メメント・モリ   作:阪本葵

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簪ファンの方、すいません。
ちょっとアホの子になってしまいました。


第36話 簪とメメント・モリ

「ご、ごめんなさい」

 

「いや、別にいいよ」

 

照秋の作業を覗き見していたのは、更識簪という子だった。

なんと、先日会った生徒会長の更識楯無の妹らしい。

だが、更識簪は楯無の名前が出ると表情を歪める。

どうやら姉妹に確執があるようだ。

照秋自身も千冬や一夏との確執があるためその気持ちが十分理解できる。

更識簪は更識と呼ばれるのを嫌がり、簪と呼んでほしいと言ってきた。

なので、照秋も自分の事は照秋でいいとお互い自己紹介を済ませた。

そしてさっきから覗き見してすまないと謝りながら頻りと頭を下げる簪に、照秋は困った風に頭をかいた。

 

「見られて困るものでもないし」

 

そう言うと、簪は下げていた頭を勢いよく上げ真剣な表情で照秋を見る。

 

「あなたはわかっていない。あれは世界が卒倒する技術の塊」

 

「そうなのか?」

 

「そう。人間のように会話が成立し、違和感のない音声、そして大規模な機材を必要とせず場所を選ばないデジタルワイヤーフレームスキャンの施行。……もしかしてデジタルワイヤーフレームを手で直接操作できたりする?」

 

「ん? ああ、『シェークハンド機能』のこと? 出来るよ」

 

照秋の言葉を聞くや、簪は目をキラキラ輝かせた。

 

「このプログラムを開発した人はアイアンマン好きと見た……!」

 

「……ああ、あの映画か。うーん……どうだろう……」

 

世間の娯楽にはてんで興味がない照秋だが、何故かアイアンマンを知っている。

まあ、束に無理やり見せられたのだが。

ちなみにアニメや特撮はクロエに無理やり付き合わされて覚えてしまった。

束がアイアンマンが好きかどうかはわからないが、AIやデジタルワイヤーフレーム、シェークハンド機能はIS整備素人の照秋には助かるものだ。

簪は、なにか言いたそうにモジモジしている。

それを敏感に感じ取った照秋は、再びアンクレットからメメント・モリを展開しハンガーに固定した。

 

[どうかされましたか照秋様]

 

メメント・モリのAIが音声を発する。

それを聞いて再び驚く簪。

 

「ああ、彼女……簪さんがお前の機能を見たいと言ってな。別にいいだろう?」

 

[構いません。私は上位権限から秘匿するようにという指示は受けておりませんので]

 

「というわけだけど。何かやってみる?」

 

簪は、パアッと笑顔になりメメント・モリに歩み寄る。

 

「……こ、こんにちは」

 

[こんにちは、ミス簪]

 

簪はすごくうれしそうだ。

 

「声が……恐らくこれは田○敦子? はっ!? ISは機械……つまり、サイボーグ繋がりで草薙○子というわけ!? なんというこだわり……! でもそのこだわり、嫌いじゃない! 嫌いじゃないわ!! 夢が……ロマンが詰まっている……!」

 

よくわからないことを言い出し勝手にテンションが上がる簪。

そして、何か閃いたのかゴクリと喉を鳴らしメメント・モリを見上げる。

 

「あのっ! お願いがあるんですけど……!」

 

[なんでしょうか?]

 

「こ、攻○機動隊って、し、知ってますか……?」

 

[少々お待ちを。……検索完了しました。攻殻機○隊-GHOST IN THE SHELL-、士◯正宗原作の漫画、ジャパニメーションですね]

 

「そ、そうです! そ、それで、その……映画とかアニメでのセリフを……言っていただけたら、なあって……」

 

[セリフですか? 何でもよろしいのですか?]

 

「で、できれば草○素子のセリフを2~3ほど……」

 

簪はメメント・モリに何を言っているのだろうか。

攻殻○動隊も○薙素子も知らない照秋は簪の後ろで首を傾げていた。

 

[わかりました。それでは……『さてどこへ行こうかしら。ネットは広大だわ』]

 

「ふおおおおおぉぉぉっ!!」

 

テンションアゲアゲの簪。

 

[『バトー、忘れないで。貴方がネットにアクセスするとき、私は必ず貴方の傍にいる』]

 

「おおおおおおぉぉぉっ!!」

 

両腕をブンブン振る簪。

テンションマックスだ。

 

[『そうしろと囁くのよ、私のゴーストが』]

 

「きゃああああぁぁぁっ!!」

 

とうとう叫び始めた簪。

照秋はドン引きだ。

 

[『世の中に不満があるなら自分を変えろ!! それが嫌なら、耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ!!』……以上でよろしいでしょうか?]

