綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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やっと会えたね❤


待ち望んだ『時』

「九尾……」

 

「……てめェら、一体何なんだ! なんで、こんなことをする……ッ!! 答えろッ!!」

 

 獲物を見つけた肉食獣のように瞳を鋭く研ぎ澄ませたナルトが、血を吐くように言った。

 里の大半が消し飛び、里として残された場所は少ない。火影岩周辺の避難所にいる者達が皆無事なのは仙術によるチャクラ感知で分かっているし、現場にいた忍者達も大半が命を拾ったことも分かっている。最も遅く逃げ出した自分が生き残ったのだから、ある意味当然で―――そしてそれは、現場に残った者達の全滅を意味していた。

 

「……」

 

 ナルトの怒声に、しかしペインは語らず、ぼうっとした様子である。気だるげな影の差す表情で、ナルトを見つめている。

 

「ああ、そうかよ。話をするつもりはねーんだな? だったら―――黙ったまま死ね!!」

 

 ナルトが駆けだした。生み出した影分身で周囲を埋め尽くす。

 ペインは向かってくる影分身を迎撃。輪廻眼を縦横無尽に動かして影分身たちの動きを捉え、次々に破壊していく。しかし捌ききれず、何発かの打撃をその体で受けた。

 チャクラの無駄だと感じ取ったナルトは、本体での突撃を開始する。しかし影分身の陽動によって、神羅天征が使えないということは分かった。

 フガクや、日向兄弟の犠牲は無駄にはしない。あいつを殺し、里を守る―――ナルトは強い意思を以て、戦闘を開始した。

 

 ―――(かわず)組手。それは蛙仙人からナルトへ授けられた、仙人体術である。仙人チャクラによる危機探知能力の上昇、パワーとスピード、動体視力―――全・身体能力の向上。敵の死角を突き、あるいはその変幻自在の体捌きによって敵の注意を操作し、隙を生み出すこともできる。輪廻眼であっても、対処しきれるものでは無い―――はず。

 

 ナルトの正拳突きを紙一重で躱したペインの肩を、放った拳を開いて掴み、ナルトは頭突きをペインへと叩きつける。

 強化した頭蓋骨は、ペインの額を割った。血が滲み、ナルトの額にも鮮血が付着する。

 ペインが痛みに呻く。

 

 ―――知るか。

 

 ナルトはペインを抱きしめるように引き寄せると、ペインの肩を掴む掌に九尾のチャクラ、仙術チャクラを注ぎ込んで強化し、全力で力を込めて―――握り潰す。

 ごきり、と嫌な音と感触が、ナルトへと届いた。

 ペインは肩の痛みに絶叫するが、ナルトはその手にさらに力を、そしてチャクラを込める。

 

 ―――螺旋丸。

 

「がああああ―――ッ」

 

 肩にナルトの螺旋丸がめり込み、ペインがさらなる絶叫をあげた。しかしナルトは手を離すことは無い。肩を破壊し、腕が千切れ飛ぶまで、螺旋丸を押し付け続ける。

 

 ―――衝撃。

 

 神羅天征の発動。ナルトは弾き飛ばされる。

 

(もう、インターバルが……ッ!!)

 

 フガクが稼いでくれた貴重な時間は、既にその役割を終えてしまってた。

 だが、今の衝撃は、ナルトにとって、突き飛ばされたような程度の衝撃でしかない。その威力は弱く、明らかに全快は出来ていない。それは感じ取った。

 だとするならば、回復途中での無理やりの発動であれば、さらにその負担は重くなるはず。そして神羅天征を発動させればさせるほど、その力の上限は下がり、やがては発動すら困難になるだろう。

 

(畳み掛ける……ッ!! おっちゃんたちの犠牲は無駄にしねェ……ッ!!)

 

 弾き飛ばされたナルトは、しかし態勢を立て直し地を蹴りつけて、駆け出した。

 その両手に生み出した螺旋丸をちらつかせ、神羅天征、あるいはチャクラ吸収を誘発させる。しかしその本命は、蛙組手による体術と、さらなる部位破壊。

 

 ふわり、とペインがナルトとの激突の直前で宙を舞う。

 標的が消えたナルトはペインの下を通り過ぎた。

 

「―――っが!!」

 

 ナルトは、宙に浮くペインにその背中を蹴りつけられ、転倒する。倒れ込んだナルトの螺旋丸が地面を抉った。

 しかしナルトは、すぐにその両手の螺旋丸を利用して地面を押し返し、自分の身体を宙へと跳ねあげた。空中でバク転し、体の前面をペインへ、背中を地面へ向けた体勢で、一枚の手裏剣をペインへと投擲する。そして、印を結んだ。

 

「―――ッ」

 

 ペインが忌々し気に眉を寄せる。

 手裏剣影分身の術。そしてそのすべての手裏剣を起爆させ、小規模爆発を連続で起こし、敵を粉砕する連続分身大爆破。その術の厄介さは、ペインも身に染みて理解している。

 ペインはナルトの投げた手裏剣へ、すかさずその黒棒を投げつけ、ぶつけることでその軌道を逸らす。

 

