メメント・モリ   作:阪本葵

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第68話 懺悔

千冬は一つ咳払いをして箒たちを見渡す。

目を閉じ大きく深呼吸し、そしてゆっくりと目を開いた。

 

「お前たちの気持ちは分かった。だからこそ、私はお前たちに言わなければならないことがある」

 

真剣な声を帯びた千冬の雰囲気に、空気が変わるのを感じた箒たちは佇まいを正す。

 

「結淵マドカを呼べるか?」

 

千冬に言われ、箒はマドカに連絡を取ると、マドカは照秋の部屋いるらしい。

 

「私が呼んできます。ちょうど照秋にクラリッサからの要件もありましたから」

 

そう言ってラウラが立ち上がり、少ししてマドカと一緒に戻ってきた。

面倒臭そうに頭をかくマドカに、とりあえず座れと促し、缶ジュースを渡す。

 

「さて、揃ったな」

 

千冬はピリピリとした空気の中口を開く。

横では居心地が悪いのかソワソワしている一夏が。

 

「千冬姉、やっぱ俺、席外そうか?」

 

「いや、お前もここにいろ。大事な話だ」

 

ぴしゃりと言われ一夏は口を噤む。

 

「お前たちに、言わなければならないことがあると言ったが、恐らく篠ノ之と結淵は知っているだろう内容だ」

 

そう言うと、箒とマドカはピクリと肩を震わせた。

 

「照秋のことですか」

 

箒の声に無言で頷く千冬に、セシリア、シャルロット、ラウラは首を傾げた。

 

「テルさんのことですの? それは一体……」

 

「もしかして、お二人がギクシャクしてる関係のことですか?」

 

「……そうだ」

 

千冬は淡々と語りだした。

 

小さい頃に自分たちが置かれていた状況を

親に捨てられ小さな兄弟三人で途方に暮れたことを

篠ノ之親子に助けてもらったことを

 

そして、千冬自身に文武に才能があり、一夏も千冬に似て小さい頃から神童と呼ばれていたことを

逆に、照秋は才能のかけらもなく、学業も、運動も人一倍努力を要していたことを

そんな照秋に、きつく当たっていたいたことを

 

「言い訳になるが、私も学校、バイト、剣道、弟たちの世話と、日々のストレスを抱え、フォローできない部分もあり、自分のペースに付いて来れない照秋にいら立ちを覚え辛く当たっていた」

 

中学生、高校生とまだまだ小娘が、幼い兄弟二人を養わなければならない毎日に、同世代の友達たちと遊べず、バイトの毎日、それらが千冬の余裕を蝕んでいく。

一夏は近所からも、学校でも評判のいい弟で、鼻高々であったのに対し、照秋は愚図だ、のろまだ、鈍臭いバカだと、良い評判は聞かなかった。

千冬とて、照秋に期待して教えるが、それが出来ない。

出来るのが遅い。

だから、自分の基準で照秋を叱る。

 

何故出来ない

一夏は出来たぞ

遅い、もっと早くできなければ無意味だ

お前がテストで100点? カンニングでもしたか?

 

罵倒に近い叱責である。

そして、とうとう千冬は言ったのだ。

 

お前は本当に私の弟か?

 

これを聞いた箒は顔を憤怒の表情にして立ち上がり千冬に掴みかかろうとしたが、マドカに止められる。

セシリアやシャルロットも千冬を睨み、鈴やラウラは驚きの表情をしていた。

 

「……だから、一夏が照秋に暴力を振るっても無視してたんですか?」

 

箒は震える声で千冬に訪ねる。

ビクリと肩を揺らす一夏だったが、千冬は首を横に振る。

 

「私は一夏の暴力を見抜けなかった。兄弟げんかの延長程度の認識だったのだ」

 

「それで照秋のアバラにヒビが入りますか! 体中に黒ずんだ痣が出来ますか!! 家の鍵を隠されますか!! 一夏を見ただけで震えますか!!」

 

箒が叫び、千冬は箒の語る事実に驚き、一夏は顔を真っ青にしていた。

実際、照秋の体の痣や怪我を箒は見たことが無い。

というか気付かなかった。

これは、束が照秋を速やかに処置したため大事に至らず、またその迅速さゆえに他人に広く知られることが無かったのである。

別に束が一夏のしたことを隠す手助けをしていたわけではない。

ただ、照秋の怪我を一刻も早く治したかっただけなのである。

それが、ばれないと増長しさらに照秋に暴力を与えることになるとは、皮肉な事であるが。

だが、それに噛み付いたのは鈴だ。

 

