なるべく全てに返信するよう努力しますが、かなり遅くなると思います。
ご了承ください。
スコールとマドカのドン引きの笑みを見たシャルルは、てっきり拷問まがいの非人道的な扱いを受けるかと思っていたのだが、淡々と事情聴取を受けるだけだった。
シャルルはIS学園に転入した理由であるデュノア社からの命令を白状した。
だが、スコールもマドカもその辺りは性別を偽っていたことは勿論、最初から全て把握していたらしく、シャルルを泳がせてボロを出すのを待っていたのだという。
ただ、照秋は全く知らされておらず、さらにシャルルが女だったこともわかっていなかったのだそうだ。
「お前は隠し事が出来ないからな。だから話さなかったんだ」
「ちなみに箒も知らないわよ」
「……俺と箒が馬鹿だから言わなかったみたいに聞こえる」
「……ハッ」
「鼻で笑われた!!」
照秋はショックを受け項垂れるが、今はそんなじゃれている状況ではないことは理解しているのですぐに真面目な顔に戻る。
そして、シャルルの顔を見るなり残念そうな顔をした。
「そうか……女の子だったのか……まあ、男にしては線が細いとは思ってたけど、ようやく同性の友達が出来て実は嬉しかったんだけど」
「今まで騙してごめんね」
シャルルにとって自分のせいで傷つけてしまった唯一心から謝りたい相手、だからこそ心から謝る。
まあ、照秋も残念に思いながらもそれほど気にしていない様子なのだが、そんなことよりもっと重要な事がある。
「それよりも、だ。なぜ織斑一夏と共謀して
「……それは……」
シャルルは包み隠さず話した。
一夏に女であることがバレてしまい、一夏にもすべてを告白したところなんとデータを盗む手伝いをすると言い出した事。
その後一夏が計画を立てシャルルは一夏に従い行動を取ったこと。
「あの馬鹿は、どれだけテルを憎んでるんだか」
マドカの言葉に、シャルルは全くだと頷く。
シャルルは一夏に弱みを握られ、バラされることを恐れ逆らえず渋々従っていたが、計画開始直前に止めようと言ったが一夏は聞き入れなかった。
それどころか、目的がすり替わってしまっていたのに驚き、さらに逆にシャルルを説得して計画を実行しようと言い出し、何もかもが逆転してしまっていたのだと言った。
「……僕を助けるためじゃなくて、照秋を貶めるために動いてたんだよ、一夏は」
「最近妙に私らの事を調べてるから一応警戒してたんだが、こんなくだらない計画だったとはな。警戒して損したわ」
そう言いつつも、マドカはIS学園の中で人の死角になりそうな場所全てに監視カメラと集音マイクを設置していたのだ。
これはキッチリスコールを通し教師達に許可を貰っているし、さらに生徒会長である更識楯無にも了解をもらっての行動である。
そんな厳重な警戒をしていることに気付かなかった一夏は、やはり素人だということだ。
尋問は続き、話はデュノア社の事に移る。
しかし、デュノア社の内情に関してはシャルルよりマドカ達の方が詳しいので特に新しい情報はなかったが、話がシャルル本人の事に変わる。
「さて、シャルロット・デュノア。お前の身の上の情報は把握している」
これを見ろ、とシャルロットは自身に関する調査結果が書かれた紙の束を渡され目を通する。
内容は自分の生い立ちから、今に至るまでの経緯が事細かく書かれており、中には自分が知りえない事実も書いてあった。
その中には母の家系に関することも触れていた。
「……母さんは、孤児だったんだ……」
だから親族がいなかったのかと納得した。
そして、母がいかに自分を愛していたのかが痛いほどわかった。