「―――影分身の術」

 

「―――……?」

 

 巻き上がった煙の中に、ナルトの姿が消える。ナルトが発動したのは、手裏剣影分身ではなく、自分の分身を作り出す、ただの影分身だった。

 煙の中を突き破り、ナルトがペインへと突撃する。生み出された影分身がもう一人のナルトをペインへ向けて投げ飛ばし、ナルトはさながらロケットの様にペインへと突っ込んでいった。

 

「―――がッ」

 

 虚を突かれたペインはそれを避けることは出来ず、ナルトの頭突きは、正しくペインの腹部へと直撃した。さらにナルトは体中を力ませ、さらにペインの腹部へと、己の頭突きをめり込ませる。

 衝撃によってくの字に体を折り曲げたペインは、うめき声と共に、肺の空気が押し出された。

 

「がああああああああああああああ!!」

 

 

 ペインは、腹に突き刺さるナルトの背中へ、両肘を振り下ろした。

 

「カ―――ッ」

 

 背中を殴打されたナルトから力が抜ける。

 その隙にナルトから離れるペインの蹴りを顔に受けて、ナルトは蹴り飛ばされ、地面へと墜落する。      

 そして、ナルトの身体が消えた。

 

「なに―――」

 

 ペインの驚愕の声。

 今のナルトは、影分身だったということだ。では本体は投げた側(・・・・)だったのか―――それも違う。

 地面が、隆起する。

 ナルトが居たはずの場所へと視線を向け、しかしそこに誰もいないことに驚愕し、周囲へ視線を送ったペインの真下の地面から、ナルト本体が飛び出した。

 

「おおおおおおおおおおお―――ッ!!」

 

 突きあげたナルトの拳は、ペインの顎を跳ね上げた。衝撃によって仰け反るペインを、ナルトは逃がさない。突きあげた手とは逆の手に螺旋丸を作り出したナルトは、手の甲を胸の側に向け、横に払うように、腕を振るった。一瞬の攻防の中での、精細な動きは、蛙組手によるもの。

 

 ―――衝撃。神羅天征によって、ナルトは僅かに吹き飛ばされる。

 

「……その程度かよ」

 

 神羅天征によって弾かれ地面に降りたナルトが、立ち上がる。

 確実に、神羅天征の威力は落ちていた。 

 

「……」

 

 黙するペインへ、ナルトは再び特攻する。

 ペインが両腕を突きだして黒棒を射出する―――それを感知したナルトは、先に体を僅かに動かして、黒棒の軌道から体をずらす。

 そしてナルトの感知通りに黒棒が放たれ、それはナルトに当たることなく、誰もいない空間を過ぎ去った。

 

 ―――木遁。

 

「螺旋丸―――!! ―――な……っ!?」

 

 雄たけびを上げて突撃するナルトは、ペインの身体から飛び出した無数の棘を視認する。

 体中から飛び出た鋭利な棘。ペインの身体は、まるでウニや栗の殻のようだ。

 

 ―――死。

 

 正面の棘は螺旋丸によって砕け散るだろう。螺旋丸の陰に隠れた腕や肩、頭はきっと、守られる。だが、それ以外の場所は、串刺しに―――。

 

「―――土遁結界・土牢堂無!!」

 

「―――影真似の術!!」

 

 突如、ペインを覆うように現れた土のドームと、ナルトの足元へ伸びて来た影。

 ペインの姿は土のドームの中に隠され、ナルトの身体は、影に縛られ、その動きをぴたりと止めた。

 

「―――ふう。間一髪ってとこか……」

 

「―――シカマル!? 次郎坊の兄ちゃんも!!」

 

 ナルトの窮地に駆けつけたのは、次郎坊とシカマルだった。二人はナルトの傍に降り立つ。

 

「オレ達だけじゃねェよ」

 

「―――ナルトォ!! 噛めェ!!」

 

「……亀? 何言ってんだってばよ、香憐」 

 

 駆け寄って来た香憐は、その袖をめくり、綺麗な腕(・・・・)をナルトへと差し出す。しかしナルトは意味が分からず、首を傾げた。

 鋭く目元を吊り上げた香憐はナルトの頭を掴み、自分の腕にその顔を押し付ける。

 

「なにが亀だよ! 噛めってんだオラァ!!」

 

「なにを―――っ?! あれ!?」

 

「あふんっ!!」

 

 香憐の腕に顔を押し付けられた状態で喋ったことで結果的に歯を立ててしまったナルトは、その体にチャクラがみなぎるのを感じ、間抜けな声を漏らした。

 そして香憐が何故か艶めかしい声を漏らした。

 

「―――蜘蛛戦弓・凄烈」

 

 突如―――香憐の身体を突風が襲った。

 

「ひえ」

 

