カメラと棒付きアメと   作:クロウズ

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〈2年生編〉
1話目


「鈴ちゃーん、行くよー」

「ま、待ってくれ。すぐ出るから」

 

 

 入学式から3日経った今日。この日もまた鈴ちゃんと一緒に登校する。正直言うと、気まずさのあまり1人でさっさと行くんじゃないかと思ってたけど、どうも吹っ切れたみたいだ。

 あの時の鈴ちゃんを思い出していると、準備の済んだ本人が出てくる。何に戸惑ってたのか。

 

 

「おはよう、火野―――あ、いや、黒兄」

「うん、おはよう鈴ちゃん。それじゃあ、行こっか」

「う、うむ……」

 

 

 あの件以降、今みたいにたまに間違えるけど昔みたいに普段から黒兄呼びに戻ってくれた。うん、やっぱりこっちの方がいい。

 

 

 

 

 

「おーっす」

「おはよう火野くん」

「おー、おはよーさん」

 

 

 クラスメイトと軽い挨拶を交わして席に着く。……っくぁ、眠…。

 

 

「ずいぶん眠そうね火野くん」

「……ん、望月か。おはよ」

「おはよ。昨日夜更かしでもしたの?」

「……あー、まぁちょっとな」

 

 

 昨日はネト麻に熱中し過ぎたんだよな。相手は勝ち越した状態で落ちたからリベンジ出来ずじまいで、不完全燃焼だから長々と相手探してたら遅くなった。おそるべしのどっち。

 

 

「で、結局寝たのは1時だった」

「そんなだから、授業中に寝たりするのよ?」

「それは解ってるんだけどさ……」

 

 

 一度熱中するとなかなか抜け出せないんだよ。お前もあるだろ、そういうの。

 

 

「そうだけどぉ。それでも、そんな夜遅くまで起きることはしないわよぉ」

「むしろお前の場合夜遅くまでだったら怖いっつーの」

「むーっ、それってどういう意味?」

「日頃の行いから考えてみろ」

 

 

 額を弾いて、机に突っ伏す。………あーやべ、これ……寝そ………ぅ………ぐぅ……。

 

 

 

 

 

 

 1限目から寝て過ごし、眠気も覚めた頃にはもう昼休みだった。最初は望月や後ろの席のやつが起こそうとしたらしいんだけどまったく起きる気配もなく、先生はいないのがほとんどだからと諦めたらしい。……そんなにばっくれてたのか、俺。少し反省すべきか。

 っと、今日弁当持ってきてないんだった。購買行かなきゃ。

 

 

 

 

 

「おや、火野サン」

「お?」

 

 

 購買まで急いで来てみれば、ルメールに会った。今日はこいつもこっちだったのか。

 

 

「火野サンも購買ですカ?」

「メロンパン買いにな。ここのメロンパン、ビスケットのサクサク感とパンのふんわり感のバランスが取れててさ、結構クセになるんだよ」

「オー、それは美味しそうですネー。ワタシは人気と言われてる焼きサバパンを買おうと思ってまスー」

「あぁ、あれ男子がよく買って…………なんだって?」

 

 

 耳がおかしくなった、という訳じゃないな。単にこいつが間違えたんだろう。

 

 

「焼きサバパンでス」

「いくらここでも、そんなパンはない。焼きそばパンだろ?」

「おー、それでスそれ。ぜひ一度食べてみようと思ってましター」

「まぁ、それはいいけど。次お前だぞ」

 

 

 こっちを向いてた所為で気付いてなかったようだから前を向かせてやる。

 ルメールが頼んでる間、他にどれを買うか考えてるとまた焼きそばと焼きサバを間違えたから訂正してやる。この短時間で二回も間違えるなよ。

 

 

 

 

 

 昼はメロンパンを2つ買ったけど、それがラストだったらしく、俺の次にいた女子が買えずにショックを受けてた。目に見えて落ち込んでたから、その子に1つ譲るとすごく喜んでた。そんなにメロンパン好きだったのかな、あの子。

 それで、俺が今どこにいるかと言うと。

 

 

「ごめんなさいね、少し待たせて」

「……忙しそうだな、新聞部は」

 

 

 放課後、現新聞部部長の神楽坂(かぐらざか)砂夜(さや)に呼ばれて、その部室に来ている。……来ているというか、半ば拉致されたようなものだった。写真部の部室に向かってたらいつの間にかこっちに来てた。どうしてこうなった。

