メメント・モリ   作:阪本葵

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第57話 照秋の日常・早朝編

照秋の朝は早い。

5時30分には起床し、ジャージに着替える。

部屋を出ると、すでにマドカが待ち構えており、挨拶をしてそのまま歩く。

そしてグラウンドに行って準備体操や柔軟運動を入念に行う。

そして、ランニング、立木打ちを3000回行って終了である。

照秋の通っていた中学校の剣道部では「とにかく走れ」と指導され、陸上部より走り込みをした。

しかもただ走るのではなく、姿勢、足運び、などを意識した走りを徹底された。

照秋はその指導を今でも忠実に守り続けている。

現在入念に柔軟を行っているのも中学校の恩師の教えである。

最初こそ硬い体だったが、今では180度開脚しそのまま地面にペタンと胸を付けれるくらいにまでなっていた。

相撲などでよく言われることだが、体が柔軟であれば、怪我が少なくなるのである。

 

照秋の剣道に対する姿勢は全て中学での教えに基づく。

小学校時代での篠ノ之道場の教えは基本的な型しかなかった。

箒の父である柳韻は、照秋の才能を見抜いていたがためにじっくり育てたいという算段があり、最初は徹底的に基礎を叩きこむことにしたのだが、それが篠ノ之流剣術にとって裏目に出た。

しばらくして篠ノ之家が保護プログラムによって一家離散してしまい、照秋は篠ノ之道場に通う事が叶わずそこから自己流で毎日竹刀を振ることだけを行うことになってしまったのである。

だから試合や稽古など皆無であった。

千冬は照秋の剣道の才能など無いと判断していたし、そもそも照秋に構っていられるほど余裕もなかったため新たな道場に通わせるという選択肢を見出さなかった。

そのため中学校に入学するまでひたすら竹刀を振ることだけを行い、基礎だけはしっかりと出来上がっていた照秋は、中学での恩師、新風三太夫によってその才能を開花させた。

現在の照秋の動きには篠ノ之流剣術はほぼ残っていない。

それを知り悲しく感じる箒だったが、しかしそれ以上に強い男に成長した照秋を見て内心喜び、その雄姿にときめいたのは箒だけの秘密である。

 

柔軟を終え立ち上がるついでに屈伸をし、さあ走ろうとしたとき、マドカに声をかけられた。

 

「テル、お客さんだ」

 

マドカがため息を漏らし、嫌そうに眉間に皺を寄せ指さす方を見ると、そこには千冬と一夏がこちらに向かってくる姿があった。

千冬は上下真っ白なジャージを着て、普段と変わらず狼のような切れ長の目をキリッとさせている。

一夏は、Tシャツに短パンという姿で、未だ眠いのかフラフラとおぼつかない足取りで千冬に手を引かれていた。

 

「おはよう、照秋、結淵マドカ」

 

努めて明るく、朗らかに声をかけてくる千冬だったが、マドカはフンと鼻を鳴らし無視。

 

「おはようございます、織斑先生」

 

対して照秋はピシッと背筋を伸ばし会釈する。

織斑先生と呼ばれ、他人行儀の対応をする照秋に壁を感じた千冬は、痛みに耐えるような表情をするが、すぐにいつもの様にキリッとした表情に戻る。

 

「朝のトレーニングの邪魔をして申し訳ないんだが、このバカも一緒にいいだろうか」

 

この言葉に驚きの声を上げたのは誰であろう、一夏である。

 

「な!? なんで俺がこんな奴と朝練しなきゃいけないんだよ千冬姉!!」

 

一夏がそう吠えるや、照秋に先生を呼ばれた手前、一夏の発言を許せない千冬は鉄拳を一夏の脳天に落とす。

 

「織斑先生だ馬鹿者が」

 

頭を押さえうずくまる一夏は、千冬を見上げ、次に憎々しげに照秋を睨む。

 

「俺がこんな卑怯者と一緒に朝練する意味なんてねーよ!」

 

「ハッ、卑怯者はお前だろうが、美人局のビビリヤローが」

 

