えた瞬間に、本体へ一気に畳み掛けると言ったところか)

 

 互いに身動きを取らないイタチと、分身の一体。イタチの額に、汗が滲み出ている。

 

「扉間、お前は―――」

 

 マダラが扉間へ語り掛け始める。

 扉間には、マダラの言葉を聞く気など、さらさらない。

 マダラが口を開いたと同時に、扉間は瞬時にマダラとの距離を詰め―――その隣を駆け抜ける。

 

 マダラが驚愕に何か言葉を零したが、そんなものは聞く価値も無い。

 扉間が目指すは、空間の歪み。マダラ本体へ、飛雷神のマーキングを刻みつけるのだ。

 

 置き去りにされたマダラが腹立たし気に眉を寄せ、扉間を追い駆けようとして―――無数のクナイが襲い掛かった。そしてそのクナイの柄に起爆札が結び付けられているのを見たマダラは、鬱陶し気に後方へ跳躍し、クナイが飛んできた方へと視線を向けた。

 そこには、うちはイタチの姿があった。

 イタチが幻術合戦を仕掛け、そして面白いと乗ってくれたマダラの分身は―――オオノキの塵遁によって、既に消滅させられていた。

 

「は―――ッ!!」

 

 油断、慢心―――このマダラに立ち向かう若く己惚れたうちはに、本物のうちはの力を教えてやると、付き合ってやった幻術合戦を、イタチは最初からするつもりが無かった(・・・・・・・・・・)のだ。動きさえ止めてくれれば、それでいい。そうすれば、油断したマダラを塵遁で消し飛ばすことが出来る。

 

 ―――扉間の入れ知恵か。先ほど吠えた(・・・)のも、ブラフ。

 

 嵌められたと、それに気づいたマダラ達が獰猛に笑う。

 残った三体のマダラが、扉間へ飛び掛かる。

 

「させんのォ!!」

 

 内一体に、自来也が飛び掛かった。

 マダラは自来也へ蹴りを放ち、自来也の胸部の骨を砕いたが―――仙術により強化された体での、死を覚悟した渾身の体当たりだ。自来也は怯まない。一撃を喰らうことなど、覚悟していた。身体強化は万全だった。

 それでもなお、一撃で重傷を負わせられた。マダラの力はそれほどなのだ。

 だが自来也は、想像以上のダメージを負い血反吐を巻き散らしながらも、飛びついたマダラの身体を離さなかった。二人は絡み合いながら、地を転がった。

 

 自来也だけではない。雷影はその速度で突進し、三尾を顕現させたやぐらはその巨体で轢き飛ばす。それぞれ反撃を受け負傷しながら、一瞬の時を稼いだ。

 

 ―――扉間は振り返ることも無く、一直線に時空の歪みへ駆け抜ける。

 

 あと少し―――空間の歪みが、扉間の目の前で消え去った。

 扉間は悔し気に舌打ちをした。

 ぐったりとして動かない自来也を踏みつけて拘束しているマダラが、口端を愉悦で歪ませながら、呆れた様に鼻を鳴らし、冷たく目を細め、扉間を見つめる。

 

「まさか、戦う気すら無いとはな……。カスどもにやらせ……やはりお前は姑息な奴だ」

 

 扉間の意図を悟った様子のマダラが静かに呟いた―――瞬間、扉間の姿が消える。

 

 ―――飛雷神の術。

 

 最善の策は潰えた。であれば、分身を始末し、直接本体の所へ乗り込むだけだ。

 

 自来也の身体に付けていたマーキングへ瞬時に飛んだ扉間が、自来也を足で踏みつけているマダラの頭部目掛けて、速やかに短刀を振り下ろす。

 マダラは扉間の動きを見切り、自来也に乗せていた足を持ち上げ、扉間へ迎撃の蹴りを放った。蹴り飛ばされた扉間は、己の身体にマダラの脚が触れた瞬間に、カウンターでマダラの足に触れる。

 

