強面男が幻想入り   作:疾風迅雷の如く

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今回は6000文字もオーバーしていない為(それでも平均よりかはるかに多いのですが)短めです。
ついでに言っておくとパルスィ視点です。


第48話

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「ぐえっ!?」

「ぎゃっ!?」

あの悲鳴はヤマメと…キスメ? ヤマメが嬉しさのあまり叫ぶのは珍しくもないけどキスメが悲鳴をあげるのは滅多にないわね。普段キスメは悲鳴をあげないけれどヤマメは「降参や〜!降参〜!」って言って道を開けていたけどね。…全く、地上の妖怪でも地底に来たら少しでも足止めして勇儀に連絡するように伝えておいたでしょ?

 

ヤマメ達の悲鳴が聞こえてからしばらくすると、大柄な男がやって来た。その男の特徴は何よりも私は愚か、勇儀ですらも倒してしまいそうなくらい絶大なオーラを醸し出している。

「あら、おじさま…これからどちらへいくのかしら?」

そしてもう一つ、そいつの特徴を挙げるとしたら、矛盾そのもの。存在自体が私達妖怪を不快にさせる霊力が全くと言っていいほど感じないのに人間の匂いが染み付いている。私は鼻が効く方じゃない。むしろ嫉妬を操る妖怪故に霊力や妖力を感知して人間や妖怪の居場所を探すのが得意なはず…

「はっはっは、お嬢さん。こう見えて私はまだ20代ですよ」

その見かけで20代…!? 危うくボロが出そうになったわ…危ない危ない。初対面の相手にはこう接することで私が高貴な存在だというアピールをしないと嫉妬を食べることが出来なくなるわ。

「あら失礼しました。ところでお兄様の御名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「大和勇姿と申します。失礼ですがお嬢さんの御名前は?」

なるほど勇姿ね…

「水橋パルスィですわ。パルスィとお呼びくださいませ」

私はスカートを摘み、頭を下げる。…それにしても解せないわ。ここまでやったなら少しくらいは感心したり、劣等感を感じるはずなんだけど勇姿からは全く感じない。もしかして勇姿はこう言ったことに慣れているのかしら?

「ふむ、ではパルスィさん。私はこの先に用事があるのでそこを退いてくれませんか?」

「あら…勇姿さん、私と一緒にお食事でもやろうかと思っていましたが…残念ですわ」

なら少し勝負にでよう。私は嫉妬を操る為に美貌を磨き続けた。だからそれなりに自信はある。確かに胸はヤマメや勇儀にはかなわないけれどその分メイクで顔を、仕草で優雅さを補ったわ。ヤマメはフレンドリーさがウリだけどその分下品で男から女として見られない、勇儀は化粧のけも知らないような戦闘バカ。食事デートに誘おうというアピールで目の前にいる勇姿の気を向かせる。

「今は訳あってここにいますが普段私は地上にある博麗神社にいますのでそこでお待ちしていますよ。パルスィさん」

「ふふふ…ありがとうございます。ですが私はこの橋を守る橋姫故に地上へとは出られませんのでいつかこの地底で御食事を取りましょうね」

今じゃないとダメなのよ! と声に出すわけにもいかない。もしそんな声を出そうものなら一気にイメージが崩れる。イメージが崩れたら私のことを嫉妬する者がいなくなる…それならばこの後こっそりとついていき、彼が私のことを高く評価し、他の女達が嫉妬をするのを見た方がいい。

「そうそう、パルスィさん。プレゼントがあるので御受け取りください」

えっ、いきなり何よ!? びっくりするじゃない。でもそれを受け取っておいた方がいいわね。ガールズトークの時にプレゼントを貰ったって言っておけば多少でも嫉妬心が湧き、私の糧となる。

「何かしら?」

その瞬間、私は一瞬だけ外の世界にある鉄砲らしき物から弾幕が出てくるのを見て直撃し気絶した。

 

「ぐえっ!? …な、何!?」

だけどそれはほんの一瞬だった。かなりの衝撃が私を襲い私の目を覚ます。そして目の前にいる大男が私を見つめていた。

「起きましたか? パルスィさん」

「え?勇姿…さん?」

い、今のは本当にヤバかった!同様しすぎて目を丸くしすぎた!私のイメージが崩れかけたわ!

「この状況を見てどう思うかね?」

どう思う…って何よこれ! なんで鬼達がここ…いやそれ以前にここは旧都なの!? もしかして一瞬だけ気絶したかと思っていたらかなりの時間が経っていたってことなの?

「え…? は…?」

まるでわけがわからない。

「これから私は握手会とサイン会を行う。そこでパルスィさんは私の傍にいてほしい」

握手会とサイン会って…もしかしてこの男、鬼達のスーパーアイドル? でも大和勇姿なんて名前は地底じゃ聞いたこともないわ。一体どういうことなの…?

