メメント・モリ   作:阪本葵

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連続投稿が切れると言ったな。

アレはウソだ。

あ、私はSEED好きですよ!
ルナマリアのオッパイは俺のもの!
マリューさんの熟女ッパイはムウに譲ってやんよ!


第74話 救いを求めるもの、突き放すもの

作戦は失敗に終わった。

 

照秋達は旅館に戻ると、事前に状況の報告を受けていた教員達が出迎え、一夏はすぐに治療のため緊急治療室を設置し処置を行うためにストレッチャーで運ばれる。

その痛々しい姿に泣き叫びながら付き添う鈴。

マドカは一夏を抱えて飛んでいたため一夏の血で汚れていたがそんなことを気にすることなく千冬とスコールの元に向かい報告を行う。

箒は、未だ放心状態の照秋に声をかけ続けていた。

そして、照秋は旅館に着くなりISを解除し力なく跪き項垂れる。

その顔色は真っ青で、唇の色も紫色になっていた。

尋常ではない状況に騒然とするが、駆けつけたセシリアやシャルロット、ラウラ、簪でさえ照秋に声をかけるのに躊躇してしまった。

 

ある程度報告が終わったのだろう、マドカと千冬、スコールが項垂れる照秋の元に向かう。

そして、照秋の目の前で止まり、跪く照秋を見下ろす千冬。

その表情は、怒りもなく、悲しみもなく、能面のようだった。

 

「織斑照秋、今から事情聴取を行う」

 

そう言って照秋の腕を掴み無理やり立ち上がらせる。

 

「千冬さん! あまり乱暴な扱いは……」

 

「黙れ篠ノ之」

 

照秋を強引に立ち上がらせようとした千冬に抗議をすると、千冬はそれを睨んで黙らせる。

マドカも抗議しようとしたが、スコールに止められ、そのスコールは千冬の行動に異議を唱えずただ黙って見守るだけである。

照秋は弱々しい瞳で千冬を見上げる。

その表情はなにも感情が読み取れない能面のようであったが、しかし瞳は怒りに満ちていた。

 

 

 

旅館の教員用に充てられた一室で、千冬と照秋が正対する。

10畳の和室であるため、二人は正座である。

 

千冬は照秋を見下ろすように睨み、対して照秋は背を丸めるように項垂れている。

 

「結淵から報告は受けた」

 

千冬は淡々としゃべる。

 

「織斑照秋」

 

「……はい」

 

名を呼ばれ力なく答える照秋。

 

「何故一夏を攻撃した」

 

ビクッと肩を震わせる照秋。

だが、何も言わない。

 

しばらく無言が続き、痺れを切らした千冬が口を開く。

 

「お前は小さい頃から一夏に暴力を受けていた。それを見抜けなかった私の落ち度はある」

 

いきなり何を言い出すのかと、ゆっくり顔を上げる照秋。

 

「だが、一夏に重傷を負わせるほどの憎しみを抱いていたのか?」

 

「ち、ちがうっ」

 

千冬の言葉に即反論する照秋だったが、声に力がない。

 

「お、俺は、銀の福音に攻撃したんだ」

 

「だが攻撃を受けたのは一夏だ」

 

「俺の目には銀の福音が映ったんだ」

 

「だが目の前にいたのは一夏だ」

 

淡々と、照秋の言葉を否定する千冬。

そこで、照秋はハッとして待機状態のIS、アンクレットを外し千冬に渡す。

 

「これでっ、コレの映像記録を見れば……」

 

冷たい視線で照秋の手に握られるアンクレットを見る。

そして、奪うように取り、立ち上がり部屋を出ていく。

その際、一切照秋を見ることはなかった。

 

 

 

千冬はすぐさま作戦室に戻り、待機状態のメメント・モリを山田真耶に渡し、記録映像だけを抽出するよう指示する。

しばらくして記録映像抽出が完了し、モニタに再生される。

 

映像は、照秋目線で銀の福音と戦う記録だった。

激闘を繰り広げる高次元の戦闘に、真耶は息を呑む。

途中、いきなり海面を見たかと思うと不審船が映る。

そして、突如横からの攻撃を受け画面がぶれる。

そこから画像に砂嵐のノイズが走り、雑音も入り始めた。

それでも戦い続ける照秋は、事を優勢に運んでいた。

 

やがて画面のノイズが酷くなってきたと思ったら、突如ノイズが無くなり、目の前には背中を向けた一夏が映し出される。

そして、照秋は瞬時加速を使い一夏に接近、背後から斬りつけた。

 

再び画面に砂嵐のノイズと雑音ができ、箒の真っ青な顔が映り、映像が終了した。

 