 

「ふおおおおぉぉぉっ!! ご、ご馳走様でした!!」

 

簪のテンションは天元突破してしまい、いろんな意味でお腹いっぱいになり、ついには何故かメメント・モリにサインを求めようとするので、さすがに照秋が止めに入り簪は正気を取り戻すのだった。

 

 

 

そして、正気に戻った簪が自分の醜態に身悶え、気持ちの整理がつくまで時間を置き、改めて本来の目的であるメメント・モリの機能の体験に移る。

 

「とりあえず簪さんが触ってみたいらしいから」

 

[了解、セーフモードに設定します。ミス簪、どうぞご命令を]

 

「え、いいの?」

 

簪はあたふたし始めた。

照秋は横で見ているだけだ。

 

「じゃ、じゃあ……シェークハンドを」

 

[シェークハンド選択、メメント・モリ装甲のデジタルワイヤーフレームを展開します]

 

途端、簪の前にメメント・モリの腕部装甲ワイヤーフレームが表示された。

 

[ミス簪、どうぞスワイプしてください]

 

「えっと……こう?」

 

簪は指で腕部装甲ワイヤーフレームを横にスライドするように動かす。

すると、ワイヤーフレームがゆっくり回転し始めた。

 

「おおっ……!」

 

簪の目がきキラキラしている。

 

[次はワイヤーフレームに装着するように腕を入れてください]

 

「は、はい」

 

簪は言われるままに腕部装甲ワイヤーフレームに腕を入れる。

デジタルワイヤーフレームなので勿論触れている感覚はない。

簪はゴクリと喉を鳴らし、入れた指を動かす。

すると、動かした通り腕部装甲ワイヤーフレームの指部分が同時に動く。

まるで、本当に装着しているようにタイムラグもなく簪の指の動きを忠実に再現する。

 

「おおおおっ……!」

 

簪の目がますますキラキラし始めた。

 

[これがシェークハンド機能、疑似的にISの操作確認を行う機能、デジタルワイヤーフレームを使用者がリアルタイムに認識できるようにしあたかも触れているかのように疑似体験を可能にした機能です]

 

「……いい……これは……ロマンの塊……!!」

 

簪は恍惚とした表情で腕部装甲ワイヤーフレームを動かす。

 

「このプログラムがあれば……私のISはより早く完成する……」

 

簪の呟きに照秋は耳聡く気付いた。

 

「完成? 簪さんは専用機を持っているのか?」

 

そこまで言って、照秋は気付いた。

 

「ああ、更識簪……日本の代表候補生……倉持技研の」

 

簪の詳しい事情を知る照秋に驚く簪。

そして、簪は照秋に対し警戒心を高めた。

倉持技研で専用機を造っていたことはそれほど知られていることではなかったし、なにより現在は技研から開発見送りにされた専用機を引き取り自分で組み立てている。

照秋は口には出さなかったが、雰囲気で簪の現状を知っていると感じる。

 

「何故そこまで知っているの? ……ストーカー?」

 

警戒心を高めている簪に、なんでだよとツッコミを入れながら照秋は頭をかく。

 

「ウチには情報通がいるんだ」

 

マドカの事である。

照秋はつくづくマドカの情報源とその手腕に謎を持っているが、本人はそれを言わない。

だが、ここで考える。

一夏の専用機[白式]を優先し、さらに掛かりきりのため簪の専用機に割く人員がいないために引き取り自分で作ると言い出した。

一夏のせいではないが、それでも簪の事を不憫と思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

「このシステム、いる?」

 

「え!?」

 

何気ない一言に、簪は普段では絶対出さない大きな声を出した。

 

「どうだメメント・モリ?」

 

[上位権限に確認を取る必要があります。いま確認しますか?]

 

「いや、俺が直接連絡入れる」

 

照秋はそう言うと携帯電話を取り出し、電話をかけ始めた。

相手は勿論篠ノ之束である。

 

「……あ、お久しぶりです……社長。実は、メメント・モリの……え、見てたから知ってる? ……そのことについていろいろ言いたいですけど、まあ手間が省けました。で、どうでしょうか?」

 

照秋はメメント・モリの開発者である束にメメント・モリサポートプログラムのコピーを渡していいか窺う。

しばらくすると、照秋は携帯電話を顔から離し、眉を顰めて簪を見てこう聞いた。

 

「……社長が試験をするって」

 

「試験?」

 

「質問に答えるだけでいいって」

 

照秋は困ったような表情で簪を見るが、その簪は少し考えて小さく頷いた。

 

「……言ってみて」

 

「……質問は『ピーター・パーカーについてどう思う』だって」

 

その質問を聞くと目を見開く簪は、即答した。

 

「救いのない正義、それがスパイダーマン。彼は幸福になってはいけない」

 

はっきりとそんなキツイ言葉を発するので照秋は引いた。

そして、照秋は携帯電話の通話口の向こうにいる束にその言葉を言った。

 

すると、束はテンションを上げて嬉々として承諾した。

 

『いいねいいねー! まさに我が意を得たりってやつ! オッケー、サポートプログラムとその機器を提供するよ! あ、あとそれと……』

 

照秋は束の言葉を聞いて驚く。

携帯電話の通話を切り、簪にこう言った。

 

「君のIS製作を全面バックアップするから、必要なものはなんでも言ってくれって」

 

 

そして簪と別れ部屋に帰り、マドカにこの事を話したら呆れられたのだった。

 

 


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