「わかりましたわ」

私は勇姿の言葉に頷き、彼の正体を見極めることに専念することにした。もはや謎すぎて嫉妬よりも彼の正体の方が気になる。

 

鬼達は椅子と机を用意し、準備が終わると私は椅子に座っている勇姿さんに抱きついた。

「勇姿さん…私とっても幸せですわ」

私が抱きついているこの男は謎すぎる。地底にいる妖怪ならばその過去は探るものじゃないと言われているが私は嫉妬を食べる為にそれを容赦なく探り、嫉妬の元凶となるものを探す。だけどそんなものは抜きに彼の正体が知りたいが故にこのような大胆な行動も取れる。

「パルスィさん、ところでお守りは欲しくありませんか?」

「お守り…?」

勇姿が髪の毛を一本抜いてお守りの中に入れた。

「そう、貴女ほどの聖女は幻想郷でもそうはいないでしょう。しかしそれ故に嫉妬され、様々な妨害を受けるでしょう」

「…」

私としては嫉妬された方が物凄くありがたいんだけど。

「故に、貴女にこれをお渡ししましょう」

「ありがとうございます、勇姿さん」

うっ!? 一気に嫉妬の感情が私に注がれている…!?これって一体…?

「勇姿さん! あんたはそいつに騙されている!」

「鬼とあろうものが嫉妬か? みっともねえことを言うんじゃねえ」

そうか、勇姿は鬼達の憧れの存在。一人だけ優遇されたらそりゃ嫉妬するわね。勇姿の正体を探る為だけに行動してたら嫉妬された…普通の妖怪であれば災難でしかないけれど私からすればご褒美以外の何物でもない。

「だけどそいつは!」

「不満があるならかかって来い。俺が相手をしてやる! 俺は例え彼女に騙されていたとしてもただ己の道を貫くのみよ!」

 

勇姿が机を蹴っ飛ばすと鬼達は笑みを浮かべた。

「やっぱり勇姿さんは勇姿さんだ…」

鬼達は戦闘バカに惹かれた戦闘バカだったってことね。

「勇儀、神奈子。お前達もかかって来ても構わないぞ?」

「遠慮させてもらうさ」

勇儀のその言葉に私は声を出したかった。だけど嫉妬の感情が入り込みすぎてこのまま口を開けるとせっかく取り込んだ嫉妬が私の口から漏れてしまう。なんとか処理しないと…!

「何故だ?」

「あの時の借りを返すにはこんな集団の中に混じって戦っても返せるものじゃない。戦うとしたら一対一の勝負さね」

あの時の借り…? あの神奈子って奴は霊力でもなければ妖力でもない別の力を感じる。そんな奴は魔法使いか神かのどちらか。だけどあの見かけからして魔法使いということはない。となれば神…? この大男はそんな奴と闘って勝ったというの?

「その通りさ。だけどあんたが5分以内にこいつらを片付けたらあたしが相手をしてやろうじゃないか」

「そうかよ…残された時間で体力回復に専念しておくことだな、勇儀」

勇姿がそう告げた瞬間、消えた。

 

「らぁっ!」

「ぎゃぁっ!?」

「うらぁっ!」

は、速い!? しかもそれだけじゃないわ…しっかりと急所を捉えている。まさしく化け物ね。鬼達が普通の人間相手にそれが出来るか? と言われればまず不可能。鬼達は己の身体能力に任せ、剛力で仕留める。彼らを表す用語は荒々しさと猛々しさであって急所を捉える必要はない。そんなことに拘ったら鬼が鬼らしくないと言われる

 

「雑魚は引っ込んでいろ!」

あ、こいつが倒されて残り一人だけね。あまりにも速いから見逃してしまったわ…

「最後だ!」

そして勇姿は最後の鬼を殴り飛ばす。その場所には笑みを浮かべた勇儀が仁王立ちしていた。

 

「流石だね…噂以上の強さだ」

「わりーな、思ったよりも数が少なかったから1分で終わっちまったぜ。勇儀、体力は大丈夫か?」

…一分? 僅か一分でそんなに倒したの!?

「問題ない…それじゃあ始めようか」

「星熊童子、萃香から聞いているぜ。肉体を使った純粋な勝負なら萃香よりも上だってな。俺はいつの日かお前と戦うことを楽しみにしていた」

萃香…あの鬼ね。地底の中で勇儀と唯一タメを張れる鬼の四天王の一人。これで勇姿の名前が地底に知られていた理由がよくわかったわ。勇姿の名前が知られたのはいつの時かは知らないけれど萃香が鬼達の宴会の時にその名前が挙げて、話題になって鬼達は勇姿の虜になった…そんな感じでしょうね。

「おお、そいつは嬉しいね」

やっぱり戦闘バカは戦闘バカ。全く、どうしてこうも呑気でいられるのかしら…

「だがそれは過去の物となった…何故だかわかるか? …神奈子も聞いておけ。それは俺の能力による弊害だ」

「能力による弊害…?」

そう言えば勇姿の能力って何なのかしら…私の能力は《嫉妬を操る程度の能力》で嫉妬をある程度操れる。この『程度』というのは応用が利くという意味で使う輩もいればそれしか使えないという意味で使わない者もいる。大体が前者だけども私は後者。本当に嫉妬を操ることしか出来ないのよね…嫉妬を食べる私からすればありがたいけれど、贅沢を言えばもう少し応用を効かせたい…あぁぁぁ! 妬ましくなってくる! その妬みを食べたくとも、もうお腹は一杯で食べられないから腹が立つ!