 写真部と新聞部はなんだかんだで交流が多かったから、神楽坂とは顔見知りではあった。だからって拉致するのはどうかと思う。

 

 

「で、今度はどんな無理難題を押し付けるつもりだ?」

「そんな警戒しないで。それに、今回は部長同士の交流のようなものよ」

 

 

 訝しむ俺の前に、無害をアピールするかのように紅茶を置く。だったら普通に連れてくればいいだろうに……。

 

 

「貴方にはあれくらいが丁度いいと思ってね」

「まったくこれっぽっちも嬉しくない評価をありがとよ。……ん、美味いな」

 

 

 欲を言えば角砂糖をあと2つ欲しかったけど。そこは仕方ないか。

 

 

「口に合ってよかったわ。あ、そうそう。少し、貴方に頼みたい事があるのだけれどいいかしら?」

「…………。お前といい月海原先輩といい、差し出した物を口にしてから頼み事をしてくるのは何なんだ?」

 

 

 断りにくくさせる為だとしたら悪どすぎるぞ。

 

 

「気にしないで。新入生の中から、面白そうな子や気になる子を見付けてくれるだけでいいから」

 

 

 ……どんな無理難題が来るかと思ったら、意外とまともだった。一時期何故か新聞部の手伝いをさせられたりもしたからな。

 

 

「それくらいなら別にいいけど。ちなみに、断った場合は?」

「ん?貴方の中等部の頃の写真を新聞に載せるだけ―――」

「そぉい!」

 

 

 そう言って神楽坂が出した写真を見た瞬間に奪い取って破り捨てる。なんか去年も、出された物をすぐに奪い取ったことあったな。って、それよりも!

 

 

「何でお前がこの写真を持ってるんだよ……!?」

 

 

 聖櫻に通ってる生徒で知ってるのは鈴ちゃん以外いないはずだぞ……。それなのにどうしてこんなのがあるんだ……!

 そんな俺の狼狽えてる様子を見てSっ気を含めた笑みを浮かべながら、神楽坂は紅茶を飲んでいる。くそっ、むかつく。

 

 

「まぁ、安心して。引き受けてくれたのだから、新聞に載せるなんてことはしないから」

「最初からしようとしないでくれ……」

「ふふ、火野さんはからかうと楽しいわね」

 

 

 俺はおもちゃかよ。とにかく、言ったからには絶対に載せるなよ、絶対だぞ?

 

 

「そうやって念押しするってことは、実は載せてほしいってことかしら?」

「違うに決まってるだろ!」

 

 

 どこぞの芸人みたいな捉え方すんな!あと、紅茶ごちそうさまでした!

 破り捨てた写真は集めてゴミ箱に捨て直し、新聞部室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 そして、あの日から大体1週間近く経過して。

 

 

「……今日も部員ゼロか」

 

 

 望月以外、他に誰もいない部室にて突っ伏す。この収穫の悪さは由々しき事態だろうか。やっぱり写真部はマイナーな部なのだろうか。

 

 

「賞を取ったり、色々と実績あるのにねぇ」

「それと同じくらい、お前の悪評もあると思うけどな」

「あーあー聞こえなーい」

 

 

 耳をふさいで聞こえないふりをするな。それ聞こえてるからやってるんだろ。

 

 

「まぁでも、部員が来ないなら来ないでいいんじゃない?やりたい人だけが来るんだし」

「去年の今頃、無理矢理入部させられた気がしたんだけど?」

「ごめんなさい」

 

 

 解ればいい。

 

 

「さて、今日は帰ろう」

「そうねぇ」

 

 

 今日は何もなかったな。神楽坂の頼み事、どうしようか。あの時会った、新体操をやってるらしいメロンパン娘こと椎名(しいな)心実(ここみ)や、ハッキング技術を持った東雲(しののめ)レイは確定として、あと1人くらい、出来れば男子は見付けておきたいな。

 

 

「火野くーん、早く帰りましょ」

「あぁ、悪い悪い」

 

 

 望月に言われて部室から出る。この後は鈴ちゃんを迎えに華道部の部室へ行って3人で帰るようになってる。部活がない時は望月はいつの間にかいなくなってることが多いから、鈴ちゃんと2人で帰る。今でこそ普通に帰れてるけど、最初は鈴ちゃんが気まずそうにしてて会話が続かなかった。あれはキツかったな………。

 

 

「火野くんは部員欲しい?」

「まぁ、そりゃあな。幽霊部員なら捕まえたけど、いないに等しいし」

「私は、まだ2人でいいかな………なんて」

「………」

 

