メメント・モリ   作:阪本葵

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第19話 クラス代表決定

「それでは、一組のクラス代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりで縁起がいいですね!」

 

一組の副担任、山田真耶は和やかに言った。

ここで一夏は疑問に思った。

 

「あの、俺、負けたんですけど」

 

そう言い、ああそういえばと原作を思い出した。

確かセシリア本人が辞退したんだった。

そして、一夏に惚れてしまったんだった。

ほんとチョロイな。

 

「それは、わたくしが辞退したからですわ」

 

ほらな。

なんだ、セシリアは結局俺に惚れたのか。

さすが一夏の魅力は半端ないな!

 

「あなたのようなズブの素人に大人げなく決闘を申し込んだ事を、わたくし自身反省しましたの。それにわたくしクラス代表をする余裕がなくなりましたのよ。まあ、あなたがクラス代表になれば試合回数が増え経験も積めますでしょう?」

 

……ん?

なんかセシリアの態度が依然と変わってないな。

 

「まあ、せいぜい頑張ってくださいな。くれぐれも一組の品性を疑わられるような無様な試合はなさらないでくださいましね、織斑さん?」

 

……冷たい。

セシリアがすごく冷たい。

 

「いやぁ、セシリアわかってるね!」

 

「せっかく世界で二人しかいないの男子の一人がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー」

 

「織斑君は貴重な経験が積める。他のクラスの子に情報が売れる。1粒で2度おいしいね」

 

クラスメイト達は概ね好意的な反応で、山田先生もニコニコ見ている。

 

「……じゃあ、無様な姿を見せないように俺にISの指導をしてくれるのか?」

 

一夏は冷たいセシリアに、原作の流れを思い出しながら聞くと、セシリアは眉根を寄せ不快感をあらわにした。

 

「何故わたくしがあなたを指導しなければなりませんの?」

 

「え?」

 

「わたくし、改良を加えた専用機の調整で忙しいんですの。ご自分で頑張りなさいな」

 

「え?」

 

ちょっと、それは……と食い下がろうとした一夏だったが千冬がそれを遮った。

 

「クラス代表は織斑一夏。異存はないな」

 

「はーい」

 

「では、授業を始める」

 

「え……ちょっ……」

 

一夏の声は届くことなく授業が始まり、ひとり呆然としていた。

 

 

 

同時刻の三組では、同じくクラス代表の正式決定を発表していた。

 

「それでは、三組の代表は織斑照秋君です~。あ、そういえば照秋君って名前、テリヤキに似てますね~」

 

天然のユーリヤは突然わけのわからないことを言うので、生徒も付いていくのに苦労する。

 

「先生、それ関係ないし」

 

「おいしそうです~」

 

「聞いてないよあの天然教師!」

 

「スコール先生止めて! ユーリ先生を止めて!」

 

生徒は絶賛アクセル全開中のユーリアを止めるべく担任のスコールに助けを求める。

だが、スコールはふふんと鼻を鳴らし、堂々とこう言った。

 

「面白いから良し!!」

 

「先生ー!? 止めてー! 誰かこの残念美人二人を止めて―!!」

 

よくわからない混乱が起きていた。

マドカも、ここ最近のスコールのテンションの高さに引き気味だ。

 

(……昔は快楽主義ながらもクールビューティ―だったんだがなあ……)

 

今はその面影すらなく、テンションの赴くまま行動を取る。

亡国機業時代、クールビューティ―でカッコよかったスコールに少なからず憧れを抱いていたマドカにとって、今の馬鹿騒ぎにノリノリな態度は残念でならない。

 

(今のぶっ壊れたスコールを見て、オータムはどう思うかなあ……)

 

今も世界を飛び回り戦い続けるオータムに、同情の念を隠しきれないマドカだった。

 

「さあ、じゃあクラス代表になった織斑君に所信表明でもしてもらおうかしら」

 

「うわあ、さっきまでの混乱無視して話を進めるスコール先生、マジ先生!」

 

クラスメイト達は三分の二以上が海外からの生徒なのに、何気に日本のサブカルチャーに詳しかった。

 

 

 

放課後になり、照秋と箒、マドカはアリーナで訓練を行っていた。

出来るなら今日、三組クラス代表就任パーティという名のドンチャン騒ぎを催す予定だったのだが、あいにく一組が先に食堂を押さえていたためパーティは明日という事になった。

訓練時間が取られなくて喜ぶ照秋を見て、箒とマドカは「こいつの脳筋はなんとかしないとな」と考えていた。

そんな訓練に、セシリアが参加する。

 

「……なぜ貴様がいる」

 

紅椿を纏い、不機嫌な表情を隠そうともせずセシリアを睨む箒。

それに対しセシリアは優雅に笑った。

 

「あら、わたくしのブルーティアーズはワールドエンブリオの技術協力を受けてますもの。データ取りやレクチャーにご一緒するのは当然ではなくて?」

 