調査内容には、シャルルの母、サラ・ロセルは父テオドール・デュノアと出会う前まではアルバイトで細々と生活していた。
だが、たまたまアルバイト先のレストランでテオドールがウェイトレスとしていたサラをナンパし、母は軽い気持ちで受けた。
テオドールが妻帯者であることを知りつつしばらくして二人は肉体関係を結び、サラはテオドールを愛し、やがてシャルロットを身籠った。
サラはテオドールに妊娠したことを告白すると、堕胎しろと言い出した。
テオドールには迷惑をかけないから生みたいと訴えたが、テオドールはそれを受け入れなかった。
やがて、サラはテオドールと考えの違いからさっぱり愛情が醒めてしまい、別れを切り出した。
テオドールは別れる条件として、お腹の子供は認知しないこと、今後一切全ての関係を断ち切るという契約書に署名させられ、その条件を呑んだうえでわずかな手切れ金を渡し、サラはそれを受け取り二人の関係は終わった。
その後サラは無事出産、子供の名前をシャルロットと名付けた。
孤児であったサラは、家族が出来たことに至福の喜びを感じていた。
育児は大変だったが、シャルロットの笑顔を見ているだけで満足だった。
そう、サラは家族が欲しかったのだ。
シャルロットはすくすく育ち、元気な良い子だった。
良い子ながらもわんぱくで、近所の子供たちのリーダーになり喧嘩をすれば男の子にも勝ってしまうほどだった。
そして、町の住人達はそんなシャルロットを愛してくれた。
サラも、唯一の家族であるシャルロットを愛した。
しかし、女手一つで子育てするのは大変だった。
特に孤児出身のサラはまともな学歴もなく、それ程実入りの良い仕事に就けない。
ならば、仕事の数を増やすしかなく、その結果無理が祟り過労で倒れた。
そして入院した時の検査で全身の癌が発見された。
手遅れと言われ、さらに余命は半年ほどとまで言われた。
サラは泣き崩れた。
愛するシャルロットを置いて、死んでしまう自分の運命を呪った。
しかし、延命しようにもそんな大金はない。
ならば自分が出来る事をしようと考え、シャルロットの前では気丈に振る舞い、一人で生きていけるように家事一般を教え込んだ。
そして、サラは死ぬ間際までシャルロットの前では笑顔でい続けたのだった。
これらの事は当時サラの担当だった医師や看護師から聞き取り、さらに裏付けも取っているものだが、当時サラは自分が苦しんでいたということをシャルロットには自分が死んでからも絶対に教えないでくれと言っていたそうだ。
「……母さん……母さん……」
涙が溢れ、調査書にポツポツと雫がこぼれる。
改めて知らされる母の愛情に、シャルル……いや、シャルロットの今まで張りつめ追い込まれていた心が決壊してしまった。
何故こんなことになったんだろうか。
何故こんなに苦しいのだろうか。
何故、何故、何故。
ああ、会いたい。
母に、会いたい。
あの幸せな生活に戻りたい。
「お母さん……おかあさぁん……! 会いたいよう……あいたいよう……」
幼児退行したようにお母さんと繰り返し、嗚咽交じりに涙を流すシャルロットを、マドカも、スコールも、照秋も止めることなく見守っていた。
そんなシャルロットを見て、スコールは照秋の脇腹を肘で突き、顎をしゃくる。
その指示の内容が理解できた照秋は、思いっきり首を横に振ったが、スコールは構わず小声で指示を出す。
(待て待て待て! 俺には難易度が高すぎる!! しかも脈絡がなさすぎる!!)
(いいのよそんな細かい事は。男を見せなさい照秋君。そもそもシャルロットさんがこんな状況になった原因の一端はあなたにもあるのよ)
(えっ!?)