「違う! 一夏はアイツのためにあえて殴ってたのよ! いつもオドオドしてる照秋に少しでも強くなってほしいから、あえて力で教えてたのよ!!」

 

「それが事実だとしても、殴る蹴るにも限度がある! しかも何故服の上から見えないような場所ばかり殴る!! アバラにヒビが入るまで蹴る必要がある!!」

 

「お前ら落ち着け」

 

掴みかからんばかりに言い合う箒と鈴の間に入るマドカ。

 

「織斑千冬にも事情がある。四六時中手のかかる照秋ばかり見ているわけにもいかない。しかも、全幅の信頼を置いている織斑一夏が躾と称して過剰な暴力を振るっているなど考えもしないだろうさ」

 

だからといって、気付けなかったのと気付こうとしなかったのは話が違うがな、と呟き、静かに、しかし怒りを抑えた声色のマドカは千冬に目を向け話を進めろと促す。

その際、一夏には目もくれない。

 

「……ISが発表され、『白騎士事件』が起こり、私はISの日本代表になり、第一回のIS世界大会で優勝した。ISに関わることで多忙を極め、家に帰ることも少なくなり照秋のことは一夏に任せっきりになった……いや……」

 

少し言い淀み、千冬はきゅっと唇を噛みしめ言う。

 

「すでに、照秋の事を見限っていたのかもしれない」

 

事実、その時期から千冬は照秋のことに関して関心を寄せることが少なくなった。

世間から何を言われようが何も思わなくなった。

だからこそ、一夏が照秋に対して行っていた仕打ちに気付かず、学校で、家での照秋の状況に興味を持たなかったのだ。

だから、何も思わなかった。

気付かなかった。

照秋が笑わなくなったことを。

照秋と会話をすることがなくなっていたことを。

照秋が他人のように距離を取っていることも。

 

そんなとき、照秋と一夏が中学に進学する時期になり、照秋が全寮制の学校に行きたいと言っていると一夏から聞いた。

普段から距離を取っている照秋の態度に興味は薄れたとはいえ、少なからずいら立ちを覚えていた千冬は、全寮制の学校に行くと願うほど一緒にいたくないのかと思い、照秋の願いどおり全寮制の学校へ進学させた。

それが、剣道の強豪校であり、照秋の才能が開花したのは千冬にとっても、一夏にとっても皮肉だろう。

当時はわかっていなかったが、千冬は全寮制の学校へ行きたいと言ったのは照秋ではなく、一夏の策略だという事を今は知っている。

先日の美人局事件において、終始一夏の行動を見ていた千冬は一夏の本性を初めて知り、そして理解した。

何故、一夏が照秋に苛烈に当たり離そうとするのかはわからないが、しかしそれを見抜けなかった自分に怒りを覚える。

だが、その事につては今は語らない。

それは、今回の本筋には関係のないことだから。

 

「一夏が中学一年のとき、第二回のIS世界大会があり、私は一夏を会場に連れて行った。照秋は全寮制の学校故外出が不可だったので連れては行けなかったが」

 

千冬はチラリと一夏を見ると、俯き表情は窺えなかった。

小さく鼻から息を吐き、気を引き締めるように、背筋を伸ばす。

 

「その大会の決勝戦開始前に、一夏が何者かに誘拐されたという情報が私のところに入った」

 

「えっ!?」

 

シャルロットは驚く。

箒とマドカ、セシリア、ラウラは知っていたので驚くことはなく聞いていた。

 

「私は棄権し、情報提供してくれたドイツ政府と共に一夏を捜索し、無事保護した。その後、私は現役を引退し、ドイツへの恩を返すために一年間ISの教導に就いた」

 

そこで知り合ったのがラウラだ、と言い、ラウラはピッと背筋を伸ばしフフンと自慢げに鼻を鳴らした。

 

「その間、日本にいる一夏と照秋に危害が及ばないよう政府に護衛を付けてもらい、逐一報告を受けていたのだ」

 

「え、そうだったのか!? 知らなかった……」

 

一夏は本当に知らなかったようで、驚いている。

 

「一夏には常に数人の護衛が付いていたが、照秋はそうはいかなかった」

 

「何故ですか?」

 

「照秋の通う学校は全寮制で、関係者以外立ち入り禁止を徹底していてな。例え家族でも冠婚葬祭以外の用事は受け付けない程だったのだ。そんな学校に、護衛も許可が下りなかった。だから、学校の外を警備する程度に留められていた」

 

まあ、その学校のセキュリティレベルはIS学園並みであったこともあり、政府も無理に護衛を学校内に入れようとはしなかったのである。

 