「俺の能力は使いこなせば無敵と化する能力…だが普段その力は使えない。使ったところで全く無意味だからな」

なるほど、勇姿の能力は特別な状況下において発動するタイプね。能力の発動方法は色々とある。私は3つ程のパターンにそれを分けている。

 

まず一つ目が常時発動型。名前の通り否応なしに能力が発動し続けるタイプね。否応なしに発動し続けるから覚姉妹の妹の方が心を読む…というよりも心の声を聞くのが嫌になって心を閉ざしちゃったって話は聞いたことがあるわ。主な例としてはその覚姉妹の姉の古明地さとりの《心を読む程度の能力》、ヤマメの《病気を操る程度の能力》。

二つ目は任意で能力を発動する任意発動型。任意で発動することもあってかこの型が能力者の中で最も多く、最も扱いやすいタイプね。私の能力である《嫉妬を操る程度の能力》もこの型に当てはまるわね。

そして最後のタイプ。特殊な状況下において発動する条件発動型。この能力はほとんどの者が使い熟すことは出来ていない。しかし一度発動すれば上記の二つのタイプの能力よりもはるかに上回る力を持っており、予め対策しておかないと対処出来ないようなものが多い。事実、覚姉妹の妹の古明地こいしは《無意識を操る程度の能力》という能力で、自分を無意識にして本能に従わせる代わりに他人の認識を自分からズラす…つまり、誰にも気づかないでいたずらをしまくるようになるわ。

 

勇姿が一番最後のタイプの能力であるとしてするならば、かなり強力な能力なの? そのリスクや条件は何なの? 私の疑問を他所に勇儀が口を開けた。

「つまり今のあんたは無敵ってことかい?」

「そういう事だ。なんなら手も足も使わずに倒してやろうか?」

まさか、それが条件? いや流石に相手は豪傑無双で知られている勇儀よ? そんな相手にその条件を満たすのは不可能よ! それに目的と手段が逆になっているからパフォーマンスのはず…

「いや、その必要もないよ」

あ、あれは…三歩必殺!? 冗談じゃないわよ! このままじゃ巻き込まれ…

「一歩!」

ぎゃーっ!! 勇儀!少しは周りのことも考えなさいよ!

「二歩!」

あ、危なかった。ようやく避難し終えた私はほっと一息ついて勇儀の三歩必殺の弾幕を見る。いつ見てもどこに空きがあるのかわからない。あの場にいたら比較的小柄な私でも一歩目で間違いなくピチュるわ。それをあんな大柄な男がスレスレのところで避けているのだからそれだけでも感心してしまう。

「三歩ぉっ!」

そして最後の三歩目が放たれた。弾幕の壁が勇姿を襲い、鈍い音が聞こえた。

「がっ!?」

…これは勇姿の声じゃない? 弾幕の壁の隙間から僅かに見える光景は勇儀に頭突き…いえ、違うわね。あれは…舌!? 舌で勇儀を倒した大和勇姿の姿だった。

「なっ!?」

「姐さんが、一撃で…!?」

「しかも宣言通り手も足も使わずに勝っちまった…」

あんたらあの姿がはっきりと見えていたの? 私は少なくともその直撃した光景は見えてなかったわ。こういう時本当に妬ましく思える。

「…ウソでしょ」

本当にやってしまった…手も足も使わずに地底最強の勇儀を倒してしまうなんて。これは…利用できるわ。彼に近づけば永遠に嫉妬の感情を食べ放題! まずその為には仲良くなって…って居ない!?

 

「そこの貴方達、勇姿さんはどちらに参られましたか?」

すぐ近くに居た鬼に尋ねると素直に答えてきた。こういう時鬼達は素直に答えてくれるから助かるわ。

「さあ…? なんかのスペシャリストの場所にいくとか言っていたな」

なんかのスペシャリストってなによ…

「そのスペシャリストとは?」

「何だっけ? ほら…あれだ、真・リー・クッキン?」

「確かもっと賢そうな感じじゃなかったか?」

この鬼達が悪いというわけでないにしてもイラッとくる。本当にファンならそういう場所くらい覚えておきなさいよ。

「そう言えばあの神もいないぞ?」

…まさか、勇姿とあの神はここで出会う予定だった? さっき言っていた用事ってのはあの神にそのスペシャリストとやらの場所を案内させる為? 理由はわからないけれどとにかく私は叫んだ。

「逃げられたぁぁぁっ!!」

その叫び声は地底中に響いた。




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