 重い蹴りを叩き込まれ、扉間は蹴り飛ばされた。

 しかし次の瞬間には、扉間は再びマダラの背部へと回り込んでいた。マダラと扉間が背中合わせになる。そして扉間の脇腹には、逆手に握られた短刀の刃が顔を出している。

 扉間は、マダラに蹴り飛ばされた勢いを利用して、背撃と秘めた刃を叩き込むつもりである。

 

 しかしマダラはそれすら予測していたかのように反応した。

 マダラは右回りにくるりと回転しながら、右腕を顔の位置にまで持ち上げた。肘鉄を、扉間の顔の側面に叩き込む動作。

 同時に、左腕を自分の体に絡めるように、斜め右下へと動かした。そして二本の指を伸ばし、扉間が握る短刀の刃を、白羽取りする。

 振るわれたマダラの腕は―――空を切る。マダラの指に挟まれた短刀だけを残し、再び扉間の姿が消える。

 

 ―――大玉螺旋丸!!

 

 直後、伏していた自来也が飛び起きて、熊手型の掌をマダラへと突き上げる。

 その掌には、小さなチャクラの球体が風を纏いながら生み出され―――速やかに肥大化していく。

 

「狙いは良い。だが……力が足りんな」

 

 マダラは眼球のみを下に向ける。そして短刀を指に挟んだまま、自分の掌を自来也の掌に合わせる。

 螺旋丸は、まだ成長途中にある。マダラと自来也の掌の中で、螺旋丸はその大きさを増していく。

 マダラの指先に挟まれた短刀の刃先が螺旋丸によって削り取られていく。

 互いの掌の中で膨張していく螺旋丸によって、自来也が押され、後ろへとずり下がっていく。一方で、マダラは微動だにしていない。

 

 ―――飛雷神斬り。

 

 同時―――マダラの胴体を引き裂き臓物を引きずり出さんと振り抜かれた、クナイによる扉間渾身の一撃が放たれる。

 互いを囮にした連続攻撃である。自来也が飛雷神の術の連携相手としての経験があるからこそ出来たことである。

 

 しかし扉間の攻撃は、防がれる。出現した須佐能乎の腕が振り抜かれ、扉間はごみの様に払い飛ばされた。

 だが、それもまた囮。

 意識が扉間に向かった今こそ好機である。

 自来也は螺旋丸をマダラへ押し付けるため、一歩を踏みだそうとして―――。

 

「バカな……!?」

 

 ―――驚愕を口にした。

 

 自来也の掌の中で、今まさに『大玉螺旋丸』として完成したチャクラの球体を、マダラは掌で受け止めているのだ。

 本来ならば、触れただけでも掌の皮は消し飛び、筋肉や骨まで抉り削がれていてもおかしくない、圧縮された台風程の力を誇る自来也の全力の螺旋丸だ。それはかつて、九尾を吹き飛ばしたほどのもの。それを、マダラは伸ばした腕、広げた掌一本で受け止めている。

 

 だがそれは、先ほど螺旋丸が生成される際、自来也の方が押され、マダラが不動だったことから、予想できた事態でもある。

 自来也が驚いたのは、そこではない。

 

 ―――たまらず、自来也は螺旋丸を捨てて(・・・)飛び退いた。

  

 自来也が驚いた理由。

 それは、まるで螺旋丸を覚えたての頃のナルトが影分身で螺旋丸の安定を図ったような感覚で、マダラが自来也の螺旋丸へ己のチャクラを流し込み、自来也が行おうとした自爆覚悟の、螺旋丸の近距離爆破を押し留めたうえで―――その支配権を奪い取ったことだった。

 

「これは、尾獣玉の劣化か?」

 

 マダラは興味深そうに超巨大螺旋丸を見つめながら、自来也から奪い取った超巨大螺旋丸を撫でるように、掌を動かしている。

 

「いや……派生、といったところか。……なるほど。あの小僧(シスイ)が使っていた術の原型が、これか。面白い術だ。―――こう、か?」

 