条件反射のように一夏の悪口を言うマドカ。

それに対し目を剥く一夏だったが、千冬に止められる。

 

「一夏、お前は以前から照秋を見下していたな。ならば照秋の毎朝行っているトレーニングも付いていけるだろう?」

 

「当たり前だ! こんなクズのやってる練習なんて楽勝だね!」

 

一夏は立ち上がると照秋を見下すように喚く。

 

「というわけで、よろしく頼む」

 

「……はあ」

 

千冬にそう言われ、照秋は気のない返事をする。

 

「ああ、一夏に合わせる必要はない。いつも通り、自分のペースでやってくれて構わん」

 

「わかりました」

 

そう返事を返すと、照秋はグラウンドを走り始めた。

 

 

屋外グラウンドは陸上のトラック競技ラインが書かれており、一周400mという一般的な競技場ほどの広さとなっている。

そこを黙々と走る照秋と一夏。

若干、ジョギングより少し速い速度で背筋を伸ばしまっすぐ前を見て走る照秋に、照秋の走るスピードに驚きつつもまだ余裕をもって後を走る一夏。

やがて、400mトラックを一周し終えると、照秋はダッシュを開始した。

突然ダッシュする照秋を見てチッと舌打ちし同じくダッシュする一夏。

 

(ダッシュするなら先に言えよ!)

 

心の中で悪態をつく一夏は、まだわかっていなかった。

 

照秋という男の、異常なストイックな性格を。

 

照秋はスピードを落とすことなく400mトラックを一周する。

 

(こんな朝っぱらから400mもダッシュするとか馬鹿か!?)

 

一夏はすでに付いていくだけでいっぱいいっぱいでスピードが落ちている。

しかし、そこから苦痛の表情を驚愕に変える。

400mを過ぎても、照秋がスピードを落とさずダッシュをし続けたのだ。

 

(……おい、マジかよ……!?)

 

400mダッシュなど陸上部くらいしかしないものをいきなりやらされ、すでに息を切らしている一夏は、すでに照秋からかなり引き離されている。

 

「一夏! 遅れいているぞ! 食らいついて行かんか!!」

 

千冬の叱責を受け、チッと舌打ちしペースを上げなんとか照秋に追いつこうとした。

 

照秋はトラックを2周してダッシュを終え、ジョギングのスピードに戻した。

 

(……やっとか……)

 

すでに息も絶え絶えの一夏。

さほど鍛えていない一夏にとって、いきなりの800メートルダッシュなど無謀以外の何物でもない。

陸上競技において、格闘技とまで言われている800メートルを全力で走るのは相当の体力が必要になる。

しかし、照秋のトレーニングがこれで終わるはずがない。

トラックを一周終えると、再びダッシュを始めた照秋。

それに驚く一夏だったが、なんとかついて行こうとダッシュをする。

そして、照秋はトラックを二周、ダッシュした。

ここで、一夏はまさか、と考えた。

800メートルを休みなしで二回ダッシュさせられたのに、まだ走るのを止めない照秋。

その表情はまだ余裕がうかがえた。

ジョギングでトラックを一周終えた時、一夏の予想は当たった。

 

「またダッシュかよ!!」

 

 

 

グラウンドの端で照秋と一夏が走っている姿を眺めている千冬とマドカは、会話をしないまま距離を取ったままである。

気まずい空気の中、口火を切ったのは千冬だった。

 

「……今日は篠ノ之とオルコットは参加していないのだな」

 

「あいつらは今日は生理休暇だ」

 

そう言われて、ああ、と納得してしまった。

そういえば昨日からオルコットは授業中顔色が優れなかったのを思い出す。

 

「あの二人は相当重い部類らしくてな。箒なんかあまりの苦しさに昨日の夜部屋で倒れてな、テルに腰をさすってもらいながら寝てたよ」

 

私はセシリアの部屋に行って腰をさすってやったがな、とため息をつきながら話すマドカ。

 

「……ふむ、私はさほど重くないからその苦しみ想像でしかわからんが、まあお大事にと言っておこう」

 