 香憐の身体に掠るほどの距離で、凄まじい勢いを以て通り過ぎたのは、白く巨大な矢。凄まじいまでの強弓はペインが閉じ込められているドームに直撃し、ドームが崩壊する。

 

「これは―――」

 

 ナルトが瞠目する。

 

「き!! 鬼童丸の野郎ォ!! ざっけんなコラー!! びっくりするだろうがぁ!! (ちっとちびっちゃった……)

 

 遠方。崩壊を免れた、木ノ葉隠れの里の最深部。火影岩の上で巨大な弓を携えてこちらを―――ペインを睨みつけている鬼童丸へ、香憐は届かぬ苦情を吠えた。

 

「「遊んでんじゃねェぞボケ」」

 

 香憐がマイペースを崩さないのを見かねたのか、現れた右近左近が苦言を呈す。

 

「今のは、凄い一撃です……!! やったのでは!?」

 

「侮るな。……健在だ」

 

 さらに駆け寄ってきたのは、リーと、白眼でペインを見やるネジ。

 ナルトはネジを見て目を逸らし、俯いた。

 

「ネジ……。すまねェってばよ、オレ―――」

 

 ナルトはネジの血縁であるヒザシ、ヒアシの死を想い、何もできなかった自分を恥じて、謝罪を口にする。

 だがネジは静かに首を振って、白眼をペインの方へと鋭く向けた。

 

「ナルト、謝るな。敵は暁だ。それに―――父さんはお前や……里を守るために戦ったんだ。オレは父を―――誇りに思う」

 

 痛みを耐え忍び、里を守らんと奮起するネジを見て、ナルトの中の何かが燃える。しかしこの場にいないヒナタは―――きっと、父の死に、耐えられなかったのだろう。

 

「―――チョウジ! 迂闊な特攻はやべェぞ。棘塗れになられちゃ、肉弾戦車でもハチの巣だ。めんどくせェが……タイミングを合わせろ。キバもだ。体術使いは、迂闊に近寄るな! 機を待て!!」

 

 シカマルが遠距離攻撃法を持たない者達に、釘を刺す。

 次々に駆ける里の家族達。ナルトの周囲には、同期の者達だけではなく、たくさんの人が集まっていた。

 

(―――ナルト!)

 

(―――いのの父ちゃん? 無事だったのか)

 

 頭の中に響いた声に、ナルトが内心で喜びの声をあげる。

 

(ああ。フガク殿の決死の抵抗が―――神羅天征の範囲を狭めてくれたようだ。火影邸周辺は無事。作戦本部も残っている。術式の復旧が遅れてすまない。そちらはどうなっている? 情報をくれ)

 

 そして、ナルトは語る。孤児院の兄弟たちを含め、生き残った中忍衆とペインの交戦になること。ペインが恐らく―――木遁を使うこと。

 

(―――木遁!? 輪廻眼だけでなく木遁まで―――いったい、どうなっているんだ!!)

 

(……わかんねェけど、やるしかねェ)

 

 ナルトの語った、今しがたの交戦の中で得られた情報は、ただちに他の忍者達にも共有される。

 木遁―――すなわち、五代目火影が操る、最強の術。この場に居合わせた者達に、緊張が走る。だが、やるしかない。敵がどれ程強大でも、敵がどれほど恐ろしくとも―――ここで負ければ、すべてが終わる。

 

「あれ……」

 

 しかしナルトは、集まった忍者達が、中忍クラスの忍者までしかいないことに気づく。うちは警務隊や、旧家に属し、戦争に参加しなかった壮年の忍者たちの姿が無い。

 

「他の人たちは……?」

 

「……。奴の神羅天征、だったか……」

 

 ナルトの疑問に、シカマルが答える。

 

「―――あれに巻き込まれる直前に、あのバケモン(口寄せ獣)ども、一斉に爆散しやがったんだ。爆弾を……体に埋め込んでやがった。その巻き添えを喰らっちまって……バケモンと戦ってた人たちはみんな―――オレの親父も、負傷した。オレ達を庇って……」

 

「……そうか」

 

 ナルトは地面の中を掘って身を隠し、神羅天征から免れた。本来ならば地面すらも深く抉っていただろうその範囲が狭めてくれたのは、神羅天征に立ちむった勇敢な木ノ葉の忍者達のおかげだ。ここに立つ者は皆若いが―――それぞれが、今この戦いで、何かを託されて来た者だった。

 

「―――正直、ビビってた。あいつは、マジのバケモンだ。うちは警務隊も、日向一族も歯が立たなかった相手……。オレ達に勝てるとは、到底思えねェ。だが……」

 

 そしてシカマルは、ナルトを力強く見つめた。

 ナルトの戦っている姿は、確かに皆に勇気を与えてくれた。

 

「やんなくっちゃな。ここは、オレ達の家だ。めんどくせーなんて、言ってらんねェ」

 

(―――五代目がじきに到着する!! 時間を稼げ!! だが、死ぬな!!)