隣では真耶が真っ青な顔でモニタを見ていた。

スコールも、厳しい表情だ。

 

「明らかに一夏を狙っている……」

 

千冬は歯を食いしばり、唸るように声を出す。

 

「でも、白式の絶対防御が働かなかった……何故かしら?」

 

スコールは顎に手を当て、千冬とは別の事を考えていた。

白式の絶対防御が働けば、背後からの攻撃とはいえ気絶程度で済んだはずだ。

なのに、絶対防御が働いた気配が全くない。

様々な可能性を考えている途中、千冬は無言で作戦室を出て行こうとしていた。

 

「どこに行くの?」

 

スコールは顎に手を当てモニタを見ながら背後の千冬に声をかける。

 

「照秋を問い詰める」

 

「何を問い詰めるの?」

 

軽い世間話のような口調のスコールだが、千冬はわなわなと震えている。

 

「なにが福音を攻撃しただ。明らかに一夏を狙っているではないか! こんなすぐにばれる嘘までついて、アイツはそこまで一夏が憎かったのか!?」

 

歯を食いしばり吐き捨てる言葉に、真耶はヒッと悲鳴を上げる。

 

「織斑千冬、よく考えて行動しなさい」

 

未だモニタを見ながら淡々と話すスコール。

 

「おかしい状況はたくさんあった。攻撃によって砂嵐が走る画面、雑音。そして、攻撃を受けた白式の働かなかった絶対防御」

 

「関係ない。この結果が全てだ」

 

千冬は、そのまま作戦室を出て行った。

閉まる襖を一瞥し、小さくため息をつくスコール。

 

「私は忠告したわよ、千冬」

 

スコールは待機状態のメメント・モリを手に取ると千冬に続き作戦室を出ようとする。

 

「あの、どちらへ?」

 

真耶がスコールを引き留めるが、襖を開けた先の廊下には、にこやかにほほ笑む束がいた。

 

「専門家に調べてもらうのよ」

 

そう言って、スコールは束を連れ出て行った。

 

 

 

千冬は再び照秋のいる部屋へ向かう。

外には見張りの教師がおり、千冬を見ると小さく頷く。

だれも来ていないし、照秋が何も騒がず大人しくしているという頷きだ。

千冬はその教師を一瞥すると襖をあけ部屋に入る。

部屋の中では、先ほどと姿勢が変わらず正座のまま項垂れている照秋がいた。

反省してるのか、悔やんでいるのか、しかしその態度が白々しく見えてしまう千冬。

 

「メメント・モリの映像を確認した」

 

千冬は照秋の前に座る。

照秋はゆっくり顔を上げ千冬を見るが、その瞳に力はない。

そして、厳しい線のまま、告げる。

 

「記録映像では、明らかに一夏の背後を攻撃している姿が確認できた」

 

「そんなっ」

 

驚愕の事実に、驚く照秋。

照秋は確かに銀の福音を攻撃したのだ。

そう映ったのだ。

それが事実であり、照秋の真実なのだ。

 

「お、俺は確かに銀の福音を攻撃したんだっ」

 

震える声と、揺れる瞳で千冬に訴える。

あまりにも心が弱ってしまい、何かに縋りたい照秋。

それは、千冬に優しい言葉をかけてほしいのか、慰めてほしいのか、それはわからない。

だが照秋は助けてほしかったのだ。

それほど、人を斬ったという事実と手に残る感触のショックが大きいのだ。

しかし、その心の叫びは千冬には届かなかった。

 

「いい加減にしろ!」

 

千冬の怒号にビクッと体を震わせる照秋。

 

「お前がどれだけ言い逃れをしようと! どれだけ事実を認めなかろうと! お前が一夏を背後から攻撃し重傷に追いやったのは事実だ!!」

 

「お、おれ、は……」

 

突きつけられる事実に、ガタガタ震える照秋。

照秋の一撃によって、重傷を負った一夏。

だが手ごたえから、下手したら命を奪っていた可能性もあったのである。

それを自覚している照秋は、自身の手を見つめる。

その手は、血に塗れているような幻覚が見え、慌てて振る。

 

「お前は作戦終了までの部屋を出ることを禁じる」

 

そう言い、立ち上がる千冬は、照秋を見ることはなく。

 

「お前には失望したぞ」

 

そう吐き捨てるように部屋を出ていく千冬。

言い返さず、項垂れる照秋。

震える肩は、照秋が泣いているからか、もしくは恐怖からか。

そんな照秋に興味を無くした千冬は、冷めた目で見おろし襖を閉めるのだった。

 

 

 