 

 リアクションに困る。どう言えばいいんだよこれ。望月も、恥ずかしがるなら言うなよ。

 

 

「うーん、やっぱり私のキャラじゃないわぁ」

「まったく……」

「ごめんごめん。………あら」

「ん?」

 

 

 校門の所で、鈴ちゃんが待ってた。ただ、1人じゃない。隣にいるのは160後半はありそうな身長の、1年生の男子か。鈴ちゃんにナンパーーーじゃなさそうだな。某忍者漫画の鉢金付けてるし。でも、鈴ちゃんに近付こうとしてる奴なら容赦しない。骨を一本残らずへし折って粉々に砕いてやる。

 

 

「火野くーん、帰ってきなさーい」

「はっ」

 

 

 危ない危ない。危うく勘違いで殴るところだった。

 とりあえず、なるべく警戒しないように鈴ちゃんと合流しにいく。

 

 

「あ、黒兄。望月先輩」

「お待たせー、五十鈴ちゃーん」

「ごめん、ちょっと待たせて。………そっちの男子は?」

 

 

 近くで見て解ったけど、こいつ俺より身長高いな。見た目は悪い奴じゃなさそうかな。鉢金がやたら目につくけど。とりあえず、見た目的には面白そうな男子として神楽坂に報告かな。

 

 

「ん?あぁ、彼は単なるクラスメイトだ」

「初めまして、竹谷(たけたに)サスケです」

「火野霞黒。鈴ちゃんの兄みたいなものだ」

「望月エレナよぉ〜。好きなものは女の子よ」

 

 

 望月、その自己紹介二度とするな。

 それで、礼儀正しそうで悪い奴じゃなさそうな単なるクラスメイトの竹谷、鈴ちゃんと一緒にいるのは何でだ?返答によっては半荘(ハンチャン)を5回ほど付き合ってもらうけど。

 

 

「火野くん、脅し入ってない?」

「黒兄……」

「クラスメイトが1人で突っ立ってたから、暁としては心配でね。最近は不審者とか多いし、こんな小さいのが「あ、馬鹿」へ――――あだっ!?」

 

 

 警告する前に、小さいって言われて怒った鈴ちゃんのローキックが炸裂した。鈴ちゃんのあれはほぼ反射で蹴ってるだろなぁ。

 

 

「あ、望月。鈴ちゃんなだめてて」

「はーい。ほら五十鈴ちゃん、落ち着いてー」

 

 

 鈴ちゃんは望月に任せて、と。大丈夫か、竹谷?

 

 

「き、鍛えてるんで…」

「ふむ。で、さっき言ってた暁ってなんだ?」

「正式名称は中二病青春集団・暁で、青春を常に追い求める猛者達によって結成されてます」

 

 

 ……………。……あぁ、つまり頭ん中が春一色な奴らの怪しげな集団ってことか。これは確実に神楽坂に報告だな。とりあえず害はなさそうだから、あいつのネタ提供に貢献してくれるだろ。うん。

 足の痛みが引いた竹谷はその後すぐに「作戦会議があるから失礼します」とか言って帰っていった。ああいったのは櫻花祭とかそういったイベント事になると無駄にうるさく盛り上がるタイプだろうな。しかも鈴ちゃんと同じクラスってことは、戸村とも同じじゃないか?鈴ちゃんが苦労する姿が想像できるよ……。

 

 

「黒兄……?どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ」

 

 

 心配そうな顔をされたから、頭を撫でてごまかす。明日からも頑張って。

 

 

「??」

「ほんと仲いいわねぇ」

「私からすれば、先輩も黒兄と仲いいと思いますよ」

 

 

 俺と望月のアレは、仲がいいって言えるんだろうか。わっかんねー、基準がわっかんねー。とりあえず帰ったらのどっちにリベンジだ。




 あてーんしょーん、はろはろ~。チュートリアル妖s―――クロウズです。
 小ネタから4日ごとに更新できてるという、なんか吃驚な更新速度です。ええ、驚いてます俺が。次どれだけ間が空くのか怖いです。
 今回登場した新キャラの竹谷ですが、モデルは友人を使わせていただきました。もちろん本人には何も言ってません。ちょっとしたsurprisedriveです。……違った、サプライズです。



それではこの辺で。はらたま~きよたま~。



人物紹介に〈竹谷サスケ〉、〈戸村美知留〉、説明文に〈2年生編〉を追加します

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