 

 この場にいる者達の脳裏に、いのいちの声が届く。本当は現場に駆け付けたいだろうに、その役割がゆえに離れられない口惜しさを、いのいちは押し隠した。各々の役割を果たせなければ、『奴』は倒せない。

 

「木ノ葉隠れ―――行くってばよォ!!」

 

「「「「―――応!!」」」」

 

 ナルトの号令と共に飛び出した忍者達。対するペインは一人だけ。卑怯とは言わせない。里をむちゃくちゃにし、眠れる龍の逆鱗に触れたのは、貴様の方からだ。

 瓦礫を押しのけて現れたペインは、その腹部に風穴が開いていた。しかし、血は出ていない。そしてじわじわと、その傷が塞がっている。

 

「―――化物か」

 

 誰かが言った。その姿はもはや人間のそれではなく、樹木の怪物だった。

 

「あ―――」

 

 言葉にならぬ声が、ペインの身体から漏れ出した。

 悲痛、後悔、辛苦―――重い音だった。

 

(なんなんだってばよ、こいつ―――)

 

 そのおぞましい姿に、僅かばかりの怯えを抱いたのを押し隠し、ナルトはペインに襲い掛かった。

 発動される神羅天征。しかしその衝撃は弱々しく、数人を僅かに弾き返すだけだった。

 無茶苦茶に振り回される手足。その程度の攻撃には、当たらない。だが、そこから発射される『挿し木』によって、何人かの忍びが貫かれた。

 それでも、皆は足を止めない。分かっているのだ。今を逃し―――回復を許せば、逆転され得る。再び大規模の神羅天征を使われれば、今度こそ木ノ葉が滅びてしまう。

 うちはフガクを始め、里のために戦った英雄達の死を無駄にしないために―――今どれだけの屍を越え、痛みを抱こうと、必ず殺し切る。

 

 影縛り、肉弾戦車、粘着糸の弓、金剛封鎖、八卦空掌、土遁の砲撃、忍具の嵐、高速連続正拳による空気砲の雨、音幻術での足止め、火遁、水遁、風遁、様々な攻撃がペインへと襲い掛かった。

 ペインは血の涙を滂沱と流しながら、再び神羅天征を強制発動。周囲のすべてを吹き飛ばす。

 

「―――どう、なってんだ。あいつ、疲れてねェのかよ……」

 

 吹き飛ばされ血に叩きつけられたナルトが、膝に手をついて己の身体を支えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 そもそも、片腕は完膚なきまでに破壊したはずなのだ。骨は砕け、激痛が走っているはずで―――なぜそんなふうに、十全に動かせているのか、理解が及ばない。

 その隣で立ち上がったネジが、「いや……」と首を振る。

 

「体中の点穴の様子がおかしい。あれは―――リーやガイ先生が八門遁甲を解放した時の挙動に近い」

 

「……つまり、どういうことだってばよ」

 

「……恐らくだが。奴は、リミッターを外している。後のことなど、まるで考えてないんだ。今ここですべてを―――命を使い潰して、戦っている」

 

「―――っ! なんで、そんな―――。なんで、そこまでして……。なんでそこまでして、何で木ノ葉を狙うんだってばよ!?」

 

「知らん。だが、狙いは分かる。奴の目的は―――恐らく、木ノ葉の……滅亡だ」

 

 なにがペインをそこまで駆り立てるのか。

 ナルトは僅かに恐怖を覚える。自分の命を使い潰しても為し遂げんとする『憎悪』か―――。

 ペインが笑いを零す。それはネジの推測が正しいが故のものか、それとも―――。

 

「それに―――。なんだ……? あの異様なチャクラは……。一つ、二つ……三つ? これは―――」

 

 ネジが訝し気に白眼を細める。

 

「……外されたリミッター。痛みを感じていないかのような体の動き。チャクラの異様な挙動。三種類のチャクラ―――」

 

 そして何かに気づいたように、目を見開いた。

 

「―――そうか、そういうことか!! ナルト、分かったぞ―――!! 奴は―――ッ!!」

 

 ―――黒棒が、ナルトの横を通り過ぎた。

 

「―――ッガ」

 

「ネ―――」

 

 ナルトが視線を隣へ向ける。

 ナルトの横を通り過ぎた黒棒は―――ネジの胸部を、貫いていた。それは、これまで放ったペインの攻撃で―――最速の一撃だった。

 

「ネジィいいいいいいいい!!!」

 

 血の噴水をあげて、ネジは仰け反りながら地面へと倒れ込む。

 リーがネジに駆け寄り、その体を抱きしめる。こふり、と弱弱しい呼吸と共に、ネジの口からは血が流れ落ちる。

 それを見て嘲笑う(・・・)ように、ペインは言った。

 

「―――痛みを知れ」

 

「―――てめェが知れ!! クソ野郎がァあああああ!!」

 