専用機持ちたちは全員同じ部屋で待機命令が出されており、鈴を覗く専用機持ちはその部屋に居た。

鈴は一夏がいる治療室で看病している。

皆、無言で俯いている。

この作戦において、一番の衝撃は照秋が一夏を背後から襲い、斬りつけたという事だ。

そして、帰ってくるなり千冬に連れて行かれ、現在も会う事を許されていない。

 

「……あんなに弱ってる照秋、初めて見た」

 

シャルロットがポツリとつぶやく。

 

「……ですが、なぜテルさんは織斑一夏を背後から……」

 

兄弟仲が良くないことは承知していたが、殺意を抱くほどではなかったと認識している。

だからこそ、今回の事態が信じられないのだ。

この作戦に参加した箒とマドカは未だ無言で、何か考え込んでいる。

 

「……照秋は、途中から行動がおかしかった……」

 

「え?」

 

箒の呟きに反応するセシリアとシャルロット。

 

「よくよく思い出すと、照秋は途中からしきりに頭を振っていた」

 

「……それって……」

 

「何かバイザーに不具合が発生してたのかもしれんな」

 

バイザーの不具合から、銀の福音と一夏の白式をご認識した可能性がある。

機体カラーが銀で、光の反射や角度から白式の機体カラーの白を見間違う可能性もある。

ラウラがそう推測するが、それが正解なのか、誰も回答を持っていない。

そんな中、マドカは爪を噛みイライラを隠さない。

当初マドカは照秋と共にいると言っていたがそれをスコールが拒否した。

マドカは抗議するが、スコールはそのマドカの抗議を無視し、さらに監視まで付けた。

そして、マドカはぽつりとつぶやく。

 

「……全部私のせいだ」

 

「マドカ……」

 

「私が不審船がいることをテルや箒に言ったから、テルは福音の攻撃を受けた。もしバイザーの不具合が発生したのなら、原因はその攻撃しかない……」

 

マドカは、状況を報告しただけなのだが、照秋にとっては余計な情報だった。

だから、そこで福音から目を離し確認してしまったのだ。

それさえなければ、照秋と箒は問題なく福音を捕獲できていただろう。

照秋達に余計な情報を与えることなく、マドカが対処に当たれば済んだ話だったのだ。

マドカは、照秋と箒の力を過信しすぎていたのである。

悔しそうに顔を歪めるマドカを見て、何も言えない箒たち。

何も口に出さないが、簪や趙も、こんなマドカの姿を初めて見たので心配している。

 

そのとき、部屋の襖が開いた。

 

「まーちゃんのせいではないよ」

 

そこには、にこやかに笑う束と、苦笑しているスコールがいた。

 

 

 

「これを見て」

 

束はパパッとコンソールを操作し空間に投影されたモニタに映像が再生される。

それは、先ほど千冬が見ていたメメント・モリに記録されていた戦闘記録だ。

照秋視点で福音と戦う様が映され、高次元戦闘が行われている。

その激しい戦闘に息を呑むセシリアたち。

やがて、照秋が突如海面に浮く不審船を見る。

そして突如襲う横からの衝撃。

ここで照秋は福音から攻撃を受けたのだ。

そこから、画面には砂嵐と、雑音が混じり始める。

しばらくノイズが走ったまま戦闘を行っていたが、突如画面の砂嵐や雑音が消える。

そして、目の前には背を見せ動かず停まっている白式を纏った一夏がいた。

照秋は一夏の背後めがけて瞬時加速を行い、ノワールを振りおろした。

破壊される白式の装甲と、飛び散る血しぶき。

一夏はそのまま海へ落ちた。

 

ココで映像を切る束は、箒たちの顔を見渡す。

皆、照秋が人を斬ったというショッキングな映像に顔を青くしていた。

 

「これ、実際メメント・モリが記録して、てるくんが見てた映像とは違うんだ」

 

「え?」

 

箒が疑問の声を上げると、再び束はコンソールを操作する。

そして、再び始まる記録映像。

だが、決定的に違っていた。

 

照秋が福音から攻撃を受け、画面と音声にノイズが混じるようになり、一層画像の乱れが出た時、目の前には銀の福音が背を向け無防備に浮いていた。

 

「……え?」

 

「……こ、これは」

 

そして、照秋は瞬時加速を行い福音に接近、ノワールを振り降ろした。

スラスターが破壊され、シールドエネルギーがゼロになったのか量子化し消える福音。

海に落ちるドローン。

 

映像を停止し、満足そうな笑みを浮かべる束に、困惑する箒たち。

 

「ど、どういう事ですか姉さん!」

 

「一体、何が……」

 

未だ整理がつかない箒たちだったが、マドカはハッとした。

 

「そうか、ハイパーセンサーをハックしたのか!」

 

「ピンポンせいかーい!」

 

束は嬉しそうにパチパチと拍手する。

 