 そう嘯いたマダラの手の中に、突如として炎が燃え盛る。炎は螺旋丸を覆っていたが、直ぐに螺旋丸の中へと吸収されていく。

 螺旋丸は、紅蓮に染まった。

 

「バカな……それは……」

 

 マダラがやってのけたのは、螺旋丸の奥義にして到達点である、性質変化の付加だった。

 ミナトが難航し、自来也やカカシが諦め、ナルトが影分身で十数年分の修業をしてなお発展途上にある性質変化の付け加え―――それを、マダラは一瞬で為し遂げたのだ。

 マダラが掌を徐々に閉じていく。巨大な螺旋丸が、マダラの掌に収まるほどに圧縮された。

 

「これは、お前にくれてやる」

 

 ―――瞬間。

 恐るべき速さで振り返ったマダラが手を押し出した。

 

 ―――その場に現れた扉間が突き出しているクナイへと、螺旋丸が叩きつけられる。

 飛雷神の術に合わせた、完璧なカウンターだった。

 マダラの手から離れた螺旋丸は、マダラによる無理やりの圧縮から解放されその体積を爆発的に元に戻しながら、扉間を巻き込んで真っすぐに飛んでいく。

 

 螺旋丸が直撃した扉間の腕は燃えカスとなり、肘ほどまで吹き飛んだ。それでもなお扉間の体を燃やし尽くさんと、螺旋丸は迫って来る。

 

 ―――扉間は再び飛雷神の術で、マダラの傍へと飛んだ。

 

 片腕は失えども、奇襲は出来る。

 

 瞬間―――。

 

(―――これにも、合わせてくるか。……見切られている。瞬身を発動するためのチャクラの興り―――それを感知しているのか……?)

 

 ―――扉間の上半身が吹き飛んだ。

 

 それは、マダラの放った風遁・螺旋丸だった。  

 生成途中の螺旋丸に触れたマダラは、その構造を解析してしまったのである。

 仙術チャクラすら一瞬でコントロールできたマダラにとって、螺旋丸の模造・習得など、さほど難しいものではない。

 

「……」

 

 マダラは、螺旋丸を放った方の掌を広げたり閉じたりと、何かを確認しているようである。その掌は、赤く傷ついている。

 下半身のみとなって地面に転がった扉間から視線を切り、マダラは空を見上げた。

 

「……塵遁に、空を飛ぶ忍。やはりアレは両天秤の小僧か」

 

 マダラは楽し気に口端を歪める。

 

「―――塵遁!!」

 

 マダラの視線の先には、広げた掌に、半透明の立方体を浮かべたオオノキの姿があった。

 そしてオオノキは両手を前へと突き出し―――立方体を解き放つ。

 それは次善の策として、事前に示し合わせていたことだった。第一の策が破れた場合の、第二の策。簡潔がゆえに、強力なもの。

 

 ―――囮役はワシが行く。

 

 穢土転生ならば、塵遁で消し飛ばしても再生する。扉間がマダラの注意を引いているうちに、塵遁で消し飛ばせと、扉間はそう指示を出していたのだ。

 にわかに巨大化した半透明の立方体が、扉間の下半身ごとマダラを呑み込んだ。術の性質上、生者との連携は難しいオオノキだからこそ、死者との連携は、塵遁の効力を爆発的に引き出せる。

 

「―――限界剥離の術!!」

 

 そして―――マダラの分身がまた一体、オオノキの手によって消滅した。

 

 残るは、二体。

 雷影とイタチが交戦する一体と、退いた自来也が合流した、やぐらと交戦する一体。

 しかしどちらの戦況も、劣勢にある。四人全員が、血塗れだ。

 塵遁で消し飛ばされた扉間が完全に修復されるまで、数分。 

 

 ―――持ち堪えられるか。

 

 正念場は、ここからだった。

 

 

 

 

 

「―――前方、複数のチャクラあり!」

 

 進軍する連合軍の脳内に、いのの声が響き渡る。

 皆の視線の先には、マダラの分身が5体。

 

「―――砂漠層大葬」

 

 突如、巨大な砂の波がマダラの分身達へと襲い掛かる。

 

「砂遊びは、飽きた」

 

 砂の波を見上げ、マダラが呟く。

 マダラ達が砂の波に呑み込まれた瞬間―――津波が裂けた。

 現れたのは、分身と同じ数の須佐能乎。

 

「―――」

 

 その威容に気圧され、ごくりと、誰かが息を呑む。

 それでも、足を止める者はいなかった。

 

「―――進め! そして、死ぬな!! 生きてさえいれば、私が必ず治してみせるッ!! 行くぞッ!! 忍連合ッ!!」

 

 ―――おおおおおおおおおおおお!!