 ペインの言葉に激昂したナルトは、こいつだけは―――こいつだけは殺さなければならないと、ペインへと飛び掛かった。その体から溢れ出る九尾のチャクラは、これまでにないほどの多量。封印術式が緩み、ナルトの中の九尾は外界へ出るための時を待つ。

 

「馬鹿、ナルト!! 戻れ!!」

 

 シカマルの制止の言葉も届かず、九尾チャクラによって伸びた腕を振り抜いた。

 

「―――ゴ」

 

 無我夢中で駆け出して、振るわれたナルト拳は―――緋色のチャクラによって勢いよく伸び、ペインの頬を殴り抜ける。

 

「やった―――!?」

 

 その凄まじい威力をもろに受けたペインを見て、木ノ葉の誰かが言葉を零す。

 尾獣チャクラの拳は、ペインの身体をぐしゃりと潰すに後方へと押し込んで―――まさか、と誰もが思い―――それが、『まさか』だったことを知る。

 

「―――っ」

 

 ナルトの伸ばしたチャクラの腕は、ペインの身体の中へと、吸い込まれていった。

 

「チャクラの吸収―――。やべェ! 回復される!! ナルト!!」

 

「く―――ッ。おおおおお!!!」

 

 

 ナルトはあらん限りの力を込めて踏ん張った。これ以上チャクラを取られてはならないと、全力を以て引きずり戻す。

 しかし、ペインは欲張らなかった。吸い取れる分だけ吸い取って、呆気なく尾獣チャクラの腕を離した。

 

「う、あ―――」

 

 引っ張られる力が突如として無くなったことにより、ナルトは綱引きの要領で、自らの力によって後方へ跳ね飛び、尻餅をつく。

 

「―――は、ぁぁあああああ」

 

 ペインの吐息。その身体が不気味に蠢く。

 九尾のチャクラがペインの身体に浸透し、急速に回復を始めているのだ。

 木遁は、尾獣チャクラに呼応し、活性化する性質を持つ。特に最も強大とされる九尾のチャクラは、木遁にとっては、最高の栄養素となる。無論そんなことはこの場にいる誰も知らないことであったが―――しかしそれは、誰が見ても明らかなものだった。

 

「―――!!」

 

 悲鳴のような、誰かの号令。

 ここで殺せと、これ以上の再生をさせるなと、本能が鳴らす警鐘のままに叫んだ。

 

 ―――神羅天征。

 

 回復した肉体。始めから滾っていた精神。

 奪い取ったチャクラが、肉体と精神を癒す。そして癒された肉体と精神が、新たなチャクラを作り出す。

 木ノ葉の忍者たちは弾き飛ばされ―――ペインは神羅天征を保ったまま宙へと浮かぶ。

 そして神羅天征の矛先を地上へと集中し、不可視の半円を以て、再び地上を押しつぶさんと開放した。

 

「ペィィイイイインッ!!」

 

 ―――木遁・屋台崩しの術。

 

 突如―――凄まじい咆哮とともにペインの頭上に木の巨人が出現し、ペインを押し潰さんと落ちて来る。その木人の頭の上には―――。

 

「―――おっちゃん!?」

 

「―――五代目!!」

 

「火影様!? 火影様だ!! 火影様が来てくださったぞ!! みんな! 火影様だ!!」

 

 畳間の、そして畳間が生み出した木人の姿を見た者が一様に騒ぎ出す。遠方から戦いを見守っていた木ノ葉の者達も同じだ。その胸には希望の温もりが染み渡った。

 

「―――千手畳間」

 

 ペインは神羅天征の力を上空へと集中し、木人を押し返す。

 

「―――仙法・鉱遁」

 

 木人の身体がにわかに金剛石へと変貌していく。

 その上にいる畳間の顔には、隈取。見開かれ、射殺さんばかりの瞳が、ペインへと向けられる。

 

「―――木遁・樹界降誕」

 

 地面から巨大な木々が出現する。

 木々はナルト達若者を匿うようにその周囲を覆い、ペインへは鋭い槍と化してペインへと襲い掛かった。

 

 ペインはたまらず飛び逃げる。金剛石の巨人は反発する力が無くなり地面へと落ちていくが、畳間はそれを消し、天高く成長する木の幹に着地。ペインを追って飛び掛かる。

 瞬時にペインに肉薄した畳間が拳を振るう。

 呆気なく殴られたペインが吹き飛んだ。

 畳間はあまりの手応えの無さに一瞬戸惑うが、しかし追撃のために駆けだした。

 

 一発、二発、三発と拳を叩き込む畳間と、血を巻き散らしながらそれを受けるペイン。

 しかし畳間の眼がペインのチャクラの動きを感知。瞬時に畳間は後方へ跳躍し、畳間が居た場所には巨大な棘が生み出されていた。

 樹界の中にて、互いに向かい合う二人。

 

「……」

 