「巧妙に隠されてたわ、この映像。探すのに博士もちょっと手こずってたもの」

 

「スーさんそれ言っちゃダメ! 束さんは努力を人に見せないのだ!」

 

「じゃあスーさんて言わないでよ! なんか釣りバカな社員がいる会社の社長みたいじゃない!」

 

スコールは悲鳴に似た声を上げるが、今はそんな戯言に付き合っている暇はない。

 

「メメント・モリをハッキングして、ハイパーセンサーを操作? いったいどうやって……」

 

「おそらく、あの殴られたときだろうね」

 

束はモニタにメメント・モリの状態を移す。

そして、バイザー部分を拡大した。

 

「ほら、ここ見て。ちょっと穴が開いてるでしょう?」

 

モニタを食い入るように見る箒たち。

確かに言われれば小さな穴が開いているように見える。

だが、それがどうしたという……と、そこまで考えてマドカがアッと声を上げた。

 

「ハシッシと同じか!!」

 

「はいまーちゃん連続だいせいかーい! 正解者には飴ちゃんあげよう!」

 

マドカは束から飴を受け取り、しかし納得できないでいた。

箒やセシリアはハシッシと言われてピンときたが、それ以外のシャルロット、ラウラ、簪、趙は何が何だかわからず首を傾げる。

そこで、スコールが補足した。

 

「つまり、コンピュータウィルスね」

 

「ウィルス?」

 

シャルロットが首を傾げる。

 

「バイザーに穴が開いてたでしょ? あれは銀の福音のウィルス攻撃によって空いた穴なのよ」

 

「……ウィルスってプログラムですよね? それでバイザーに穴が開くんですか?」

 

「おそらく、銀の福音の攻撃した部分に針のように細い突端があって、それでメメント・モリのバイザー内に進入、そして直接ウィルスを流し込んだのよ」

 

「な、なるほど」

 

「大体コンピュータウィルスの感染なんてものはオンラインや、感染した記憶媒体の接続からがほとんどだ。つまり、銀の福音はその記憶媒体からの感染という手段に似た方法を取ったというわけだ」

 

マドカの解説になるほど、と頷くシャルロットたち。

 

「でも、そもそもISにウィルスなんて通じるんですか?」

 

簪が疑問を口にするが、束は肯定する。

 

「通じるよー。 でもそれはコアにじゃなくて、装甲に、だけどね」

 

「……あ、なるほど。つまりコアという心臓はブラックボックスで手が出せないから、体や手足の部分にというISの装甲にばい菌を送って怪我させるみたいな感じですか?」

 

「んー! わかりやすいねー簪ちゃん! 君にも飴ちゃんあげよー!」

 

束は簪に飴を渡しニコニコ笑顔でマドカを見る。

 

「メメント・モリにも同じ兵装があってな、それが[ハシッシ]という名前なんだよ」

 

「まあ、ハシッシと比べるとしみったれたウィルスだけどねえ」

 

スコールがため息交じりに愚痴をこぼす。

確かにハシッシと比べると、大したものではない。

ただ、ハイパーセンサーの誤情報を認識するようにするウィルスなのだから。

ハシッシは、ISの装甲プログラムそのものを侵食するウィルスであり、命の危険さえ伴うものだ。

だがしかし、大したものではないと断じることが出来ない威力があった。

事実、それで照秋は白式を銀の福音と誤認識し攻撃したのだから。

 

「だが、なぜ銀の福音にこんな装備が? ブリーフィングの際のスペック開示ではこんな装備ありませんでしたわ」

 

セシリアの疑問もっともである。

だが、一つ可能性がある。

 

「隠してたってのが一番可能性が高いだろうな」

 

そう考えると納得がいく。

 

「不完全な兵装で開示しなかったのか、ひたすら隠したかったのか、それはどうでもいい。だが、これで原因が分かったわけだ」

 

その通りだと、頷く箒たち。

照秋が一夏を攻撃し怪我を負わせたと言うのは事実だが、それでも原因は銀の福音からの攻撃によるものだったのだ。

 

「じゃあ、これを千冬さんに見せないと!」

 

箒は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

だが、スコールがそれを止めた。

 

「無駄よ」

 

「どうしてですか?」

 

箒は止めたスコールを見上げると、その表情は曇っていた。

 

「もう手遅れよ」

 

 

 

そうスコールが言ったその時、突如爆発音が鳴り響く。

 

旅館が揺れ、地震でも起きたのかと、尻餅をつく箒たち。

 

「な、なんだ!?」

 

慌てる箒たちだったが、スコールと束は空を見上げていた。

 

空には、黒く煌めく機体[メメント・モリ]高速で飛び立っていた。

 


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