 

 綱手の咆哮。

 カカシを先頭に、軍勢が一気にマダラへと雪崩れ込む。

 彼らの肩には小さな蛞蝓が張り付いている。口寄せ獣であるカツユである。そして雄たけびをあげた綱手の顔には、封印を解放した白毫の印と―――柱間に似通った隈取。

 

(師は弟子を育て、弟子は師を育てる。仙術チャクラを白毫でコツコツ溜めるなど……私には無かった発想だ)

 

 サクラの着想を取り入れた綱手もまた、仙術チャクラを扱うことが出来るようになった。サクラほど繊細に使うことは出来ないし、畳間や自来也の様に強力なわけでも無く、アカリの様に長時間維持することも出来ないが―――だからなんだと綱手は吠える。

 髪の一本までを燃料に、力のすべてを引きずり出す。

 

 ―――もう、誰も死なせないッ!!

 

 マダラの須佐能乎が手を横に揮う。

 連合の軍勢は、さながら机の上の埃の様に吹き飛ばされることになるだろう。

 

 ―――土遁・大剛隷武の術!!

 

 土遁を扱える者が一斉に術を発動させて作り上げた土の巨人が立ち上がり、須佐能乎の腕を掴み取る。

 須佐能乎が暴れ、土の巨人がそれを押し留める。ひび割れ崩れては、チャクラによって再生する巨人。どちらが優勢なのかは、火を見るよりも明らかであった。

 数百人分のチャクラが込められた土の巨人でも、マダラの分身一体を押し留めるにも足りないのか。

 

 ―――火遁、水遁、風遁、雷遁。

 

 連合の者達が、己の最も得意とする忍術を同時に発動する。

 そしてそれらは同じ性質で混ざり合う。

 合わさった水は巨大な津波となって須佐能乎を押し流し、雷は巨大な落雷となり、須佐能乎ごとマダラを感電させる。

 そして相性に優れる火と風はさらに融合し、荒ぶる爆炎の巨人となって、須佐能乎の巨体すら凌駕した。

 炎の巨人が、マダラの分身一体へ襲い掛かる。

 

「さすがに……」

 

 ―――熱いなと、マダラの分身は続けることは出来なかった。呼吸が出来ないのだ。

 須佐能乎は燃えず。しかしその周囲の空気を燃やし、発する熱は、内にいるマダラへ確実にダメージを与えていた。

  

 ―――マダラの分身が一体、消え去った。

 

「よし!!」

 

「分身一体を消して大喜びか?」

 

 残った分身達が呆れた様に笑った。

 

「一体だけじゃないさ」

 

 カカシの独白。

 

 ―――超尾獣玉。

 

 五体の尾獣がチャクラを練り合わせた特大の尾獣玉がそのとき、放たれた。

 

 ―――伏せろ、と皆の脳内に指示が飛ぶ。

 

 そして、爆発。

 須佐能乎の一体が凄まじい爆発で吹き飛んだ。だが、超尾獣玉は、尾獣たちの全身全霊を混ぜ込んだ、まさに究極の一撃である。須佐能乎と周囲一帯を吹き飛ばしてなおあり余る力は、周囲にいる3体の須佐能乎をも巻き込み、その装甲に、少なくない損傷を与えた。

之男をも巻き込み、その装甲に、少なくない損傷を与えた。

 つまりそれは、連合側にも被害が出るということである。

 

「―――流葬大爆砂!!」

 