 激しい怒りを冷たい理性で押し殺し、畳間はペインを鋭く見据えた。

 滲み出るそのチャクラは、全力には程遠い。だが、やぐらの―――人柱力のチャクラを限界すれすれまで譲り受けた今、手負いのペインは畳間の敵ではない。

 全力では無くても、確実に『勝てる』まで、チャクラを回復する必要があった。畳間が遅れたのは、そのためだ。ただ飛雷神の術で帰って来ることは出来た。だが、疲労困憊のまま戦い敗北したのでは意味がない。火影の役割とは、里を守ることもそうだが、敵を打ち倒すことにもある。

 敵を生かしたまま畳間が倒れれば、それこそ里が滅びることになる。畳間は己の不甲斐なさに噛み千切るほどの悔しさを感じ、しかしそれを耐えて、戻って来た。確実にペインを抹殺するために。

 

 ―――瞬身。

 畳間がペインに肉薄する。

 生み出した螺旋丸をペインの腹に叩きつける。

 

「―――木遁・挿し木の術」

 

 螺旋丸を貫いて、挿し木が掌の印から飛び出した。ペインの身体を串刺しにするが―――その成長が行われない。

 

(爺さんの細胞―――)

 

 畳間のそれを上回る、柱間細胞の木遁適性により、畳間の挿し木の成長が阻害されている。だが、その体を串刺しにしたことには変わらない。

 

「焦っているなぁ……?」

 

「な―――」 

 

 ぞくり、と畳間の背筋に寒気が走る。

 体を串刺しにされ、体中を負傷してなお、ペインは嘲笑を浮かべているのだ。狂っているとしか思えないその姿は、異様に尽きる。

 

「―――っ」

 

 ペインの身体のチャクラの動き―――攻撃が来る。

 それに気づいた畳間は再び飛び下がる。

 

「よく見えるのも、良し悪しだ」

 

 しかしペインは攻撃の動作を行っただけだった。畳間が離れたことで自由になったペインは、神羅天征を発動し、頭上を覆う木々の蓋を破壊しながら、空へと勢いよく昇っていく。

 

「―――」

 

 ペインが手を頭上へ掲げ、何かを呟いた。

 

「―――飛雷神突き」

 

「―――カッ」

 

 突如―――ペインの背後に現れた畳間が、その背中から刃を突き立てる。

 畳間の刃は、正確にその心臓を貫いた。

 

「そうか―――やけにあっさり離れたと思えば……。すでにマーキングを……」

 

「……」

 

 痛みを感じていないのか、と思えるほどの流暢な口調だった。

 畳間は冷たくペインの後頭部を見つめ、刀を深く押し込みながら、捻じる。ペインは血反吐を吐き散らしながら、畳間と共に地上へと落ちていく。

 

 畳間は近くの木々に飛び移り、地面へと着地。

 ペインはどさり、と音を立てて、地面に横たわった。

 

「……」

 

 畳間は横たわるペインを冷たく見つめる。

 

「おっちゃん!!」

 

「五代目!!」

 

 ナルトとシカマルが駆け寄ってくる。

 畳間はナルトを見て困ったような表情を浮かべる。別れ際が別れ際だったためだ。あの行いが間違いだったとは思っていないが、少しばかり気まずい。

 だが、畳間はナルトの中のチャクラに気づくと、眉を顰めた。僅か(・・)だが、九尾のチャクラが漏れ出している。

 

 しかしナルトはそんなことは関係ないと、畳間に縋りつくように言った。

 

「おっちゃん! ネジがやられた!! 死んじまう!! 助けてくれってばよ!! ネジが―――!!」

 

「どこだ、案内を―――」

 

 ネジのもとに駆け付け、湿骨林の大蛞蝓を呼び出し、治療する。ネジがどういう状況かは分からないが、生きてさえいれば、延命は出来る。そしてすぐにシズネの下へ連れていけば―――。

 

 そこまで考えて、畳間が勢いよく振り返る。

 ペインの気配が僅かに動くのを感じ取ったのだ。

 確かに僅かな息はあったが、あれだけの傷。いくら再生能力を高めていたとしても、その死から逃れられるものではない。

 

「―――ようやくだ。ようやく、『時』が来た。柱間細胞(アシュラのチャクラ)を取り込んだ長門の抵抗は激しかったからな……。よく、死ぬほどに(・・・・・)弱らせてくれた。礼を言うぞ、イズナ(・・・)

 

「何故、貴様がその名を―――。いや、この声―――。そうだ、この声は―――」

 

 ひび割れたようなペインの声。畳間は一度だけ、遠い昔に―――一度だけ、聞いたことがあった。

 呼び起されるのは、かつて、畳間が闇に堕ちかけた際の記憶。『闇を見つめるための瞳』を持ってきた―――黒い影。

 

「―――貴様、ゼツ(・・)か!!」

 

「可哀そうな長門……。操られただけなのに、こんな目にあわされて」

 