「ぐっ……」

 

悔しそうな箒に、マドカは諭すように説明する。

 

「諦めろ箒。セシリアの言う事は正しいし、社長からもブルーティアーズは初めての合作みたいなものだから、しっかり成長させるように言われてるんだ」

 

「……姉さん……あなたは私の敵なんですか、味方なんですか」

 

箒は呪詛のように姉への不満をブツブツ呟き、マドカは苦笑、セシリアは勝ち誇ったように胸を張って笑っていた。

 

「照秋も何か言え! 一組のセシリアが参加などおかしいだろう!?」

 

「人数が多ければそれだけ模擬戦できるからいいじゃないか」

 

「……この練習バカの脳筋め!」

 

目をキラキラさせ拳をグッと握る照秋は、練習量が増えることが嬉しいようだ。

自分に味方はいないと嘆く箒。

結局箒の独り相撲だった。

 

 

訓練終了後、部屋に帰り箒がシャワーを浴びバスルームから出てきたとき、照秋は何気なくふと疑問に思ったことを聞いた。

箒は和装の寝巻を愛用しており、火照った顔と少し濡れた髪、見え隠れするうなじがとても色っぽい。

 

「箒は何で大浴場に行かないんだ?」

 

照秋は現在大浴場が使えない。

それは男女交代スケジュールが組めていないという理由なのだが、それはともかく照秋は湯船に浸かり長湯する。

じっくり入るのが好きなのだ。

それに湯船に浸かるという行為は疲労回復、血行促進などスポーツマンには欠かせない行為なのだ。

だから現在の部屋備え付けのシャワーのみの生活は中々につらいものがあった。

箒は自由に入れるのに、何故はいらないのだろうかという素朴な疑問だ。

だが、その質問に箒は渋い顔をし口を噤む。

 

「……みんな、見るんだ」

 

「見る? 何を?」

 

「そ、その……」

 

箒は顔を赤くしてモジモジしながら自分の胸を隠した。

ああ、なるほどと納得する照秋。

箒はスタイルが良い。

同世代では抜群のプロポーションを誇るだろう。

一年生で箒より胸の大きい子などごくわずか、もしかしたらいないかもしれない。

なんか小声で「……メロン」とか言われてるのを聞いたことがあり、メロンがあるのかと周囲を探したことがあるが、あれはそういう意味だったのか。

そんな凶器を見せつけられたら、そりゃあ注目するだろう。

正直、照秋も健全な青少年であるため、箒の胸は見てしまう。

なにせ、照秋はおっぱい星人であるから、箒の胸など大好物なのだ。

ただ、なるべく見ないようにはしているのだ。

男のチラ見は女のガン見という言葉があるように、男の邪な視線はわかりやすい。

授業や訓練など集中するときは全く異性など気にしないのだが、気が抜けるときは必ずある。

常に気を張り続けることなど不可能である。

それに照秋も多感なお年頃、異性には興味津々なのだ。

そこで、照秋が間違いを起こさないように、IS学園に入る前にスコールとクロエから散々言われ、不快な思いをさせない方法という教育をみっちり受けさせられた。

その甲斐あってか、今のところボロは出ていない。

 

「箒は綺麗だからなあ」

 

「え!? そ、そうか? そうなのか……な?」

 

褒められて嫌な人間などいない。

しかも照秋は箒の想い人だ、その喜びは倍以上だろう。

てれてれと恥ずかしがり、下ろした髪に指を絡める。

 

「それだけ綺麗なんだから、みんな箒が羨ましいんじゃないか?」

 

「はぅ……だ、だとしても、ジロジロ見られては敵わんのだ」

 

恥ずかしげもなく箒を褒める照秋の神経を疑うが、そんなことを気にする照秋ではない。

そんなものかと照秋は首を傾げる。

まあ、箒が恥ずかしがり屋なだけかもしれないが。

 

「俺もなるべく見ないようにしよう」

 

「照秋は構わんぞ!」

 

「え、そう?」

 

「ああ! 私は一向に構わん!!」

 

箒はそう言うが、それでも10代の男子はついエロい目で見てしまうものだ。

その辺りを理解し、注意している照秋はなるべく見ないようにしようと思った。

 

「ああそういえば、趙さんが言ってたんだけど、なんか明日二組に転入生がくるらしい」

 

「……転入生?」

 

箒は未だ顔が赤かったが、強引に話題を変えた照秋の意志を組み取り乗ることにした。

 

「なんでも中国の代表候補生らしい」

 

「なるほど、だから趙が知ってたのか」

 

趙は中国出身で代表候補生だから、その辺の情報が早かったのだろう。

 

「趙さんはなんか嫌そうな顔してたけど」

 

「それについては調べがついている」

 

突如部屋に入ってきたマドカに驚く照秋と箒。

たしか鍵をかけてたはずなのに、事もなげに入ってくるマドカはいったい何をしたんだろうか?