(ほら、早くしなさいな)
スコールに背中を押され、ノロノロと腰を持ち上げ、照秋はシャルロットに近付く。
しばらくあーとかうーとか呻き、ようやく決心した照秋は、泣くシャルロットの肩を掴み強引に抱き寄せた。
「ふわっ」
シャルロットはいきなり抱き寄せられ驚き照秋の顔を見ると、シャルロットの方を見ず逸らしているが照秋の顔は真っ赤になっていた。
恥ずかしいのに、自分を慰めてくれる照秋が愛おしく。
散々ひどい事をしたのにその事を一切責めない照秋の度量の深さに感服し。
そんな大きな照秋の、大きな体で包み込まれ安心感を覚えたシャルロットは、もう我慢できず照秋にしがみつき顔を擦り付け、大声を上げて泣き続けた。
「テル、ちょっとこっち来い」
マドカに呼ばれ、ようやく泣き止んだシャルロットの頭を優しく撫でながら気持ちを落ち着かせることに専念していた照秋は、シャルロットから離れ部屋の外に出る。
「単刀直入に聞く。お前シャルロットをどうしたい?」
マドカは照秋に聞く。
シャルロットの過去を知り、現状の過酷な環境を知り、それを照秋が知ってどうしたいのか。
「助けたい」
ハッキリと、簡潔な言葉で自分の意思を伝える。
だが、マドカはそんな照秋の答えがわかっていたのだろう、小さくため息を吐く。
「同情か? あいつは無理矢理の命令とはいえ、犯罪行為を犯した。それにお前も巻き込まれ怪我までした。普通考えてもあいつは許される人間じゃないぞ」
「確かに同情もあるし、シャルルの行動は看過できない。それでも、それを差し引いてもシャルルの置かれている環境は劣悪すぎる」
照秋は怒っている。
テオドールに怒る。
それが父親のすることか、と。
一夏に怒る。
なぜ心の支えにならず、利用し目的をはき違えたのか、と。
そして、自分に怒る。
シャルルの心の変化に気付かず、上っ面で付き合っていた馬鹿者よ、と。
「俺の贖罪だ」
「……そうか」
照秋はつまりこう言いたいのだ。
自分が我慢すればいい。
シャルルは、これから幸せになるべきだ、と。
そんな照秋の思いがわかったマドカは、短くうなずくと、ニカッと笑った。
「わかった。では、これからワールドエンブリオはシャルロットデュノアを保護し、攻勢に出る」
「え? 会社が絡むの!?」
「当たり前だ。お前の意思はワールドエンブリオの意思であり総意だからな。そもそもデュノア社に仕掛けるのとシャルロットを保護するのは別件であって、決定事項だ。だから、我々は全力でデュノア社に対応するぞ」
ちょっと待てなんでそこまで大きくなるんだと言いたかったが、マドカはものすごく嬉しそうに笑いさらにこう言った。
「さあ、これから楽しくなるぞ!」
マドカはクククと意地の悪い笑い声をあげる。
会社が絡むということは、社長である篠ノ之束が絡むということだ。
それはつまり。
「……デュノア社……終わったな」
照秋は顔も知らぬデュノア社の社長に、合掌したのだった。
マドカと照秋が部屋に戻ると、緑茶のペットボトルに口をつけチビチビと飲んでいたシャルロットを見て、大分落ち着いたと判断し、マドカは本題を切り出す。
「シャルロット・デュノア、良く聞け。我々ワールドエンブリオはデュノア社に対し攻勢に出る」
マドカのその言葉に、力なく頷くシャルロット。
「……じゃあ、僕も……」
諦めの表情で、しかし自分に待ち受けるデュノア社との過酷な未来を創造し、顔を青ざめさせ体が震える。
だが、次の一言でその考えは覆る。
「お前は我々が保護する」
「……え?」
言っている意味が理解できないのか、シャルロットはポカンとする。
「僕は、デュノア社の社長の娘で、スパイで、照秋に酷い事をした。とうてい許されるような状況じゃあないよ。……そ、それに、もしかしたらこんな状況も作戦かもしれないんだよ?」
シャルロットは、自分が行った行為が許されないことだと自覚しているからこそ、保護するなんて甘い事を言い出すマドカに対し何を言っているのかと反論するのだ。
だが、マドカはそれを鼻で笑い一蹴した。