 楽しそうな嘲笑を晒しながら、不可視のベールが剥がれ落ちる。

 日向史上最高の才能と謳われる、ネジの白眼でしか見破れなかったその擬態―――死に体のペインの身体を覆っていた黒ゼツが、姿を現した。

 

 長門(・・)の身体が、無理やりに動かされる。仰向けに倒れ伏す長門の身体が、腕の前で指を組んだ。

 

「―――」

 

 何をする気かは分からない。だが、絶対に止めなければならない―――そのような警鐘が畳間の中で鳴り響き、畳間はすぐさま長門の息の根を止めようと駆けだそうとして―――目の前が、真っ暗に染まる。

 

「が―――ッ。ぐ……ぁ……ッ!!」

 

「おっちゃん!?」

 

「五代目!?」

 

 そして、突如として畳間の眼球の奥を襲った激痛。

 そのあまりの痛みに、畳間は片手で両目を押さえつけるように覆い、小さく呻き声を上げて、蹲った。

 

「ただで永遠(・・)など、くれてやるわけがないだろうが」

 

 ゼツがあざ笑うように言った。

 

「馬鹿、な―――。呪印は、解除した……はず―――ッ」

 

 しかし畳間は、この永遠の万華鏡に施されていた呪印にはとうの昔に気づいていた。保険、だったのだろう。万が一、万華鏡だけ持ち逃げされたときのために、その視力を奪うための呪印。

 しかし畳間は封印術に関しては、卓越した才能を持つ。自身の瞳に施されたその呪印には早い段階で気づき、その解除は済ませていたのだ。

 

「二重の封印術だ。眼球ではなく、視神経の奥に、小さく仕掛けておいた。普段には何の影響もない。ただ痛みを生み出すだけのその場しのぎだが―――充分だ」

 

「くッ―――、ナルト! シカマル!! ペインを殺せ!!」

 

「さあて―――。ほら、いい天気(・・)だぞ」

 

 畳間の言葉に従い構えるナルトとシカマルに、しかしペインは楽しそうに笑った。

 

「なにを―――。シカマル、上だ!! おっちゃん、上に!!」

 

「なんだ、ありゃ―――」

 

 ナルトが何かに気づき上を見上げ、叫んだ。

 シカマルはナルトに言われて上を見上げて、呆然と立ち尽くした。力なく、手がだらんと下がる。

 二人の視線の先には―――月明かりに浮かび上がった、巨大な隕石。

 

「……隕、石。こんなの、どうすれば―――」

 

「―――終わった」

 

 絶望するナルトとシカマルに、ゼツは声をあげて笑った。

 

 

「ぐ……ッ!! ナルト!! このクナイを、空に―――」 

 

 畳間が差し出したクナイが、畳間の愛用する、飛雷神の術のマーキングが施されたものだと気づいたナルトは、それを引っ手繰る様に受け取ると、全力で隕石へと投擲する。

 

「―――刺さったってばよ!!」

 

 ナルトの叫びと同時に、畳間の姿が消える。

 眼球の痛みを堪え、隕石の重みを体に感じながら、畳間は突き刺さったクナイに触れ、チャクラを練り上げ、術を発動する。

 

(これだけの規模と質量―――。飛雷神の術では無理だ。ミナト―――。力を貸してくれ)

 

 畳間の握るクナイを中心に、空間の(ひず)みが発生する。落下する隕石は、その空間の歪みへと、ゆっくりと呑み込まれていく。

 

「―――あれは、四代目の……」

 

 突如として姿を現した隕石の姿に腰を抜かし、絶望と共に空を見上げてた木ノ葉の民が、空間に生み出された巨大な時空間結界を視認し、声を震わせた。

 それは恐怖ではなく、安堵のそれ。五代目火影が、里を守っている。そして、五代目火影なら、あんな隕石など、対処してくれる―――そんな、信頼ゆえのもの。

 

「お……ッ、おおおおお―――!!」

 

 一瞬でも気を抜けば、時空間結界が綻び、残る隕石が里に衝突する。そうなれば、地下の避難所を含め、今度こそ里が消滅することになる。

 飛雷神の術で里に戻り、変わり果てたその姿を見て、畳間は己の不甲斐なさを痛感した。

 うちはと日向を始め、名家の長は里にいた。すなわち、並の上忍数十人に匹敵するだけの戦力を残しての不在だった。そして、残る暁―――ペインは手傷を追って逃走し、小南のあの悲痛な叫びが真実ならば、当分は隠れ潜み、姿を現すはずが無いと踏んでいた。仮面の男はガイが、そしてガイを追うイタチに任せていた。

 仮に仮面の男に撒かれても、すぐにガイは里に戻ろうとするだろうし、そんなガイと接触すれば、イタチから連絡が来るはずで―――そうなれば畳間はすぐにでもイタチ達を回収し、里で防衛に回れたのだ。