だが、二人とも「まあ、マドカだからなあ」で済ませた。

 

「その中国代表候補生の名前は凰鈴音(ファン・リンイン)だ」

 

「……凰?」

 

マドカから告げられた名前に照秋は眉を顰める。

聞いたことがある名前だったからだ。

 

「ああ、小学五年から中学二年まで日本で暮らしていた。そしてテル、小学校はお前たち二人と同じ学校だ。まあ、箒が転校してからだがな」

 

「ああ、あの子か」

 

「なんだ、知ってるのか?」

 

若干箒の視線がきつくなる。

私のいない間に、他の女にうつつを抜かしていたのか?

先程の喜びが一気に醒めていく。

 

「確か一夏と同じクラスだったような」

 

「ほう」

 

照秋とは同じクラスではなかったという事で箒の機嫌が一気によくなった。

 

「何回か家にも来たけど、まともに話したことないなあ。一夏に部屋を出てくるなとか言われたりしたし、竹刀の素振りとかで家にいなかったりしたし」

 

「……アイツはなんなんだ?どれだけ照秋を目の敵にしてるんだ?」

 

「小物臭がプンプンするな」

 

箒とマドカの一夏に対する評価はストップ安更新中だ。

 

「でも、彼女の家が中華料理屋だったから何回か食べに行ったなあ。おいしかったなあ、エビチリ」

 

「照秋はエビチリが好きなのか?」

 

箒は照秋の好きな食べ物を聞くチャンスだと思い、食いつく。

以前この話題を振ったが、嫌いなものが無いから何でも食べると言われた。

好きなものは?と聞くと「食べれるもの」というザックリな回答。

照秋は食に関して特に頓着はしないようだ。

 

「あのプリプリの食感とチリソースがいいよね。あ、エビマヨも好きだよ」

 

「エビが好きなのか?」

 

「どうかな? ああ、凰さんは酢豚をよく一夏に食べさせてたなあ」

 

「その情報はいらん」

 

箒は一夏情報をバッサリ切る。

本当に一夏に関する情報はどうでもいいと思っていて、知りたいとも思っていない。

 

「その頃の凰鈴音の人間性はどんなだったか覚えてるか?」

 

マドカが箒の照秋好きなもの情報聞き込みに割り込み話を戻す。

照秋は天井を眺めながら自分の知る凰鈴音の情報を思い出してみた。

 

「……大人しい子だったかな? あまりしゃべらない子ってイメージがある」

 

「そうか。だが、現在は真逆だぞ」

 

「え?」

 

「中国に帰ってからISの適性が高いことが分かり訓練を積み、一年で代表候補生に名を連ね、さらに第三世代機の専用機を与えられている、いわゆる天才だな。だからかどうか知らんが、今の凰鈴音は傲岸不遜、傍若無人、唯我独尊といった感じだ」

 

趙も、そんな性格を知っていたからあまりいい顔をしなかったのだろう、とマドカは付け加えた。

 

「だが、何故今頃IS学園に?」

 

箒は至極真っ当な疑問を口にした。

代表候補生で、しかも専用機持ちならセシリアのように初めから入学して学園で稼働試験やデータ取りを行うべきではないのか。

 

「当初中国政府からは命令をされていたようだが、断っていたらしい。だが、二月下旬ごろ急にIS学園に入ると自分から言い出したのだそうだ」

 

「二月?」

 

何かあったか?と箒は首を傾げ、記憶を探るが、思い当たるものが無い。

 

「織斑一夏がISを起動させ世界に報道された時だ」

 

なるほど、と箒は頷いた。

凰鈴音が今更IS学園に転入してくる理由、それは。

 

「織斑一夏に逢うため、か」

 

同じ恋する乙女としてその行動力は賛同するし、共感するが、よくそんなわがまま中国政府がすんなり認めたものだ。

自分も照秋と同じ学校に通うという夢を願い、叶うと飛び上がらんばかりに喜んだものだ。

 

「凰鈴音がIS学園に入学しないと言ったから、代わりに当時代表候補生でもない趙が政府から試験を受けるように要請を受け、本人の努力もあり無事入学でき、その努力を評して代表候補生になったわけだ」

 

お祭り大好きといっていた趙だが、いろいろ大変な立場のようだ。

箒と照秋は趙の認識を改めることにした。

 

「明日、二組に編入されるそうだ。そして、おそらくクラス代表になるだろうな」

 

「ん? 二組はもうクラス代表が決まってるだろう?」

 

「言っただろう、傲岸不遜、傍若無人、唯我独尊だと。自分が目立つためなら何でもするだろうさ」

 

そこまでわがままな奴なのかと箒は驚き、照秋は自分の知る凰鈴音のイメージとかけ離れていることに唖然としていた。

そして三人は、二組の現在のクラス代表生徒と、担任の苦労する姿を想像して、合掌した。

 


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