 襲い来る爆風と、衝撃波が連合に到達するより前に、我愛羅は大量の砂を持ち上げて、連合の前に盾として顕現させた。

 

「く……ッ! お、も……ッ」

 

 前に突き出した我愛羅の右腕に、凄まじく思い衝撃と重圧が圧し掛かる。震えあがる右腕を、我愛羅は左腕で掴み、支える。

 呼吸を忘れるほどに、全身に力を込める。見開いた眼は瞬きを忘れた。喰いしばった奥歯は欠け、鼻からは血が流れ落ちる。

 五体の尾獣が、後先考えず、体に巡るすべてのチャクラを放出し、纏め上げた究極の一撃。人間一人に背負えるような威力ではない。だが、我愛羅は決して怯まない。この場にいる者は誰も死なせない。

 犠牲は仕方ない。それは我愛羅も分かる。だが、この尾獣玉で敵を倒すために、味方を巻き込むことだけは、絶対に許さない。

 だってそれは、人柱力が―――尾獣たちが、殺したことになってしまう。今ようやく芽生えた、尾獣・人柱力達の評価に対する変化の兆しに、一欠けらの疵もつけてなるものか。

 我愛羅はもう、人柱力ではない。それでもその心は―――今もなお、友と共に在る。

 

(―――守鶴ッ!!)

 

 ―――絶対防御は、守鶴の誇り。

 

 守鶴は、今の状況に何を感じ、何を口にするだろう―――我愛羅は、切り離した思考で考える。

 誰が人間なんぞを守るかと、そっぽを向くだろうか。それとも、自分の盾を示すのに不足は無いと、奮起するだろうか。

 

(―――おおおおおおおおおおおおおお!!)

 

 呼吸を忘れ、言葉も発せられない中、我愛羅が内心で凄まじい咆哮を上げた。それに呼応するかのように―――砂の壁に黒と金が混ざり始める。

 斑の壁。砂金と砂鉄が混ぜ込められたそれは、さながら横たわる砂漠の壁だった。

 

「カーーーッ、ハ―――ッ」

 

 そして、爆発が終わる、

 すべての衝撃を耐えきり、我愛羅は膝から崩れ落ちた。

 忘れていた呼吸を再開し、肺が必死に酸素を吸い上げる。

 

 一瞬の休憩。そして、再開。

 

 カ―――ッ、と我愛羅は目を見開いて、前方を睨みつける。

 爆発の直撃を受け消滅したマダラの分身とは別に、爆発を近距離で受け、須佐能乎が吹き飛んだマダラの分身が、一体いる。この隙は逃せない。

 

 我愛羅は横たわる砂の帯と、爆風で吹き飛んだ砂を一気に反転させ、むき出しのマダラへと強襲を仕掛ける。人間一人呑み込むには、あまりに多すぎる量だ。里一つ呑み込めるほどの莫大な砂を、我愛羅はむき出しのマダラへと叩き落とす。巨大な砂の山が出現した。

 

 残る三体の分身を同時に相手にしたいところだが―――同時に木遁を使われ内側から突破されてしまえば、かつての戦いの二の舞となる。そうなれば、この千載一遇の機会を潰すことになる。

 焦らず、確実に。確実に一体を、排除する。

 

 マダラの分身が木遁を使い、巨大な顔を顕現させた。

 構うものかと、砂の津波が雪崩れ込む。

 上下左右を砂で呑み込み、木遁の防壁の隙間を探し、中へ中へと少しずつ、しかしすさまじい速さで入り込む。

 

「―――層大葬封印!!」

 

 木遁の防壁―――球体の中一杯に砂を流し込み、マダラの分身が指一本すら動かせなくなったとき、我愛羅は封印術を起動する。

 砂の内側外側に呪印が駆けまわり、それぞれが繋がっていき―――マダラを呑み込み山となっていた砂丘が、平らになった。

 地の底へと呑み込まれたのである。

 

「―――これで、一体……ッ!!」

 