 その場合は、飛雷神の術のぶんのチャクラさえ回復できれば、それでよかった。ガイとイタチだけでも里に連れ戻せれば、二人がペインを打倒してくれる。畳間は戦えなくとも、里は守り抜かれていた。そしてそうなれば、若き時代の到来―――世代の交代を皆が感じただろう。そうして、五代目火影の時代は―――幕を閉じる。

 畳間は有事の際のために、防衛の策も、その準備も、正しく張り巡らせていた。

 

 そして―――小南のあの叫びは、確かに真実だった。ペイン―――長門は確かに、畳間の読み通り、潜伏を選択するつもりだった。また一から『夢』へと向かうために、まずは柱間細胞の適合を優先し、隠れ潜むつもりだったのだ。そしてガイやイタチから連絡がない以上、二人は未だ、仮面の男の追跡を続けられているということ。

 

 ―――ただ見落としたのは、ゼツの存在。その目的は不明。だが、これで分かった。ゼツは決定的に、暁―――すなわち、『長門』と異なる目的を以て動いていたのだ。

 

(―――ぬかった)

 

 確かに、やるだけのことはやっていた。だがそれでもなお、見通しが甘かったがゆえの、結果だ。『暁』を、僅かに侮った。

 それがこの悲劇を生んだのならば、己が命を賭してでも、これ以上の狼藉は許さない。

 

 ―――そして、隕石が完全に姿を消し、里の者達は歓喜の雄たけびをあげた。

 

 ―――輪廻転生の術。

 

 その隙に、ゼツが術を完遂させる。

 

 ―――静かに横たわる、樹界降誕の木々―――その最も高い場所に、いつの間にか棺が一つ、立っていた。月明かりに照らされたその棺は、いやに古ぼけている。

 

 直後―――棺桶の蓋が蹴破られ、吹き飛んだ。立ち上った煙。人々は何が起きたのかと、注視する。

 集まった人々の視線の中―――徐々に晴れていく煙の中から、ゆっくりと歩み出る人影。

 

「―――やっと、か。長門のガキを上手く成長させたようだな」

 

 いやな静寂が、里全体を覆った。小さな声であったのに、その者の声には、里全体に響くような力強さと、威厳があった。

 

 その人影の正体に気づき、皆が息を呑む。老人の中には、生前のその者を知っていて、蘇って来た恐怖に、震えあがる者もいた。

 それは、木ノ葉の者であれば、誰もが知っている人物であった。アカデミーの教科書にも写真が載っている、『終末の谷』の二つの石像―――そのモデルとなった里の創設者たち、その片割れの忍び。

 

 ただそこに立っている。それだけで滲み出る威圧感と、それに晒される人々の内に湧き上がる恐怖は凄まじかった。離れていても、『その者』に意識を向けられただけで、息をすることを忘れさせられる、圧倒的な恐怖。本当に、ただそこにいるだけだというのに―――ゆえに、人々は理解させられた。『その者』が、次元の違う存在だということを。

 人の大きさをした巨人。あるいは―――神。

 

 ごくりと、人々が緊張と恐怖に唾を呑み込む音が鳴った。

 

「―――ゼツか」

 

 『その者』の傍の樹から、にゅ、とゼツが生えた。ゼツは手を差し出し、握っていた掌を開く。その手には―――一対の輪廻眼。

 『その者』はゼツから輪廻眼を受け取ると、自らの目―――その空洞へと嵌め込み、目を開くと、己の眼を確かめるように、周囲を見渡した。そして何かに気づいたように、目を丸くする。

 

「―――柱間の顔岩……。ということは、ここは……木ノ葉隠れの里か。―――ふっ……。お前(ゼツ)も洒落た真似をする。オレにまず初めに見せる景色が、『ここ』とはな」

 

 その者は里の惨状を見て目を細め、呆れた様に、ふんと鼻を鳴らした。

 

「哀れな姿だ。やはりお前の『夢』は……、誤りだ」

 

 『その者』は柱間の顔岩に、嘲笑と、憐れみを含んだ視線を向ける。

 

「……? あれは―――」

 

 おや、と『その者』は何かに気づいたように、己の下を見つめた。そして、嬉しそうに笑った。

 その笑みの先には―――。隕石をどこかへと飛ばし、地上に降りた―――千手畳間の姿。

 

「本当に……、この日が来ることを、どれほど待ち望んだか……。ようやく……、ようやく会えたな―――イズナよ」

 

 笑みを浮かべ、腕を組み、居丈高に見下ろすその者を見上げ―――畳間は震えあがるほどの絶望を呑み込んで、力強い視線を返す。

 畳間はその者を、よく知っていた。その性格も、その姿も、その―――強さも、

 肩で大きく息をし、疲労で震える膝を抑えつけ立ち上がった畳間は、壮絶なる覚悟を抱き―――『その者』の名を、口にした。

 

「―――うちは、マダラ……」

 

 名を呼ばれた『その者』―――すなわち、うちはマダラが、笑みを深める。

 

 ―――木ノ葉隠れの夜は、まだ……終わらない。


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