「まあ、学校内なら問題なかったんだ。そして、私が日本に帰ってきて、IS学園の教職に就いた」

 

この頃から、千冬の携帯電話にイタズラ電話が多く続く。

内容は、女尊男卑の急先鋒であるIS学園の凶弾、千冬への罵詈雑言などくだらない無いものから、弟の一夏、もしくは照秋を誘拐したから、言うとおりにしろといったものまであった。

最初こそ千冬は誘拐電話を信じ、一夏と照秋の安否を確認していた。

当然電話は狂言で、二人とも無事だった。

そんなイタズラ電話がほぼ毎日掛かってくると、自然と危機意識が麻痺していく。

千冬も、イタズラ電話の対応がおざなりになっていった。

そんな中、そのイタズラ電話が現実のものになってしまった。

 

「照秋が中学三年になり、春の修学旅行で京都にいる時、照秋を誘拐したという電話が掛かってきた……」

 

言い淀む千冬。

それを、まっすぐ見つめる箒とマドカ。

隣では一夏が顔を上げ見つめる。

 

千冬は、ゆっくり口を開き、最大の罪を口にする。

 

「……私は、それを、いつもの狂言だと判断し、相手にしなかった。……だが、その電話が掛かってきた二時間後、学校側から照秋が何者かに誘拐され怪我を負ったと連絡を受けたのだ」

 

苦しそうに、吐きだすような言葉であるが、衝撃の事実に言葉も出ないセシリアとシャルロット、ラウラ、鈴。

そして、聞かされていなかったのであろう一夏。

 

「私は、急ぎ照秋が運ばれた病院へ向かった。発見された現場は府内の廃工場、照秋は気絶し、全身数か所の打撲と肩に拳銃による負傷。幸い銃弾は貫通し、障害が残るような傷ではないとのことだったが、れっきとした重傷だった」

 

痛ましいほどに、苦痛に顔を歪める千冬だったが、そんな千冬を白けたように見つめるマドカ。

ハッキリ言って何を悲劇のヒロインぶっているのかと言ってやりたい気持ちでいっぱいだったが、自分で罪を口にするというのだから、全てを吐きだすまでは吐きだすまでは口を挟まない。

 

 

――これが織斑千冬の罪

 

 

「照秋を助けたのはワールドエンブリオであり、結淵マドカだった。それから、照秋は日本政府の要請でワールドエンブリオが預かることになり、一切の接触を禁じられた」

 

それまでも碌に家族としてのコミュニケーションを取らなかった二人が、この出来事によってさらに距離を取るようになった。

照秋は、IS学園に入るまで一切千冬や一夏に連絡を取ることはせず、千冬の連絡もワールドエンブリに止められたり、面会も拒否されていたのである。

それも仕方がないと、今では千冬も納得している。

今まで散々しかりつけ、見放し、放置に等しい扱いをして、揚句に誘拐された照秋を見捨てたのだから、この怒りは当然だろうと思っている。

しかし、それでも千冬は謝りたかった。

なにを、どう謝ればいいのか、それは今でもわからないが、とにかく照秋と話をしたかった。

だが、IS学園での生活の中ではなかなか上手く行かなかった。

千冬は教師としての仕事が多く、照秋と接触できる時間を作るにもひと苦労だった。

千冬の自由な時間のときには照秋が練習や部屋で勉強をしているし、照秋がぶらぶらしているのを見つけるときは決まって自分に仕事がある時だったりする。

しかし、なんとか無理して時間を作って照秋に接触しようとすると、決まってマドカが傍にいる。

そして、マドカは千冬を見かけると睨みつけ、照秋の手を引き千冬から離そうとするのだ。

千冬は、無理やりにでも照秋と二人きりになって話をしようという勇気もなく、ダラダラと時間だけが進んでいった。

そして、無人機襲来、鈴と中国政府との一悶着、一夏とシャルロットの美人局事件など、次々に起こる事件の数々に、照秋と千冬の関係は益々こじれていく。

もう形振り構ってられないと、半ば強引に今回の臨海学校で千冬と同室にして無理やり二人の時間を作ろうとしたが、スコールから待ったがかかった。

理由として、一夏がいるからだという。

 

――そう、今までの事象に、少なからず関わっているのが、一夏である。

 

「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってくれ千冬姉」

 

そんな一夏が待ったをかけ、目だけを向ける千冬。

 

「照秋が誘拐されたってことはわかった。でも、助けたのがワールドエンブリオ? なんだよその出来過ぎな話は。まるで、照秋が誘拐されるのがわかってたみたいじゃないか」

 