同じ女であるからその苦しみはある程度理解できるが、度合いが違うため箒とセシリアの苦痛がどれほどのものなのかはわからない千冬。

マドカもそれほど苦しまないタイプなので二人には養生しろとしか言えない。

 

「……しかし、照秋はいつもこんな無茶な練習をしているのか?」

 

実は、前々から照秋の朝のトレーニングを陰ながら見ていた千冬。

そんな千冬の呟きに、マドカはハンと鼻で笑った。

 

「無茶ね。まあ最初は無茶だと思ったさ。でも無茶も継続すれば無茶ではなくなり、習慣化するのさ」

 

「800mダッシュと400mジョギングのインターバル・トレーニングか。たしかに効果的だが……いささかやりすぎではないか?」

 

心肺機能を鍛えるトレーニングとしてインターバル・トレーニングは効果的である。

ただ、体調を考慮し週に2~3回という事が条件に入る。

ハッキリ言ってこんな無茶なトレーニングを毎日行うなど、試合前のプロボクサーのようなものだ。

 

「800mダッシュを休みなしで10本など……体を壊してもおかしくない。いや、もはや練習ですらないぞ」

 

とても高校一年の体力では持たないメニューである。

しかし、照秋はそれをこなす。

 

「このトレーニングの重要なところは持久力を踏まえた先の持続力だ。800mダッシュをスピードを落とすことなく持続させるのがこのトレーニングの目的だな」

 

「見たところ、800mを2分程で走っている……これは高校陸上でもかなり上位に食い込むタイムだ。……それをスピードを落とさず、休憩も入れずに10本か」

 

何という無茶を!

最初こそそう思って見ていた千冬だったが、照秋はその無茶な練習を毎日こなしていた。

しかも、それを平然とである。

それほど過酷な中学生活だったのか、それともそれほど体を酷使しなければならないと考えに至るトラウマでもあるのか。

速度を落とさず走り続ける照秋を見て苦痛に顔を歪める。

一夏はすでに体力が尽きたのか、照秋に追い抜かされ周回遅れになってしまっていた。

 

人間が最初から出し惜しみなしで全力で走れる距離というのは知れている。

せいぜい5~600mだろう。

だが、7割ほどで制御すれば2~3キロは走れるだろうが、これはあくまで一般常識での範囲だ。

照秋とて、初っ端から全力で走っているわけではない。

それでも800mを2分程で走れるほどの脚力と体力を持ち合わせているのだ。

もちろん、こんな化け物じみた体力を手に入れるのに何のリスクも負わなかったわけはない。

それこそ、筋組織を破壊し、文字通り血反吐を吐く毎日だったのだ。

そんな地獄のような毎日でも、照秋は止めなかった。

周囲の人間が止めても、止めなかった。

諦めるという事をしなかった。

なぜなら、照秋にはそれしかなかったから。

 

千冬が思いに耽っていると、照秋が走る速度を緩めやがて止まった。

800mダッシュを10本走り終えたのだろう、息を切らし、汗を流しているがしかし足取りはしっかりしている。

しかし、一夏は違った。

すでに走るのを止めトラックに跪き吐いていた。

照秋はそんな一夏を一瞥すると、興味を無くしたようにすぐに目線を外し、剣道場へと歩いて行った。

 

「ほれ、汗を拭け」

 

照秋に近寄ってタオルとスポーツドリンクの入った容器を投げ渡すマドカに、ありがとうと礼を言って受け取り、そのまま歩いたままスポーツドリンクを少し口に含みながら汗をぬぐう。

マドカは、そんな照秋の後ろを付いて歩くが、千冬は歩いていく照秋を見ながら未だトラックで跪いている一夏に歩み寄り怒鳴る。

 

「いつまで休んでいる! 照秋はすでに次のメニューを行うために行ってしまったぞ!! さっさと立たんか!!」

 

「……む……むり……」

 

息も絶え絶えに声を振り絞る一夏に、千冬はフンと鼻で笑った。

 

「なんだ、照秋の練習は楽勝だったんじゃないのか? それがまともについていけない程の体たらくとはな、情けない」

 

辛辣な千冬の言葉に一夏は睨み返すが、事実であるため言い返せない。

一夏は照秋の異常な体力にものを言わせた練習に付いていけなかった。

しかし、それは照秋に転生者として付与されているチート能力があるためだと推測していた。

 

(そうじゃなきゃあんなバカバカしい練習できるはずがない!)