 荒い呼吸に、止まらない滂沱の汗。須佐能乎の反抗は力強く、ともすれば破られそうなほどだった。それを押し留め封印まで完遂させられたのは、我愛羅の根性と、前段階の連合の攻撃、そして我愛羅を支える者達の支援があったからだ。

 

「……カブトさん、ありがとう」

 

 我愛羅が、己の背中に触れるカブトへ、肩越しに礼を伝える。

 カブトもまたかなり疲弊した様子で、額には汗が滲んでいる。しかしその表情には、我愛羅を安心させるかのように、穏和な笑みを浮かべていた。

 

「途中で疲労の治癒からチャクラの譲渡に変えたけど、凄まじいな……。ごっそり持っていかれてしまった」

 

「すみません」

 

「いや、責めてるわけじゃないよ。マダラの力がこれほどかと、改めて感じていたところさ……」

 

 カブトが静かに前方を見つめる。

 これで残るマダラの分身は二つ。順調かどうかは、正直なところ分からない。

 今連合が仕掛けているのは、短期決戦も短期決戦、全力疾走中の全力疾走である。

 連合の忍者達は、初動ですべての力を限界まで引きずり出して、最高最大の一撃を繰り出した。この後のことなど知らぬとばかりに、持てる全ての力をマダラへとぶつけたのだ。

 

 それで倒せた分身は、3体のみ。

 それも、ただの分身だ。

 

 連合の者達は―――考えないようにしていた。

 マダラがまだ、分身を増やせるのではないかという可能性を。今、目の前にいる分身だけで終わってくれ(・・・・・・)と、無意識に願っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――うちはマダラは、そこまで甘くない。

 

「我愛羅め。一尾を抜かれてまだそこまでやれるか。……さすがに数が多いだけはある。玉石混淆、だな」

 

 連合側の分身が消されたことで、マダラの意識がそちらへと向けられる。

 輪墓側の戦いは、既に終わった(・・・・・・)がゆえに、気にする必要も無い。

 柱間も随分と、思った以上に粘ってくれている。楽しませてくれている。

 それ自体は僥倖だが―――マダラは何かに気づいたように、ゆっくりと、瞳を細める。

 

「思ったよりも早い……」

 

 マダラは遠方に感じる『何か』へと視線を向けた。

 

「潮時か……」

 

 名残惜し気に瞳を閉じて―――マダラは真数千手から飛び立ち、須佐能乎をすり抜けて、宙へと身を投げた。

 そして瞳が零れ落ちんばかりに目を見開いた。マダラの真下で、空間が歪む。

 

「―――マダラッ!?」

 

遊び(・・)は終わりだ。柱間」

 

 空間の歪みに呑み込まれたマダラが次に現れたのは、柱間の目の前。

 マダラは柱間の顔面へ掌底を叩き込む。

 柱間は真数千手の操作を一瞬で切り上げてマダラへの迎撃に移行するが、その一瞬の間が、命取りとなる。

 

「ガ―――ッ」

 

 柱間が、マダラに首を掴まれる。それだけならばたいした拘束とはならないが―――マダラは掌の印から、黒い杭を打ち出して、柱間の首―――その点穴を貫いた。

 

「―――ッ」

 

 チャクラを練るのに、一瞬の遅れが生まれる。

 その隙に、マダラが柱間の体へ次々に杭を打ち込んでいく。

 柱間は乱暴に体をよじり、マダラへ蹴りを放ち、マダラの拘束から逃れる。

 マダラは柱間の蹴りを避けるために後方へ跳躍したタイミングで、両手を前に突き出して、杭を次々に発射する。

 足と腕―――柱間は必死に避けるが、次々に打ち込まれた点穴によって動きが鈍り、二本が新たに直撃した。

 それによりさらに動きが鈍る中、マダラの追撃は止まらない。まるで白眼のような正確さで点穴へ打ち込まれていく杭。柱間は、マダラの両目の瞳力がそれほど強力なのだということを理解する。

 

「く―――ッ」

 

「扉間は来んぞ。既に封じてある」

 

 柱間が眼球を、左右に僅かに動かした様子を見て、マダラが楽し気に言った。

 