一夏は以前聞いていた、照秋が誘拐されたことがあるという出来事を、自分で分析し、さらにワールドエンブリオという企業も調べた。

そもそも、ワールドエンブリオは照秋の誘拐事件に介入する前はISのOS開発としてそこそこ有名程度の企業でしかなかった。

それが照秋が誘拐されるというイベントに介入するワールドエンブリオという企業が、照秋を保護し、誘拐事件以降にワールドエンブリオは量産第三世代機と第四世代機を世界に発表した。

あまりにも都合がよすぎる。

まるで、この世界の物語の始まりという時計の針を、照秋という人間を中心に進めるかのように。

そう言われれば、とセシリアは考え込む。

だが、箒とシャルロット、ラウラは大体の予想が出来ていた。

 

「わかってたんだよ」

 

一夏の質問に答えたのはマドカだった。

 

「ワールドエンブリオは、日本政府が用意した護衛とは別に独自にテルを監視をしていた」

 

「何故だ?」

 

千冬が睨むようにマドカを見る。

マドカは、頭をガシガシと掻き、面倒臭えとつぶやき、信じられないことを言う。

 

「篠ノ之束博士の要請だ」

 

「束さんの!?」

 

マドカがそう言うと一夏は驚いていたが、となりでは千冬はやはりといった顔をしていた。

 

「まあ、そんなことはいい。今回の話は、アンタのことだ」

 

「いやよくねえだろ! 束さんが関係してるんだったら!」

 

一夏がマドカに食って掛かるが、当のマドカは大きくため息をつき、また面倒臭えとつぶやく。

 

「篠ノ之博士が関係したとして、お前に説明する理由があるのか?」

 

「当たり前だろう! 俺は……」

 

そこまで言って一夏は言葉を詰まらせる。

 

「俺は、何だ? お前は篠ノ之博士にとって親友の弟だ。それ以上でもそれ以下でもない。特に興味を持つ対象でもないだろうよ」

 

「そんなことねえ!!」

 

「うるせえよクズが。耳元で叫ぶな」

 

心底嫌そうな表情で一夏を見るマドカ。

 

「そもそも、私たちはお前がしてきたことをここで追及してもいいんだぞ。お前、覚悟が出来てんのか? ああ?」

 

マドカがそう言うと、一夏はたじろぎ、箒やシャルロットたちも一夏を見る。

今ここで、一夏の真意を暴き照秋に謝罪させる。

そうすれば、照秋の幼いころからの深く傷ついた心が癒されるかもしれない。

無言で歯を食いしばる一夏には、追及されても弁解できるものが無い。

今更鈴に言った苦し紛れの「照秋に強くなってもらいたいから」という答えが通じるはずもない。

それに、頭が恐ろしくキレるマドカのことだから、一夏への追及はとてつもないものになるだろうことは想像に難くない。

そんな、必死に無い知恵を絞ろうとしている一夏を見てフンと鼻を鳴らすマドカ。

 

「ハン、ありがたく思えよクズ。今はお前の追及は後回しだ」

 

――今は、な。

 

最後の方の言葉は口には出さず、マドカは一夏から目を離し千冬を見る。

そして、千冬が一夏の襟首を掴み無理やり座らせ、何か言いたそうだった一夏をひと睨みし黙らせた。

 

「とにかく、今の話は織斑千冬、アンタのことだ。照秋と自分の事情を告白して、何がしたい? 私らに、何を求める?」

 

マドカはジッと千冬を見る。

箒も、セシリアも、シャルロットも、ラウラも、ジッと見つめる。

過ちを吐きだし、ただ、懺悔をしたかったのか、聞いて欲しかっただけなのか。

これまでの話を聞き、千冬の言葉をすべて信じるならば、千冬にも同情の余地はある、と思っている。

ただ、不運な偶然が重なり合い、最悪の結果になってしまったのである。

 

「……私は、照秋との関係を修復したい。だから、照秋と深い関係を持つお前たちに告白したのだ」

 

いずれ、私の義妹になるのだからな、と言うと、箒たちはわずかに頬を染めた。

 

「時間がかかるかもしれない。だが、私はもう見誤らない。もう、照秋から逃げない。だから、お前たちにも手助けしてもらいたい」

 

そう言って、頭を下げる千冬に驚く箒たち。

マドカは、つまらなそうに見ていたが。

 

「わかりました。千冬さんは十分懺悔しているし、照秋との関係を修復したいという気持ちも伝わりました」

 

「そうですわね。姉弟ですもの、仲直りするに越したことはありませんわね」

 

「うん、家族は仲が良いのが一番だよ」

 