 

インフィニットストラトスという物語には本来存在しない織斑照秋という存在を、転生者だと確信している。

それも、どこぞの二次小説のように神様か邪神かは知らないが、チート能力を付与してもらっていることもわかっている。

でなければあんな反則まがいな専用機ISを手に入れたり、異常な身体能力を持てるハズがない。

自分は織斑一夏という人間に憑依しただけでチート能力なんてもらっていない一般人なんだから、反則技に付いていけるハズがないし、反則技に付き合う必要もないと思ったのだ。

 

「一夏、お前は照秋が何か反則技のようなものを使ってるからあんなにも走っていられると思っているなら勘違いも甚だしいぞ」

 

思考を見透かされたような千冬の言い方にドキリとする一夏。

 

「照秋はな、中学時代から自分に過酷な練習を課していたんだ。こんなインターバル・トレーニングも最初からこんな距離を走れたわけではない」

 

いままで真剣にトレーニングをしてこなかった一夏とは全く違う、常に自分を鍛えてきたのだと、千冬は言う。

そんな照秋を擁護する千冬の態度に、一夏は苛立つ。

 

「すぐに立て。照秋はまだ剣道場の裏でトレーニングをしているぞ」

 

千冬はそう言って一夏から離れ、照秋がいるであろう剣道場裏に歩いて行った。

 

「……ちくしょう……なんだよ……あんなクズ庇いやがって……」

 

未だ息の整わないまま、愚痴をこぼす一夏は、ゆっくり立ち上がりおぼつかない足取りで剣道場へと向かうのだった。

 

 

 

「ちぇええええぇぇぇいぃっ!!」

 

剣道場にたどり着いたところで、道場の裏から照秋の気合いが聞こえ、一夏はビクッと体を震わせた。

恐る恐る覗き込むと、照秋が地面に打ち付けた丸太に向かい、無数の剣戟を繰り出してた。

ガガガガガッとぶつかり合う音と、煙を発している丸太に目を丸くする一夏。

一息ついたところで丸太から距離を離し、息を整える照秋を見て、一夏はさらに驚いた。

グラウンドでは息を切らしてはいたが余裕があるように見えた照秋が、今は畦を滝のように流し、息を荒く吐いているのだ。

 

「ええええええぇぇぇいぃぃっ!!」

 

再び気合いを入れ、丸太に近寄り木の棒を間断なく打ち付ける照秋。

 

「……なにをやってるんだ……?」

 

「あれは示現流の稽古で立木打ちというという」

 

いつの間にか一夏の隣に居た千冬が腕を組み照秋を見ながら一夏の疑問に答えた。

 

「示現流? 薩摩の、あの示現流か?」

 

「そうだ。あの稽古は、地に背丈ほどの丸太を立て、山から切り出したユス、樫、椿などの堅い木の棒を木刀とし、気合を込めて袈裟斬りの形で左から右から精根尽きるまで打ち込むというものだ。打ち込みは腕の力に頼らず、胸と肚のうちから出る力を剣に込めることが肝心で、つまり胆力を鍛える重要な稽古だ」

 

そこまで言って、千冬は一夏に木の棒を渡した。

 

「そら、照秋の隣に丸太があるだろう。お前も打ってこい」

 

「……」

 

言いたいこともあったが、先ほどのダッシュよりは楽そうだと思い木の棒を受け取る一夏。

しかし、次の千冬の言葉に再び絶望するのだった。

 

「打ち込み3000回だ」

 

 

 

 

打ち込み3000回を終え、横で倒れている一夏を無視し千冬に一礼をして部屋に戻った。

シャワーを浴びさっぱりしたところで、未だにベッドで寝ている箒を起こす。

 