 ―――輪墓の中。

 

 血溜まりに沈む―――自来也、オオノキ、雷影、やぐら。そして、その傍で膝をつき、体中を黒い杭で貫かれ、地に縫い留められているのは―――『二代目火影』千手扉間。

 

 マダラの分身を除去するために囮となった扉間という戦力のたった数分の喪失は―――あまりに大きなものだった。

 扉間という囮役がいなくなり、仲間諸共消し去ることになるために塵遁の使用が封じられた状態での、戦い。

 まず最初に狙われたのはオオノキだった。空を飛べるとはいえ、老いた体に機動力は無い。その危険な術を野放しにするという選択肢も無い。

 飛雷神の術での翻弄も、穢土転生がゆえに出来る捨て身の特攻による妨害も得られない中、オオノキはマダラの分身一体を道連れに、腹部を抉られて、地に沈んだ。

 

 1対4

 数では有利でも―――その質はあまりに違い過ぎた。

 次に狙われたのは、やぐらだった。

 尾獣は野放しにすると面倒なことこのうえない。

 マダラは木龍を使い、亀のような尾獣の姿を解放したやぐらを縛り上げたうえで、輪廻写輪眼の幻術によって中の人柱力ごと、夢の中へ落とし、縛り上げた。

 

 ―――まさに、一瞬の出来事だった。

 

 その次に狙われたのは、自来也だった。

 仙術というのは、未知の可能性を持つ。それに、綱手を始末したいと考えていた時期に、綱手と共に在ることで、意図せずマダラの邪魔をしていたという個人的な、小さな恨みもあった。

 片目を潰された自来也は、大玉螺旋丸で最後の特攻を仕掛けたが、須佐能乎によって螺旋丸ごと腕を両断され、胴体を袈裟蹴りにされて―――己の血の沼に沈んだ。

 

 その間、雷影とイタチが何もしなかったわけではない。何もしなかったわけではないのだ。

 だが、オオノキという防御無視攻撃法が真っ先に潰され、弱点を突かれる形で尾獣という破壊力を瞬く間に制圧された末に、自来也という火力役を徹底的に狙われたがゆえに―――マダラの須佐能乎を突破する術が無くなった。

 

 イタチと雷影の必死の攻撃は、須佐能乎の防壁を打ち破ることが―――出来なかったのだ。

 

 ―――退け、木ノ葉の!!

 

 雷影はそう叫び、輪墓攻略の切り札たるイタチを逃がそうと―――あの日、君麻呂が雷影にしたように―――雷が如き怒号を以てマダラへと挑んだ。その速さでイタチが逃げる時間を稼ごうとしたのだ。

 

 そして―――雷影は須佐能乎の一撃を受けて崩れ落ちた。

 

 では、イタチは逃げ切れたのか?

 

 ―――答えは、否。

 

 輪墓から逃れようと、マダラの分身は輪墓の中から攻撃が可能(・・・・・・・・・・・)

 イタチが輪墓から逃れようと、輪墓の中にいようと、関係ない。

 イタチがこの場に倒れていないのは―――ただ単に、少し離れた現世にて、沈黙しているからに過ぎない。

 

 そしてそれは、扉間の体の修復が、半分も終わらぬうちに、為し遂げられたことで―――扉間の体の修復が進んだ段階で、マダラは次々に杭を叩き込み、その動きとチャクラを縛った。

 

 策は、悪くなかったのだ。

 ただ圧倒的だったのは、うちはマダラの力。誤算だったのは、うちはマダラの力が、あまりにも強大過ぎたこと。

 彼らもまた里の最高戦力でありながら、まるで子供と大人ほどの力の違いが横たわっていただけなのだ。

 

「弱い者は醜い」

 

 マダラは遂に真数千手の頭の上で杭に縫い付けられた柱間から視線を切り、連合の方へと視線を向ける。

 マダラの眼には、今必死に戦っている彼らの姿は―――さながら地面に落ちた食い物に群がる蟻のようにしか、映らない。

 