「ハン、もし私たちを騙せるほどだったら、逆に天晴と言って拍手してやる。デュノア社ごとき三流企業の情報なんざ私らに取っちゃあザルなんだよ」
それに、とマドカが続ける。
「これはテルの意志だ」
マドカがそう言うと、シャルロットはバッとものすごい勢いで照秋を見た。
「テルが、お前を助けたいと言った。お前を許すと言った。でも私たちはまだお前を許せるほど納得はしていない。しかし、だからこそ私たちはそのテルの言葉に従う」
「照秋……」
騙し酷い事をした自分を許し、さらに守ると言う照秋に対して、なんて心の広い男なんだろうと感激する。
そしてまた感極まったのか、目じりに涙を浮かべるシャルロット。
だがしかし。
「まあ、シャルロットさんがこんな状況になった原因の一端は照秋君のせいでもあるしねえ」
「……あ」
スコールのその一言で、シャルロットは思い出した。
ハッキリ言ってそれは逆恨みであるし、お門違いな話ではあるが、そんなふうに言われたら、じわじわと照秋が憎らしくなってきた。
「そもそも、お前がシャルロットを選んでりゃあこんな大事にはならなかったんだ」
まあ、その時はデュノア社っていうお荷物が付いてきたがな、と毒を吐くマドカ。
しかし照秋はマドカやスコールの言っている意味や、シャルロットが怒っている理由がわからず首を傾げる。
そこで、スコールは照秋の机の横に平積みされている世界各国から寄せられたお見合い写真を漁りはじめ、一枚の写真を取り出し照秋に渡した。
「これを見なさい」
そこには、白いワンピースを着たブロンドの少女が写っていた。
青空をバックに麦わら帽子を手で押さえ、ヒマワリの様な笑顔を向けてくる色白な美少女だ。
若干光を当てすぎたのか飛ばし過ぎな感じがするが、年齢は外国人ながら童顔に見えるから年下と推測する。
照秋はその写真を見て、首を傾げる。
「これが何か?」
「よく見なさいな」
「んん?」
じっくり写真を見る。
確かにかわいい娘だと思う。
だが、かわいいと思う事と、自分の好みは違う。
プロのカメラマンを起用したのか、本当に写真集の中の一枚の様な全体が見えるように動きのある構図。
なんだろうか、心霊写真なのだろうか、それともUFOでも写っているのだろうか。
透かしてみたり、遠近を変えたり、角度を変えたりと様々な方法で見てみるが何にも起こらない。
いくらじっくり見てもまったく何があるのかわからない照秋はとうとう考えるのを放棄した。
「アナタねえ……はあ。その写真はシャルロットさんよ」
「えっ!?」
本気で驚く照秋。
写真と目の前のシャルロットを何度も見比べる。
あまりにもじっくり見られるので、シャルロットは恥ずかしくて顔を赤くし身じろぎするが、次の照秋の一言でそんな気持ちは吹き飛ぶ。
「今の写真の技術ってすごいな」
「ちょっとそれどういう意味!?」
おもわず声を荒げ照秋に掴みかかるシャルロット。
「なに!? 写真を加工してるって言いたいの!? 実物はそんなでもないって言いたいの!? ああそうなんだ! 道理で今まで気付かないはずだよね!!」
ガクガクと照秋の肩をゆすって怒るシャルロット。
なんと照秋はシャルロットの気合いを入れたお見合い写真とシャルロットを別人だと思っていたのだ。
そもそも、照秋は全く性格のわからない女性と会うつもりなど端からなかった。
クラリッサはきっかけこそ写真のインパクトで選んだが、千冬から人物像を聞いて確認したし、ナターシャにしてもスコールの知り合いだから会うことにしたのである。
だから、その事に対しツッコまれても照秋にとっては言いがかりだし、IS学園に転入して出会っても何の疑問も持たずシャルロットと接していたのである。
これほど女の自尊心を傷つけられたことはないと、シャルロットは憤慨するし、横ではスコールとマドカも照秋という人間を理解しながらも、女として怒って当然だと、うんうん頷いている。
「照秋のバカー!!」
羞恥と怒りに、シャルロットはポカポカと照秋の体を叩き続けるのだった。