「箒、朝食採りに行くけど、動けるか?」

 

声をかけると、箒は顔を青くしながら起き上る。

 

「……昨日よりはマシだが、だるくて動きたくない……」

 

生理のせいで明らかに体調不良なのがわかる箒に、生理の苦しみはわからないがとりあえず大変なのは見て理解したので、照秋はわかったと短く言い箒を寝かせる。

 

「じゃあ、消化の良いおかゆかなんかもらってくるから、寝ときな」

 

「……照秋……」

 

やさしく頭を撫で自分の体を気遣う照秋の紳士な対応に感激する箒は、嬉しさのあまり涙目だった。

 

部屋を出ると、マドカとセシリアが待っていた。

 

「……おはようございます、テルさん」

 

セシリアも箒と同じく生理中で苦しいのか、顔色が優れない。

 

「……お前、部屋で寝とけ」

 

マドカもセシリアの体調を気にして注意するが、セシリアは頑として聞かない。

 

「わたくしは大丈夫ですわ」

 

明らかにやせ我慢である。

何故そこまで頑なになるのかというと、未だ照秋との心の距離を恋人以上に進めていない現状において、一瞬でも愛する照秋と一緒にいたいと思っている。

だから、箒と違い部屋が違うセシリアはたとえ苦しくても少しでも時間を見つけては一緒にいようと努めているのだ。

そんな理由をなんとなく察知しているマドカは、気持ちがわかるだけにあまり強く言えないが、しかしそういう行動は健康な肉体があってこそのものなので、どうしようかと悩む。

そんなマドカの想いが分かったのか、照秋は小さくため息を吐き、マドカと目配せした。

 

「セシリア、俺が消化のいい朝食を持ってくるから、寝てな」

 

「いえ、大丈夫ですわ」

 

セシリアは頑なに拒否するが、照秋は強硬手段に出た。

照秋は徐にセシリアを抱き上げたのだ。

 

「きゃっ!?」

 

いきなりの事で一体何が起こっているのか理解できてないセシリア。

奥手の照秋が、まさかいわゆる「お姫様抱っこ」を自分にするなんて思わないし、積極的に接触してくるなど今まで無かったからだ。

だが、徐々に現状を理解し始めたセシリアは顔を赤くし、あうあうと呟きドキドキ高鳴る鼓動を押さえるように手を胸に当て大人しくしていた。

照秋はセシリアを抱きかかえたまま、自室に入り自分のベッドに寝かせた。

 

「とりあえず俺のベッドで我慢してくれ。箒と同じ消化の良い朝食もらってくるから」

 

大人しくしてるんだぞ、と言ってセシリアの頭を一撫でして部屋を後にした照秋は、マドカと共に食堂へ向かうのだった。

 

 

 

さて、照秋の出ていった後の部屋には箒とセシリアが寝ている。

お互い体調が芳しくなく、会話もほぼ無いが、しかし二人の表情はにやけていた。

 

「照秋は優しいな……こんなにも私のために尽くしてくれるなんて、なんて幸せ者なんだ……」

 

ニヤニヤ笑みを浮かべブツブツ呟く箒。

 

「よし……こんど照秋が風邪なんかで寝込んだら、お礼に……そ、添い寝でもしてやろう……ぐふふ」

 

変な妄想スイッチの入った箒は、変な笑い声を漏らしニヤニヤと笑う。

 

「はわわ……テルさんのベッド……ああ、テルさんの匂い……」

 

自分の体調を気遣い優しく接していくれる婚約者、そしてその婚約者が先ほどまで寝ていたベッドに寝かされるというシチュエーション。

妄想癖のあるセシリアにはこれ以上ないほどの材料である。

 

「ああ……わたくし……これからテルさんに朝食の代わりにいただかれるのですわ……」

 

箒とセシリアは、互いでいろいろ幸せと妄想を噛みしめ、照秋が朝食を持ってくるまで終始ニヤニヤしっぱなしだった。

 


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