「さあ……この世界を、終わらせよう」

 

「マダラ―――ッ! よせ、これ以上罪を―――ッ」

 

「罪? 罪だと? 罪と言ったか、柱間。この世界に罪があるとすれば―――それはお前たち(しのび)の存在そのものだ。そしてオレが、それを正す。そしてそれは、オレにしか出来ない(・・・・・・・・・)ことだ。それこそが、オレがこの世に生まれ落ちた意味。オレは無限月読を以て―――新世界の神となる」

 

「マダラァ―――ッ!!」

 

「さあ、覚悟しろ。畜生ども」

 

 マダラが楽し気に連合を見つめ―――そして、つまらなさそうに目を細めた。

 

「まさか……あの程度の分身を消した程度で、勝ち誇っているのか? おめでたい頭だ……」

 

 マダラの木分身を数体消滅させた程度で勝ち誇っている連合の姿を見たマダラは、あまりのレベルの低さに辟易した様子で―――親指の腹を噛んだ。

 流れ落ちる血を反対の掌に塗りつけ、印を結ぶ。

 

 ―――呼び出すは。

 

「口寄せ―――外道魔像」

 

 究極体須佐能乎にも匹敵する巨体を持つ化け物が、真数千手の前に降臨した。

 そのおぞましい姿を見て恐怖を抱いたのは連合の忍者達よりも―――尾獣達。原初の記憶が、恐怖を呼び覚ます。

 

「―――数秒だ。時間も惜しい」

 

 マダラが空間を歪ませる。その歪みから現れたのは、黒ゼツを纏った―――二位ユギト。ユギトはうつろな目をしており、意識が混濁していることは明らかだった。

 そしてその後に、白ゼツが続いて現れる。

 

「ようやく、仕事を熟したか。遅すぎる」

 

「すみませんねぇ。でも、マダラ様、どうするんです? 三尾、いませんけどぉ? 順番があるの、忘れてませんよねぇ? これじゃ、計画遂行できませんよぉ?」 

 

「……貴様らと一緒にするな」 

 

 マダラが輪廻写輪眼にチャクラを込める。再び開いた空間の歪みは―――

 

「―――これは」

 

 地に縛り付けられた扉間の前に開いた。

 そしてそこから現れたのは―――うちはマダラ本人。

 輪廻写輪眼は時空を捻じ曲げ、繋ぐ。それは、異空間であっても可能である、それがマダラが持つ輪廻眼の固有瞳術が繋がる異界であれば、造作もない。

 

「―――ッ」

 

 扉間はマダラの姿を確認した瞬間、マダラを殺すべく、今現在練り上げられるだけのチャクラをすぐさま練り上げて、口腔内で性質変化を加え、口を窄めて一気に吐き出した。

 

 ―――天泣。

 

「……」

 

 マダラは鬱陶し気に腕を振る。その腕を覆うように現れた須佐能乎が、それらを弾き飛ばした。同時に、本体のマダラへ分身が戻る。

 

「……」

 

 扉間の攻撃を跳ねのけたマダラは無表情で―――次々に杭を扉間の頭部へと投げつけた。

 次々に突き刺さる杭により、扉間の頭は剣山―――ウニ、待ち針を指すアレ(ピンクッション)―――のように変貌する。もはや、頭を動かすことも、口一つ動かすことも、声を発することも、許されなくなった。

 扉間の動きを、徹底的に封じ込める。それはきっと、扉間への敵愾心だけに依るものではないだろう。

 

「これでお前は……その軽い口も動かせない」

 

 マダラは扉間を一瞥する。

 

「お前の顔も見飽きた。もはや死ぬことも叶わんその身で―――永遠に、そこで悔み続けろ扉間。イズナを殺めたお前には……似合いの末路だ」

 

 そして扉間から視線を切ったマダラは、意識の無いやぐらを拾い上げ―――再び柱間のいる真数千手の頭の上へと戻った。

 

「……」

 

 残されたのは―――言葉すら発せなくさせられた扉間と、静かに横たわる者達だけだった。


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