「お前が言うと重いぞシャルロット。だが、私も同じ気持ちだ。教官と照秋が仲良くなれば、私も嬉しいしな」

 

照秋の婚約者、恋人、愛人、様々な関係を持つ彼女たちが、千冬の罪を受け入れ、照秋との関係修復に尽力すると言ってくれた。

こんなにうれしい事は無いと、千冬はもう一度ありがとうと言って頭を下げた。

 

「千冬さん、私も手伝います」

 

「凰……」

 

鈴も、照秋という人間の歩んだ人生の壮絶さに、同情してしまった。

だが、一夏のしたこともやりすぎたところはあると理解しながらも、それでも照秋のためだったと疑わない。

今は照秋を認めているから、千冬との関係修復を手伝うのも問題ない。

むしろ、関係を修復することで一夏との仲違いも解決してほしいと願っている。

 

「私も、微力ながら手伝います。照秋との関係を修復して、そして一夏と姉弟三人の関係をやり直しましょう」

 

「凰……ありがとう」

 

鈴の手を握り、頭を下げる千冬。

ただ、マドカだけはフンと鼻を鳴らし無視していたが。

張りつめていた空気は、若干朗らかになり、小さいながらも笑い声も聞こえてきていた。

 

ただ、一夏だけはそんな光景を苦々しい表情で見ていた。

 

 

 

 

そして、こんな事態になっている部屋から少し離れた照秋のいる部屋では、ちょっとした事件が起こっていた。

 

『なるほど、それがジャパニーズキモノ、YUKATAか! いいじゃないか!!』

 

モニタ越しに興奮しているクラリッサに、ちょっと引き気味の照秋。

 

『ほら、少し肩をはだけて見ようか』

 

「何言いだすんですか!」

 

はあはあと興奮気味のクラリッサが、照秋に浴衣を脱げと言い出してきた。

そもそも、最初ラウラからクラリッサへの緊急の連絡だと言われ、急いで繋げてみれば照秋の浴衣姿を見るなり「ぐはあっ!」とか言いながら倒れてしまった。

さらに後ろに同じ部隊の人たちがいたのか、照秋を見てキャーキャー騒ぐ始末。 

そして、緊急連絡だと言われ何かあったのかとクラリッサに聞いてみれば、一言こう言った。

 

『なに、我が嫁の浴衣姿が拝めると隊長から聞いたのでな。そんな重大情報聞いてしまえば見るしかあるまい!!』

 

「そんなことで緊急連絡とか言わないでくださいよ」

 

『なにを言う! 未だ嫁と直接会えない私の楽しみを取り上げるつもりか!』

 

「いや、そんなことは……それに、会えないことは申し訳ないと思ってるんですよ。一応、夏休みにドイツに行けるよう会社と国に手配してるんで」

 

『それは本当か!?』

 

モニタをガッと掴みドアップになるクラリッサ。

 

「まだアメリカとかフランス、イギリスとの調整もあるんで、決まったら連絡しますから」

 

『うむ! 待っているぞ、嫁よ!!』

 

「いや、だから、俺は嫁じゃなくて、婿なんだけど……ホント、この人話聞かないよな」

 

そんな感じで和気藹々と会話をしていると、クラリッサの背後にいた同じ部隊の女性であろう人が質問してきた。

 

『照秋君って体脂肪何パーセント?』

 

「え? えーっと……8パーセントくらいかな?」

 

『キャーすごーい! じゃあ、脱いだらすごいんだね!!』

 

『よし、ちょっと脱いでみようか!』

 

「だから、なんで皆脱がそうとするんですか!?」

 

『それは、嫁の体を網膜に焼き付け、おかずにするためだ!!』

 

『そうだそうだー! 私たちのおかず提供にご協力お願いしまーす!!』

 

『脱ーげ! 脱ーげ! 脱ーげ! 脱ーげ!』

 

「もうやだその女子高的な明け透けな反応ー!! 少しは男の目を気にして言葉を選んでよー!! 男の理想を壊さないでよー!!」

 

照秋の半泣きの叫び声は、防音完備された部屋から外に聞こえることはなく、誰も助けに来ることはなかった。

 

 

結局、箒たちは千冬の話を聞いた後で照秋と初体験を済ませようなんて鋼の神経を持っているはずもなく、照秋の部屋に行くも他愛ない話や、テレビを見たり、ゲームをしたりと至って健全な夜を過ごし、就寝時間になると自室に帰って行った。

それを聞いたスコールは、照秋に一言「ヘタレ」と言い放ち照秋の心に深い傷をつけるのだった。


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